ロシアNIS調査月報2021年9-10月号特集◆パンデミック下の |
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特集◆パンデミック下の医療保健・製薬業 |
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調査レポート |
理想と現実の狭間で揺らぐロシア医薬品業界 |
調査レポート |
ロシアの医療事情と政策の動向 ―コロナ危機が人口減少に拍車― |
イベント・レポート |
日ロ極東医療協力フォーラム報告 |
INSIDE RUSSIA |
コロナワクチンで勝ち切れなかったロシア |
デジタルITラボ |
ロシアのインシュアテック ―スタートアップは生まれるか― |
データリテラシー |
ロシアでのマスク生産特需とその後 |
ロシアメディア最新事情 |
ロシアでの「鎮静薬」の広すぎる定義と需要 |
ロシア極東羅針盤 |
3度のロックダウンを経験したブリヤート共和国 |
中央アジア情報バザール |
カザフスタンとウズベキスタンの製薬業 |
調査レポート |
世界主要国・地域とロシアの対外経済関係 |
イベント・レポート |
カザフスタン・スタートアップピッチデイ |
地域クローズアップ |
多彩な投資魅力を持つサマラ州 |
シベリア・北極圏便り |
ロシア北極域における労働力問題 |
自動車産業時評 |
ロシア自動車分野の環境負荷軽減の動き |
ロジスティクス・ナビ |
業績回復のロシア運輸業 |
シリーズ 工業団地探訪 |
ヴォルシノ工業団地(カルーガ州) |
HOW TO ビジネス実務 |
ロシア税制の未来を読み解く(5) |
産業・技術トレンド |
ロシアでの自動車部品現地調達の成否 |
ウクライナ情報交差点 |
プーチンはウクライナ論文で何を語ったのか |
ロシア音楽の世界 |
チャイコフスキー「冬の日の幻想」 |
ドーム・クニーギ |
杉本侃著『ロシアの新エネルギー戦略《最新版》』 |
業界トピックス |
2021年7月の動き |
通関統計 |
2021年1〜6月の輸出入通関実績 |
ユーラシア珍百景 |
不憫だったモスクワ・オリンピックに思いを馳せる |
記者の「取写選択」 |
ソチと東京、五輪を覆う雲 |
調査レポート
理想と現実の狭間で揺らぐロシア医薬品業界
ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
ロシアの医薬品業界に関するレポートを書いているといつも「理想と現実のギャップ」というフレーズが脳裏に浮かぶのだが、今回も例外ではなかった。
たとえば、新型コロナに対する対応ぶりをみていても、理想通りに事が進んでいないとの印象を強く抱く。周知の通り、ロシアは世界に先駆け新型コロナワクチンを開発し承認した国で、そろそろ接種率がイスラエル並みの水準に達し、新型コロナの流行が沈静化していてもおかしくないはずなのだが、2021年7月21日時点で2回接種(ロシアのワクチンも2回接種が原則となっている)をした国民の数は2,260万人(接種対象となりうる国民の20%弱)にとどまっていた。しかも、最近になり接種希望者が急増した関係で、需要にワクチンの生産が追い付かないという状況が生じている。その様を見ていると、理想に現実が追い付いていないとの印象を持たざるを得えない。
また、医薬品の価格を安定させるために国が打ち出した主要医薬品の価格抑制策は品質の高いオリジナル薬やジェネリックの市場からの退出につながり、一部の医薬品については深刻な品不足が生じている。また、産業商業省が中心になり取り組んでいる医薬品の国産化を急激に推し進めことを目的とする措置も、患者や医療現場サイドが本当に必要とする医薬品の入手を困難にさせる危険性を秘めている。
調査レポート
ロシアの医療事情と政策の動向
―コロナ危機が人口減少に拍車―
衣川靖子
2019年12月に中国湖北省武漢市で原因不明の肺炎の発症が報告されて以来、世界中で感染が拡大し続けている新型コロナウイルス(COVID-2019)。ロシアでも2020年3月末から感染者が急増した。1年以上を経た2021年7月現在も変異株が猛威を振るっており、1日当たりの死者数が過去最多を記録するなど、終息には程遠い状況だ。7月30日現在、ロシアの累計感染者数は620万人を超え、米国、インド、ブラジルに次いで世界第4位となっている。
