ロシアNIS調査月報
2022年11月号
特集◆「友好国」と「非友好国」
から見たロシア
 
特集◆「友好国」と「非友好国」から見たロシア
調査レポート
ロシアのウクライナ侵攻をめぐるインドの対応 
―国益と国際的役割のはざまで―
調査レポート
トルコとロシア戦略的互恵関係は可能か?
調査レポート
イランとロシアの接近
―同床異夢の「友人」か、真の友人か―
調査レポート
対ロ経済制裁に関するEUの対応
――グローバルガバナンス変容の可能性――
調査レポート
欧州シンクタンクに見るロシア情勢認識
ロシアの二国間関係
ロシア東方シフトのカギを握るモンゴル

特別寄稿
ゴルバチョフ追悼記
―ペレストロイカを回顧する―
INSIDE RUSSIA
プーチン・ロシアがウクライナ4地域を併合
ロシア政財界人物録
トゥルチャク連邦院第一副議長
自動車産業時評
トヨタとマツダのロシア工場
データリテラシー
(続)タンカー輸送されるロシア産原油の現状
ロジスティクス・ナビ
2022年上半期のロシア港湾
デジタルITラボ
流出が続くロシア・スタートアップイベントの現在
ロシアメディア最新事情
東方経済フォーラム取材の裏側
ウクライナ情報交差点
意外な進捗を見せるウクライナ穀物輸出
中央アジア情報バザール
首都アスタナの復活
シリーズ 工業団地探訪
スタヴロヴォ工業団地(ウラジーミル州)
ロシア音楽の世界
ラフマニノフ 交響的舞曲
業界トピックス
2022年8〜9月の動き
ロシアを測るバロメーター
2022年9月末までの社会・経済の動向
通関統計
2022年1〜8月の輸出入通関実績
おいしい生活
ウクライナのはちみつ
記者の「取写選択」
ゴルバチョフ追想


調査レポート
ロシアのウクライナ侵攻をめぐるインドの対応
―国益と国際的役割のはざまで―

岐阜女子大学南アジア研究センター 特別客員准教授
笠井亮平

 2022年2月末以来続くロシアのウクライナ軍事侵攻に世界各国が多様な反応を示す中、とりわけ注目を集めているのがインドの対応である。侵攻直後に行われた国連安全保障理事会でのロシア非難決議案にインドは「棄権」し、その後の国連の関連決議でも同様の姿勢を堅持し続けている。また、米欧諸国が幅広い分野で経済制裁をロシアに科す中、インドはロシアから原油や石炭といった資源の輸入を急増させるという、真逆の対応を行っている。
 そこで本稿は、ロシア問題をめぐる国際場裏でのインドの行動を解き明かすことだけでなく、印露が各分野で進める協力の実態、さらにはソ連時代にまでさかのぼって両国の関係を確認することで、現状をより深く理解しようとするものである。また、単にインドが米欧とは異なる姿勢をとっているというだけでなく、その独自の立ち位置を活かしてロシアに対し停戦や和平に向けたアピールを行っている。これが果たして何らかの成果をもたらす可能性があるのかどうかについても検討を行っていくことにする。


調査レポート
トルコ・ロシア戦略的互恵関係は可能か?

公益財団法人中東調査会 研究員
金子真夕

 トルコとロシアはどういう関係か、という問いに答えることは簡単なようで難しい。なぜなら両国は、長期にわたり複雑な関係を辿ってきたからである。
 本稿では、トルコ・ロシア間の対立と協調という相反関係を整理したうえで、今後の二国間関係を展望する。


