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ロシアNIS調査月報2025年5月号特集◆戦時体制下における |
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特集◆戦時体制下におけるロシア経済の立ち位置 |
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調査レポート |
戦時経済体制が構築されるロシア:2024年の分析 |
調査レポート |
ロシアの制裁対抗措置:ビジネスと国際法への衝撃 |
調査レポート |
事業を拡大するロスアトム ―国内外の影響力の強化― |
調査レポート |
制裁下のロシアの石油ガス分野 ―ウクライナ戦争開始後の動きを中心に― |
調査レポート |
ロシアの非原料・非エネルギー輸出 |
調査レポート |
モスクワからは見えない光景 ―前線の町が抱える苦悩― |
調査レポート |
断絶が深まった2024年の日ロ貿易 |
ドーム・クニーギ |
三浦清美編著『「ロシア精神」の形成と現代―領域横断の試み』 |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナとロシアのエネルギーインフラ相互攻撃 |
データリテラシー |
頻発する大規模通信障害の背景は? |
INSIDE RUSSIA |
北極政策を加速させようとするプーチン政権 |
シベリア・北極圏便り |
極北での「ロシア版スターリンク」構想 |
中央アジア情報バザール |
域内の安定が進む中央アジア |
ロシア音楽の世界 |
ショスタコーヴィチ交響曲第9番 |
シネマで見るユーラシア |
『アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓』 |
業界トピックス |
2025年3月の動き |
ロシアを測るバロメーター |
2025年3月までの動き |
通関統計 |
2025年2月の対ロシア・NIS諸国出入通関実績 |
おいしい生活 |
日本で購入可能なアルメニア・ワイン |
記者の「取写選択」 |
消えた自由の声 |
調査レポート
戦時経済体制が構築されるロシア:2024年の分析
北海道大学 名誉教授
田畑伸一郎
ロシア経済においては、現在、2つのプロセスが進行していると考えられる。第1に、石油・ガスの輸出に基づくこれまでの成長メカニズムが機能しなくなるというプロセスである。西側による経済制裁により、石油・ガスの輸出に依存する経済成長は望めなくなってきている。経済成長の石油・ガス部門への依存度は小さくなり、GDPに占める輸出の比重も小さくなった。財政収入においても、石油・ガスのみに依存することができなくなり、これまで低く抑えることのできていた他の税負担を引き上げざるを得なくなっている。
第2に、戦時経済体制が構築されるというプロセスである。軍需生産を優先するために、資源(資本や労働力を含む)の需給アンバランスが様々な分野で生じることになり、それが年率9.5%という高インフレをもたらしている。インフレを抑えるために政策金利が21%にまで引き上げられており、投資は政府の支援を受ける分野に集中することになる。ロシア経済は歪な資源配分構造になってきているが、それは戦争遂行には資するのであろう。高金利は、戦時経済の特徴の1つである。
調査レポート
ロシアの制裁対抗措置:ビジネスと国際法への衝撃
―第一部 制裁対抗措置と外国企業の対応―
在ロシア日本国大使館 公使/経済部長
大西進一
2022年2月の国連安保理常任理事国であるロシアによるウクライナへの全面侵攻は、ビジネス関係者を含む多くの者にとって想定外の出来事であった。特に西側諸国においては21世紀の現在、このような野蛮な行動が現実化することへの用意ができていなかったと言えよう。
しかし、今や我々は現実を直視する必要がある。武力の行使への敷居が低まったようにも捉えられる今日において、ロシアによるウクライナ侵略に続く違法な武力行使が発生する可能性を排除できる根拠は見当たらない。むしろ制裁措置をとらざるを得なくなるような事態が発生する可能性は高まっていると認識すべきであろう。
制裁措置の導入は相手国による制裁対抗措置の導入と相まって制裁対象国での(との)ビジネスを有する日本企業に甚大な影響を及ぼす。日本企業による対外投資、貿易が日本の経済的繁栄を支える主要な源泉となっている中、今日のような不安定な情勢下においてもなおいかにその利益を擁護していくかは重要な課題である。
日本の経済、ビジネスへの影響を見定める上では、我が国を含む西側諸国による制裁措置に加え、制裁対象国による制裁対抗措置を正確かつ冷静に把握する必要がある。ロシアによる諸措置は、これまでで最も広範な制裁対抗措置といって差し支えなかろう。本稿は、制裁対象国による制裁対抗措置に焦点を当てて紹介・分析するものであり、第一部においては、制裁対抗措置の法制上の位置付け、具体的内容、外国企業の対応、今後への示唆について取り上げ、第二部においては、国際法の側面からの検討を行う。
調査レポート
事業を拡大するロスアトム
―国内外の影響力の強化―
上智大学外国語学部 教授
安達祐子
ロシアが原子力大国であることはよく知られている。世界の原子力市場における主要国であるロシアは、ウラン濃縮において世界のシェアが36%で、世界第1位である。ウラン生産量においてはシェアが15%で世界第3位である。
