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ロシアNIS調査月報2022年6月号特集◆乱気流に |
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特集◆乱気流に巻き込まれるNIS諸国 |
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調査レポート |
2021〜2022年のロシア・NIS諸国の経済トレンド |
調査レポート |
ロシアの政策決定過程とウクライナ侵攻 ―ブラックボックスの中― |
調査レポート |
ウクライナ侵攻以降における中央アジアの経済変調 |
自動車産業時評 |
2021年のNIS諸国の乗用車市場 |
エネルギー産業の話題 |
カザフスタンとアゼルバイジャンの石油・ガス産業 |
データバンク |
2021年の日本の対NIS諸国貿易統計 |
データバンク |
2021年の中央アジア・コーカサス貿易統計 |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナを苦しめるロシアの封鎖と穀物泥棒 |
ロシアの二国間関係 |
対立も協調も垣間見えるロシアとアルメニア |
INSIDE RUSSIA |
サプライズなしに終わった戦勝記念日 |
ロシア極東羅針盤 |
コンテナに賭けるウラジオ商港 |
シリーズ 工業団地探訪 |
制裁下で新たな経済開発戦略を模索し始めたロシア |
デジタルITラボ |
ロシアITビジネスの海外移転 |
データリテラシー |
ガスの「ルーブル決済」とガスプロムバンク |
産業・技術トレンド |
世界最大の航空機An-225の復活は成るか |
シベリア・北極圏便り |
地方で営業を続けるマクドナルドの不思議 |
ロジスティクス・ナビ |
制裁に揺れるロシア物流 |
ロシアメディア最新事情 |
ウクライナと国境を接するロストフ州で情報収集 |
おいしい生活 |
ベラルーシからのチーズ輸入にも制裁が影響か |
記者の「取写選択」 |
ウクライナ人学校と抵抗詩人 |
ロシア音楽の世界 |
ムソルグスキー交響詩「禿山の一夜」 |
HOW TO ビジネス実務 |
ロシアの決算書を読む(4) |
業界トピックス |
2022年4月の動き |
通関統計 |
2022年1〜3月の輸出入通関実績 |
調査レポート
2021〜2022年のロシア・NIS諸国の経済トレンド
ロシアNIS経済研究所
本誌では毎年6月号において、前年のロシア・NIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2021年のデータがほぼ出揃ったので、早速それを試みたい(『ロシアNIS経済速報』2022年4月15日および4月25日号より再録)。なお、モンゴルは一般的にはNISの範疇に入らないが、モンゴルも本レポートの対象に加えている。執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ・ユーラシア研究センターの田畑伸一郎教授に特にご寄稿いただいた。
調査レポート
ロシアの政策決定過程とウクライナ侵攻
―ブラックボックスの中―
慶應義塾大学法学部 教授
大串敦
2022年2月24日から始まったロシアによるウクライナへの全面侵攻(以下露宇戦争とする)に関しては依然多くの謎に満ちている。
本稿は次のように構成される。まず、安全保障にかかわらない一般的なロシアの政策決定過程について概観する。そこで、政策決定過程における省庁間対立の強さと、プーチン大統領と軍・保安関係者(いわゆるシロヴィキ)が統合的役割を果たしてきたことが明らかになるであろう。次に、クリミア併合の決定過程について検討する。通常の政策決定過程に比べて、対外軍事行動は極めて少数のアクターによって決定されていることが示される。さらに、今次の露宇戦争の政策決定過程について考察する。極めて少数のアクターによる意思決定だったため、ウクライナ侵攻は決定に達することができた。その反面、利害関係者との合意なしに決定したことが一因となって、露宇戦争でロシア軍が混乱を示したと主張する。念のために付言すると、本論はもっぱら政策決定過程にかかわるものであり、戦争の経緯や行方を考察するものではない。
