ロシアNIS調査月報
2025年6月号
特集◆成長路分断が進む
NIS諸国の諸相
 
特集◆成長と分断が進むNIS諸国の諸相
調査レポート
2024〜2025年のロシア・NIS諸国の経済トレンド
調査レポート
2024年の旧ソ連諸国の乗用車市場
調査レポート
タジキスタンの非鉄金属産業
―突如として注目されたアンチモン―
エネルギー産業の話題
旧ソ連諸国の石油ガス分野
データバンク
2024年の日本の対NIS諸国貿易統計
イベントレポート
アルメニアワイン・プロモーションin FOODEX JAPAN
イベントレポート
トルクメニスタン大統領訪日
ウクライナ情報交差点
落ち込みが目立つウクライナのレミッタンス受入

調査レポート
ロシアの制裁対抗措置:ビジネスと国際法への衝撃
―第二部 国際法的側面の検討―
調査レポート
極東中古車ビジネスの興亡
データリテラシー
撤退外資復帰条件をめぐるロシア経済団体の提案
INSIDE RUSSIA
ロシア軍需生産の陰りと強気のプーチン
ロシア極東羅針盤
ズヴェスダ買収なぜ破談?
ロシアメディア最新事情
ボリショイ劇場の騒動とモスクワ映画祭
ロシア音楽の世界
ロシア文化フェスティバル2025
シネマで見るユーラシア
『罪と罰〜白夜のラスコーリニコフ〜』
業界トピックス
2025年4月の動き
ロシアを測るバロメーター
2025年4月末までの社会・経済動向
通関統計
2025年1〜2月の対ロシア・NIS諸国出入通関実績
おいしい生活
パスハを祝う伝統の味「クリーチ」
記者の「取写選択」
ロシアと万博 now&then


調査レポート
2024〜2025年のロシア・NIS諸国の経済トレンド

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所

 本誌では毎年6月号において、前年のロシア・NIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2024年のデータがほぼ出揃ったので、早速それを試みたい。なお、モンゴルは一般的にはNISの範疇に入らないが、本レポートでは対象に加えている。


調査レポート
2024年の旧ソ連諸国の乗用車市場

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 本稿では、旧ソ連諸国のうちロシア、ウクライナ、カザフスタン、ウズベキスタン、ベラルーシの5カ国の乗用車市場の近年の動向を、ウクライナ戦争が及ぼした影響にも留意しながらご紹介する。


調査レポート
タジキスタンの非鉄金属産業
―突如として注目されたアンチモン―

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所 研究員
渡邊光太郎

 タジキスタンは経済規模が小さく、なかなか目立ちにくい国である。タジキスタンのGDPの約半分が外国への出稼ぎ労働者からの送金であると言われ、経済は発展途上である。タジキスタン経済を支える存在として、金属は重要である。これまで、タジキスタンは日本の重要な金属原料調達先とは認識されていなかった。しかし、2024年の中国によるアンチモン輸出規制により、アンチモンの確保が急に日本の原材料調達上の大きな課題となった。タジキスタンはアンチモンの産出量で世界2位か3位である。タジキスタンはアンチモンの潜在的な供給先として、突如として重要性を持つことになった。
 突然、タジキスタンの金属産業の情報が重要性を持ったのだが、これまで注目度が低かったので、タジキスタンの情報はカザフスタンやウズベキスタン以上に収集に苦労する。現地報道や公式情報の内容は痒い所に手が届かない。金属生産量の公式統計は非公開である(たまに、部分的に公開されることがある)。アンチモンと鉛以外の金属では、世界シェアが低いのでUSGSのMineral Commodity Summariesのランク外になっている(鉛だってシェアが高いわけではない)。アンチモンは、タジキスタンに限らず統計が怪しい。タジキスタン企業にはWebsiteはほとんど存在しない。タジキスタンの金属産業の規模はウズベキスタンのAGMK1社分に劣る。一方で、企業数が多く業界地図はウズベキスタンよりはるかに複雑である。明確な全体像を把握しにくい。このように、いろいろと難しい点があるが、本稿では供給する金属の種類、規模等について、可能な範囲で明らかにする。


エネルギー産業の話題
旧ソ連諸国のの石油ガス分野

(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 カザフスタンとアゼルバイジャンは世界有数の産油国であり、ガスの生産量も比較的多くなっていますが、本稿では、両国の石油ガス分野のここ数年の動向をご紹介します。その他、トルクメニスタンとウズベキスタンの石油ガス分野の状況についてもごく簡単に言及します。


