ロシアNIS調査月報
2023年8月号
特集◆地殻変動が始まった
ロシア・NIS貿易
 
特集◆地殻変動が始まったロシア・NIS貿易
調査レポート
2022年のロシアの貿易
調査レポート
ロシアの農産物貿易
―2022年の動きを中心に―
調査レポート
日本の港湾別対ロ貿易にみる戦争と制裁の影響
調査レポート
制裁下で変容するロシアの食料安全保障
データバンク
2022年の中央アジア・コーカサス貿易統計
ミニレポート
北海道とロシアの貿易は魚介類輸入が軸
ロシア極東羅針盤
中古車対ロ輸出の最新動向
データリテラシー
韓国による対ロ・対NIS諸国貿易動向
ウクライナ情報交差点
黒海穀物イニシアティブとウクライナ農産物輸出

講演録
ロシアにおける税務リスクと実践的マネジメント
報告
ロシアNIS貿易会令和5年度定時総会報告
エネルギー産業の話題
税金算定用のUralsの価格
ロシア政財界人物録
武装反乱に揺れたモスクワ
ロシアメディア最新事情
チャイコフスキーコンクール取材の舞台裏
ロシア音楽の世界
カプースチン 8つの演奏会用エチュード
業界トピックス
2023年6月の動き
ロシアを測るバロメーター
2023年6月末までの社会・経済の動向
通関統計
2023年1〜5月の輸出入通関実績
おいしい生活
真っ黒なクルミのジャムが美味しい
記者の「取写選択」
高崎のロシア人墓地


調査レポート
2022年のロシアの貿易

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 部長
齊藤大輔

 小誌では毎年、ロシア連邦税関局が発行する『ロシア連邦外国貿易通関統計』の年報等を利用し、前年のロシアの貿易動向を詳しくお伝えするレポートを掲載してきたが、2022年2月のウクライナ侵攻開始後、ロシア連邦税関局は通関統計の発表を取りやめてしまった。1年後の今年3月に2桁の統計品目番号(HSコード)別の輸出入金額が発表されただけで、数量や国別など詳細な数字は伏せられたままである。そこで本稿では、ロシアはどのような国・地域と貿易をしているのか、ロシアの貿易相手国はウクライナ侵攻によって、どのように変わったのかを明らかにするため、ロシアの主要貿易相手国側の輸出入データ、いわゆる「ミラーデータ」を用いて、ロシアの輸出入額が多い国・地域を調査。侵攻前の2021年と侵攻後の2022年を比較して、その変化に迫った。


調査レポート
ロシアの農産物貿易
―2022年の動きを中心に―

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 ロシアは約20年前に穀物のネットの輸出国に転じた後、急速にその存在感を強め、今や穀物の国際価格動向に大な影響を及ぼす穀物輸出大国と認識されるようになっている。ウクライナ侵攻に伴う対ロ制裁は穀物大国「ロシア」の輸出動向に否定的影響をもたらすと思われていた。実際、2022年3月以降しばらくは輸出が伸び悩む時期が続いた。ただ、穀物大国「ロシア」はそれまでに蓄積してきたノウハウとコネクションをフルに活用して輸出体制を再構築し、徐々に輸出量を回復させていった。
 穀物の他に鶏肉や豚肉に関してもロシアは最近急激に生産量を伸ばしており、ネットの輸入国から輸出国に転じつつある。ただ、その一方で輸入依存度がいまだに高い部門も存在する。
 本稿では、ロシアの農業分野が抱える問題点を意識しながら近年のロシアの穀物、油糧種子(ひまわりの種、大豆)、各種野菜、鶏肉・豚肉等の生産と輸出入の状況をご紹介する。


