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ロシアNIS調査月報2026年5月号特集◆混迷する国際情勢と |
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特集◆混迷する国際情勢とロシア経済の行方 |
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調査レポート |
息切れを示すロシア経済:2025年の分析 |
調査レポート |
ロシア財政の赤字拡大と国民福祉基金による補填 |
調査レポート |
イラン危機とロシア経済 ―影響と戦略的含意― |
調査レポート |
外的環境の変化とロシアの石油ガス分野 |
調査レポート |
戦争と制裁下で再編されるロシアの企業城下町 |
調査レポート |
2025年の日ロ貿易 ―凪の中の不確実性― |
ミニレポート |
ロシアにおける就労外国人入国者数の動向 |
データリテラシー |
ロシアでの急激な通信規制強化とビジネスへの影響 |
INSIDE RUSSIA |
安全保障にかかわるロシアの政策文書体系 |
ロシア政財界人物録 |
インフレファイターの苦悩:ナビウリナ中銀総裁 |
シルクロード物流ナビ |
イラン情勢は地域の物流多角化に影を落とすのか? |
ロシア極東羅針盤 |
日本の原油・LNG・石炭輸入 |
ウクライナ情報交差点 |
戦火に耐えるウクライナ鉄鋼業 |
中央アジア情報バザール |
カザフスタンの憲法改正 |
ロシア音楽の世界 |
プロコフィエフ「束の間の幻影」 |
シネマで見るユーラシア |
『オルジャスの白い馬』 |
業界トピックス |
2026年3月の動き |
通関統計 |
2026年1〜2月のロシア・NIS輸出入通関実績 |
おいしい生活 |
世界遺産で売られる修道院のハチミツ入り菓子パン |
記者の「取写選択」 |
国境標石の里帰り |
調査レポート
息切れを示すロシア経済:2025年の分析
北海道大学 名誉教授
田畑伸一郎
ロシアの2025年の経済成長率は、2023年の4.1%、2024年の4.9%から著しく減速して、1.0%になった。2023〜2024年においては、投資と消費が大きく増加して高成長が実現されたが、2025年には投資が減少し、消費も大幅に減速した。当初のロシア政府の見込みでは、投資の2.1%の増加、家計消費の6.1%の増加により、GDPは2.5%増加するとされていたが、実際には、投資は0.4%減少し、家計消費は3.6%増加した。見込み違いの主因は油価の下落である。2024年とほとんど変わらないと予測されていたが、実際には18%もの下落となった。財政支出を大幅に増やして、投資や貸付を増加させられなかったことも、成長減速の原因となった。(中略)油価が低落する中で、ロシア経済は息切れ状態になってきたように見える。
調査レポート
ロシア財政の赤字拡大と国民福祉基金による補填
専修大学経済学部 教授
日臺健雄
2025年初から世界的に原油価格が下落したことを受けて,ウラル原油の平均価格は、2025年1月に67.66ドル/バレルであったが、12月に39.18ドル/バレルまで下落した。この原油価格下落の影響により連邦財政の赤字が当初予算の想定よりも増加したことを受けて、議会での審議を経て6月と11月の2回にわたり2025年の予算が大幅に修正されたが、これは異例の対応と言える。
調査レポート
イラン危機とロシア経済
―影響と戦略的含意―
(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所 所長
中居孝文
2026年2月28日に始まった米国およびイスラエルによるイラン攻撃は、ホルムズ海峡を巡る緊張の高まりと相まって、世界のエネルギー市場に大きな衝撃を与えた。原油価格の急騰や供給不安の拡大を受け、国際市場は再び地政学的リスクに強く左右される局面に入っている。
こうした中、制裁下にあるロシアは、石油・ガスの代替供給源として改めて注目を集めている。他方、イラン情勢がロシア経済にどのような影響を及ぼすかに関する評価はまだ定まっていない。エネルギー価格の上昇や一部制裁措置の運用変化は短期的な収益機会をもたらす可能性があるものの、財政制約や構造的課題が解消される展望が開けているわけではない。
本稿では、イラン危機前夜のロシア経済の状況を整理した上で、石油・ガス市場の動向を中心に、同危機がロシア経済にもたらす影響とその含意を検討する1)。
調査レポート
外的環境の変化とロシアの石油ガス分野
(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
ウクライナ戦争開始後も、ロシアの石油分野の数量ベースの数字には大きな変化が見受けられない。例えば、現在に至るまで大幅な減産は回避できているし、石油の輸出量もほとんど変化していない。ただ、2025年はロシア産石油のマーカー原油に対するディスカウント幅が拡大したことで、輸出額の方は大幅に減少した。同年はそれにルーブル高という要因が加わり、ロシアの大手石油会社の業績は軒並み悪化した。ところが、2026年2月末の米国によるイラン攻撃の後は、ホルムズ海峡問題の影響でマーカー原油の価格が上昇すると同時にロシア産石油のディスカウント幅が縮小する傾向が顕著となっている。つまり、輸出額が増加に転じる可能性が生じている。どれだけの期間続くかという点は不透明だが、ロシア石油分野にとっての強力な追い風が突然発生したといえよう。(中略)
本稿では、制裁、ルーブル高、イラン情勢といったファクターがもたらした影響に留意しながら、ロシアの石油ガスの最近の生産・輸出動向と今後の展望についての考察を試みる。