調査レポート
ウクライナ侵攻以降における中央アジアの経済変調
ロシアNIS経済研究所 研究員
大内悠
ウクライナ侵攻以降、国際社会の対ロ制裁は日増しに強まりロシア経済は深手を負っているが、制裁の余波はロシアとの結びつきが強い中央アジア諸国にも及び、域内経済に変調を来している。中央アジアへの影響に関しては国際機関やシンクタンクなど諸所で考察されているが、欧州復興開発銀行は他機関に先立つ3月にレポート「地域経済改訂版」を公表し、今次ウクライナ危機で中央アジア経済が影響を受ける分野として次の5点、すなわち@在ロ出稼ぎ労働者からの個人送金、A国内労働市場、B投資、Cインフレ、Dサプライチェーンを指摘した。資料的制約により最新の統計データ等を用いての検証は困難だが、本稿ではこれら5点に軸足を置き、報道資料等で適宜補いつつ、ウクライナ侵攻以降における中央アジア経済の現状や展望を整理する。
自動車産業時評
2021年のNIS諸国の乗用車市場
今回は、旧ソ連諸国のうちウクライナ、カザフスタン、ベラルーシの3か国をとりあげ、それぞれの国の2021年の乗用車市場の状況をご紹介します。その他、ウズベキスタンの自動車生産の現状もご紹介します。(坂口泉)
エネルギー産業の話題
カザフスタンとアゼルバイジャンの石油・ガス産業
カザフスタンとアゼルバイジャンは世界有数の産油国であり、ガスの生産量も多くなっています。前者については、石油ガス上流部門の状況とロシアとの関係性について言及します。後者については、石油ガス上流部門の状況、ならびに、石油ガスPLの状況につきご説明します。(坂口泉)
データバンク
2021年の日本の対NIS諸国貿易統計
恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2021年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日本とロシアの貿易については、すでに5月号に掲載済みである。なお、日本とNISとの貿易に加え、モンゴルとの貿易データも取り上げてる。
データバンク
2021年の中央アジア・コーカサス貿易統計
中央アジアおよびコーカサス諸国の統計機関が発表しているデータに基づき、トルクメニスタンを除く7カ国の2021年の貿易統計をまとめたので、簡単な解説を交えてご紹介する。各国ごとに、地域別貿易実績、主要貿易相手国(25カ国)、輸出入品目構成の表を作成した。別稿にて各国の主要経済指標を掲載している中に輸出入の成長率についても表記があるが、情報源や情報入手のタイミングにより、若干のずれがある点についてご了承いただきたい。
ウクライナ情報交差点
ウクライナを苦しめるロシアの封鎖と穀物泥棒
2021年にウクライナは史上最高の豊作に恵まれた。前年には南部を中心に干ばつ被害があっただけに、2021年の穀物収穫量は前年比32.0%増という大幅な伸びとなった。当然のことながら、2021/22年度(2021年7月〜2022年6月)の穀物輸出も順調に推移し、過去最高記録を達成するはずであった。そこで勃発したのが、2月24日以降のロシアによる軍事侵攻だった。(服部倫卓)
ロシアの二国間関係
対立も協調も垣間見えるロシアとアルメニア
ロシアとアルメニアはユーラシア経済連合の加盟国として経済関係が緊密であることに加えて、集団安全保障条約機構を通じて軍事的にも同盟関係にあり、互いに有事が起きれば協力や支援を怠ることはできない。ただし、今回のロシアによるウクライナ侵攻以前から、ロシアとアルメニアのあいだには不穏な空気も流れていた。そこで本稿では、協力は欠かせない一方で暗雲も立ち込めるロシアとアルメニアの関係について紹介する。(中馬瑞貴)
INSIDE RUSSIA
サプライズなしに終わった戦勝記念日
