ロシアNIS調査月報
2025年1月号
特集◆トランプ政権復活で注目される
米ロ関係の行方
 
特集◆トランプ政権復活で注目される米ロ関係の行方
調査レポート
トランプ政権下のウクライナ戦争と米ロ関係の行方
調査レポート
米国の対ロシア政策と共和党の変容
―第二次トランプ政権の展望を中心に―
調査レポート
2023年の米国とロシアの貿易
講演録
制裁下のロシア漁業の国際市場へのアクセス
調査レポート
中国依存が進むロシアの自動車産業
調査レポート
千日手の様相を見せる米国金融制裁とロシアの対応
ミニレポート
米国によるロシアの銀行への制裁状況
INSIDE RUSSIA
ロシアの肥料輸出は好調を維持
―米国も輸入を継続―

調査レポート
ロシア漁業分野の内部で生じている変化
―それは何をもたらすのか―
調査レポート
主要商品別国別統計に見る2023年のロシア貿易
ロシア極東羅針盤
中国に左右される極東新特区
シベリア・北極圏便り
苦境が続くシベリアの産炭地域
エネルギー産業の話題
ロシア産PLガスの輸出
データリテラシー
ロシアのアパレル業界および企業の成長
ロシアメディア最新事情
ドンバス地方の新聞記事に見る戦争の日常
中央アジア情報バザール
COP29で存在感を見せた中央アジア
ウクライナ情報交差点
軍事偏重を余儀なくされるウクライナ国家予算
コーカサス情報フォーカス
混迷の議会選挙でEU加盟が遠のいたジョージア
シネマで見るユーラシア
『草原の英雄ジャロロフ』:作り手の溢れんばかりの思い
ロシア音楽の世界
日本・ロシア音楽家協会40周年
業界トピックス
2024年11月の動き
ロシアを測るバロメーター
2024年11月の動き
通関統計
2024年1〜9月の対ロシア・NIS諸国出入通関実績
おいしい生活
アルメニアのミネラルウォーター
記者の「取写選択」
トランプとNATO


調査レポート
トランプ政権下のウクライナ戦争と米ロ関係の行方

笹川平和財団
上席研究員 畔蒜泰助

 米国でドナルド・トランプ次期大統領の再登場が決まった。2022年2月24日にロシアによるウクライナ領土への軍事侵攻に端を発したロシア・ウクライナ戦争が勃発してからまもなく3年が経過しようとしている。「24時間以内にウクライナでの戦争を終わらせる」という彼の大統領選挙キャンペーン時の発言はともかく、矢継ぎ早に発表された関連人事を見てもトランプ次期政権がロシア・ウクライナ戦争の早期の停戦を目指してバイデン現政権とは一線を画するアプローチを試みるのは間違いない。
本稿の目的は、トランプ次期政権の対ウクライナ・ロシア政策とはどのようなものになるか、これにウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー政権とロシアのウラジーミル・プーチン政権がどう向き合い、早期の停戦がどこまで可能かについて、現時点で表に出ている各種情報を基に論じることにある。


調査レポート
米国の対ロシア政策と共和党の変容
―第二次トランプ政権の展望を中心に―

中央大学法学部
兼任講師 西住祐亮

 2024年米国大統領選挙でのトランプ(Donald Trump)氏の勝利を受けて、米国政治では各政策分野における大きな変化が予想されている。こうした政策転換を予想する声は、トランプ氏が初めて大統領選挙を制した2016年の際にも多く聞かれた。しかし第一次トランプ政権では、政策転換が大きく阻まれた分野もあったため、変化にかけるトランプ氏の思いは8年前よりもさらに強まっていると見られる。
 2022年2月のウクライナ侵攻以降、米国との関係が悪化しているロシアへの対応も、トランプ政権発足に伴う変化が注目される分野の1つである。具体的には、トランプ氏のロシアへの融和的な姿勢が、ロシア・ウクライナ戦争にどのような変化をもたらすのかといったことが高い関心を集めている。
 このような現状を踏まえて、本稿は、近年の米国の対ロシア政策を振り返り、第二次トランプ政権の展望を試みるが、その際、共和党の変容という問題に注目する。「トランプ化(Trumpification)」などの表現が使われる共和党の変容は、対ロシア政策を考える上でも重要な現象である。


