ロシアNIS調査月報
2025年11月号
特集◆地政学的変動の中の
ユーラシアの物流
 
特集◆地政学的変動の中のユーラシアの物流
調査レポート
ウクライナ戦争の東アジア国際物流への影響
調査レポート
ユーラシア輸送回廊の現状と課題
―ウクライナ戦争とガザ戦争の地政学的影響の視点から―
調査レポート
北極海航路の商業利用の現状と今後の見通し
ビジネス最前線
カザフスタンを拠点に中央アジア物流を開拓
調査レポート
カザフスタンの最新ロジスティクス動向
調査レポート
ベラルーシの「東方」シフトと対中貿易の実態

調査レポート
外資の存在感が目立つロシア医薬品業界
―2024年の動きを中心に―
イベントレポート
日本とウズベキスタンのグリーン経済における協力
INSIDE RUSSIA
正念場を迎えるロシア経済・財政
データリテラシー
「2025年のガソリン不足」は深刻か?
エネルギー産業の話題
ロシアの石油分野の外的環境
―ルーブル高、油価の低迷等―
シベリア・北極圏便り
制裁下シベリア各地方の貿易とその変化
ロシア極東羅針盤
10回目の東方経済フォーラム
ドーム・クニーギ
沼野充義編『ロシアの暮らしと文化を知るための60章』
ロシアメディア最新事情
カルムィクで国際仏教フォーラムを取材
ウクライナ情報交差点
アラスカ会談後の米国・ロシア・ウクライナ関係
シネマで見るユーラシア
『ゴンドラ』
ロシア音楽の世界
シュニトケ『3人のための協奏曲』
業界トピックス
2025年8〜9月の動き
通関統計
2025年1〜8月のロシア・NIS輸出入通関実績
おいしい生活
魅惑のホラズムご当地グルメ「シヴィット・オシ」
記者の「取写選択」
北方領土の祖父母たち


調査レポート
ウクライナ戦争の東アジア国際物流への影響

(公財)日本海事センター 客員研究員
福山秀夫

 ウクライナ戦争は、2022年2月24日勃発した。それは、コロナ禍が収束しつつあり、欧州航路、北米航路、アジア域内航路等の海上コンテナ輸送の混乱、グローバル・サプライチェーンの途絶が収束しつつある時期であった。多くの企業が、ポストコロナを睨んで、グローバル・サプライチェーンの再構築・強靭化を進め、官民挙げての取り組みが行われようとしている時期であった。現在、ウクライナ戦争が、始まってから3年半がたっている。いろいろな方面で変化が起こっている。本稿では、ウクライナ戦争で東アジアの国際物流の何がどう変わったのか、その変化が現在どうなっているのか、影響は続いているのかなどについて述べる。


調査レポート
ユーラシア輸送回廊の現状と課題
―ウクライナ戦争とガザ戦争の地政学的影響の視点から―

同志社大学グローバル・スタディーズ研究科 教授
中西久枝

 ユーラシア大陸を東西南北に横断し、互いに連結し合っている輸送回廊が今後どのように進展していくのか、注目を集めている。その背景には、2022年2月24日に始まったウクライナ戦争と2023年10月7日に開始されたガザ戦争という2つの戦争がある。いずれの戦争もいつ終息するのか見通しが立たず、グローバルな物流に多大な影響が出ている。(中略) 2つの戦争の影響下、各国がここ数年注目しているのが、国際南北輸送回廊(INSTC)と中央回廊である。また、インド・中東・欧州経済回廊(IMEC)の構築の可能性が2023年のインドでのG20サミットで提唱された。本稿は、主に2022年以降の地政学的なリスクの観点から、INSTC、中央回廊、IMECの3つの回廊の現状と課題について、検討する。


調査レポート
北極海航路の商業利用の現状と今後の見通し

株式会社商船三井 ロシア国代表
横井謙次

 北極海航路は、近年、地球温暖化に伴う北極海の海氷の減少、北極海の資源開発に伴い、その利活用が世界的に注目されてきたが、その実情はよく理解されていない部分が多い。北極海航路を深く分析するとその主な利用目的は、現状はロシアから輸出される資源の輸送航路であり、将来的にも喜望峰ルート、スエズルートのような東西を結ぶ主要な国際物流航路となる見通しは低いと思われる。しかしそうとはいえ北極海航路は世界のエネルギー需給、地政学的影響、安全保障問題、環境問題等において大きな影響を与える航路であることは変わりなく、この航路をよく理解することは重要と考える。2022年2月のロシアのウクライナ危機による地政学的環境の変化、トランプ政権の誕生により北極海航路を取り巻く環境は大きく変化している。本項では、商業的視点から統計的データをもとに北極海航路の現状と課題、今後の見通しを分析し、地政学問題を交えて日本の北極海航路における役割も考察したい。