新型コロナウイルスが人口動態や人々の生活、健康にもたらす影響についてはこれから解明される部分が多く、まだ終息の見通しも立っていないが、本稿では、ロシアの保健医療事情につき統計データを中心に考察した上で、コロナ以前およびコロナ危機2年目の現在の医療制度・政策の動向を概観する。
イベント・レポート
日ロ極東医療協力フォーラム報告
2021年5月26日(水)、ロシアNIS貿易会では、ロシア沿海地方政府と共同でオンラインイベント「日ロ極東医療協力フォーラム:日ロ間の医療ネットワーク構築に向けて」を開催した(日本医療機器産業連合会、日露医学医療交流コンソーシアムにいがた、環日本海経済研究所が後援)。本フォーラムには、日ロ双方から約160名(日本側から約90名、ロシア側から約70名)が参加、ロシア側からは沿海地方、ハバロフスク地方の他、サハリン州、アムール州、サハ共和国など極東連邦管区の多くの地域から医師、大学、行政関係者が視聴した。
フォーラムでは、ロシア極東において日ロ共同で取り組んでいる医療事業の事例や、地域行政や大学間での協力の取り組みの紹介を行った。以下で報告要旨を紹介する(『ロシアNIS経済速報』2021年6月5日号より再録)。
INSIDE RUSSIA
コロナワクチンで勝ち切れなかったロシア
ロシアで、新型コロナウイルスのワクチン「スプートニクV」が承認されてから、約1年が経過した。スプートニクVはロシア保健省付属のガマレヤ記念国民疫学・微生物研究センターが開発したワクチンである。ロシアは自国開発のこのワクチンを、2020年8月11日に承認しており、これは世界初であった。
それでは、ロシアはコロナワクチンの勝ち組になったかというと、そうとは言いがたい。ロシア国内の接種率が思うように伸びていないからである。また、ロシアは当初、スプートニクVの外国への供給についても強い意欲を示していた。しかし、現在までのところ、この面でもロシアが大きな成果を挙げたとは言いがたい。(服部倫卓)
デジタルITラボ
ロシアのインシュアテック
―スタートアップは生まれるか―
7月初旬、スタートアップ・テック業界では有名なウェブ媒体であるテッククランチ(米国)に、ロシアスタートアップ企業の資金調達ニュースが掲載された。法人向けの任意加入医療保険(ДМС)サービスをオンラインで提供するベストドクターが、シリーズBで2,600万ドルを調達した。
テクノロジーによって新しい保険ビジネスを生み出す企業群は「インシュアテック(Insur Tech)」と呼ばれる。今回はロシアのインシュアテックについて見ていきたいと思う。(牧野寛)
データリテラシー
ロシアでのマスク生産特需とその後
ある意味、2020年はロシアの繊維業界にとって大きなインパクトのあった年でした。なぜならば、コロナ禍によりロシア国内での医療用マスク生産が激増したからです。昨年はコロナ禍の拡がりにより、マスク需要が急増し、ロシアでも需給がひっ迫、小売価格も上昇を避けられませんでした。これに対し、ロシア政府はロシア国内メーカーによるマスク増産を促し、その生産物を国家調達対象とすることで医療用マスクの市場供給を保全し、価格水準を維持しようと努めました。(長谷直哉)
ロシアメディア最新事情
ロシアでの「鎮静薬」の広すぎる定義と需要
ロシアに住み初めてわりとすぐに気がついたのは、「ウスパカイーチェリノエ」(直訳すれば鎮静薬)と呼ばれる薬を服用している人が多いことでした。ただし、よく聞いてみたら漢方だったり、植物由来の睡眠薬だったり、抗うつ薬だったりと、薬の種類・効果は様々です。ロシアにおける日常会話では、気分を落ち着かせてくれる色々な薬のことを、ひっくるめて一つの呼び方にしているとわかりました。本稿ではとりあえず鎮静薬と呼ぶことにします。(徳山あすか)
ロシア極東羅針盤
3度のロックダウンを経験したブリヤート共和国