調査レポート
2023年の米国とロシアの貿易

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
部長 齋藤大輔

 2023年、米国はロシアとの間でどのような貿易を行ってきたのか。制裁強化で、ロシアとの関係断絶が進む中、二国間貿易は、どのように変わったのか。2023年の米ロ貿易を振り返るとともに、今後を展望してみたい。


講演録
制裁下ロシア漁業の国際市場へのアクセス

北海道機船漁業協同組合連合会
常務理事 原口聖二

 ROTOBOでは2024年10月22日に会員向けの月例報告会「制裁下ロシア漁業の国際市場へのアクセス」を開催した。北海道機船漁業協同組合連合会(「きせんれん」)の原口聖二さんを講師にお迎えし、西側の制裁がロシア漁業や国際市場に及ぼした影響、ロシアが描く新たな戦略、さらに米国を始めとする諸外国の動向などについてご報告いただいた。
 原口さんは、1988年から「きせんれん」に所属し、ソ連との漁業関係に長年携わっておられ、1990年代半ばから2003年には、民間契約の漁獲割当交渉のために頻繁にモスクワを訪問し、2004年以降、漁獲割当が政府間協定に移行してからは、代表団の一員として交渉に参加されている。
 以下では、こうした経験なども踏まえて、ロシア漁業の最新動向についてお話しいただいた講演の内容を紹介する。(構成:ROTOBO事務局)


調査レポート
千日手の様相を見せる米国金融制裁とロシアの対応

(一社)ROTOBO
モスクワ事務所長 長谷直哉

 本稿では、2024年11月21日に公表された最新(執筆時点)の米追加制裁の内容を確認し、その制裁によるロシア経済への影響、特に為替への影響について分析し、その上でロシアにおける国際決済面での制裁適応の現状について論じる。


ミニレポート
米国によるロシアの銀行への制裁状況

 2024年11月21日、米国政府はガスプロムバンクなどロシアの銀行55行に対する制裁を発表した。違反者は二次制裁を受ける可能性があり、米国の措置はロシアだけでなく、第3国にも強力に作用する。以下では、米国によるロシアの銀行に対する制裁の現状を整理した。(中居孝文)


INSIDE RUSSIA
ロシアの肥料輸出は好調を維持
―米国も輸入を継続―

 前回の本コーナーでお伝えしたとおり、2023年のロシア通関統計が入手できたので、筆者はロシアの主要商品の輸出先がウクライナ侵攻前と侵攻後でどう変化したのかを可視化する作業に取り組んでいる。前回の鉄鋼輸出に引き続き、今回は肥料輸出データを取り上げる。肥料輸出をめぐる諸問題に関しては2023年2月号の拙稿「肥料輸出で制裁に楔を打ち込みたいロシア」で論じたので、いわばその答え合わせである。肥料は、対ロシア制裁の急先鋒である米国もいまだにロシア産を大量に買い入れているという特異な分野であり、その意味でも注目に値する。(服部倫卓)


調査レポート
ロシア漁業分野の内部で生じている変化

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
名誉研究員 坂口泉

 外部から見る限り、ここ数年、ロシアの漁業分野に大きな変化は見受けられない。具体的に言えば、極東漁業水域が中心地である、スケトウダラが漁獲量の40%弱を占める、ロシアの水産物輸出におけるカニのプレゼンスの高さ、といった状況に大きな変化は見受けられない。また、漁獲量の方も、2024年こそサケ・マス類の不漁を受け前年の数字を下回りそうだが、ここ数年は安定した状況が続いている。ただ、その一方で、ロシアの漁業分野の内部では大きな変化が生じている。投資入札と呼ばれるスキームを利用した漁獲割当の再分配プロセスが断行されているのである。このスキームには利点もあるが問題点も多く、下手をすればロシアの漁業分野の衰退につながる危険性を秘めている。
本稿では、代表的魚種であるスケトウダラやカニなどに焦点をあてながらロシアの水産物の生産状況をご紹介すると同時に、投資入札をめぐる動きと同スキームが内包するリスクについても言及する。


