ロシアNIS調査月報
2025年2月号
特集◆ユーラシア空間における
BRICSの現在地
 
特集◆ユーラシア空間におけるBRICSの現在地
調査レポート
拡大BRICSとロシア
―BRICSはロシアの救世主となりうるか―
調査レポート
2024年のインド・ロシア関係
―二国間関係の強化と「プルーリラテラル」な場での連携―
調査レポート
ロシア北極圏におけるレアメタル開発
―ブラジル禁輸のニオブを求めて―
調査レポート
BRICSも推奨する国際南北輸送回廊とロシア
ロシア政財界人物録
ポターニンによるBRICSの展望に対する評価
中央アジア情報バザール
中央アジアはBRICSのパートナー
コーカサス情報フォーカス
アゼルバイジャンのBRICS加盟を望む中国とロシア

講演録
制裁導入後のロシアにおける商事紛争
講演録
対ロ制裁・対抗措置と日本企業の撤退・残留戦略
イベントレポート
第11回日本モンゴル官民合同協議会
データバンク
2024年上半期の日本とNIS諸国の貿易
ミニレポート
ロシアのアルミニウム輸出にも制裁の影が
ミニレポート
プーチン大統領による2024年の総括
INSIDE RUSSIA
2024年のロシア軍と軍需産業を振り返る
ロシア極東羅針盤
極東中古車ビジネスと中国車
データリテラシー
ロシア企業135社を対象とした景況調査
エネルギー産業の話題
ロシア産LPGをめぐる動き
ロシアメディア最新事情
ロシアを揺るがす連続爆破事件
ウクライナ情報交差点
ウクライナ経済はロシア経済より健全?
シネマで見るユーラシア
『戦争と女の顔』:「戦闘」が終わっても「戦争」は終わらない
ロシア音楽の世界
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」
業界トピックス
2024年11月の動き
ロシアを測るバロメーター
2024年12月の動き
通関統計
2024年1〜10月の対ロシア・NIS諸国出入通関実績
おいしい生活
懐かしいロシアの年越しスパークリングワイン
記者の「取写選択」
追悼・日向寺康雄さん


調査レポート
拡大BRICSとロシア
―BRICSはロシアの救世主となりうるか―

(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所
所長 中居孝文

 2009年にブラジル、ロシア、インド、中国の4カ国で発足したBRICS(その後2010年に南アフリカが加盟)は、2024年1月から新たな加盟国を加えて9カ国となり、2024年10月には、拡大後初となる第16回BRICS首脳会合がロシア・タタルスタン共和国のカザンで開催された。本稿では、BRICSカザンサミットでの合意内容とその実現性、今後のBRICS拡大の見通し、さらにはBRICSに寄せるロシアの期待や課題を検討する。


調査レポート
2024年のインド・ロシア関係
―二国間関係の強化と「プルーリラテラル」な場での連携―

岐阜女子大学南アジア研究センター
特別客員准教授 笠井亮平

 2024年は、インドのロシアおよび関係国への政策に関し重要な展開が見られた年だった。その最たるものは7月に行われたナレンドラ・モディ首相のロシア訪問で、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻以降初めてのことだった。しかしそれだけではなく、翌8月に同首相はウクライナも訪問し、ゼレンスキー大統領との会談でロシアとウクライナが対話を通じて問題を解決することの重要性に言及した。こうした二国間外交に加え、インドとロシアはともに加盟しているBRICSについても、新興国の台頭と多極化の進展を示すフォーラムと位置づけて重視している。折しも2024年のBRICS議長国はロシアで、同国のカザンで首脳会合が開催された。
 本稿は、こうしたインドとロシアの二国間およびプルーリラテラル1)な場における連携を概観することで、両国関係の現状および今後の展望について考察しようとするものである。また、米国と中国の動向が印露関係に及ぼす影響についても最後に考察を加える。


調査レポート
ロシア北極圏におけるレアメタル開発
―ブラジル禁輸のニオブを求めて―

(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所
研究員 渡邊光太郎

  ニオブというレアメタルがある。産出量の9割がブラジルに偏っているが、安定した供給が続く。通常は、資源確保の観点から問題になることは少ない。主に製鉄で使用される金属で、日本でも大量に使用される。
 ニオブは石油・ガス産業用鋼管に使用されるため、レアメタルの中では例外的にロシアでも需要が多い。ブラジルのCBMM社が圧倒的なシェアを持つが、開戦後、同社はロシアへの販売を拒否するようになった。結果、ロシアはニオブの確保で大いに困ることになった。