ロシアは日本以上に「経済優先」である。6月頃から始まった強い第3波の中でも、プーチン政権は、強制的な外出や移動の制限、経済活動の規制に消極的な姿勢を変えていない。感染状況は地域によって異なるとして、どのような制限措置をとるかは原則、地方政府に任せている。そんな中で、3度も強制的な休業措置と外出制限に踏み切った地方がある。極東地域のブリヤート共和国である。(齋藤大輔)
中央アジア情報バザール
カザフスタンとウズベキスタンの製薬業
産業多角化や製造業発展の一環として、中央アジアでは製薬産業の発展の重要性が注目されている。中でも2020年のコロナ禍を背景に、医薬品のローカリゼーション(現地生産)について、ますます各国政府が重視するようになり、投資が活発化している。そこで、本稿では中央アジア、特に製薬産業の発展が著しいカザフスタンとウズベキスタンにおける同産業の最新動向について概説する。(中馬瑞貴)
調査レポート
世界主要国・地域とロシアの対外経済関係
ロシア高等経済学院 国際政策・経済学部准教授
I.マカロフ
2020年初めから世界中で猛威を振るう新型コロナウイルスの流行は、ロシアの対外経済関係にも大なり小なりの影響を与えた。
本稿は、ロシア高等経済学院国際政策・経済学部のイーゴリ・マカロフ准教授に、コロナ禍前とコロナ禍後の比較という視点で、ロシアと中国、米国、EU、そして日本といった主要国・地域との対外経済関係を分析していただいたものである。以下では、その内容をご紹介する。
イベント・レポート
カザフスタン・スタートアップピッチデイ
ロシアNIS貿易会では2021年7月13日、オンラインイベント「カザフスタン・スタートアップピッチデイ」を開催した。
カザフスタンは周知のとおり、資源依存型経済ではあるが、国家プログラム「デジタル・カザフスタン」が政府決定されていることからも分かるように、デジタル・IT分野での新産業育成に強い関心をもって取り組んでいる。こうした取組みを実践している拠点は現在複数あるが、中でも積極的に起業支援や海外展開の後押しをしている機関として、ナザルバエフ大学リサーチ&イノベーションシステム(NURIS)を挙げることができる。
今回、このNURISからの提案を受けてウェビナーを実施することとなった。本イベントでは、NURISが、自身で実施している起業支援プログラムについてプレゼンを行った他、そこで支援を受けている様々なスタートアップがその活動や技術を日本企業向けに周知するピッチを実施した(登壇企業6社は当会が選定)。本イベントにはNURIS関係者を含めて約60名が参加した。(長谷直哉・森彩実・大内悠)
地域クローズアップ
多彩な投資魅力を持つサマラ州
日本とロシアとの経済関係において主要産業の1つは自動車産業である。2006年にトヨタがサンクトペテルブルグで現地生産を開始して以来、日本の自動車メーカーおよび自動車部品メーカーが次々とロシアに進出した。
そんなロシアの自動車産業の集積地の1つがサマラ州である。
しかし、サマラ州の主要産業は自動車製造だけではない。同州では石油が一定量生産され、それを原料とした石油精製や石油化学産業が盛んに行われている。また、サマラ州にはロシアの宇宙船ソユーズの開発企業であるロケット宇宙センター「プログレス」が拠点を置き、航空宇宙産業も発展している。加えて、サマラはビールやチョコレートなどのメッカでもあり、最近では、化学や製薬、IT分野など新しい産業の発展も見られる。産業多角化の進んだ地域なのである。(中馬瑞貴)
シベリア・北極圏便り
ロシア北極域における労働力問題
18万2,400人。これはロシア極東・北極発展省が大学研究機関との共同調査の中で明らかにした、2035年までにロシア北極域で必要とされる新規労働力です。昨年ロシアでは2035年までの北極発展戦略が策定されましたが、そこでの目標を達成するためには、現地での建設や産業発展に尽くしてくれる人材の確保が欠かせません。ロシア北極域の現在の人口がおおよそ150万人ほどですから、今後15年足らずで域内人口の12%以上の移住者を集めなければならないことになります。(長谷直哉)
自動車産業時評
ロシア自動車分野の環境負荷軽減の動き
