ロシアNIS調査月報
2021年11月号
特集◆反転攻勢をうかがう
ロシア極東経済
 
特集◆反転攻勢をうかがうロシア極東経済
イベント・レポート
東方経済フォーラム2021
イベント・レポート
2021EEFの日露ビジネスセッション
資料
2021EEFにおけるプーチン大統領基調演説
調査レポート
2020年のロシア極東の貿易
調査レポート
ロシア漁業で強まる不協和音
―極東方面波高し―
地域クローズアップ
日本と共通項の多いカムチャッカ地方
エネルギー産業の話題
極東石油・ガス産業の最新動向

調査レポート
2021年ロシア下院選の結果分析
INSIDE RUSSIA
新党「新しい人々」が下院に進出した背景
データリテラシー
ロシアでの水素技術開発の目標と現況
ロシアの二国間関係
歴史を教訓とするロシアの対アフガニスタン関係
ロシア政財界人物録
AEONコーポレーションとトロツェンコ
産業・技術トレンド
ロシアの金はなぜ注目されないのか?
デジタルITラボ
旧ソ連諸国のIT産業とスタートアップ企業
HOW TO ビジネス実務
ロシア税制の未来を読み解く(6)
シリーズ 工業団地探訪
ヒムグラド工業団地(タタルスタン共和国)
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道輸送の現在地
ウクライナ情報交差点
天然ガス輸送国ウクライナの窮地
中央アジア情報バザール
独立30周年のカザフスタン大統領教書
ロシアメディア最新事情
コーカサス周遊:北オセチアとチェチェン
ロシア音楽の世界
チャイコフスキー・ヴァイオリン協奏曲
業界トピックス
2021年8−9月の動き
通関統計
2021年1〜8月の輸出入通関実績
おいしい生活
ジョージアの「ハルチョー」をレトルトで
記者の「取写選択」
アフガニスタンへの道


イベント・レポート
東方経済フォーラム2021

 2021年9月2〜4日、ロシア極東のウラジオストクにおいて第6回東方経済フォーラム(EEF)が開催された。昨年、新型コロナウイルスの影響で中止となり、2年ぶりの開催となった。6月のサンクトペテルブルグ国際経済フォーラム(SPIEF)に続く大規模な国際会議であったが、変異ウイルス「デルタ株」による感染が拡大する中での開催となった。私どもロシアNIS貿易会からは、モスクワ事務所のスタッフが現地参加した。本稿では、EEFの開催概要を紹介する。(齋藤大輔)


イベント・レポート
2021EEFの日露ビジネスセッション

 2020年にはコロナ禍のため中止となった東方経済フォーラム(略称EEF)が、9月2〜4日に2年ぶりに開催された。日本関連の行事では、9月3日(金)に「日露ビジネスセッション」が開催された。新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、今回の日露ビジネスセッションは、ロシア側はウラジオストクのフォーラム会場で通常どおりに参加し、日本側発言者は東京の会場に集まって、ウラジオストクと東京の会場をオンラインで結ぶというハイブリッド形式で行われた。オンラインを通じて日本側からは約270名が視聴し、加えてウラジオストク会場では日ロ合わせて約50名、東京会場に30名が参集、合計約350名が今回の「日露ビジネスセッション」に参加した(ロシア側のオンライン視聴者の数は不明)。本稿では「日露ビジネスセッション」の概要を報告する。(中居孝文)


資料
2021EEFにおけるプーチン大統領基調演説

 第6回東方経済フォーラム2日目の9月3日15時過ぎから、プーチン大統領をメインスピーカーとする全体会合(プレナリーセッション)が開催された。極東連邦大学の会場で実際に登壇したのは、モデレーターのセルゲイ・ブリリョフ氏(国営放送「ロシア1」キャスター)とプーチン大統領のみで、カザフスタンのトカエフ大統領とモンゴルのフレルスフ大統領はオンラインで参加した。その他、中国の習近平国家主席、インドのモディ首相、タイのプラユット・ジャンオーチャー首相がビデオメッセージを寄せた。ここでは、プーチン大統領による基調演説と質疑応答の中から日本に関連する部分を紹介する。


調査レポート
2020年のロシア極東の貿易

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
M.マジトヴァ

 ロシアNIS貿易会では、ハバロフスクにあるロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のマジトヴァ研究員より、「2020年のロシア極東の貿易」に関するレポートを寄稿いただいた。本稿では2020年までのロシア極東における貿易の主要トレンドとコロナ禍が極東貿易に与えた影響が解説されている。