調査レポート
主要商品別国別統計に見る2023年のロシア貿易

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
研究員 大隅優香/嘱託研究員 齋藤竜太

 前号では、ロシア連邦税関局発表の通関統計を使って、2023年のロシアの貿易(調査レポート「公式統計に見る2023年のロシアの貿易」)を紹介した。今回は主要品目の相手国別輸出入高を図表にまとめてお届けする。
なお、原油、石油製品、天然ガス、液化天然ガス(LNG)の輸出データは通関統計でなく、Tebiz Group社資料にもとづくものである。


ロシア極東羅針盤
中国に左右される極東新特区

 極東地域で2024年導入を目指していた新しいタイプの特区、いわゆる「国際TOR」(MTOR)の開設が遅れている。ロシア政府は2年前に、極東地域の投資を加速させるため、中国やインドなど「友好国」企業の参入を促すことを目的に、現行の特区よりも優遇措置を拡大した「国際TOR」の設置を決め、2024年中の開設を目指していた。(齋藤大輔)


シベリア・北極圏便り
苦境が続くシベリアの産炭地域

 ロシア産炭地域の苦闘は継続しています。本誌2024年11月号「シベリア石炭企業における業績不振」にて、主要な石炭企業での純利益の大きな落ち込みとその背景を解説しました。そして、その状況は2024年になっても改善は見られず、石炭企業は苦境克服のために様々な対応策に取り組んでいる状況が見えてきました。(長谷直哉)


エネルギー産業の話題
ロシア産PLガスの輸出

 2022年2月のウクライナ戦争開始後、欧州へのロシア産PLの輸出ルートは徐々に減少し、2022年秋以降はウクライナ経由ルート(スジャ経由)とトルコストリームの2列目の2つに限定されてしまいました。さらに、ウクライナ側が、2024年末に失効するガスプロムとの間のトランジット輸送契約を延長しない意向を示しているので、2025年よりウクライナ経由ルートも使用できなくなる可能性があります。そのような状況の中、2024年11月にガスプロムが、ウクライナ経由でのオーストリアへのガス供給を停止するという事態が生じました。今回は、ウクライナ戦争開始後のロシア産PLガス輸出の全般的状況と、11月に発生したオーストリアをめぐる問題の背景をご紹介します。(坂口泉)


データリテラシー
ロシアのアパレル業界および企業の成長

 今回は、RBC紙が2024年11月29日付同紙記事で概要を発表したロシアのアパレル業界の現状に関する調査結果について、内容を補足しつつ整理して紹介します。この調査は、中国の高級自動車ブランドであるVOYAH(嵐図汽車)がRBCと展開している協力事業の一環として実施されたものであり、VOYAHは今後もロシアのアパレル業界発展のために支援を継続するとの旨のプレスリリースをロシアディーラーのAvilon社を通じて公表しています(2024年11月1日付プレスリリース)。
 この調査は、ロシアのアパレル業界について知るだけでなく、中国企業によるロシア市場進出のあり方を探る上でも重要な情報かと思います。なお、VOYAHは様々な業界のパイオニア的ロシア企業を支援する「RBC-Visionaries」プロジェクト、またロシアワイン産業を支援する「RBCワイン」プロジェクトにも参画しています。 (長谷直哉)


ロシアメディア最新事情
ドンバス地方の新聞記事に見る戦争の日常

 11月にドンバス地方に長期滞在しました。アウディイウカ(ロシア語はアフデーエフカ)で手に入った新聞が「コムソモーリスカヤ・プラウダ」のみだったので、同紙ドンバス版の記事を中心にご紹介します。(徳山あすか)