調査レポート
BRICSも推奨する国際南北輸送回廊とロシア

(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所
主任 中馬瑞貴

  欧米による対ロシア制裁が強まる中で、物流・貿易におけるロシア迂回ルートの実現に国際社会が関心を持っていることはよく知られている。一方で、ロシアもこれまで「西」が中心だった物流・貿易を「東」や「南」に向けることで、制裁の影響を回避しようとしている1)。その中で注目すべき新しい輸送ルートの1つが「国際南北輸送回廊(INSTC)」だ。
 2003年にインド、イラン、ロシアの3カ国によって提唱されたINSTC構想は、その後、経由国を中心に関心が高まったものの、過去20年に渡って脚光を浴びることはほとんどなかった。ところが、ロシアによるウクライナ侵攻以降、提唱3カ国を中心に相次いで本プロジェクトの実現に向けて動き始めており、2024年10月にロシアで開催されたBRICSサミットでもBRICS加盟国であるインド、イラン、そしてロシアが主導するこの輸送回廊プロジェクトついて、その実現に前向き・積極的な発言が見られた。
 なぜ提唱から20年以上たった今、INSTCの実現に関心が向けられているのか。そして今まで実現していないボトルネックは何だったのか?本稿ではロシアの視点でこれらを考えてみることにしたい。


ロシア政財界人物録
ポターニンによるBRICSの展望に対する評価

 本稿では、2024年12月14日にRBC紙が実施したポターニン・ノリリスクニッケル社長に対するインタビュー内容を基に、2024年11月21日付の米国対ロ制裁への反応、また、それを踏まえてのBRICSの今後の展望に関するポターニン氏の評価を抜き出して紹介します。同氏は、BRICS内でのゆるやかな協力拡大は一見不定形に見えるけれども、その場での非欧米諸国との国際協力強化は欧米による制裁に対して大きな予防効果を生み出し得る、と評価しています。以下、同氏発言内容となります。(長谷直哉)


中央アジア情報バザール
中央アジアはBRICSのパートナー

  2024年10月24日にロシア・タタルスタン共和国のカザンで実施された「BRICSプラス・アウトリーチ会合」に、中央アジア5カ国が招待され、各国首脳が参加した。各首脳は会合で、BRICSとの協力に前向きな姿勢を示した。
 さらに2025年1月1日からカザフスタンとウズベキスタンがBRICSの「パートナー国」になった。ユーリー・ウシャコフ・ロシア大統領補佐官の発言で明らかになり(TASS, 2024.12.23)、両国外務省もその事実を認めている(NUR.kz 2024.12.24)。カザンBRICSサミット終了後の共同宣言で新しく創設された「パートナー国」という制度には明確な定義がなく、「加盟候補国」というよりは「オブザーバー国」の方が近いとみられている。というのも、カザフスタンのように現状では加盟の意図がないことを明確に表明しているパートナー国もあるからだ。一方で、このパートナー国が正式な加盟国になる可能性も十二分にある。各国の政府高官の発言や専門家の見解を基に中央アジア諸国とBRICSの関係、加盟の可能性について検証してみたい。 (中馬瑞貴)


コーカサス情報フォーカス
アゼルバイジャンのBRICS加盟を望む中国とトルコ

 2024年8月20日、アゼルバイジャンがBRICSに加盟申請したことが伝えられた(Report, 2024.8.20)。2024年1月に加盟国が増え、2025年1月には新設された「パートナー国」も加わり、パートナー候補国や加盟に関心を示す国も続々と増えていると言われるBRICSだが、アゼルバイジャンが加盟を目指す背景には中国とトルコの後押しがある。(中馬瑞貴)


講演録
制裁導入後のロシアにおける商事紛争

ALRUD法律事務所
セルゲイ・ペトラチコ、セルゲイ・ミラノフ

 10月29日(火)、当会ではロシア情報提供セミナー「制裁導入後のロシアにおける商事紛争」を東京都内において対面式で開催した。今回のセミナーでは、ALRUD法律事務所のパートナーであるセルゲイ・ペトラチコフ弁護士と同じくオフ・カウンセルのセルゲイ・ミラノフ弁護士を講師としてお招きし、ウクライナ侵攻後のロシアにおいて外資系企業が直面している商事紛争の最新動向、契約解除に伴う諸問題、不可抗力の解釈をめぐるロシア裁判所の立場、ロシア側パートナーの破産に伴うリスクといったテーマを中心に報告をしていただいた。当日は関係者を含めて32名が参加した。本号では、セミナーの報告要旨をご紹介する。(構成:齋藤竜太、中居孝文)


