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ロシアNIS調査月報2023年7月号特集◆中央アジア・コーカサスの |
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特集◆中央アジア・コーカサスの物流ハブの可能性 |
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調査レポート |
侵攻後の中欧間貨物輸送と代替ルートの模索 |
調査レポート |
南コーカサスの物流・輸送インフラ概況 |
調査レポート |
2022年のロシアの石炭分野の回顧 ―対ロ制裁という逆風に晒された1年― |
ミニレポート |
変化を強いられたロシア国際物流 |
中央アジア情報バザール |
第1回「中国+中央アジア」サミット開催 |
シベリア・北極圏便り |
北極海航路の2022年実績と展望 |
コーカサス情報フォーカス |
国際南北輸送回廊とコーカサス |
調査レポート |
欧州のエネルギー構造とロシアの天然ガス |
調査レポート |
「非友好国」企業の撤退を巡るロシアの対抗措置 |
データリテラシー |
ロシア金融機関が抱えるテクノロジー面での課題 |
ロシア極東羅針盤 |
新たな段階に突入した中ロ貿易 |
INSIDE RUSSIA |
ロシア貿易統計の訂正と最新動向 |
ロシアメディア最新事情 |
日本では報道されないベルゴロド州の今 |
ウクライナ情報交差点 |
戦時下のウクライナにおける国外出稼ぎ収入 |
日ロビジネス群像 |
ソ連・ロシア体制転換期を振り返る ―米原万里「マクロからミクロへ」の視点― |
ロシア音楽の世界 |
プロコフィエフのフルート・ソナタ ニ長調 |
業界トピックス |
2023年5月の動き |
ロシアを測るバロメーター |
2023年5月末までの社会・経済の動向 |
通関統計 |
2023年1〜4月の輸出入通関実績 |
おいしい生活 |
日本人好みのアストラハン料理 |
記者の「取写選択」 |
アングロアメリカンスクール閉校 |
調査レポート
侵攻後の中欧間貨物輸送と代替ルートの模索
明治大学商学部 教授
町田一兵
米中の貿易摩擦及び2019年末に始まるコロナ禍がグローバル・サプライチェーンに大きな影響を与えた。また、コロナの進行の真っ只中、2022年2月にロシアがウクライナに侵攻を仕掛け、すでに1年以上が経った今も終息がみられない。
しかし、その間も国境を越える国際物流はより活発な動きを見せている。とりわけ中国/欧州間の陸上貨物輸送は海運市場の運賃高騰を受けて急激な増加をみせた。また、鉄道のみならず、貨物自動車による長距離国際貨物輸送の動きもみられた。
一方、これまで中国/欧州間陸上貨物の輸送は主にロシア/ベラルーシ鉄道を経由したルートを通っており、現在でも一部ロシア/ベラルーシ経由を利用しているが、長引く侵攻によってEUからロシアに対する経済制裁が強まる中、今後中欧間陸上鉄道貨物輸送におけるロシア/ベラルーシ経由ルートの利用にリスクが高まっている。
本稿はコロナ禍の影響やウクライナ侵攻による現在の中欧間陸上貨物輸送の現状を鑑み、中国/欧州及び沿線諸国の陸上輸送の現状及び新たな代替ルートを模索する動きを含め、中国が推進する「一帯一路」に基づく中欧間陸上貨物輸送ルートの整備強化の狙いを説明する。
調査レポート
南コーカサスの輸送・物流インフラ概況
(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 研究員
森彩実
ロシアのウクライナ侵攻後、輸送・物流分野では、ロシアを経由せずにアジアと欧州を結ぶ「カスピ海ルート」が注目を集めている。東西をカスピ海と黒海に挟まれたコーカサス地域はその中継拠点としての重要性が高く、南コーカサス地域の3カ国(アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア)は、それぞれ自国の輸送・物流ハブとしての発展と輸送能力の拡大を目指している。
これら3カ国は、北にロシア、南にイランという2つの制裁対象国の間に位置しており、また各国が周辺国との複雑な関係を抱えているという状況からしても、外的要因による影響を受けやすく、地政学的リスクは小さくはない。しかしながら、現在の国際情勢は同地域にとって、その立地の優位性を活かし、国際輸送網への接続性を高めるチャンスでもある。