調査レポート
日本の港湾別対ロ貿易にみる戦争と制裁の影響

(一社)ロシアNIS貿易会ロシアNIS経済研究所 所長
中居孝文

 2022年2月末に始まったロシアによるウクライナ侵攻後、日ロ貿易は戦争と制裁、そしてロシア側が繰り出す対抗措置の影響を強く受けた。以下では、2021〜2022年の港湾別の対ロ貿易を概観した上で、輸出では、日本のロシア向け主要輸出品である乗用車、建設機械、自動車部品、タイヤ、輸入では原油、石油製品、LNG、石炭、アルミニウム、魚介類の港湾別のトレンドをレビューし、戦争と制裁が日本各地の対ロ貿易やビジネスにどのような影響を与えたかを考察する。


調査レポート
制裁下で変容するロシアの食料安全保障

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
服部倫卓

 近年のロシアは他国と同様、食料安全保障に目を向け、関連の政策文書も策定している。そうした中、現下のウクライナ侵攻は、ロシアの食料の分野にも、小さからぬ影響を及ぼしている。本稿では、ロシアの食料安全保障に関連するデータを図表にまとめて整理するとともに、解説を試みる。


データバンク
2022年の中央アジア・コーカサス貿易統計

 中央アジアおよびコーカサス諸国の統計機関が発表しているデータに基づき、トルクメニスタンを除く7カ国の2022年の貿易統計について各国ごとに、地域別貿易実績、主要貿易相手国(上位25カ国)、輸出入品目構成(タジキスタンを除く)の表を作成したので、簡単な解説を交えてご紹介する。


ミニレポート
北海道とロシアの貿易は魚介類輸入が軸

 筆者は、昨年10月に北海道大学に奉職して以来、これまでにも増して、北海道の地域経済とロシアとのかかわりにつき関心を寄せるようになった。幸い、函館税関が「北海道貿易概況」という資料を定期的に発表しているので、これを手掛かりに北海道とロシアの貿易動態を知ることができる。そこで本稿では、北海道・ロシア貿易の動向と、日ロ貿易に占めるその比率につきデータを整理し、解説を加える。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
中古車対ロ輸出の最新動向

 昨年2月のロシアによるウクライナ侵攻と西側諸国による経済制裁によって、激変した日本からロシアへの自動車輸出。新車の輸出がストップする一方、中古車の輸出は何度目かのブームが続いている。制裁下のロシアで日本の中古車の売れ行きが伸びるという、まったくの予想外の事態が起きてから1年以上が経過した。制裁下で苦しいはずのロシアからマネーが流入し、日本の中古車市場に価格高騰をもたらすとともに、世間の注目を集めた。(齋藤大輔)


データリテラシー
韓国による対ロ・対NIS諸国貿易動向

 今回は、韓国による対ロ・対NIS諸国(ウクライナおよびモルドバ除く)の貿易動向に関するデータです。(長谷直哉)


ウクライナ情報交差点
黒海穀物イニシアティブとウクライナ農産物輸出

 本コーナーでは、ウクライナの農業、農産物輸出を取り上げる機会が増えている。それだけ、今のウクライナでまともに機能している主要産業が農業くらいしかないという現実の表れでもある。今回は特に、「黒海穀物イニシアティブ」の成果を図表にまとめることを中心に、改めてウクライナの農産物輸出の動向を紹介したい。(服部倫卓)


講演録
ロシアにおける税務リスクと実践的マネジメント

ALRUD法律事務所
M.アレクセーエフ/S.アルテミエフ

 2023年5月24日(水)、ロシアNIS貿易会はロシア情報提供セミナー「潜在的な税務リスクに備えた実践的マネジメント」をリモートで開催した。本セミナーでは、ALRUD法律事務所(モスクワ)の法律専門家2名に講師を務めていただいた。
ロシアによるウクライナ侵攻後、多くの外資系企業がロシアでの事業活動の縮小を決定する一方で、戦費の急増等で財政逼迫に直面するロシア政府は、「超過利潤税」の新規導入など税収確保に向けて各種対応を強化している。2022年に納付した追徴金額は前年の金額を超えた。2023年にもこの傾向が続き、2022年分の確定申告の完了に伴い、売り上げが減少した数多くの企業が税務庁から通告や調査を受ける可能性が高くなることが想定されている。
こうした状況を踏まえ、今回、2人の専門家には、@税務庁による税務調査の対象範囲および追徴金に関するデータと問題点、A税務当局によるクレームや通告につながる状況および、それに伴う企業側の潜在的な税務リスク、B税務当局への対応に関する実践的なアドバイスといった話題を中心にお話をいただいた。本号では、その報告の要旨と質疑応答の内容をご紹介することとしたい。