データバンク
2024年の二本の対NIS諸国貿易統計

 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2024年の日本とNIS諸国との貿易に関して、データをとりまとめて紹介する。日本とロシアの貿易については、すでに本誌5月号に掲載済みである。NISに加えて、モンゴルとの貿易データも取り上げている。


イベントレポート
アルメニアワイン・プロモーションin FOODEX JAPAN

 2025年3月11日(火)〜14日(金)に東京ビッグサイトで行われた日本最大級の食品展示会「FOODEX JAPAN 2025」への出展を目的に、ROTOBOは経済産業省の助成による「産業育成ビジネスマッチング事業」の枠内で、アルメニア・ワイン基金(以下、ワイン基金)を幹事とする同国ワイナリー企業グループを招聘した。会期中はFOODEX内の企画展「FOODEX WINE」会場内に「アルメニア〜ワインの聖地」と題した大型展示ブースを設置、参加各社が自社製品のPRに努めた。また、展示会参加に先立ち、1月31日(金)にはオンラインにて事前説明会を実施、ワイン基金が日本企業に対してアルメニア・ワインの魅力を伝えるプレゼンテーションを行った。以下、本稿では、アルメニア・ワインの日本市場進出のために当会が実施したビジネスマッチング事業の概要について報告する。


イベントレポート
トルクメニスタン大統領訪日

 2024年4月に開幕した大阪・関西万博のナショナルデーに合わせて、セルダル・ベルディムハメドフ・トルクメニスタン大統領が訪日した。過去5回の訪日歴があるベルディムハメドフ大統領だが、大統領としては今回が初めての訪日となった。
 かつてはベールに包まれた「謎の国」という印象が強かったトルクメニスタン。閉鎖的な体制は少しずつ緩和されつつあるが、まだまだ同国の情報を日本で入手することは難しい。一方で、トルクメニスタン経済、特に投資に占める日本のプレゼンスは実は非常に大きい。前大統領時代から継承した政権の親日的な対応を強く反映し、大統領は限られた訪日スケジュールの中で、日本企業との会合にも参加した。以下では、今回の訪日中の大統領の動向をまとめるとともに、当会および日本トルクメニスタン経済委員会が主催した大統領とのビジネスミーティングにおける同国大統領の発言の概要をご紹介する。


ウクライナ情報交差点
落ち込みが目立つウクライナのレミッタンス受入

 本コーナーでは毎年定番で取り上げているが、ウクライナ中央銀行がこのほど2024年のレミッタンス受入データを発表したので、恒例により図表にまとめてご紹介する。(服部倫卓)


調査レポート
ロシアの制裁対抗措置:ビジネスと国際法への衝撃
―第二部 国際法的側面の検討―

在ロシア日本国大使館 公使/経済部長
大西進一

  第一部(『ロシアNIS調査月報』2025年5月号掲載)で見たとおり、ロシアによる制裁対抗措置はロシア国内法上は一応の根拠が整備されてきており、また、法令で定められた特定の外国人に対する差別的な諸措置がロシア連邦憲法の充実した人権条項等との関係で問題になり得るという議論が公の場で聞かれることもない。ロシア国内においては全て正当であるかのごときである。しかしながら、今日においては各国とも、その規制権限は国際(経済)法による制約を受けており、何事をも自由になし得るわけではない。経済分野については、各種の条約により様々な制限が課されており、それをもって自由な貿易や投資の促進を図ることが目指されている。(中略)
 本稿では、ロシアによる一連の制裁対抗措置について、日露投資協定、WTO協定、日露租税条約との関係において取り上げることとする。本来国際約束との整合性を検討するに際しては、具体的な事実関係の詳細を個別的に見ていく必要があるが、これまでロシアにより相当程度極端な措置がとられてきていることから、本稿においては主な規定との関係で概括的な検討を行うに留めることとする。


調査レポート
極東中古車ビジネスの興亡
―対ロ輸出の新たな主役の実態―

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所 部長
齋藤大輔

 ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月以降、日本からロシアへの自動車輸出は激変した。新車の輸出がストップする一方、中古車の輸出は急増した。ロシア極東の中古車ビジネスに何度目かのブームがやってきた。本稿では、日本の対ロ輸出の主役となった中古車ビジネスの実態を調査報告する。