調査レポート
イランとロシアの接近
―同床異夢の「友人」か、真の友人か―

公益財団法人中東調査会 研究員
青木健太

 近年、イランとロシアとが急速に接近しているように見える。この背景には、米国からイランに対する厳しい経済制裁が、イランの目をロシアに向かせたことがあるだろう。反対に、ロシアによるウクライナ侵攻(2022年2月24日)を経て、欧米を中心とした諸外国が窒息させるような厳しい経済制裁をロシアに科したことが、ロシアをイランに接近させた面もあるだろう。こうした状況下、イラン・ロシア関係はこのまま何の障害もなく接近の方向に向かって展開するのだろうか。この点については、「手を組む被制裁国たち」といった構図を用いてセンセーショナルに報道されることが多い1)。こうした指摘は現状を踏まえてのものではあるが、それではイランとロシアが将来的にどの程度接近するのか、あるいはお互いの政治、通商、軍事関係の発展における促進要因と阻害要因は何なのかについては充分に検討されてこなかった。つまるところ、イランとロシアは同床異夢の「友人」なのだろうか、あるいは真の友人なのだろうか。
 本稿では、イランとロシアの関係について、特にイラン側の視点から分析し、実態に即した姿を描き出すことで、この問いに答えたいと思う。この目的を達するため、第1節で、「東でも西でもない」に代表されるイランの基本的な外交政策方針とこれまでのイラン・ロシア関係の概観について説明する。


調査レポート
対ロ経済制裁に関するEUの対応
―グローバル・ガバナンスの変容可能性―

東洋大学国際学部 教授
市川顕

 本稿は、「ウクライナ侵攻後の対ロ経済制裁およびロシアによる対抗措置が及ぼす影響」事業の研究成果である。ロシアによる対抗措置については『ロシアNIS調査月報』および『ロシアNIS経済速報』などで詳述されているので、本稿では以下の2点に絞って議論したい。
 第一は、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた欧州連合(以下EU)の対ロ経済制裁の政治過程を明らかにすることである。数次にわたるEU対ロ経済制裁パッケージの内容については日本貿易振興機構(以下、JETRO)が丁寧にまとめているので、本稿での議論では、なぜ、そして、どのようにして、EUの対ロ経済制裁が強化されていったのかに着目したい。
 第二は、EUの対ロ経済制裁とロシアの対応(対抗措置)が、グローバル・ガバナンスにどのような影響を与えうるかという点に焦点を当てたい。日本外交および日本企業の経済活動を考えると、逐次の対応ではなく、より大きな視座から今回の侵攻とEU(およびG7加盟国)の対ロ経済制裁を把握する必要があることを示したい。


調査レポート
欧州シンクタンクに見るロシア情勢認識

ロシアNIS経済研究所 次長
長谷直哉

 本稿では、本年7月25日〜8月5日にかけて実施したベルギー(ブリュッセル)およびポーランド(ワルシャワ、クラクフ)での現地シンクタンクを対象とした当会の面談調査の結果を整理して、筆者の所感とともに説明することとしたい。本調査は、今後の対ロ経済関係を見据える上で欠かせない、欧州における対ロ認識を確認し、そのロシアとの関係をめぐる政治経済動向や対ロ経済制裁に係るEUの結束の持続性を見極めることを目的としたものである。ブリュッセルおよびポーランドにて主要な政府系・独立系シンクタンクを訪問した他、現地での紹介を介してドイツのシンクタンクなどとも面談し、意見を聴取することができた。
 EUにおける今般のロシアによるウクライナ侵略に対する認識は、本年夏の段階においてすでに、日本のロシア・ビジネス、あるいは研究関係者が想像する以上に厳しいものであったことを最初に述べておきたい。本調査にあたって我々は、ポーランドにてロシアに対する厳しい見解が投げかけられることは想定していたが、ブリュッセルでも似たトーンでロシアへの非難が投げかけられるとは想定していなかった。また、ポーランドにて遭遇したロシアへの非難の程度は我々の想定を超えるものであり、今般のロシアの行為がいかに欧州諸国の対ロ認識を変化させたのか、数々のシンクタンクでの面談を通じて把握させられることとなった。もちろん、ブリュッセルやドイツのシンクタンクから返ってきた反応は、ポーランドのそれよりも抑制されたものではあるが、欧ロ関係が経済関係だけでなく安全保障面でも不可逆的な関係悪化プロセスへ入ったこと、またエネルギー供給国や市場としてのロシアの信頼性が失われたとする見解を明確にこちらへ伝えるものであった。
 これらを踏まえ、ブリュッセルにて聴取した対ロ関係の見方をまず紹介した上で、ロシア経済の見通しや対ロ経済制裁の効果、欧州東部地域を代表するポーランドの見方、そしてロシア内政に関する見解を説明する。