調査レポート
ロシア漁業で強まる不協和音
―極東方面波高し―

ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉

 ロシアでは、4年前に漁獲割当を対象とする投資入札制度、すなわち漁獲割当の一部を投資義務を伴う入札を通し分配するという方式が導入されてから、政権中枢と密接な関係を有するロシア漁業会社という新興水産会社のプレゼンスが強まっている。直近で同社の存在感が最も際立ったのは2019年秋に実施されたカニの漁獲割当得量の50%を対象とする投資入札である。この入札でロシア漁業会社は政府系の銀行であるズベルバンクの支援を受け多くのロットを落札することに成功した。中小の水産会社からは、「投資入札という漁獲割当分配方式は、資金力が豊富なロシア漁業会社をはじめとする大手水産会社が自社のプレゼンスを強化するために中央政府に働きかけ実現させたものである」といった批判も出ているが、現在、政府内では投資入札を今後も継続する方向での検討が行われている。大手は原則その方向性に賛意を示しているが、入札に伴う投資義務の内容に関しては新興勢力であるロシア漁業会社と極東海域を中心に活動する古参勢力との間で見解の相違が鮮明となっている。ロシア漁業会社が大型漁船の新規建設義務を優先すべきと主張しているのに対し、同社以外の大手水産会社のほとんどが沿岸地域での加工工場の建設義務を優先すべきであると主張しているのである。おそらく、両者の間では今後の漁獲割当方式をめぐり激しい駆け引きが展開されることになるだろう。
 本稿では、この対立構図やロシアの代表的魚種であるスケトウダラをめぐる状況などに留意しながら、ロシアの漁業分野の最新動向をご紹介する。


地域クローズアップ
日本と共通項の多いカムチャッカ地方

 成田空港から直行便でわずか3時間という距離に位置するカムチャッカ地方。地球上で手つかずの自然が残っている数少ない場所の1つとして知られるカムチャッカ半島に広がるこの地域は、歴史的に日本との関係が深く、17世紀末、記録に残る中で最初にロシアを訪れた日本人とされる伝兵衛や初の日露辞典を変遷したとされる鹿児島のゴンザが18世紀初めに漂流した先がこのカムチャッカ半島であった。現在も、韓国や中国には劣るものの、カムチャッカ地方の貿易相手国や経済パートナーとしての日本は重要な地位を占める。
 世界遺産に登録されている「カムチャッカ火山群」を含め火山が多いことや、海に囲まれて漁業が盛んなことなど、地理的、経済的条件で日本との共通項が多いカムチャッカ地方とはどのような地域なのか。本稿にてご紹介する。 (中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
極東石油・ガス産業の最新動向

 ロシア極東の石油ガス分野では複数の大規模プロジェクトが存在し活発な動きを示していますが、今回はそれらのプロジェクトの中からシベリアの力とサハリン大陸棚の複数のプロジェクトを取り上げその現状をご紹介します。(坂口泉)


調査レポート
2021年ロシア下院選の結果分析

元上智大学外国語学部ロシア語学科教授
上野俊彦

 第8期ロシア連邦・連邦議会国家院(以下、「ロシア下院」または「下院」とする)議員選挙が、2021年9月19日の統一地方選の実施に合わせて、9月17〜19日に実施された。
 与党の「全ロシア政党『統一ロシア』」は、前回の2016年9月18日実施の第7期下院選時と比較すると19議席減の324議席となったが、単独での憲法改正が可能な3分の2以上の多数は維持した。他方、野党のロシア連邦共産党は15議席増、「社会主義政党『公正ロシア−愛国者−真理のために』」は4議席増となった。一方で、ロシア自由民主党はほぼ半減と言える18議席減となった。また、新党の「ロシア政党『新しい人々』」が13議席を獲得し、2003年以降、上記4党が独占してきた比例代表制の連邦選挙区に新顔が登場することになった。
 我が国の新聞等で報じられているのはおおむね以上の事実だが、本稿では、下院の選挙制度を概観した上で、過去の選挙との比較や地域別の結果など、より詳細な選挙結果の分析を試みる。


INSIDE RUSSIA
新党「新しい人々」が下院に進出した背景

 9月17〜19日に投票が行われた連邦議会下院選の結果、ロシアの政界地図に変動が生じた。新党「新しい人々」が、結成からわずか1年あまりで、下院での議席獲得に成功したものである。しかし、それがロシア政治に本質的な変化をもたらすことはあるのだろうか? 今回は、新党「新しい人々」と党首A.ネチャエフ、そして目玉候補だったS.アフクセンチエヴァについて考察してみる。(服部倫卓)