報告
ロシアNIS貿易会令和5年度定時総会報告

 一般社団法人ロシアNIS貿易会は東京の如水会館にて、6月12日に令和5年度定時総会を開催いたしました。定時総会では「令和4年度事業報告」の報告、第1号議案「令和4年度計算書類」、第2号議案「役員選任の件」の承認がなされました。以下では定時総会において報告された令和4年度事業報告の内容を掲載するとともに、定時総会における来賓の松尾剛彦経済産業省通商政策局長のご挨拶、また、飯島会長の挨拶を掲載いたします。


エネルギー産業の話題
税金算定用のUralsの価格

 これまでは、西側の査定会社「Argus」のデータをベースにロシア財務省が発表するUralsの欧州の港におけるCIF価格が、ロシアの石油分野の主要な税金の税率を決定する上での主要な指標となってきました。しかし、Uralsが欧州に供給されなくなった今、現行の指標の算定方式に関する疑問の声が強くなり始めています。本稿では、現行のUralsの価格算定方式をご紹介した後に、浮上しているいくつかの算定方式変更案につき言及します。(坂口泉)


ロシア政財界人物録
武装反乱に揺れたモスクワ

 今回は、2023年6月23〜25日にかけて生じた、いわゆる「プリゴジンの反乱」に際しての筆者メモを参考まで紹介します。プリゴジン氏をめぐる事件について取り扱うので政財界人物録のコーナーにて執筆としましたが、本来の連載テーマからは外れてしまう点はご容赦願いたく思います。(長谷直哉)


ロシアメディア最新事情
チャイコフスキーコンクール取材の舞台裏

 モスクワで第17回チャイコフスキー国際コンクールが閉幕しました。4年に1度の世界的に権威あるコンクール、今回は戦時下という異例の状況でしたが、それでも華やかに締めくくられ、ロシアという国の不思議さ、多面性をあらためて感じました。日本人も7人参加したこのコンクール、取材の舞台裏をご紹介します。(徳山あすか)


ロシア音楽の世界
カプースチン 8つの演奏会用エチュード

 そんなドリンク・オーダーをしてから、アロハシャツ着てプールサイドで聴きたいロシア音楽が、この曲である。普段着で古くからやっている場末のバーで聴くもよし、もちろん、ブラックタイ(タキシード)着てハイソなバーで聴くのも素敵だ。コンサートホールでお行儀良く座って聴くのは少々気が進まない。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


おいしい生活
真っ黒なクルミのジャムが美味しい

 アゼルバイジャンに出張した際、通訳の日本人女性が、カフェで紅茶を飲んだ時に出てきたお茶菓子がとても美味しかったが、何かわからなかったと写真を見せてくれた。そこには真っ黒な物体が。そう、それはコーカサスで伝統的なクルミのジャム。(斉藤いづみ)


記者の「取写選択」
高崎の「ロシア人墓地」

 ニコライ・トカチューク(享年26)、ステパン・シェレノーク(同22)、サプソン・メルニチェンコ(同28)。正教の十字架を刻んだ3人の兵士の墓碑が、冬の日だまりの中に並んでいた。メルニチェンコはウクライナ・キーウ出身の砲兵。姓からするとトカチュークもウクライナ系だろう。シェレノークはミンスク生まれの狙撃兵である。(小熊宏尚)