そこで本稿では、カスピ海ルートの経由地である南コーカサス地域に焦点を当て、アゼルバイジャン、アルメニア、ジョージア各国の輸送インフラについて、その概要をまとめた
調査レポート
2022年のロシアの石炭分野の回顧
―対ロ制裁という逆風に晒された1年―
(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
ロシア軍によるウクライナ侵攻を受け、2022年夏にロシア産石炭を対象とするEUの禁輸措置が発効した。また、ロシア産石炭の主要な輸出相手国の1つである日本も欧州諸国の動きに同調し、ロシア産石炭の購入量を削減する意向を表明した。さらに、ウクライナ侵攻後にロシア政府が東方向けの貨物鉄道輸送に関する方針を変更し、鉄道による東方への石炭の輸送量が減少するという事態も生じた。それらの状況の激変を受け、ロシアの石炭の輸出量はもちろんのこと、生産量も大幅に減少するのではないかとの見方も出ていたが、結局、そのような事態は生じず、輸出量の減少幅は10%以内にとどまった。輸出量の減少幅が最小限にとどまった背景には、ロシアの採炭企業が輸出価格を意識的に引き下げた結果、中国やインドをはじめとするいくつかの国がロシア産石炭の輸入量を大幅に増加させたという事情が存在する。また、東方向けの石炭の鉄道輸送量が減少したことを受け、ロシア南部の黒海沿岸の港からの輸出用石炭の出荷量が増加したことも減少幅の縮小に大きな貢献をした。さらに、ロシア政府が石炭の国内消費を促進するための措置を講じたため、生産量の方はわずかではあるが前年の数字を上回った。
本稿では、輸出用の石炭輸送ルートの変化などにも着目しながら、対ロ制裁という逆風に晒されたロシアの石炭分野の2022年を回顧する。
ミニレポート
変化を強いられたロシア国際物流
(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所モスクワ事務所 所長
長谷直哉
ロシア・ウクライナ戦争勃発後、対ロ制裁に対抗してロシアが物流路の再構築を図っていることは広く知られているとおりである。2022年3〜6月にかけてロシアの物流は対ロ制裁により非常に苦しい立場に陥ったが、同年夏には物流路の再構築が進展し、同年秋には並行輸入品の取り扱いを含め、物流は混乱から脱し、一応の安定を見たと言える。本年に入り、ロシア物流業者に2022年業績を聞く限り、一部を除き、概ね2021年比で成長しているとのことであり、制裁に対する悲壮感を感じるようなことはあまりない。あるコンサルティング企業が物流業者向けに行ったテレグラムでのアンケート調査でも、多くのロシア物流業者が「2022年6月までは苦しかったが、2023年春時点で物流路の組み直しは完了した」と回答していた。
本稿は、このようなロシア物流業界の現状を踏まえ、実態を探るべく、筆者が現地フォーラムに参加し見聞きした情報、またインタビューの結果などを注目点別に整理した。通関統計などが公開されなくなり、貿易の実態が把握しにくくなる中、その空白を埋める参考として取りまとめたものとなる。
中央アジア情報バザール
第1回「中国+中央アジア」サミット開催
2023年5月18〜19日、中央アジア5カ国首脳が中国の西安を訪問し、第1回「中国+中央アジア」サミットが開催された。広島で開催されたG7の直前に、習近平国家主席が主催したサミットということで、日本や海外でも関心を集め、一部メディアでは、中国によるG7へのけん制といった意図が特にクローズアップされていた。しかし、G7諸国や拡大会合の参加国(韓国、インド、ブラジルなど)と比べれば、本サミットの国際社会におけるその存在感や影響力の差は一目瞭然であり、前回のG7直前に同じく中国が主導したBRICS首脳会談(2022年6月のエルマウG7の直前、オンラインで開催)と比べても見劣りする。一方で、サミット後に発表された西安宣言や共同記者会見ではより実利的な意味での中国と中央アジアの関係強化が鮮明となっており、注目に値する。そこで本稿では特に経済に関わる内容に注目して、今回のサミットの概要を紹介することにしたい。(中馬瑞貴)
シベリア・北極圏便り
北極海航路の2022年実績と展望