データリテラシー
ロシアでの水素技術開発の目標と現況

 本年8月5日、ロシア政府は「水素エネルギー発展概念」を基本承認し、その内容を公表しました。この文書は、脱炭素社会の到来を見越した、ロシアの対応と基本方針をまとめた初めての戦略文書となります。本稿では、この文書の内容や目標を概説するとともに、水素利活用に関わるロシアでの最新の動きも併せて紹介したいと思います。(長谷直哉)


ロシアの二国間関係
歴史を教訓とするロシアの対アフガニスタン関係

 2021年8月15日、アフガニスタンを拠点とするイスラム過激派勢力タリバンが首都カブールを制圧し、権力を掌握した。ソ連時代、ロシアとアフガニスタンの関係は極めて良好であった。しかし、ソ連軍の撤退とペレストロイカからソ連崩壊でロシアの国内情勢が不安定化する中で両国の関係は希薄になっていた。そんなロシアとアフガニスタンの関係がタリバン政権の発足で変化を見せるのだろうか。両国関係の歴史および現状を概観し、その可能性を考えることにしたい。(中馬瑞貴)


ロシア政財界人物録
AEONコーポレーションとトロツェンコ

 近年、様々なソースで「AEONコーポレーションの名前をロシア報道で目にすることが増えてきたかと思います。最近は北極開発案件でもたびたび名前が挙がるようになりました。同社は、本年9月の東方経済フォーラム・日露ビジネスセッションでロシア側司会を務め、また例年の日露二国間ビジネスイベントでもおなじみのロマン・トロツェンコ氏が率いる企業グループ(ロシア版Forbes誌の富豪ランキングで本年は63位)です。本稿では、トロツェンコ自身に焦点を当てつつ、AEONコーポレーションの事業や業態の概要、その展開について説明します。(長谷直哉)


産業・技術トレンド
ロシアの金はなぜ注目されないのか?

 ご存知のとおり、ロシアは資源大国で様々な金属資源に恵まれている。一方、現在でも日本の産業界は金属資源の大ユーザーである。そうなると、日本の産業界は金属の供給者であるロシアの金属産業の動向に重大な関心を持っていると考えるのが自然である。しかし、実際は金属の種類のよって関心の持ち方は大きな差がある。例えば、白金族やチタンの業界ではロシアの動向に関心が高いのに対し、金については関心が低い。ロシアは金の産出でも世界の上位グループ(1位〜4位)に入るにもかかわらず、どうして注目されないのだろうか。(渡邊光太郎)


デジタルITラボ
旧ソ連諸国のIT産業とスタートアップ企業

 9月下旬、営業関連の書類作成・共有・署名・保管をデジタル化する米国のスタートアップ企業「PandaDoc」が、シリーズCの資金調達ラウンドをクローズした。2014年にベラルーシ人によって創業された同社は、本資金調達ラウンドを経て、晴れてユニコーン企業入りを果たした。また、時を同じくして、オープンソースのDevOps製品を開発するGitlabが米ナスダックへの上場を準備している報道が発表された。Gitlabの創業者はウクライナ人である。これらの企業は、米国などに本社登記されているものの、旧ソ連圏出身の創業者たちが始めたテクノロジースタートアップ企業という共通点がある。今回は、ロシア以外のNIS地域におけるスタートアップシーンを俯瞰してみたいと思う。(牧野寛)


HOW TO ビジネス実務
ロシア税制の未来を読み解く(6)

 本コラムでは、昨今の目まぐるしく変化していくロシア経済情勢の中にあって、国家の収入源である税制は今後どのように変化していくのか、といった視点から未来を読み解いていきます。
 税制の未来の動きを考えることで皆様のロシアビジネスの将来予測に少しでも有用な情報をお届けできればと思っています。
 さて、「ロシア税制の未来を読み解く」のシリーズでは、これまで5回にわたり様々な税目をテーマに最新の動向及び今後の展開についてお話をしてきましたが、今回はその最終回として、少しマクロ的な視点からロシアの税制度が今後どのように進んでいくか、総括していきたいと思います。(上村雅幸)


シリーズ 工業団地探訪
ヒムグラド工業団地(タタルスタン共和国)