ロシアの二国間関係
ロシア東方シフトのカギを握るモンゴル

 ウクライナ侵攻以降、西側諸国との関係悪化が顕著なロシアだが、中東やアジアなど「東」と位置付けられる諸国とは相対的にその関係が深まっているように思われる。その代表格の1つが約3,500kmの国境を共有するアジアの内陸国モンゴルである。
2022年9月5〜8日にロシア極東のウラジオストクで開催された第7回東方経済フォーラムの全体会合にロブサンナムスライ・オヨーンエルデネ・モンゴル首相が参加した。日本や韓国など歴代参加してきたアジアの首脳が欠席する中、モンゴル首相はプーチン大統領との首脳会談にも臨み、ロシアからモンゴルを経由して中国へと結ばれる天然ガスパイプライン・プロジェクト「シベリアの力2」について協議したことが伝えられている。
さらに9月15日には、オフナー・フレルスフ・モンゴル大統領がウズベキスタンのサマルカンドで行われた上海協力機構(SCO)の拡大首脳会議に出席。その際に、プーチン大統領、中国の習近平国家主席との3カ国首脳会談も行われた。その会談でも「シベリアの力2」プロジェクトについて、重要との認識が共有されたという。
このように、対ウクライナ情勢が緊迫化する中で、距離を縮めているように見えるロシアとモンゴルとの関係について概説する。(中馬瑞貴)


特別寄稿
ゴルバチョフ追悼記
―ペレストロイカを回顧する―

ロシアNIS経済研究所 元所長
遠藤寿一

 2022年8月30日、ミハイル・ゴルバチョフ元ソ連邦共産党書記長が91歳でこの世を去った。私は現役時代3度モスクワ事務所に勤務したが、最後となった1987〜1995年の8年間は、ゴルバチョフが主導したペレストロイカ期と重なる。三菱商事モスクワ事務所の所長代行から所長を経験し、毎日が新鮮で驚きの事件を経験し、いま振り返るとすべてが時代を切り裂く世界史的な事件であったことに驚いている。ここにペレストロイカ期を回顧することにしたい。


INSIDE RUSSIA
プーチン・ロシアがウクライナ4地域を併合

 ロシアにより占領されていたウクライナ東部の自称「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」、南部のヘルソン州、ザポリージャ州では、9月23日から27日にかけてロシア連邦への編入を問う「住民投票」なるものが施された。(服部倫卓)


ロシア政財界人物録
トゥルチャク連邦院第一副議長

 今回は、ロシアによるウクライナ侵略後の経済制裁導入以降、外資を標的とした刑法改正や「外部管財法案」導入についてロシアの議会政治家として主導的な発言を行ってきたアンドレイ・トゥルチャク連邦院第一副議長に焦点を当てたいと思います。トゥルチャクはサンクトペテルブルグ出身、1975年生まれの46歳であり、プーチン政権下にて20代後半以降の、約四半世紀にわたるキャリアを経験してきた政治家です。現在のロシアの空気感を把握する上で1つの参考になればと思います。(長谷直哉)


自動車産業時評
トヨタとマツダのロシア工場

 ロシアがウクライナへの軍事侵攻を開始した後、ロシアに組立工場を保有する各日本メーカーは現地生産を休止する意向を表明しました。その後、一時情報が途絶えていましたが、9月下旬になりトヨタがロシアの現地工場を閉鎖する決定を採択したことが明らかになりました。また、マツダも現地工場閉鎖の方向で協議を開始したとの情報も出ています。以上の状況を踏まえ、今回はトヨタとマツダの(2021年時点の)ロシア市場におけるプレゼンスと現地工場の概要をご紹介することにします。(坂口泉)