注目度がマックスに高まった今年の戦勝記念日におけるプーチン演説だったが、結局プーチンの口からは、勝利宣言も(苦戦続きなので当然だが)、戦争宣言も、飛び出さなかった。それ以外のサプライズ的要素もなく、肩透かしに終わった。戦線に部隊を投入していることもあり、軍事パレードも例年より小規模だった。かくして、戦勝記念日が大きなターニングポイントになることはなく、これからもプーチンの戦争がずるずると続いていくことを予感させる結果となった。(服部倫卓)
ロシア極東羅針盤
コンテナに賭けるウラジオ商港
ウラジオストクという街を知る人は多いだろうが、港の会社にまでか関心を抱く人は多くない。よほどの専門家や物流関係者でもない限り、商業港の存在はロシア国内にとどまっている。商業港は、ほかの極東の港が石炭にシフトする中、あえてコンテナを打ち出した。停滞気味だった取扱量を増加させるため、戦略をもって取り組んできた。2022年の発展ビジョンでは、北極海航路の東のハブになることを目指し、取扱量を2025年までに140万TEUとすると定めた。
2022年1月、商業港の事務所で、カザリナ渉外部長に話を聴いた。(齋藤大輔)
シリーズ 工業団地探訪
制裁下で新たな経済開発戦略を模索し始めたロシア
この連載で既に述べたように、筆者は2014年からロシア工業団地協会の顧問を務めている。しかし、ロシアにおける筆者の活動範囲はロシア工業団地協会との関わりに留まっている訳ではなく、それを含む、より高次元のテーマへの関心を常に持ってきた。それはロシアの経済開発戦略案の策定に関する議論である。今回は工業団地のテーマからは離れるが、ウクライナ戦争の勃発後、筆者に見えてきた制裁下での新たな国の開発戦略案の議論について、簡略ではあるが概観してみたい。(大橋巌)
デジタルITラボ
ロシアITビジネスの海外移転
ロシアがウクライナに侵攻してから、2ヵ月あまりが経過した。ロシアは、短期決戦を想定していたようだが、予想に反し、戦線は長期化の様相を呈している。いち早く海外への脱出を図ったテクノロジー業界の人材流出が止まらない。4万〜7万人のIT専門家が海外へ脱出しているとも言われている。筆者が関わるスタートアップ業界でも、企業の活動拠点を海外に動かす意味で使われる「リロカーツィア(Relocation)」という言葉が頻繁に使われるようになった。今回は、経済制裁に苦しむロシアのテクノロジー産業の海外拠点への移転を取り上げる。(牧野寛)
データリテラシー
ガスの「ルーブル決済」とガスプロムバンク
本年3月31日にプーチン大統領が天然ガス(パイプラインガス)輸出における「ルーブル決済」導入に係る大統領令(172号)を発出して以降、それが何を意図したものなのか、各所で分析が進められています。大枠の意図としてはルーブル価値の維持、ガスプロムバンクが制裁対象とならないようにするためのけん制が想定され、これらの見解は前月号(2022年5月号)の拙稿においても指摘し、紹介しました。このスキームにおいて、ロシア産ガスを購入する輸入業者は、ガスプロムバンクにガス輸出決済専用の外貨(ドルまたはユーロ)口座、およびルーブル口座を開設し、このいずれかにガス代金を振り込めば決済できることになります(「ルーブル決済」とは言いながら、外貨決済を実質的に認める内容です)。これまでもロシアとのガス取引において、その輸入相手は多くの場合でガスプロムバンク口座を振込先として利用してきましたから、実務上は新たに開設した外貨口座を利用すれば特に問題はないかのように思えます。(長谷直哉)
産業・技術トレンド
世界最大の航空機An-225の復活は成るか
2022年3月、世界最大の航空機An-225が破壊された。アントノフ航空が拠点にしていたウクライナのホストメリ空港は、激戦地となった。戦闘に巻き込まれたAn-225は事実上、全損の状態となった。1機しか完成しなかったので、世界で唯一の機体が失われてしまった。ウクライナでは、An-225を再生するとしている。果たして、再生は可能かどうかを論じる。(渡邊光太郎)
シベリア・北極圏便り
地方で営業を続けるマクドナルドの不思議