ビジネス最前線
カザフスタンを拠点に中央アジア物流を開拓

株式会社東洋トランス 取締役会長/Toyo Trans Central Asia, LLP 社長
橋勲

 株式会社東洋トランスは、長年シベリア鉄道を利用した国際輸送(シベリア・ランドブリッジ)の活用と再構築を進める一方で、欧米、アジアとの物流事業の拡大に向けて活動してきましたが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後は中央アジアに注目し、中国を経由した中央アジア物流の開発と拡大に取り組んでいます。2023年に同社はカザフスタンのアルマトイ市にToyo Trans Central Asia, LLPを設立しました。今回は、新会社の業務状況や今後の抱負、中央アジア物流や中央回廊の現状や課題について、株式会社東洋トランス取締役会長でToyo Trans Central Asia, LLP社長の橋勲さんにお話をお聞きしました。(聞き手:中居孝文)


調査レポート
カザフスタンの最新ロジスティクス動向

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所 研究員
齋藤竜太

 本稿ではカザフスタンのロジスティクスに関する最近の動向を概観していく。当会発行の『ロシアNIS経済速報』2025年1月25日号(第1980号)にて、2023年のカザフスタンのロジスティクス動向についてお伝えした。本稿では情報のアップデートを図るとともに、トランジット輸送や海運輸送等のより詳細な情報や、「中央回廊」を巡る最新の動向についても紹介する。


調査レポート
ベラルーシの「東方」シフトと対中貿易の実態

元在ベラルーシ大使館職員
友繁弥寿志

 2022年2月24日に、ロシアがウクライナに対して全面的な侵略戦争を開始したことを受け、欧米諸国は、ロシアの継戦能力の維持や、ウクライナの不安定化に関わっているとみられる個人・団体に厳しい制裁を導入し、日本や韓国、台湾等も独自に制裁を科している。このような中、ロシアの西隣の国・ベラルーシは、同盟国としてロシアの侵略行為を公然と支持していることから、日本を含む西側諸国の厳しい制裁の対象となっている。ロシアによる侵略への荷担と制裁により、従来の大口輸出先であったウクライナや欧州連合(EU)諸国の市場へのアクセスが失われたものの、ベラルーシ政府は、ロシアや中国を中心とする「東方」に貿易相手をシフトすることで、それを埋め合わせることができたとしている。本稿では、中国海関総署(税関)が発表する貿易統計を活用しつつ、ベラルーシと中国の貿易動向やその他の対中国経済関係を軸に、ベラルーシ政府の言う「東方へのシフト」の実態の一部を概観する。


調査レポート
外資の存在感が目立つロシア医薬品業界
―2024年の動きを中心に―

(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 ロシアの医薬品市場ではウクライナ戦争開始後も外資系メーカーが強いプレゼンスを維持しており、2024年の売上高上位10社はすべて外資により占められた。これは、ほとんどの外資系メーカーが、ロシアでの治験や一部の医薬品・サプリメントのロシア市場への供給は中止するが、人道的立場にのっとり主要な医薬品(特に重い疾患用治療薬)の供給は継続するという方針を打ち出したためである。強制実施権の設定(パテントの切れていない医薬品のジェネリックの生産を国が認めるという措置)という強引な手法を導入しているにもかかわらず、輸入代替がロシア側の思惑通りには進んでいないことを勘案すると、外資系企業が示した寛大な対応は、ロシアの一般市民に大きな恩恵をもたらしていると言えよう。本稿では2024年のロシアの医薬品市場の概況と、売上高上位10社の動きをご紹介する。


イベントレポート
日本とウズベキスタンのグリーン経済における協力

 2025年9月11日(木)、ROTOBOはウズベキスタン共和国閣僚会議付属ビジネス・起業大学院(以下、ビジネス・起業大学院)との共催でオンラインビジネス対話「グリーン・エコノミー分野における協力」を実施した。もともと2001年設立の高等教育機関であったビジネス・起業大学院は、2023年4月の大統領決定によって閣僚会議付属に再編され、機能強化が図られた。その目的は、高度な知識と国際経験を基盤に、デジタルトランスフォーメーションとグリーン・エコノミーの分野において活躍できる一流の専門家を育成することとされている。また同分野のスタートアップ支援にも力を入れており、今次イベントでも複数のウズベク・スタートアップ関係者より環境・脱炭素技術が披露された。本稿では、ウズベキスタンにおけるグリーン・エコノミー推進に係る取り組み状況や具体的プロジェクトを提示すべく、主にウズベク側登壇者にスポットを当て、その報告概要を紹介する。(構成:大内悠)。


INSIDE RUSSIA
正念場を迎えるロシア経済・財政

 ロシア政府は2026年の連邦予算案を承認し、9月26日に連邦議会の下院に上程した。ロシアの予算は基本的に3カ年をスパンとしており、2026年の予算は2027年、2028年の見通しも含んでいる。また、連邦予算を編成する際には、経済発展省が今後3年間の公式的な経済見通しを発表し、それにもとづいて予算を組むのが通例となっており、今回も2026〜2028年の公式経済見通しが同省より示された。今後のロシア経済をウォッチしていく上での重要な指針となるので、これらを図表にまとめた。(服部倫卓)


データリテラシー
2025年の「ガソリン不足」は深刻か?