 今回はタタルスタン共和国カザン市に所在するヒムグラド工業団地を探訪しよう。ヒムグラド工業団地は、ソ連時代の国有企業の工場跡地を再開発したブラウンフィールド型工業団地だ。緻密な構想をもとに開発・整備されており、小規模ではあるが高い専門性を有する、ロシアにおける優秀な工業団地の一例である。(大橋巌)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道輸送の現在地

 世界の大陸を結ぶ海上コンテナ運賃が上がり続けています。中国・東アジアと欧州主要港をスエズ運河経由で結ぶ欧州航路の運賃は空前のレベルに達し、コンテナ船スペースの確保も難しいことから、代替路としての大陸横断鉄道の利用が急増しています。(辻久子)


ウクライナ情報交差点
天然ガス輸送国ウクライナの窮地

 ロシアのガスプロムは9月10日、ロシア産ガスをバルト海海底を経由してドイツに運ぶ新パイプライン「ノルドストリーム2」の建設が完了したと発表した。
 周知のとおり、ノルドストリーム2の建設は、ヨーロッパの対ロシア依存度を深めるものであり、また既存のトランジット国であるウクライナの国益を損なうとして、米国が強く反対し、ヨーロッパの一部にも異論があった。
 ノルドストリーム2の出現は、この地域における最大の地政学的な難問であるロシア・ウクライナ関係にも影響を及ぼすところが大である。ロシアが同パイプラインを建設した眼目は、対立するウクライナを迂回する天然ガス輸送路をさらに構築する点にあった。それに対し、ウクライナ側は自国領のパイプラインを通じた輸送の継続を主張している。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
独立30周年のカザフスタン大統領教書

 2021年9月1日、トカエフ・カザフスタン共和国大統領が就任以来、3度目となる大統領教書演説を行った。前年に引き続き、9月1日に行われた教書演説は「国民の団結と制度改革が国の繁栄のための確固たる基盤」と題して、7項目の施政方針と5つのイニシアチヴについて1時間20分に渡って発表した。以下では演説の要旨をご紹介する。(中馬瑞貴)


ロシアメディア最新事情
コーカサス周遊:北オセチアとチェチェン

 今年の夏は国外に行けず、日本にも帰らなかったので、ロシア国内のあちこちを旅しました。コロナ以後、旅行先として人気が高まっているコーカサス地方もほぼ制覇しました。その中でも、今回のコラムでは北オセチア・アラニア共和国とチェチェン共和国について取り上げてみます。この2地域、「危険な地域」というイメージがついてしまっている点では共通していますが、民族も文化も宗教も何もかも、全く違いました。(徳山あすか)


ロシア音楽の世界
チャイコフスキー・ヴァイオリン協奏曲

 チャイコフスキーの音楽の魔力。3大バレエ「白鳥の湖」「くるみ割り人形」「眠れる森の美女」しかり、TVでの「オ〜人事、オ〜人事」のCMでお茶の間に流れ続けた「弦楽セレナード」しかり、「魔法使いサリー」のヨシ子ちゃんが「私の夢はピアニストに成ること!」と言いながら夢の中で弾く「ピアノ協奏曲第1番」しかり。美しすぎる和音の響き、心揺さぶる旋律。ロシアロマンシズムの極致のチャイコフスキーのメロディーを一度聴いてしまうと、頭の中に棲みついて、頭の中で響き続けて、いつまでも離れなくなってしまうのだ。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


おいしい生活
ジョージアの「ハルチョー」をレトルトで

 我が国におけるユーラシアグルメのブームはとどまるところを知らず、今度はついに、ジョージアのスープ「ハルチョー」がレトルト食品として売り出された。福岡市の松原食品鰍ウんが今般、「ジョージア料理ハルチョー 〜7種のスパイス香るジョージア流牛挽肉カレー〜」を発売したものである(工場は北海道紋別郡にある由だが)。(服部倫卓)


記者の「取写選択」
アフガニスタンへの道

 川の向こうにアフガニスタン国旗が翻っていた。ドゥシャンベから南へ向かう快適な車の旅もここまで。タジキスタン・アフガニスタン国境の税関施設にはトラックやタンクローリーが多数並ぶ。川原にはフェンスと鉄条網。国境の緊張感が漂う。
 2013年秋、米軍や北大西洋条約機構(NATO)の戦闘部隊のアフガン撤退を翌年に控え、国境のタジク側の村パンジポヨンの人々は不安を漏らした。「イスラム過激派が盛り返すかも知れない。そしたらこの村も危ない。米軍に残って欲しい」―。(小熊宏尚)