外国ブランド小売店の営業一時停止が発表されるたびに、ロシアのSNSでは嘆きが溢れ、当該店舗には最後のショッピングを楽しもうと多くの愛好客が詰め掛けました。内外マスコミによる報道が特に多かったのが、マクドナルドなどロシアに根付いた外国ファストフードチェーンの動向でした。マクドナルドについてはその営業の一時停止が伝えられてからというもの、ソ連崩壊後のモスクワ1号店設立時の大行列と、営業停止を惜しむ直近の利用客の映像が対比されて報じられました。そして、ロシア国内に850店舗展開するマクドナルドは本年3月14日をもって当面営業停止、公式には全店が一時閉鎖されたことになっています。しかし、シベリアをはじめとする、ロシアの地方ではその後も営業が継続され、本稿執筆時点でも変わらずハンバーガーやポテトが提供されています。(長谷直哉)
ロジスティクス・ナビ
制裁に揺れるロシア物流
ウクライナへの軍事侵攻に対し、ロシアは国際社会から広範囲の経済制裁が科せられています。また厳しい物流制裁により、迂回路を余儀なくされる事例も発生し、経済活動は不自由の一途です。(辻久子)
ロシアメディア最新事情
ウクライナと国境を接するロストフ州で情報収集
5月前半の祝日を利用して、弾丸でロストフ州を旅してきました。ロストフ州は南北に長く、西部のたくさんの街がウクライナと接しています。この2か月あまりの報道を見ていて、国境の街はどうなっているか、自分の目と足で確かめたかったのです。弾丸といっても飛行機が飛んでいないので、片道30時間かけた列車の旅です。もっと早く行ける列車もあるのですが大型連休とあって満席。ロシア鉄道のサイトとにらめっこしてもなかなかチケットが取れません。幸いにも出発前日、クペー(2等寝台車)に空きが出て、3等寝台から買い替え、快適な旅ができました。本コラムでは、それぞれの街で見た風景と、情報収集の特徴についてご紹介します。(徳山あすか)
おいしい生活
ベラルーシからのチーズ輸入にも制裁が影響か
あまり知られていないが、ベラルーシはバター、チーズといった乳製品の世界屈指の輸出国である。ただし、大部分がロシア市場に輸出される。ベラルーシにとってみれば、ロシアは国内市場のようなものだ。ロシア圏外に出回ることはあまりないので、我が国を含め、諸外国でベラルーシの乳製品が知られていないのも無理はない。ただ、今年の初め頃だったか、日本の楽天市場でベラルーシ産のチーズを買えるということを発見した。これはぜひ試してみなければということで、早速注文してみた。(服部倫卓)
記者の「取写選択」
ウクライナ人学校と抵抗詩人
「ロシア人からの脅迫とかウクライナ系住民との間での摩擦とか、一切ありません」
ウクライナのクリミア半島がロシアに併合された2014年3月、中心都市シンフェロポリにあるウクライナ人学校のナタリヤ・ルデンコ校長は言い切った。
3月16日にクリミアのロシア併合を巡る住民投票があり、18日にはプーチン大統領が併合方針を示した。ウクライナ語のみで授業を行う同校を私が訪れたのは19日。地元行政庁舎には既にロシア国旗が翻っていたが、同校の廊下にはウクライナ国旗や国民的詩人シェフチェンコの肖像画、そして彼の詩「遺言」の最終節が掲げられていた。(小熊宏尚)
ロシア音楽の世界
ムソルグスキー交響詩「禿山の一夜」
ロシアの画家、イリヤ・イェフィーモヴィチ・レーピンによって描かれた、ある作曲家の有名な絵画がある。狂気に満ちた眼差しで、髭がぼうぼうの、アル中の中年オヤジ。これは、二十歳に成る前には、ペテルブルグの令嬢たちが憧れた美男子、華麗な即興演奏ピアノを弾きこなす裕福な貴族の青年、軍服をスマートに着こなした、教養レヴェルの高い陸軍士官・・・、モデスト・ペトローヴィチ・ムソルグスキーの最晩年の肖像画である。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
HOW TO ビジネス実務
ロシアの決算書を読む(4)
2022年4月下旬の原稿執筆時点でもロシアのウクライナへの軍事侵攻が続いているという状況ではございますが、いかなる場合でも決算書の読み方が役に立つことがあるという考えのもと、「決算書を読む」シリーズ執筆を続投いたしますので、どうぞよろしくお願いいたします。(小川弘美)