中央アジア情報バザール
COP29で存在感を示した中央アジア

 2024年11月11日から24日にかけて、予定よりも2日間延長した形で、アゼルバイジャンの首都バクーにおいて国連気候変動枠組条約第29回締約国会議(通称COP29)が開催された。今回のCOP29では、気候変動対策資金が焦点となり、その「新規合同数値目標(NCQG)」が従来の年間1,000億ドルから2035年までに年間3,000億ドルへ増加させることで合意した。そして、途上国に向けた公的部門及び民間部門からのの資金拠出を、2035年までに年間1.3兆ドル以上に拡大するために当事者が協力して取り組むことが定められた。
 一見すると重要な成果を得られたようにも見えるCOP29だが、合意に至るまでにかなり時間を要し、その背景には、先進国と途上国との確執があったと伝えられている。一部メディアでは「過去10年間で最悪のCOP」とさえ酷評された。議長国となったアゼルバイジャンのアリエフ大統領が12日の首脳級会合での演説で石油とガスを「神からの贈り物」と表現し、産油国批判に苦言を呈したことも、COPの主旨に反すると否定的にとらえられている。こうした中でアゼルバイジャンと近い関係を持つ中央アジアの存在は重要な意味を持ち、一定の役割を果たした。ここでは、COP29における中央アジアの動向をまとめておくことにしたい。(中馬瑞貴)


ウクライナ情報交差点
軍事偏重を余儀なくされるウクライナ国家予算

 ウクライナ最高会議は11月19日、2025年のウクライナ国家予算を可決した。今回は、この国家予算の概要について報告する。ロシアとの戦争が継続しているウクライナでは、国防部門への巨額の支出を余儀なくされており、外国からの支援が頼みの綱である状態が続いている。(服部倫卓)


コーカサス情報フォーカス
混迷の議会選挙でEU加盟が遠のいたジョージア

 2024年10月26日にジョージアで議会選挙が行われ、与党「ジョージアの夢(Georgian Dream)」が53.93%の得票で勝利した。しかし、選挙に不正があったとして、野党や大統領は中央選挙管理委員会が公表した最終結果を認めず、一般市民も巻き込んだ抗議運動が選挙から1カ月以上経った本稿執筆時点(2024年12月初)でも継続している。EUや国際機関も交えて、独立した選挙結果の調査や選挙のやり直しを求める声が相次いだ。
 議会選後の混迷のジョージアではさらに、イラクリ・コバヒゼ首相が「2028年までEU加盟交渉を凍結する」と発表すると(2024.11.28)、野党や政権に反対する市民の不満が一層高まり、一層の暴動が発生した。
 本稿執筆時点で、混乱は収束しておらず、大統領選挙も控える中ではあるが、そもそも議会選挙前から抗議運動が続いていたという状況もあるので、議会選挙を軸に混とんとしたジョージアの情勢についてまとめておくことにしたい。(中馬瑞貴)


シネマで見るユーラシア
『草原の英雄ジャロロフ』:作り手の溢れんばかりの思い

 ご機嫌なロック調の音楽で幕を開ける。草原を馬に跨って疾駆する男たち、日本の柔道と相撲を組み合わせたような格闘技(上半身に胴着を着て、投げ技だけで闘う行うウズベキスタン発祥の国技「クラッシュ」と呼ばれるもの)に挑む男たちの動きを、カメラを搭載したドローンが、縦横無尽に捉えていく。ミュージック・ビデオのように、私たちを中央アジアの大地に誘う、いや、放り込むかのようなオープニングである。こちらは、俄然、テンションが上がる。(芳地隆之)


ロシア音楽の世界
日本・ロシア音楽家協会40周年

 日本・ロシア音楽家協会の創立40周年記念コンサートが2024年11月16日(土)めぐろパーシモンホールで開催された。めったに聴くことができない隠れた名曲も多数含まれた多彩な曲目、計27曲がプログラムに載っており、知り合いのアーティスト4名が出演していたが、彼らから案内されるまでもなく、楽しみにしていたので来場した。
休憩を3回挟んで、第1部から第4部まで4時間を超える長丁場の公演は、最後まで集中して聴く聴衆にはなかなか体力の要る長大なイベントであったが、興奮と感動の後、心よりの拍手を送り、心地よい疲労感で会場を後にした。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


記者の「取写選択」
トランプとNATO

  「28加盟国中、24カ国が払うべき防衛費(対GDP比2%以上)を払っていない。これらの国々は(米国に)巨額の負債があるのだ」。対ロシア軍事同盟、北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でトランプ大統領は、同盟国の首脳たちを立たせたままぶちまけた。(小熊宏尚)