ロシアはかなり以前から環境負荷軽減の観点から脱ガソリン車に向けた努力を行っています。たとえば、ソ連時代からガスを燃料とする自動車の普及に取り組んでいます。また、最近、一時は完全に途絶えたかと思われた国産EV(乗用車、LCV)開発の動きも復活しています。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
業績回復のロシア運輸業
2020年はコロナ禍で旅客輸送の顕著な縮小、貨物輸送の構造的停滞が影を落としましたが、2021年は復調の傾向が見られます。上半期の運輸動向を速報値を基に紹介します。(辻久子)
シリーズ 工業団地探訪
ヴォルシノ工業団地(カルーガ州)
モスクワ市中心街からレニングラード街道を東南に車を走らせ、モスクワ外環道路を越えると、ほどなく右側にヴヌコヴォ国際空港が見えてくる。そこからさらに1時間余り連邦自動車道M3号線を走ると、車はモスクワ州を出て隣のカルーガ州に入る。するとすぐに右側に見えてくるのが韓国サムソン電子の近代的な工場である。ここからほぼ4kmにおよぶ左右の領域こそ、カルーガ州開発公社が開発・運営するヴォルシノ工業団地である。(大橋巌)
HOW TO ビジネス実務
ロシア税制の未来を読み解く(5)
本コラムでは、昨今の目まぐるしく変化していくロシア経済情勢の中にあって、国家の収入源である税制は今後どのように変化していくのか、といった視点から未来を読み解いていきます。税制の未来の動きを考えることで皆様のロシアビジネスの将来予測に少しでも有用な情報をお届けできればと思っています。
さて、第5回は環境税をテーマに未来予想図を読み解きたいと思います。(上村雅幸)
産業・技術トレンド
ロシアでの自動車部品現地調達の成否
ロシアにおいて、自動車部品の現地調達の推進が課題であると長らく言われてきた。実際、そのようなことを口にされる関係者は多く、ロシアにおいて自動車部品の現地調達が課題というのは、事実の一面では確かにその通りだ。しかし、その意味するところは、人や立場によってバラバラに見えた。個々には現地調達を増やすために、尽力された方々もいらっしゃったが、大きな波として現地調達推進活動のようなものは、動かなかった。本稿では、ロシアの自動車部品現地調達について、問題点を整理してみたい。(渡邊光太郎)
ウクライナ情報交差点
プーチンはウクライナ論文で何を語ったのか
ロシアのプーチン大統領は節目節目で特定テーマに関する論文を発表する人である。もちろんそれは学術的な意味での論文ではないが、プーチン氏の政見がうかがえるという意味で、興味深くはある。そして、このほど新たなプーチン論文が登場した。大統領の署名による「ロシア人とウクライナ人の歴史的一体性について」という論文が、2021年7月12日付でクレムリンHPに掲載されたものである。(服部倫卓)
ロシア音楽の世界
チャイコフスキー「冬の日の幻想」
「冬の日の幻想」がこの交響曲に付けられた標題。露語でЗимние грезы ズィームニエ・グリョーズィ。直訳は「冬の夢想」だが、「冬の日の幻想」と少々ファンタスティックに訳されている。
第1楽章にこの副題が、第2楽章に「陰気な土地、霧の土地」との副題が付いていて、3、4楽章には副題は無い。自然や風景の描写をしている標題音楽のようにも言われるが、ここはあくまで夢想、空想しているイメージであり、絶対音楽の枠組みをちゃんと踏まえての作曲姿勢である。
(ヒロ・ミヒャエル小倉)
ユーラシア珍百景
不憫だったモスクワ・オリンピックに思いを馳せる
「オリンピックは40年周期で大きな不幸に見舞われる」という有名な話がある。戦争で返上を余儀なくされた1940年の東京五輪に、アフガン問題で西側のボイコットを食らった1980年のモスクワ五輪。そして、東京2020は新型コロナウイルスで1年間の延期を迫られた上に、結局無観客での開催となった。(服部倫卓)
記者の「取写選択」
ソチと東京、五輪を覆う雲
2014年2月7日のロシア・ソチ冬季五輪開幕日、現地は雲一つない青空だった。プーチン政権が威信をかけた大事業を祝福するように、夕日が黒海を黄金に染めながら沈みゆく。
私はスポーツ担当ではなく「五輪とロシア政治」を書くためにソチ入りしていた。開会式をメインスタジアムで取材できない分、気楽な立場で映像を眺めていたが、選手団入場が始まると「まずいことになりそう」と直感した。(小熊宏尚)