講演録
対ロ制裁・対抗措置と日本企業の撤退・残留戦略

全国オルタナティブ投資協会
アレクサンドル・パンコフ他

 11月19日(火)、ROTOBOはロシア情報提供セミナー「米国の対ロ制裁とロシアの対抗措置、そして日本企業の撤退・残留戦略」をオンラインで開催し、関係者を含めて54名が参加した。今回のセミナーでは、モスクワより全国オルタナティブ投資協会のアレクサンドル・パンコフ専務理事および法務・会計コンサルティング会社B1のオレグ・リヴォフ税務・法務・ビジネス支援部長、またロンドンよりDebevoise & Plimpton法律事務所のアラン・カルタシキン・パートナーを講師としてお招きした。
 3人の講師には、@制裁下ロシアにおけるビジネスの現状と外国企業の選択肢、A米国の対ロ制裁とロシアの対抗措置への日本企業の対処方法、Bロシアにおける外国企業の撤退・残留に関する規制と留意事項といったテーマで報告をいただいた。本号ではその報告要旨を紹介する。(構成:齋藤竜太、中居孝文)


イベントレポート
第11回日本モンゴル官民合同協議会

 2024年11月28日(木)、モンゴルの首都ウランバートルにおいて「第11回日本モンゴル官民合同協議会(以下、合同協議会)」が開催された。モンゴルで開催されたのは7年ぶり。モンゴル側からガントゥムル第一副首相兼経済開発大臣、バヤスガラン・モンゴル商工会議所事務局長、日本側から松尾経済産業審議官、井川原在モンゴル日本国特命全権大使、八山経済産業省通商政策局通商交渉官、高島日本貿易振興機構理事、都梅伊藤忠商事椛纒\取締役副社長執行役員/日本モンゴル経済委員会会長をはじめ両国の企業や団体から約200名の参加があった。
 合同協議会では、モンゴルと日本の経済協力の範囲を拡大し、相互に利益のある貿易と投資を拡大し、民間セクター間の協力を強化し、特に情報技術産業、医療、スタートアップなどの分野の潜在的な可能性について紹介し、モンゴルと日本の経済パートナーシップ協定の利用と効果を向上させるためのテーマで有意義な議論が行われた。以下、概要を紹介する。(構成:鈴木恭一、原真澄)


データバンク
2024年上半期の日本とNIS諸国の貿易

 本誌では2024年8月号で日本とロシア、11月号で日本と中央アジアの2024年上半期の貿易統計をご紹介した。やや遅くなってしまったが、今回はその他のNIS諸国との貿易について、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、データをとりまとめて紹介する。


ミニレポート
ロシアのアルミニウム輸出にも制裁の影が

 お伝えしているとおり、2023年のロシア通関統計が入手できたので、筆者はロシアの主要商品の輸出先がウクライナ侵攻前と侵攻後でどう変化したのかを可視化する作業に取り組んでいる。前々号の鉄鋼、前号の肥料に続き、今回はアルミニウム地金の輸出動向をお目にかけたい。(服部倫卓)


ミニレポート
プーチン大統領による2024年の総括

 2024年12月19日、ロシアのプーチン大統領は、昨年に引き続き、かつての「大規模記者会見」および「国民との直接対話」を合わせた新しいプログラム「プーチンによる年間の総括」を開催した。同会見はガスチヌィ・ドゥヴォールにおいて、国内外の記者と対面で会見するとともに、特設のコールセンターおよびサイト(moskva-putinu.ru)、SNSで一般国民からの質問を受け付け、会見の中で大統領が一部の質問に回答した。会見の様子は「ロシア1」「第1チャンネル」「NTV」といったロシアの主要テレビ、ラジオ、SNS、オンラインメディアで放送された。
 プーチン大統領は前年より30分ほど長い約4時間30分の会見で、ウクライナ、シリア、西側などの外交関係や国際情勢、国民の給与やインフレ、移民政策や住居問題などの経済・社会問題など80以上の質問に回答した。以下では、今回のプーチン大統領の主な発言要旨をテーマ別に整理しておく(中馬瑞貴)


