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ロシアNIS調査月報2022年12月号特集◆継続か?撤退か? |
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特集◆継続か?撤退か?岐路に立つロシアビジネス |
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調査レポート |
ロシアにおける外資系企業の撤退パターン |
講演録 |
ロシア市場からの撤退に伴う法的諸問題 |
講演録 |
現況下のロシアにおける外資系企業の選択肢 |
資料 |
ロシアにおける外国企業の活動状況 |
自動車産業時評 |
日産のロシアからの撤退 |
データリテラシー |
決済通貨の「友好国」シフトと問題点 |
データバンク |
2022年版ロシア50大外資系企業 |
データバンク |
2022年版ロシア大企業ランキング |
調査レポート |
静けさと喧騒が交差するロシア漁業分野 ―2021年の実績と2022年2月以降の状況― |
講演録 |
ロシアのウクライナ侵攻とプーチン体制の行方 |
データバンク |
2022年1〜9月の日ロ貿易 |
INSIDE RUSSIA |
ロシアによるドンバス占領経営 |
エネルギー産業の話題 |
ガスプロムの二面性 |
シベリア・北極圏便り |
節約志向が強まるシベリアの消費者行動 |
ドムクニーギ |
ウクライナ戦争と世界の行方 |
デジタルITラボ |
スコルコヴォ、エコシステム構築の行方 |
ロシアメディア最新事情 |
部分動員の裏で何が起きている?経済への影響 |
ウクライナ情報交差点 |
戦時下のウクライナを襲う電力危機 |
中央アジア情報バザール |
連携強化を望むロシアと中央アジアの温度差 |
ロシア音楽の世界 |
ボロディン「ダッタン人の踊り」 |
業界トピックス |
2022年10月の動き |
ロシアを測るバロメーター |
2022年10月末までの社会・経済の動向 |
通関統計 |
2022年1〜9月の輸出入通関実績 |
おいしい生活 |
コーカサスの伝統的なケフィアで免疫力アップ |
記者の「取写選択」 |
キーウへの道 |
調査レポート
ロシアにおける外資系企業の撤退パターン
(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 所長
中居孝文
2022年2月24日に始まったロシアによるウクライナ侵攻とそれに続く米欧日等の「西側諸国」による大規模な対ロシア制裁の発動は、ロシアにおける外資系企業の活動にも多大な影響を及ぼし、多くの企業が活動の制限、場合によっては撤退を余儀なくされている。
ロシアのメディア等を通じて、こうした外資系企業の撤退の事例を調べていくうちに、次第に撤退パターンの大まかな傾向がみえ始めた。本稿では、ロシア市場からの「撤退」について、欧米や日本の企業の事例を踏まえながら、その傾向を紹介することにしたい。なお、本稿は『ロシアNIS経済速報』(2022年8月5日号、No.1899)で発表した拙稿「ロシアからの外資系企業の撤退事例」にその後の新たな情報等を盛り込み、加筆・修正したものである
講演録
ロシア市場からの撤退に伴う法的諸問題
ALRUD法律事務所
S.ミラノフ/K.アカロヴィチ/D.クプツォフ/M.エギアザロヴァ
2022年8月25日(木)、ロシアNIS貿易会は「ロシア市場からの撤退に伴う法的諸問題」と題する報告会をリモートで開催した。ロシアによるウクライナ軍事侵攻と欧米日等による対ロ制裁の長期化が確実視される状況下で、欧米を中心とする外資系企業の中には、ロシアでの事業活動を断念し、撤退を表明する動きもでている。ロシアに進出した日本企業においては、撤退を決めた企業は少数に留まっているが、戦争の長期化に伴って、撤退を視野に入れる企業も増えてくると思料される。
そこで本セミナーでは、これまで多くの日本企業に協力した実績をもつALRUD法律事務所
(モスクワ)の法律専門家による、ロシア市場からの撤退に伴う法律上の問題について報告の機会を得た。特に今回は、様々な撤退パターン(他企業への売却、マネージメント・バイ・アウト、会社の清算等)に関わる法律上
の特性に焦点をおいた解説がなされた。以下では、本セミナーの内容についてご報告する。
講演録
現況下のロシアにおける外資系企業の選択肢
Bellerage
M.ゴルベンツェワ/A.フィリノフ
ロシアNIS貿易会では、10月20日にオンラインにて情報提供セミナー「現況下のロシアに
おける外資系企業の選択肢」を開催した。ロシアによるウクライナ軍事侵攻と欧米日等による対ロ制裁の長期化に伴い、短期的なビジネス環境の改善が期待できない中で、ロシアに進出した外資系企業は、現地法人や支店の今後について戦略的な判断に迫られている。