ロシアの原子力産業を一手に担うのが、ロスアトム社である。ロスアトムは、ソビエト連邦の中型機械製造省、そしてロシア連邦の原子力庁を前身とし、2007年に「国家コーポレーション・ロスアトム」として改組された。2023年版ロシア大企業ランキングでは第10位を占め、400を超える組織を傘下にもつ特殊法人である。(中略)本稿では、ロシアの原子力産業を支配するロスアトムについて、原子力から北極海航路、港湾ビジネスへと拡大する事業と国内外の影響力を中心に現状を概観する。
調査レポート
制裁下のロシアの石油ガス分野
―ウクライナ戦争開始後の動きを中心に―
(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
2014年のクリミア侵攻後ロシアの石油分野は西側諸国の制裁対象になったが、当面の生産に大きな影響を及ぼすような類の制裁ではなかったので、石油の生産水準に大きな変化は見受けられなかった。さらに、2022年2月のウクライナ戦争開始後にもロシアの石油分野を対象とする西側諸国の様々な制裁が発動されたが、輸出先の変更が迅速に行われたことなどもあり、現在に至るまで生産水準に大きな変化は見受けられない。
ただ、制裁の直接的な対象にならなかったガス分野はウクライナ戦争後衰退の一途をたどっている。(中略)本稿では、制裁がもたらした影響に留意しながら、ロシアの石油ガスの最近の生産・輸出動向と今後の展望についての考察を試みる。
調査レポート
ロシアの非原料・非エネルギー輸出
(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所 特別研究員
ストノーギナ・ユーリア
長年にわたり、ロシアはエネルギー資源の主要輸出国の1つと見なされてきた。2006年以降、ロシア財務省は連邦予算における「石油・ガス収入」を公表しており、同国の炭化水素依存を示す基本的な指標とされている。財務省によれば、石油・ガス収入が予算に占める割合は年によって36%から51%の間で推移していた。
しかし、21世紀初頭の世界の経済発展は、付加価値の高い製品やハイテク産業の生産において競争力を持つ国々が持続的な優位性を確保してきた。これにより、ロシア経済全体および輸出における多様化、とりわけ石油・ガス依存からの脱却の必要性が明らかになった。
この取り組みは、2015年頃から政府によって計画的に進められてきた。2020年には石油・ガス収入の連邦予算に占める割合が30%未満となり、同年12月の年次記者会見においてプーチン大統領は、「ロシアの連邦予算の70%は、すでに石油・ガス収入によって形成されていない。完全ではないが、いわゆる『石油・ガス中毒』から脱却し始めていることを意味する」と述べた。
それでも炭化水素依存度は依然として高く、こうした背景から、非原料・非エネルギー輸出の発展は、国家経済政策の重要課題として掲げられるようになった。
調査レポート
モスクワからは見えない光景
―前線の町が抱える苦悩―
在ロシアジャーナリスト
徳山あすか
ロシアがいわゆる特殊軍事作戦を始めてから3年以上が経過し、もはや戦争前のロシアがどんな風だったか思い出すことが難しいくらいだ。戦争が完全に日常になったと言ってもよいが、モスクワに住んでいる限り、それを目で見て感じることは難しい。モスクワでは相変わらず、高級レストランが賑わい、赤の広場に観光客が集い、劇場や美術館が人でいっぱいになるような、豊かな生活が続いている。
時折、日本人が訪れると、スーパーも家電量販店もモノであふれていることや、Googleのサービスが使えること、町の美しさや清潔さ、市民が日本人にも親切にしてくれる、などの理由で驚かれることが多い。
しかしウクライナ国境周辺ではどうだろうか。ロシア領でありながら、絶え間なく攻撃を受け続けているクルスク州とベルゴロド州。これらの地域は当然、この3年間で大きく様変わりした。さらに、ロシアが2022年9月30日に併合を宣言した、いわゆる4つの「新地域」は、非常に特殊な立ち位置にあり、それらの町でどのような日常が営まれているのか、日本ではほとんど情報が出てこない。
そこで本レポートでは、対比のために前半を「モスクワ」編、後半を「前線の町」編とし、筆者自身が日常生活や取材で得た具体的なエピソードも交えながら、それぞれの町の姿をリアルに感じてもらいつつ、ロシア全体で何が起こっているのか、総合的な姿を捉えられるようにしたいと思う。
調査レポート
断絶が深まった2024年の日ロ貿易
(一社)ROTOBOロシアNIS経済研究所 部長 齋藤大輔
研究員 橋之爪理佳
本稿では、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2024年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。
ドーム・クニーギ
三浦清美編著『「ロシア精神」の形成と現代―領域的黄疸の試み』
本書は、編著者の三浦清美(文献学)をはじめ、高橋沙奈美(歴史学)、藤原潤子(民俗学)、井上まどか(宗教学)の4氏が「ロシアをロシアたらしめる精神」の源泉、変容、そして現代におけるその在り様をそれぞれの専門領域から明らかにし、「ロシア精神」という観点からロシア史を再構築しようという、意欲的かつユニークな試みである。(中居孝文)
ウクライナ情報交差点
ウクライナとロシアのエネルギーインフラ相互攻撃
3月になり米トランプ政権が働きかけを強めたロシアとウクライナの停戦交渉において、大きな柱に浮上したのが、両国がお互いの国のエネルギーインフラに対して行ってきた攻撃の停止である。今回は、関連情報を取りまとめてお伝えする。(服部倫卓)
データリテラシー
頻発する大規模通信障害の背景は?