データリテラシー
(続)タンカー輸送されるロシア産原油の現状

 今回は、2022年8月号に引き続き、対ロ経済制裁にて焦点となっている、タンカー輸送されるロシア産原油の関連データを更新してお知らせします。図表1のとおり、タンカー輸送されたロシア産原油のEUでの取扱量は本年6月以降も大きな変化はなくほぼ横ばい、EU・G7以外への仕向については4月に見られたような大幅な増加は見られませんが、6月終わりから一定の増加が確認できます。図表2のとおり、ロシア産原油のタンカーでの積出量全体も5月から9月にかけてほとんど変化が見られません。そして図表3のとおり、EU内のバルト海・北欧地域向けはほぼゼロが定着、米英カナダおよび日本向けもゼロに張り付く形が継続しています。他方で、EUの大西洋側、地中海、黒海港湾への仕向はほぼ横ばい、EU・G7以外への仕向については、夏以降に一定の増加が見られました。(長谷直哉)


ロジスティクス・ナビ
2022年上半期のロシア経済

 2022年上半期のロシア海洋港湾の動向を公式港湾統計に基づき解説します。2022年2月のウクライナ侵攻以降、ロシアの物流情報が入手しにくくなっておりますが、港湾統計は半年ごとに更新・公表されています。(辻久子)


ロシアメディア最新事情
東方経済フォーラム取材の裏側

 9月5日から8日まで、ウラジオストクで行われた東方経済フォーラムの取材に行ってきました。昨年はワクチンパスポートの関係で参加できず、一昨年はコロナで中止だったので、3年ぶり待望のウラジオストク出張です。本コラムでは記者の待遇と、記事になることのなかったネタについてご紹介します。(徳山あすか)


デジタルITラボ
流出が続くロシア・スタートアップイベントの現在

 2022年5月25?26日の2日間にわたり、モスクワ近郊のスコルコヴォにてロシア最大のスタートアップカンファレンスであるStartup Villageが開催された。ロシアのスタートアップ・エコシステムを牽引してきた存在であるStartup Villageは今年で10周年という節目の年を迎えている。私自身2019年に初めて現地参加し、ロシアのスタートアップ・エコシステムの先進性と層の厚さを実感した。当時はロシア政府主導のスタートアップ成長支援の施策の多さと力の入れ具合に日本以上の手厚さを感じる一面もあった。さらにロシア経済の成長性やマーケットに魅力を感じ、ロシア政府も海外スタートアップの誘致を積極的に行っていることから韓国やイタリア等、多くの海外スタートアップもブース出展を行なっていた。一方、今年のStartup Villageは他の海外のグローバルカンファレンスがコロナ禍後において初開催であるということで盛大に賑わっているが、ロシアではウクライナ侵攻の影響を大きく受け、そのカンファレンスの様相は大きく異なっている。現地協力者の情報をもとにStartup Villageの変化を比較し、今後のロシアのスタートアップ・エコシステムを考察したい。(大森貴之)


ウクライナ情報交差点
意外な進捗を見せるウクライナ穀物輸出

 2022年のウクライナの収穫見通しが明らかになりつつあるので、まずそれを確認しておこう。APK-Informが9月下旬に発表した予測によれば、2022年の穀物収穫見通しは5,410万〜5,570万tとされている。いかんせん、前年が8,568万tという史上最高の豊作だったので、それと比べれば、戦時下の今年の収穫は3分の1ほど落ち込むことになる。ウクライナ政府は、2023年も減産が続き、4,500万tレベルにまで落ち込むと見ている。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
首都アスタナの復活