そこで、今回のセミナーでは日本企業を含む多くの外資系企業との協力実績を持つ会計・税務・法務コンサルティング会社のBellerage(モスクワ)の専門家を講師に招き、現況下のロシアにおける厳しいビジネス環境の中で外資系企業が取り得る選択肢について報告いただいた。特に今回は、撤退や清算だけでなく、活動の継続や一時的な組織の再編、ロシア市場へ戻ることを前提としたローカル・パートナーへの事業譲渡、それに休眠といった点にも焦点を当てた。
以下では本セミナーの内容についてご報告するとともに、当日時間の関係で回答できなかった質問について、後日、Bellerageより書面でいただいた回答についてもご紹介する。
資料
ロシアにおける外国企業の活動状況
10月7日、ロシアの政府系シンクタンクである戦略策定センターが、制裁下のロシアにおける外国企業の動向に関するレポートを発表した(原題は「外国ビジネスの概況:去るべきか、残るべきか」)。これは、6月10日に同センタ
ーが発表したレポートの続編である(6月10日発表のレポートについては『ロシアNIS経済速報』2022年6月25日号/No.1895を参照)。
ウクライナ侵攻後の外資系ロシア進出企業の動向に関する資料としては、@米イェール大
学経営大学院のジェフリー・ソネンフェルド教授を中心とする研究グループによる報告、Aウクライナのキエフ経済大学によるLeave Russia、Bロシアの戦略策定センターが発表するレポートの大きく3つが挙げられる。3つの資料の特徴を大まかに言えば、@とAはロシアからの外資系企業の「撤退」の実績を強調する傾向(すなわち、それによって「撤退」を促す効果をもつ)にあり、他方、Bは外資系企業の「撤退」の動向を抑制的に評価している点に特徴がある。つまり、それぞれ一定の政治的背景をもっていると考えるべきで、資料を利用する際にはその点に注意する必要がある。
このうち本号では、B、すなわち10月7日に発表されたロシアの戦略策定センターによるレポート「外国ビジネスの概況:去るべきか、残るべきか」を要約して、紹介することとしたい。
自動車産業時評
日産のロシアからの撤退
9月下旬になりトヨタがロシアの現地工場を閉鎖する決定を採択したことが明らかになった。また、ほぼ同時期に、マツダも現地工場閉鎖の方向で協議を開始したとの情報が出た。その関係で、ロシアで現地生産を行っていた日産、三菱自動車、いすゞなどの動向にも注目が集まっていたが、10月上旬になり日産が現地工場を閉鎖することが判明した。この状況を踏まえ、今回は、日産のロシア市場でのこれまでの動きや現地工場の概要などをご紹介する。(坂口泉)
データリテラシー
決済通貨の「友好国」シフトと問題点
ロシアは現在、経済制裁の継続という現実を前に、国際決済や物流のあり方を組み換え、彼らが「新たな現実」と呼ぶ経済環境への適応を進めている。これは端的に言えば、ロシアが「非友好国」とカテゴライズする米欧日との関係を相対的に減じ、その減じた分を可能な範囲で「友好国」との関係強化により補うプロセスとなる。グローバルに編み込まれた金融および物流関係から主要先進国など特定国を外して再構築する必要があり、それが難題であることは言うまでもない。しかし、「適応できなければ生き残れない」との認識の下でロシア企業は、淡々と適応を進めていることもまた事実である。本稿では、貿易や決済通貨に見られる変化を軸に、その適応ぶりの現状を説明したい。(長谷直哉)
データバンク
2022年版ロシア50大外資系企業
2022年7月、ロシア版『Forbes』が2022年版のロシアにおける50大外資系企業を発表した。このランキングでは2021年の売上高に基づき、上位50社が示されている。そこで以下では、このランキングを一覧表にまとめて紹介する。
データバンク
2022年版ロシア大企業ランキング
ロシアの経済誌『エクスペルト』(2022年10月10〜16日号、No.41)に、毎年恒例のロシア大企業ランキングが掲載されたので、同資料を抜粋して紹介する。なお、「2022年版ロシア大企業ランキング」と題してお届けしているが、 2021年の売上高に基づく2022年発表のランキングという意味なのでご注意願いたい。
調査レポート
静けさと喧騒が交差するロシア漁業分野
―2021年の実績と2022年2月以降の状況―
(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