データリテラシー
撤退外資復帰条件をめぐるロシア経済団体の提案

 2025年4月18日付で公表されたロシア大統領指示により、同年5月15日を期限として、第1にロシアでの事業活動を停止または縮小した「非友好国」企業の復帰条件の設定、第2にこれら「非友好国」企業のリストを作成して四半期毎にその更新を行うことが、ロシア政府(ミシュスチン首相)に対して命じられました。本件指示の冒頭には「2025年3月18日に開催されたロシア産業家企業家連盟(以下、RSPP)の年次総会の結果を受けての内容である」旨記載されていますが、実際には同4月18日までにRSPPをはじめとするロシアの主要な経済団体からロシア大統領府へ提出されたであろう提案書を勘案した上で出された指示であったと考えられます。(長谷直哉)


INSIDE RUSSIA
ロシア軍需生産の陰りと強気のプーチン

 3月号の本コーナーで、「軍需以外は停滞感が出てきたロシアの鉱工業生産」という記事をお届けした。今般、2025年第1四半期のロシア鉱工業生産が発表されたのだが、今年に入ってからは鉱工業生産指数が全体として鈍化しているだけでなく(Q1は前年同期比1.1%増に留まった)、牽引役の軍需生産にも陰りが見える。そこで、前回もお目にかけた軍需関連部門の生産伸び率を示した図を、2025Q1まで更新して再掲する。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
ズヴェスダ買収なぜ破談?

 VTBバンクは、経営再建中の統一造船コーポレーションが、単独で極東地域に造船所を建設すると発表した。巨費を投入して造船所の近代化を図り、最新型の船舶の建造を加速させることで、経営の立て直しを図る。ただ、ロスネフチとのズヴェズダ造船所の買収協議が破談となり、技術の立ち遅れや腐敗・汚職など課題も山積している。(齋藤大輔)


ロシアメディア最新事情
ボリショイ劇場の騒動とモスクワ国際映画祭

 4月に入るとモスクワもすっかり暖かくなり、閉じこもっていた人々がアクティブに活動するようになりました。今回のコラムでは、最近モスクワで話題になったボリショイ劇場の配役をめぐる騒動と、モスクワ国際映画祭の、2つの文化ニュースを取り上げます。(徳山あすか)


ロシア音楽の世界
ロシア文化フェスティバル2025

 今年も楽しみなコンサートがやって来た。4月21日、「銀座ブロッサム中央会館」コンサートホールで、「ロシア文化フェスティバル2025 IN JAPAN」の開会式にもあたる、オープニングコンサートが開催されたのである。このフェスティバルは2006年より毎年開催されている恒例の楽しみなイベント。日露の文化交流を深める重要なイベントとして親しまれている。ソ連、ロシアの文化の魅力を多面的に再認識、再発掘する点でも、このフェスティバルの存在価値は尊い。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


シネマで見るユーラシア
『罪と罰〜白夜のラスコーリニコフ〜』

 フィンランドの映画人として最初に名前を挙げられるといっても過言ではないだろう。先のとんがったリーゼントヘアとブーツに、サングラスをかけてソ連の軍服を身にまとったシベリアのロックンロールバンドが米国、さらにはメキシコへツアー(というよりドサ回り)へ行くという奇抜なロードムービー『レニングラード・カーボーイズ・ゴー・アメリカ』(1989年)によって、カウリスマキは世界から注目を浴びた。それ以降、コンスタントに作品を撮り続け、カウリスマキと仲間たちがフィンランドの鉄鋼の町で初めての映画館を立ち上げる様子を描いた最新のドキュメンタリー『キノ・ライカ 小さな町の映画館』(2023年)で現在に至るキャリアのスタートになったのが、ドストエフスキーの『罪と罰』をモチーフにした本作品である。(芳地隆之)


記者の「取写選択」
ロシアと万博 now&then

 55年の時を経て、巨大パビリオンの跡地は雑木林になっていた。小道の傍に横たわる「ソ連館」と彫られた石碑と説明パネルだけが往事を物語る。ひと気のない大阪の万博記念公園の片隅。ここに鎌とハンマーを戴く100m超の尖塔を持つ展示施設があったと想像するのは難しい。(小熊宏尚)