調査レポート
戦争と制裁下で再編されるロシアの企業城下町
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
服部倫卓
筆者は、本月報の2010年2月号で、「ロシアのモノゴーラド(企業城下町)問題」と題するレポートを発表した。ロシアには、1つの街が単一の産業または企業によって支えられている「モノゴーラド」、つまり企業城下町が数多く存在する。そうした街の社会情勢が、リーマンショック後の経済危機で尖鋭化し、当局もその対策に着手しているということを、前回レポートでは報告した。
その後、このテーマを取り上げる機会はなかったが、このほど新たな動きがあった。今般発出されたロシア政府指令により、新たなモノゴーラドのリストが正式に制定されたのである。このリストは、ロシア経済・社会のアキレス腱であるモノゴーラドが、クリミア危機、ウクライナ全面侵攻、そして西側による経済制裁などを経てどのように移り変わっているかを知る貴重な手がかりとなるはずだ。そこで、今回のレポートでは、政府が発表したモノゴーラドの最新リストを整理してお伝えするとともに、解説をお届けする。
調査レポート
2025年の日ロ貿易
―凪の中の不確実性―
(一社)ROTOBO ロシアNIS経済研究所
部長 齋藤大輔/研究員 橋之爪理佳
本稿では、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2025年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。
ミニレポート
ロシアにおける就労外国人入国者数の動向
長年に亘ってロシア経済は少子高齢化に起因する労働力不足に直面してきたが、ウクライナ侵略以降には戦地への兵派遣や軍事産業への労働力動員、高技能労働者や若年層の国外流出等を背景に国内の人手不足は一層深刻化した。ロシア労働・社会保障省は2032年にかけて約1,200万人の労働力需要増が見込まれると推計しており、単純計算でロシアは年間約170万人の労働力を労働市場に供給する必要に迫られることになる。こうした状況の中、同国は労働市場維持を目的として労働移民の受け入れを推進してきたが、2024年3月に発生したモスクワ郊外の商業施設における無差別銃撃テロ以降、当局は移民政策の厳格化に乗り出したほか、主に中央アジア出身の出稼ぎ労働者を標的とする反移民・ゼノフォビア(外国人嫌悪)的言説を喧伝する声が議会議員や一般国民から強まるなど、ロシア政府は労働移民を巡り「経済活動の維持」、「国内治安の安定」、「国内世論」のはざまで難しい舵取りを迫られている。
かかるジレンマに直面する中、実態としてロシアの外国人労働者の受け入れ状況はどのような様相を呈しているだろうか。本稿ではこれを検討すべく、ロシア連邦保安庁国境警備局が公表する外国人入国統計を用いて、就労目的で入国した外国人数の推移を確認するとともに、ロシアの外国人労働者の受け入れ状況に係る足元の動向・態様を考察する。同統計は延べ入国者数を記録したもの(すなわち同一人物が複数回入国した場合でも、その回数分すべてがカウントされる)であり、「就労目的外国人入国者数=在ロ外国人労働者実人数」とはならない点に留意が必要だが、それでも同統計はロシアによる外国人労働の受け入れを巡る動態の一側面を把握する手がかりになると考える。(大内悠)
データリテラシー
ロシアでの急激な通信規制強化とビジネスへの影響
本稿は2026年3月時点のロシアにおける通信およびインターネット規制の最新動向を整理し、現地で活動する日本企業、現地法人スタッフ、および渡航者が直面し得るリスクを具体的に示すことを目的としています。ロシア・ウクライナ戦争の長期化を背景に、ロシア当局による通信統制は2025年以降に質量ともに急激に強化されており、従来の「不便」の域を超え、ビジネス継続性や個人の安全にかかわる水準に達しつつあります。特に、モバイル通信では「ホワイトリスト」規制が導入され、特定のロシアサービスにしか接続できない状況となっています。(長谷直哉)
INSIDE RUSSIA
安全保障にかかわるロシアの政策文書体系
「安全保障」と言えば、第一義的には、国としての存立を様々な脅威から守る国家安全保障を意味することが多い。ただ、安全保障という言葉ほど、様々な単語と結び付いて、融通無碍に使われるマジックワードも珍しいだろう。この『月報』の読者であれば、経済安全保障、資源安全保障、エネルギー安全保障、食料安全保障などの問題には、日頃から関心を寄せているはずである。それ以外にも、人間の安全保障、環境安全保障、人口安全保障など、「なんでもあり」という様相である。
プーチン体制下のロシアの場合は、とりわけウクライナ侵攻開始後、安全保障を最優先し、様々な政策領域が安全保障の論理で方向付けられる「安全保障化された国家」と化しつつある。今のロシアをウォッチする上で、最重要な視点ではないだろうか。(服部倫卓)
ロシア政財界人物録
インフレファイターの苦悩:ナビウリナ中銀総裁
2026年3月20日、ロシア中央銀行のナビウリナ総裁は政策金利を0.5%引き下げ、15%とすることを発表しました。2025年前半に18?21%という高水準で維持されていた政策金利は、同年12月に16%へと引き下げられて本格的な緩和サイクルが始まり、2026年2月に15.5%、そして今回の15%へと、慎重かつ段階的引き下げが続いています。声明文は一見、冷静な分析と慎重な楽観論に満ちています。しかしその行間には、インフレ抑制という使命と、経済・政治・地政学が複雑に絡み合う現実との間で身動きの取れない中銀総裁の苦境が透けて見えます。(長谷直哉)
シルクロード物流ナビ
イラン情勢は地域の物流多角化に影を落とすのか?