 今夏から急激に注目を集めている現象として、ロシア各地で発生の「ガソリン不足」問題がある。ロシアにおいても2025年8月に入ってから頻繁に報じられるようになり、それに合わせるかのように米欧および日本での関連報道も活発化している。2025年の「ガソリン不足」は過去と比べてどの程度、危機感を持って意識すべきなのか。(長谷直哉)


エネルギー産業の話題
ロシアの石油分野の外的環境―ルーブル高、油価の低迷等―

 2025年上半期のロシアの大手石油会社の業績が発表され、軒並み大幅な減収減益となった。その主因は2つ。1つは、2025年3月頃から目立ち始めた(前年同期比での)ルーブル高傾向である。ロシアの大手石油会社はいずれも輸出志向が強く、ルーブル高は業績の悪化に直結する。もう1つは、石油の国際価格の低迷傾向だ。また、制裁を背景とするロシア産石油のディスカウント幅の拡大も看過できない。本稿では、ロシアの大手石油会社の業績不振の背景にあるルーブル高や油価の低迷について説明する他、ロシアのガソリンの国内価格の高騰の一因となっているウクライナによるロシアの製油所を対象としたドローン攻撃についても言及しする。(坂口泉)


シベリア・北極圏便り
制裁下シベリア各地方の貿易とその変化

 経済制裁下のロシアでは2022年以降に貿易パートナーの比重が欧州からアジアへと大きくシフトしてきた。2025年9月末現在では、アジア方面との貿易が全体の75%を占めている。このロシア全土での貿易および物流の変化は当然、地方経済のあり方にも変容を迫り、特に欧州諸国や同市場を対象としていた産業分野や企業にとっては新たな環境への適応が必要となった。今回は2022年2月以降の日米欧による対ロ経済制裁の強化以降、シベリア連邦管区の主要な地方において生じた、対外貿易における変化を概観する。(長谷直哉)


ロシア極東羅針盤
10回目の東方経済フォーラム

 2025年9月3日から6日まで、ロシア・ウラジオストクのルースキー島にある極東連邦大学キャンパスで、東方経済フォーラムが開催された。主催者の発表によれば、75の国と地域から約8,000人が参加した。「非友好国」からは日本、米国、韓国、英国、ドイツ、フランスなど17カ国の企業関係者らが参加した。フォーラムは2015年に始まった。2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により中止となったが、今年で10回目を迎えた。(齋藤大輔)


ロシアメディア最新事情
カルムィクで国際仏教フォーラムを取材

 9月25日から28日までカルムィク共和国エリスタで第3回国際仏教フォーラムが開かれ、取材に行った。約35カ国から僧侶や仏教関係者など、7,000人の参加者が集まった。フォーラムに伴い、10本の道路が大規模改修され、監視カメラや信号機が増設され、6つのホテルが建てられた。カルムィクは何度も訪問していたのと、これまでいろいろなフォーラムを取材してきていたので、仕事はスムーズにいくだろうと思ったが、実際は予想外の出来事の連続だった。(徳山あすか)


ウクライナ情報交差点
アラスカ会談後の米国・ロシア・ウクライナ関係

 8月15日に米アラスカで、トランプ米大統領とプーチン・ロシア大統領の首脳会談が開催された。目立ったのは、米国側によるプーチン厚遇であり、トランプ政権がロシアに大幅な譲歩をして、ウクライナの頭越しに同国にとり不利な停戦の条件を一方的に決めてしまうのではないかとの不安感が広がった。しかし、国際関係の力学はその後、別のベクトルへと向かうこととなった。今回は、アラスカ会談と、その後の米国・ロシア・ウクライナ関係の展開を、欧州の動きも絡めながら、整理してみることにする。(服部倫卓)


シネマで見るユーラシア
『ゴンドラ』

 ジョージアの山間地。山と谷をむすぶロープウェイのゴンドラがこちらとむこうを行き来する。ときに小さな雲を通り抜けて。それが映画の舞台であり、物語のすべてだ。(芳地隆之)


ロシア音楽の世界
シュニトケ『3人のための協奏曲』

 アルフレート・ガリエスヴィチ・シュニトケはソ連で生まれたドイツ・ユダヤ系の作曲家である。1934年に旧ソ連ヴォルガ川流域にあるヴォルガ・ドイツ人自治共和国の首都、エンゲリスで生まれた。基本的にモスクワ近郊で育ったが、父親がジャーナリストで、少年時代に2年ほどウィーンに住んだことがあった。後に彼が作曲家になるにあたって、ウィーン滞在が大きく影響したことは間違いない。1989年にはハンブルク音楽大学の教授に就任しドイツに移住した。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


記者の「取写選択」
北方領土の祖父母たち

 100人の高齢者がモノクロの世界にたたずんでいた。静謐でありながら人々の声が聞こえてくるような写真展が9月、新宿で開かれた。壁を埋めた被写体はみな北方4島出身者だ。撮影者は元島民3世の写真家、山田淳子さん(43)。北海道新聞社から写真集「わたしの百人の祖父母たち 北方領土・元島民の肖像」を出版したことに連動した企画である。(小熊宏尚)