北極海航路での貨物輸送に関し、2022年通年での実績は、公式統計によれば、トランジット輸送を含めた全体で3,411.69万t、前年比で2.1%減と小幅の落ち込みで終わりました。北極海航路を対象とする貨物取扱いに関しては、そのうちの約85.6%の2,922万tが液体状の資源輸出となります(前年比で2.3%増)。2021年のこの割合は約81.8%でしたから、2022年はこの傾向がさらに強まったと言えます。内訳を示すと、LNGが約2,079万t、原油および石油製品が約757万t、ガスコンデンセートが約86万tなどとなります。このように、北極海航路は貨物取扱量のほとんどを(液体状の)資源の輸出、特にLNG輸出に依存することで成り立っています。(長谷直哉)
コーカサス情報フォーカス
国際南北輸送回廊とコーカサス
本誌では、「ウクライナ情報交差点」と「中央アジア情報バザール」2つの連載で、NIS諸国に関する情報を毎月お伝えしている。ロシアによるウクライナ侵攻後、NISへの関心が高まっていることを受けて、これまで手薄となっていたコーカサスについても定期的に情報提供すべく、新連載「コーカサス情報フォーカス」をスタートさせる。第1回となる今回は、対象となる「コーカサス」を紹介するとともに、特集に合わせて、昨今、国際物流においてコーカサスが注目を集める中で取り上げられる国際南北輸送回廊とコーカサスの関係について紹介する。(中馬瑞貴)
調査レポート
欧州のエネルギー構造とロシアの天然ガス
合同会社エネルギー経済社会研究所
松尾豪
2022年2月24日のロシア軍によるウクライナ侵攻後、欧州各国は「ロシアにウクライナ侵攻のための戦費を稼がせない」観点からロシア産資源の脱却を図り、世界のエネルギー供給構造は変化した。
欧州はロシアのウクライナ侵攻に先立つ2021年夏から天然ガス・電力市場価格の上昇に直面し、英国では小売電気事業者の大量破綻を招き、英国を含む多くの国ではエネルギー価格の急激な上昇に直面していた。詳細は後述するが、今次エネルギー危機はロシアのウクライナ侵攻だけが原因で発生したものではなく、多くの事象が複雑に絡み合って発生したことを認識する必要がある。
さて、今次エネルギー危機では電気料金・ガス料金の大幅な上昇により、物価上昇だけでなく、肥料・鉄鋼・アンモニアなどの製品の生産にも多大な影響を及ぼしており、物資不足・食料不足の懸念も生じている。本稿では天然ガスを中心にエネルギー危機の実態・ロシアの天然ガスについて説明する
調査レポート
「非友好国」企業の撤退を巡るロシアの対抗措置
(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 所長
中居孝文
2022年3月以降、ロシア当局は対ロ制裁を発動した米欧日等の22カ国・地域を「非友好国」に指定し、ロシア領内で活動する「非友好国」企業の子会社に対し、資金送金や資産処分の領域において多くの対抗措置を課し、その行動を制限している。本稿では、これら措置のうち、とくに「非友好国」企業がロシアから撤退する際の子会社の資産処分問題に焦点を当てて、ロシア当局がどのような措置を採用し、またそれには如何なる法的根拠があるのかを考察する。
データリテラシー
ロシア金融機関が抱えるテクノロジー面での課題
ロシアに科された数ある経済制裁の中でも、特に大きな影響を及ぼしているのが金融制裁かと思います。グローバル化の恩恵を受け、経済成長し、国際市場での自由な金融取引や資本調達のネットワークに深く組み込まれた国が、そのシステムから切り離されるというプロセスは類似のケースを見出すことが難しいほどです。このプロセスはロシア金融機関だけでなく、ロシアに進出した外資系金融機関にも影響を及ぼしており、見逃せない動きとなっています。本稿では、金融制裁発動から1年以上が経過したロシアの金融機関において、テクノロジーの観点からどのような問題が顕在化しているのか、整理しておきたいと思います。(長谷直哉)
ロシア極東羅針盤
新たな段階に突入した中ロ貿易
西側諸国との対立が深刻化する中、ロシアと中国が急速に連携を深めている。政治、軍事から経済、貿易、そして人的往来まであらゆるレベルにおいて、これまでだと考えられなかったスピードで協力拡大が進んでいる。(齋藤大輔)
INSIDE RUSSIA
ロシア貿易統計の訂正と最新動向
筆者は月報2023年5月号に「公式統計とミラーデータで見る2022年ロシアの貿易」と題するレポートを寄稿した。その中で、独自の試算にもとづき、「ロシアの輸出入における友好国と非友好国の内訳」というグラフを作成し掲載していた。その後、同グラフに単純ミスがあることが発覚したので、今回の連載を利用し、その部分を修正したグラフを再掲載させていただく。また、前回レポート発表後に、本テーマで生じている最新動向についてもお伝えする。(服部倫卓)