本連載「シルクロード物流ナビ」の初回は、イラン情勢がユーラシア地域の物流発展にもたらす影響や展望について、特に南北回廊(INSTC)を含む物流多角化に着目してお届けする。2月28日に米国とイスラエルが開始した対イラン攻撃は、経済面では特にエネルギー供給という点で世界各地に衝撃を与えている。旧ソ連圏のうち中央アジア・コーカサス地域についていうと、物流面での影響を懸念する声も多い。(齋藤竜太)
ロシア極東羅針盤
日本の原油・LNG・石炭輸入
日本のエネルギー安全保障は、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によって、その脆弱性が改めて浮き彫りになった。日本は化石燃料の多くを海外に依存しており、とりわけ原油は中東依存が極めて高い。本稿では、石油・LNG・石炭の輸入状況を整理する。(齋藤大輔)
ウクライナ情報交差点
戦火に耐えるウクライナ鉄鋼業
ウクライナにとり鉄鋼業は本来の基幹産業の代表格なので、本コーナーでも時折取り上げている。ただ、この産業は2022年2月に始まるロシアによる全面侵攻で大打撃を受け、その後も低空飛行が続いている。今回は、最新の指標をご紹介しながら、戦禍に耐えるウクライナ鉄鋼業の実情をお伝えする。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
カザフスタンの憲法改正
2026年3月17日、カザフスタンのトカエフ大統領が新しい憲法に署名した。国民投票を経て改正された憲法は7月1日に発効予定である。以下では今回の憲法改正の経緯および改正内容について解説する。(中馬瑞貴)
ロシア音楽の世界
プロコフィエフ「束の間の幻影」
20世紀のソ連を代表する大作曲家であり、ピアニストとしても20世紀を代表する名手だったセルゲイ・プロコフィエフ。彼の作曲家としての処女作は5歳の時に書いたピアノ曲。作品番号1番は、ピアノ・ソナタ第1番で、作曲したのは18歳の時、1909年で、最後のピアノ・ソナタ第9番は56歳の時、1946年の最晩年に書かれた。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
シネマで見るユーラシア
『オルジャスの白い馬』
作家・写真家である藤原新也氏の『全東洋街道』(集英社文庫)は、トルコのイスタンブールから日本の高野山までを踏破した旅の記録である。そのなかで著者が「キリスト教徒、イスラム教徒、ヒンドゥー教徒、仏教徒がそれぞれ真っ白い部屋に閉じこめられたとして、その場に耐え切れず真っ先に逃げ出すのは誰か」を論考する件がある。手元の原本がなく、正確な引用はできないのだが、最後まで耐えられるのはイスラム教徒ではないかと藤原氏は記している。唯一神への絶対的な帰依を説く聖典『クルアーン』を生活の指針とし、偶像崇拝を否定する信仰は、抽象的な空間に対する耐性をもっているのではないかというのである。(芳地隆之)
記者の「取写選択」
国境標石の里帰り
大きな将棋の駒のような石碑には菊の紋章と「大日本帝國」の文字列、その裏に双頭の鷲と「POCCIЯ」(革命前の綴りで「ロシア」)のキリル文字が刻まれていた。側面には弾痕も。弾が国章を外しているところをみると、政治的感情の発露ではないのだろう。そんな日露国境の標石が3月29日まで愛知県の豊田市博物館で展示された。1905年のポーツマス条約で定められた樺太/サハリンを横切る北緯50度の旧国境に置かれた標石4基のうちの1基である。(小熊宏尚)