数字を見る限り、2021年はロシアの漁業分野にとって比較的平穏な年であった。さらに、ロシア産水産物の代替を見つけるのは困難との理由から制裁の厳格化を躊躇している国も少なくないため、ロシアの漁業分野が「特別軍事作戦」から受ける影響の度合いは他の産業分野と比較するとそれほど深刻なものとはなっておらず、2022年に入ってからも数字に極端な変化は見受けられない。このように、ロシアの漁業分野を取り巻く外部環境は比較的平穏といえるのだが、業界の内部に目を転じれば、内紛といっても過言ではない状況が生じている。いわゆる「3回目の投資入札」をめぐり業界が真っ二つに分かれ、関係省庁も巻き込み対立する2陣営が激しい論争を展開しているのである。本稿では、ロシアの代表的魚種であるスケトウダラやカニなどに焦点をあてながら、2021年および2022年2月以降のロシアの漁業分野の状況をご紹介すると同時に、「3回目の投資入札」をめぐる喧噪についても言及する。
講演録
ロシアのウクライナ侵攻とプーチン体制の行方
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
服部倫卓
ロシアNIS貿易会では2022年9月22日に会員向けの月例報告会を開催、当会ロシアNIS経済研究所の服部倫卓所長(9月まで。10月からは北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター教授)が「ロシアのウクライナ侵攻とプーチン体制の行方」と題し報告を行った。以下は、その報告内容をベースに、その後1カ月あまりの動きも踏まえてアップデートし取りまとめたものである。
データバンク
2022年1〜9月の日ロ貿易
本稿では、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2022年1〜9月の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめたので、若干の解説とともに紹介する。
INSIDE RUSSIA
ロシアによるドンバス占領経営
前号の本コーナーでお伝えしたとおり、ロシアにより占領されていたウクライナ東部ドンバス地方の自称「ドネツク人民共和国」、「ルガンスク人民共和国」、そして南部のヘルソン州、ザポリージャ州では、9月23日から27日にかけ
てロシア連邦への編入を問うニセ住民投票が実施された。それを受け、ロシアのプーチン政権は、9月30日に国家編入に関する条約を4地域の代表者と締結、10月5日までに編入のための国内手続きを完了した。
軍事的に劣勢に転じているロシアが、このまま4地域を広範囲にわたって支配し続けられるかは疑わしい。それでも、今後プーチン政権は4地域がロシア領であるという体で振る舞っていくことになる。
ただし、ドンバスの紛争地では、2014年以来、ロシアによる実質的な支配が徐々に浸透してきた経緯がある。本稿では、経済に着目し、過去8年間のロシアによるドンバス占領経営の軌跡を時系列的に跡付けて概観する(服部倫卓)
エネルギー産業の話題
ガスプロムの二面性
ガスプロムは株式を上場している営利組織だが、従来から、国の一組織(ガスプロムの株式の過半は国が保有している)としての側面も有していた。たとえば、「シベリアの力」のように、経済合理性の観点から見ると問題が多い一方で、地政学的な観点から見ると非常に重要性の高いプロジェクトに果敢に取り組んできた。いわば、国の外交政策のツールとしての役割も果たしていたと言える。ただ、これまでは営利組織としての側面が前面に出ることの方が多く、クライアントに対しそれなりの配慮はみせてきた。ところが、「特別軍事作戦」の後、様相が大きく変化し、国のツールとしての側面を露骨に見せるようになっている。換言すれば、ガスプロムの二面性が顕在化してきているということだ。今回は、そのあたりの状況について言及する。(坂口泉)
シベリア・北極圏便り
節約志向が強まるシベリアの消費者行動
経済制裁によるロシアのマクロ経済への影響は、本年第2四半期以降、徐々に実体経済にも目に見える形で立ち現れるようになってきている。経済発展省が11月2日に発表した本年9月の経済成長は前年同月比で5%のマイナスとなっている。特に、卸売業および小売業の落ち込みは大きく、本年第3四半期の成長率は前年同期比で、前者がマイナス22.6%、後者がマイナス9.1%と発表されており、消費に大きくブレーキがかかってきていることが窺える。今回は消費および家計への影響を軸に、シベリア連邦管区の経済現状について説明する。地域を絞った観察から見えてくるものも あるかと考える。(長谷直哉)
ドムクニーギ
ウクライナ戦争と世界の行方
国際政治学者など気鋭の研究者7名による論文集で、ウクライナ戦争が世界に突きつけた様々な課題や問題について多面的に論じている。個人的な意見ではあるが、現時点における日本で最も高水準のウクライナ戦争論であり、一読に値する。(中居孝文)
デジタルITラボ