 2022年9月19日、トカエフ・カザフスタン大統領は首都ヌルスルタンをアスタナに改名する大統領令に署名した。ご存じのとおり、カザフスタンの首都は2019年3月にヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領が大統領ポストを退任した際、彼の名前に由来して、アスタナからヌルスルタンに改名された。しかし、わずか3年半で再びアスタナという名前が復活したのである。実はこの地は過去にも名前を変えてきた歴史を持つ。そこで以下では首都アスタナの改名の歴史について紹介する。(中馬瑞貴)


シリーズ 工業団地探訪
スタヴロヴォ工業団地(ウラジーミル州)

  8月下旬、モスクワでロシア工業団地協会の年次総会が開催された。ロシアの様々な地方から約90社の法人会員の代表者が参加した。政府からは新任のイワン・クリコフ連邦産業・商業省地方産業政策プロジェクト管理局長が来賓として出席し、工業団地の振興政策をめぐって会員企業と活発な意見交換が行われた。
 オフラインによるロシア工業団地協会の全会員向け行事は、去る4月の「春の集い」以来4カ月ぶりであったが、出席者の全体的な雰囲気は前回よりも明るく、活発との印象を持った。前回はロシア軍のウクライナ侵攻にともなう大規模な経済制裁が発動された直後で、多くの会員は今後の発展の方向性を一時的にせよ見失い、呆然としていたように感ぜられた。新たな現実の中、今後の工業団地振興のためにはどのような方向でどのような施策を展開していくべきなのか。今回は、会員たちとしても積極性を取り戻し、腰を据えた議論を交わす用意ができていたように思われた。
 ロシア軍のウクライナ侵攻後の新現実において、個々の工業団地はどのような状況に置かれているのだろうか。年次総会後、ウラジーミル州にある「スタヴロヴォ工業団地」の管理会社から視察のお招きを受けた。今回はこの工業団地を読者と探訪することとしたい。(大橋巌)


ロシア音楽の世界
ラフマニノフ 交響的舞曲

 今年も夏に、世界の様々な場所で夏の音楽祭が催された。オーストリアのザルツブルグ音楽祭、英国のBBCプロムス、ドイツのバイロイト音楽祭などは歴史的知名度などの点で代表格と言える。
 今年30周年を迎えた、OMF:セイジ・オザワ松本フェスティヴァルが、長野県松本市で開催されたが、これも今や世界的知名度の音楽祭となっている。世界のトップアーティストの豪華メンバーがずらりと、松本市に集まっているだけでわくわくする季節である。今年は、沖澤のどか指揮、ロラン・ペリー演出の歌劇「フィガロの結婚」、シャルル・デュトワ指揮サイトウ・キネン・オーケストラによる「春の祭典」など、世界トップレベルの感動的な演奏で聴衆をうならせた。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


おいしい生活
ウクライナのはちみつ

 以前も本コーナーで取り上げたことのあるウクライナ産はちみつ。やはり日本市場に浸透していることを示すかのように、先日、「ウクライナ&ブルガリア産はちみつ」を近所のごく普通のスーパーで見つけた。日新蜂蜜株式会社が販売するはちみつで、同社のオンラインショップサイトを見ると、カナダ、アルゼンチン、ハンガリー、ルーマニア、スウェーデンを産地とするはちみつも販売されている。(中馬瑞貴)


記者の「取写選択」
ゴルバチョフ追想

 「冷戦終結の立役者」のオーラをかすかに漂わせ、ゴルバチョフ元大統領はソ連崩壊後の2000年、東京の日本記者クラブで記者会見した。「ライサ夫人のご冥福をお祈りします」とソフトに切り出したのは共同通信の先輩記者。1991年の公式訪日の際、1956年の日ソ共同宣言の有効性を確認しなかったのはなぜかと、流暢なロシア語でハードに質した。ゴルバチョフはこれを外交的レトリックでかわすと、「(同時通訳付きなので)日本語で質問します」と前置きした著名放送記者に「あなたとはモスクワで何度もロシア語で話したじゃないか」と笑顔で突っ込んだ。(小熊宏尚)