ロシアメディア最新事情
日本では報道されないベルゴロド州の今
このコラムを書いている5月下旬から6月上旬にかけて、ロシア国内への砲撃や無人機による攻撃が激増しています。日本では、モスクワ市内へのドローン攻撃が大きく報道されましたが、頻度や規模で言うと、ウクライナと国境を接するベルゴロド州が最も被害を受け、毎週死者が出ています。地元メディアの報道や現地の人の声も交えて、国境の町で何が起こっているのか見ていきたいと思います。(徳山あすか)
ウクライナ情報交差点
戦時下のウクライナにおける国外出稼ぎ収入
国内で良い働き口が乏しいウクライナでは、働き盛りの市民がEU圏等の外国に働きに出る現象が拡大していた。そして、彼らが本国にもたらす送金、いわゆる「レミッタンス」が経済を支える度合いが年々強まり、国外出稼ぎがいわば「影の基幹産業」のようになっていた。
本コーナーでも、レミッタンスがどの国からもたらされているかを示したグラフとともに、たびたびその現象を取り上げてきた。しかし、2022年2月のロシアによる全面的な軍事侵攻開始に伴い、出稼ぎ・レミッタンスの様相にも、またそれを記録したウクライナ中央銀行の統計にも、異変が生じている。(服部倫卓)
日ロビジネス群像
ソ連・ロシア体制転換期を振り返る
―米原万里「マクロからミクロへ」の視点―
本連載のタイトルは「日ロビジネス群像」だが、先人たちの功績をくまなく紹介するのはぼくの能力をはるかに超える。それは長年の歴史をもつ『ロシアNIS調査月報』をはじめとする、ロシアNIS貿易会の膨大な書籍や報告書、本稿でも紹介した『日ソ・日ロ経済交流史 ロシア・ビジネスに賭けた人々の物語』に譲り、ここでは個人的な記憶や繙いてきた書籍などをベースに、自らの関心や興味に従って書いてきた。「人間の生活と感情のあやを個別具体的に詳細に描けば描くほど、逆に人間すべてに普遍的な共通点が認識されるという結果」を生むこともあるからだ。
こう綴ったのはロシア語同時通訳、エッセイスト、作家として活躍し、2006年に亡くなった米原万理さんである。上述の一節は著書『魔女の1ダース』(新潮文庫)の「マクロからミクロへ」という小題のなかの文章を引用させてもらった。米原さんは、優れた小説や芝居や漫画や映画やテレビ番組は「どんなに遠い異国の人々でも、物理的には近くにいるのに得体の知れない他人でも、身近でかけがえのない人々にしてくれる魔法のような装置」になりうるという。いまのロシアでも19世紀のロシア文学が読まれ続けているのは、そこに「普遍的な共通点」があるからだとも。米原さんは同時通訳の現場から、言語とは何か、人間とはどういう生き物なのか、思考を広げ、深めてきた。本連載の最後は、彼女の初期の作品をとりあげながら、ソ連・ロシアの体制転換期を振り返ってみたいと思う。(芳地隆之)
ロシア音楽の世界
プロコフィエフのフルート・ソナタ ニ長調
セルゲイ・プロコフィエフが管楽器のために作曲した唯一のソナタが、この二長調作品94である。フルート奏者にとっては、最難関曲の1つであり、最も高く聳え立つ珠玉の名曲である。40年ほど前、筆者の学生時代には、音楽大学の学生の皆がこぞってこのソナタに挑戦していて、卒業生のデビュー・リサイタルでは、またこの曲かと思うほど頻繁に取り上げられていたのを思い出す。筆者にとっても40年間、今尚チャレンジし続けている超難曲である。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
おいしい生活
日本人好みのアストラハン料理
ロシア料理には地域ごとの多様性がある。カスピ海沿岸に位置する私の故郷アストラハンの食文化は、野菜と魚が豊富で日本人の食生活に合っている。メイン料理はボルシチではなく、魚のスープ「ウハー」で、パイとピロシキの中身も野菜や魚が多い(写真・左)。スダク(スズキの一種)、サザン(鯉の一種)、ナマズ、チョウザメといった魚を、丸ごと揚げることもあれば、カツレツにしたり、グリル焼きにしたり、塩ゆでにしたり、干したりすることもある。(ストノーギナ・ユーリア)
記者の「取写選択」
アングロアメリカンスクール閉校
今年5月に届いたメールには「悲しくて困難なニュース」と書かれていた。モスクワ駐在時代、息子が3年通ったインターナショナルスクールAnglo-American School of Moscow(以下AAS)が「永久に閉校する」と、在学歴がある生徒やその保護者に伝えてきたのだ。(小熊宏尚)