スコルコヴォ、エコシステム構築の行方
ウクライナ戦争禍に伴いロシア経済が混乱し、若手の頭脳流出が続く中、ロシアのスタートアップ・エコシステムを牽引してきたスタートアップカンファレンスであるStartup Villageは10周年を迎えた。前回の記事では、2022年のカンファレンスの出展企業数は前年比約1/2の245社と半減し、残念ながらウクライナ戦争により大きく様変わりしたStartup Villageの様子についてお伝えした。今回は、2022年のStartup Villageに出展した企業とトレンドを分析 し、ロシアに留まるスタートアップの現状と、ロシアのスタートアップ・エコシステムについて考察したい。(大森貴之)
ロシアメディア最新事情
部分動員の裏で何が起きている?経済への影響
11月4日、プーチン大統領は、自ら志願した人も含めて31万8,000人が集まり、そのうち約5万人がすでに戦闘に参加していることを明らかにした。部分動員はロシア全土で9月21日から始まり、私が暮らしているモスクワ市では10月17日にソビャーニン市長が終了宣言をした。私の直接の友人の中では、4人に召集令状が送らた。結果、驚くべきことに全員動員されなかった。国全体の動員状況を考慮すると、ただラッキーだったのかもしれないし、モスクワ市は他の地域よりきっちり動員の基準を守っているのかもしれない。(徳山あすか)
ウクライナ情報交差点
戦時下のウクライナを襲う電力危機
ウクライナ侵攻を継続するロシアは、10月10日から11日にかけて、ウクライナの電力インフラに対する攻撃を集中的に行った。その後も同様の攻撃は散発的に続いている。
体制寄りのロシア人政治学者D.スルジク氏は、攻撃を受けたのは鉄道に近い電力インフラであり、これは欧米から供与された武器の鉄道輸送を阻むためのものだとして、作戦を正当化している。
しかし、実際には、戦場で勝てないプーチン・ロシアが、ウクライナ国民に厭戦ムードを広げるべく、無差別爆撃を行っていると見る方が自然だ。時あたかも、ロシアやウクライナは暖房シーズンに突入する時期であり、都市部では給湯と暖房が発電と一体の形で提供されるだけに、電気が止まればお湯や集中暖房も止まる恐れがある。ウクライナ国民を動揺させるのには格好の手段であろう。 (服部倫卓)
中央アジア情報バザール
連携強化を望むロシアと中央アジアの温度差
10月13〜14日にかけて、カザフスタンの首都アスタナにプーチン・ロシア大統領を含む旧ソ連諸国の首脳が集結した。13日にトルコやイランなどの首脳も参加するアジア相互協力信頼醸成措置会議(CICA)、14日には独立国家共同体(CIS)加盟国首脳会談、そして新しい枠組みとして「ロシア+中央アジア」サミットが行われた。各会合で欧米諸国 への不満をあらわにし、ユーラシア地域での連携強化を強調したプーチン大統領に対して、中央アジア各国首脳の反応は様々であった(中馬瑞貴)
ロシア音楽の世界
ボロディン「ダッタン人の踊り」
ロシア5人組とは、ピアノの名手で作曲家バラキレフを中心とした19世紀後半のロシア民族楽派の作曲家たち5人。バラキレフ(1837〜1910年)、キュイ(1835〜1918年)、ムソルグスキー(1839〜1881年)、ボロディン(1833〜1887年)、リムスキー=コルサコフ(1844〜1908年)の5人で、チャイコフスキーは含まれておらず。彼は常にこの5人組とは距離を置いていた。
作曲家5人組と書いたが、当初集まった時に音楽家だったのは、驚くべきことにバラキレフ1人だけ。キュイは要塞建築専門の軍人、ムソルグスキーは陸軍士官、Rコルサコフは海軍士官、ボロディンは化学・薬学の大学教員。1年前にこのコラムで、ボロディンの「中央アジアの草原にて」を取り上げたが、今回は、ボロディンの劇中のバレエ音楽「ダッタン人の踊り」、(または、「ポロヴェツ人の踊り」、露語:Половецкие пляски、英語:Polovtsian Dances)を取り上げる。 (ヒロ・ミヒャエル小倉)
おいしい生活
コーカサスの伝統的なケフィアで免疫力アップ
長寿で知られるコーカサス地方で伝統的に食べられてきた発酵乳のケフィア。一説によると、長い間、コーカサス地方でケフィアの種菌とその製法は門外不出で、外部の手に渡ることはなかった。20世紀初頭、ロシア人はケフィアの種菌を手に入れるべく若く美しいイリーナをコーカサス地方に送り込み、種菌を手に入れることに成功し、ロシアでもケフィアが製造されるようになったそうだ。(斉藤いづみ)
記者の「取写選択」
キーウへの道
ウクライナ西部リビウを車で出発して5時間。キーウ州に近づくと、運転手は窓の外を何度か指さした。指の先にあるのはロシア軍が破壊したという施設や家屋。「本当にロシアが主張するような軍事施設なのか」と疑問を感じるものばかりだ。 (小熊宏尚)