2025年3月20日モスクワ時間の朝、ロシア全土で多数のネットサービスや回線にて障害が発生しました。障害発生頻度はシベリアの諸都市、沿海地方、ロストフ州などで特に多かったとされています。(長谷直哉)
INSIDE RUSSIA
北極政策を加速させようとするプーチン政権
ロシア北方のムルマンスクにおいて「北極 - 対話の地域」と題する国際フォーラムが開催され、3月27日にプーチン大統領が演説を行った。演説の内容を、経済・輸送分野を中心に、以下抄訳して紹介する。(服部倫卓)
シベリア・北極圏便り
極北での「ロシア版スターリンク」構想
2025年3月13日、モスクワで開催された通信系ビジネスカンファレンス「TransNet」枠内のイベントにて、レベジェフ・ネネツ自治管区副知事兼通信デジタル局長は、ロシアの航空宇宙企業「ビューロー1440」(「IKSホールディング」傘下)によるネネツ自治管区内で低軌道衛星からの通信を提供するパイロットプロジェクトの開始が2026年から予定されている旨述べました。ロシアの一部報道ではこの動きを「ロシア版スターリンク」と呼ぶ向きもあります。(長谷直哉)
中央アジア情報バザール
域内の安定が進む中央アジア
中央アジアと聞くと、まだまだ不安定なイメージが付いて回る。しかし、ここ数年は、域内の関係強化を通じて情勢の安定化が進められている。特に2025年3月には、目立った動きが続いたので、まとめてご紹介する。(中馬瑞貴)
ロシア音楽の世界
ショスタコーヴィチ交響曲第9番
楽聖ベートーヴェン(1770〜1827)が世に出した、大合唱付きの最後の交響曲「第九」。多くの点で画期的で革新的な大傑作である。この金字塔の交響曲への畏敬の念から、またこの「第九」を最期に楽聖が世を去っていることから、後の作曲家達に以下のような想いが芽生えていたのは理解に苦しくない。「自分の9番目の交響曲も時代を切り開く最高傑作でなくてならない。」「自分も9番目を作曲したら、それが最終作の遺作の交響曲になってしまうのではないか。」このような想いを最も如実に持ち続けた作曲家はグスタフ・マーラー(1860〜1911)であった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
シネマで見るユーラシア
『アメリカッチ コウノトリと幸せな食卓』
時は1915年。場所はオスマン帝国のアルメニア人居住地。少年が狭い空間の鍵穴のようなところから外を見ている。その先では、オスマントルコの兵士がアルメニア人を1カ所に集め、次々と銃殺していた。「その笑顔を忘れるんじゃないよ。この先つらいこともあるだろう。でもどんな時も明るく笑顔でいるんだよ。さあ飛んでおいき、小さなコウノトリ。私たちは心の中にいる。そしていつの日か故郷に戻っておいで」と少年に優しく語りかけてくれた祖母も銃弾に倒れた。(芳地隆之)
記者の「取写選択」
消えた自由の声
短波ラジオやウェブサイトなどで米国の政策や文化、世界のニュースを80年以上に渡り国外に伝えてきた米政府系メディア「米国の声(VOA)」が3月14日、活動を停止した。民主主義や人権尊重、報道の自由の推進に関心が薄いトランプ米大統領がこの日、VOAを傘下に置く米グローバルメディア局(USAGM)を縮小する大統領令に署名。VOAのサイトはこの日を最後に更新が止まった。(小熊宏尚)