INSIDE RUSSIA
2024年のロシア軍と軍需産業を振り返る

 12月16日、毎年恒例のロシア国防省拡大幹部会が開催された。挨拶したプーチン大統領は、「この1年が、特別軍事作戦の目標を達成する上で画期的な年であったことを、まずもって指摘しておきたい。軍人のプロ意識と勇気、国防企業の従業員の英雄的な働き、陸海軍に対する真に国民的な支援のおかげで、ロシア軍は全戦線において戦略的優勢をしっかりと握っている」と強調した。
 それに続き、ベロウソフ国防相が登壇し、2024年のロシア軍と軍需産業の成果と今後の課題について報告した。今回は、ベロウソフ報告の主要部分を抄訳し、プレゼン資料の図表の一部をお目にかけ、ロシア軍と軍需産業の最新動向につきお伝えする。言うまでもなく、ロシアの公式見解を確認するのが目的であり、紹介したからといってその主張や分析に同調しているわけではない。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
極東中古車ビジネスと中国車

 ウラジオストク市中心部から空港に向かう大通り沿いに、その販売店はある。「HAVAL」と大きく書かれた看板が目に飛び込んでくる。2024年12月、自動車販売店が軒を連ねる一角を訪ねた。(齋藤大輔)


データリテラシー
ロシア企業135社を対象とした景況調査

 今回は、国民経済予測研究所のクヴァリン副所長らのグループが継続調査を行っているロシア企業135社に対する景況アンケートの結果について、その一部を抜き出してご紹介します。(長谷直哉)


エネルギー産業の話題
ロシア産PLガスの輸出LPGをめぐる動き

 LPGはブタン、プロパン等を主成分とする気体燃料で、圧縮することにより常温でも容易に液化することが可能となっています。ロシアでは2000年以降原油の生産量が増加した関係などもありLPGの生産量ならびに輸出量も伸びていましたが、ここ数年はどちらの数字も停滞気味となっています。さらに、2023年末にロシア産LPGがEUの制裁の対象になったことを受け、特に輸出に関しては不透明感が強まりつつあります。以上の状況を踏まえ、今回は、輸出に焦点をあてながらロシアのLPG部門の現状をご紹介します。(坂口泉)


ロシアメディア最新事情
ロシアを揺るがす連続爆破事件

 日本では、12月中旬にモスクワの住宅街で電動スクーターが爆発し、ロシア軍の生物化学兵器部隊トップが殺害されるという事件が大々的に報道されました。しかしその直後、ロシア市民にとってより身近な、恐ろしい事件が起こっていました。一般市民による銀行ATMや商業施設などの連続爆破事件で、数十人の逮捕者が出ています。本稿では、市民が危険な犯罪行為に手を染めてしまった理由や、ロシア・ウクライナ戦争との関わりについて考えたいと思います。(徳山あすか)


ウクライナ情報交差点
ウクライナ経済はロシア経済より健全?

 英エコノミストは12月18日、「ウクライナは経済の戦争でロシアに勝利しつつある」と題する論考を掲載した。現時点では、いくつかの側面で、ウクライナ経済の方がロシア経済よりも健全な状態となっていると論じている。この記事はウクライナの優位を主張するものであっただけに、反響を呼び、特にウクライナ側のメディアにより盛んに取り上げられた。そこで今回は、記事の内容を紹介しつつ、本当にウクライナ経済がロシア経済よりも健全なのかを考察してみたい。(服部倫卓)


シネマで見るユーラシア
『戦争と女の顔』:「戦闘」が終わっても「戦争」は終わらない

 本作品のベースとなる、スヴェトラーナ・アレクシエーヴィチの著書『戦争は女の顔をしていない』(岩波書店)は、作家が1978〜2004年という四半世紀以上の年月をかけて、第二次世界大戦期の独ソ戦に従軍した、当時15〜30歳だった500人を超える女性たちから聞き取った記憶の集積である。録音したカセットテープは500本を超えたという。(芳地隆之)


ロシア音楽の世界
ストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」

 このコラムでは、バレエ音楽「火の鳥」と「春の祭典」を取り上げたイゴーリ・フョードロヴィッチ・ストラヴィンスキー。ロシアの作曲家と紹介されることの多いストラヴィンスキーであるが、その出自については諸説あり簡単ではない。ロシア帝国の首都サンクトペテルブルグ近郊オラニエンバウムで生まれ、首都で育った。父親フョードルはマリインスキー劇場所属の、ロシアを代表するバス歌手として有名だった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


記者の「取写選択」
追悼・日向寺康雄さん

 「ソ連はその存在を停止する」。1991年12月、超大国崩壊を現地から伝えるなど、国際ラジオ局モスクワ放送(1993〜2014年は「ロシアの声」、その後は「ラジオ・スプートニク」)のアナウンサーを30年務めた日向寺康雄さんが2024年1月5日、悪性リンパ腫のため急逝した。享年65歳。親交があった数十人が12月7日、東京での「偲ぶ会」に集まった。会場の遺影にはイコンが添えられていた。(小熊宏尚)