ロシアNIS調査月報
2008年5月号
特集◆メドヴェージェフ新政権と
日ロ関係
特集◆メドヴェージェフ新政権と日ロ関係
直言
タンデム政権の行方とロシアの対外政策
調査レポート
プーチン政権下のロシア経済成長
―油価高騰に基づく成長メカニズムとその行方
調査レポート
ロシアの政府系ファンドを見る視点
調査レポート
2007年の日ロ貿易 ―高まる双方にとっての重要性
調査レポート
2007年のロシア乗用車市場の回顧
調査レポート
ロシア企業の日本市場進出事例
ビジネス最前線
日ロ経済関係の新たなステージへ
講演録
ロシア極東経済と新極東発展プログラム
クレムリン・ウォッチ
次期政権の経済政策 ―看板倒れのプーチン・プラン
RUSSIAN STYLE
ロシア著名人ランキング2007
ドーム・クニーギ
岡田邦生・畦地裕・芳地隆之・中居孝文著
『ロシアビジネス成功の法則』
データバンク
2007年のロシア経済統計
データバンク
ロシアの鉱工業・農林水産業の品目別生産高(1990〜2007年)
データバンク
2007年のロシアの石油産業

ユーラシア巡見
ウクライナ・ベラルーシ・モルドバの中小企業事情
日本センター所長
リレーエッセイ
ウラジオストク編
ウラジオストク:昨日・今日・明日
ロジスティクス・ナビ
ロシア最大級の港となるウスチ・ルガ港
ノーヴォスチ・レビュー
ロシアの電力設備部門で統合の動き
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアで日本のテレビ放送を視聴するには?
業界トピックス
2008年2月の動き
JA新潟みらいのロシア向け輸出事業
2007年1〜 12月の通関統計


直言
タンデム政権の行方とロシアの対外政策

青山学院大学国際政治経済学部 教授
袴田茂樹

はじめに
 2008年3月18〜19日にモスクワで安保研主催の日露専門家対話を行った。シンポジウムの場で、またその前後に実施された要人との懇談の場で、ロシア情勢について、また日露関係について意見を交換した。ロシアのオピニオンリーダーとの懇談で筆者が最も関心を抱いた問題は、メドヴェージェフ大統領、プーチン首相のタンデム政権の安定性と、中露関係の行方であった。もちろん、ロシアの新政権下での日露関係を念頭に置いての問題意識である。タンデム政権に関しては、大統領(大統領府)と首相(政府)の関係がまだ読めないので、多くの政府関係者や要人たちは「様子見」の状況であった。タンデム政権の安定性に関しては、政治学者などの意見も多様であった。中露関係については、公式的には良好であるが、実際には経済摩擦や政治面での相互の不信感も存在する。両国関係の良好な側面を強調する者と、不信感や最近強まっている摩擦について述べる者と、見解は分かれた。本稿では、最近得たロシアでの情報などをもとに、主としてロシアのタンデム政権をどう見るかについて、その内情に目を向け、また新政権の対外政策や新たな日露関係について、私見を述べたい。


プーチン政権下のロシア経済成長
―油価高騰に基づく成長メカニズムとその行方―

北海道大学スラブ研究センター 教授
田畑伸一郎

はじめに
1.2007年の経済概況
2.経済成長をめぐる動向
3.財政をめぐる動向
4.今後の展望

はじめに
 ロシアの2007年の経済成長率は8.1%に達し、2000年からのプーチン政権下におけるロシア経済の急成長は、そのピークに達しようとしている。この急成長は、油価の年平均18.8%の高騰やそれによるルーブルの実質為替レートの年平均18.3%の切上げなどに特徴付けられるユニークな経済成長メカニズムのもとで実現された。しかし、原油価格のこれだけのペースの高騰はそろそろ収束すると見られることから、ロシア経済はターニングポイントにさしかかっていると考えられる。ロシア政府も、経済発展貿易省を中心に2020年までの長期社会経済発展構想を立案したり、連邦予算や安定化基金からのかなりの支出により、今後の経済成長のための「しかけ」作りをしたりするなど、油価の高騰に頼らない経済成長の準備を始めている。本稿では、ロシアの経済成長メカニズムがどのように変わろうとしているかについて検討する。


ロシアの政府系ファンドを見る視点

ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所 主任研究員
V.シュヴィトコ

1.はじめに
2.安定化基金
3.予備基金と国民福祉基金
4.政府系大企業の海外投資

1.はじめに
 最近、財政収支と貿易収支の黒字のため、巨額の財政準備資金と外貨準備を蓄積した産油国、新興国など一連の途上国が、その資金の一部を、国が設立した特別財政基金に入れ、それを効率的に運用することを課題に据えている。「政府系ファンド」(英語ではsovereign wealth funds(SWF)という表現が用語化しているようだ)の名前で話題になっているこれらの資金は主として先進国の証券に投資されており、国債だけでなく、優良企業の社債や株式もその投資の対象になっていることは周知のとおりである。
 昨年ごろになって、米国等の経済誌などでは、上述のようなSWFの活動を論じる際に、ロシアの財政安定化基金についても言及されることが多くなった。ただ、情報の不足が最大の理由と思われるが、ロシアのSWFについては詳細なコメントがなく、せいぜいファンド名を挙げることに留まるのが普通である。
 そもそも、ロシアにはその性質からSWFと言える基金が、どれくらいあるのか? また、モルガン・スタンレーの専門家は、現在SWF群は、世界の金融資産の約2.5%を占めており、10年以内にはその比率が9%まで拡大するだろうとしているが、そこにおいてロシアの政府系ファンドはどのような地位を占めているのか? 本稿では、この問題について分析を試みることにする。


2007年の日ロ貿易
―高まる双方にとっての重要性―

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 例年どおり、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2007年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。
 本資料では基本的に、財務省発表の円表示の貿易統計を独自にドル換算して示している。その際に、図1、表1、表2が、月ごとの為替レートで換算した数値を積み上げた厳密なデータであるのに対し、表5、表6、図2は年平均レートで単純に換算したものであり、したがって両者は総額が微妙にずれているので、ご注意されたい。
 なお、当会ではかつて、日本とロシア・NIS諸国の輸出入通関実績の細かいデータ(輸出入統計品目表の4桁のレベルのデータ)を、本月報に掲載していた。しかし、紙媒体に掲載することはひとまず役割を終えたとの判断から、一昨年から同資料は当会のウェブサイトで公開することとし、雑誌への掲載は取り止めている。ご承知置きいただきたい。


2007年のロシア乗用車市場の回顧

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.乗用車登録台数
2.生産動向
3.販売動向
4.純国産メーカーの生き残り策
5.外国メーカーの現地生産
6.地方の時代の兆し
まとめ

はじめに
 ロシアの乗用車市場の規模はここ数年急激に拡大しているが、2007年も前年比35%の伸びを記録した。中でも外国新車の販売が好調で、前年比61.4%増の約165万台の販売を記録した。
 日本車の販売も引き続き好調で、前年比約60%増の51万4,646台が売れた。さらに注目すべきは、日本車の場合、比較的値段の高いモデルがロシア市場で良く売れているという点である。たとえば、トヨタ(レクサス含む)の場合は、ロシアでの車の平均小売販売価格が3万ドルを超えている可能性が高く、2007年のロシア市場での販売高は小売ベースで50億ドル前後に達したものと推測される。ちなみに、2007年時点での金額ベースでの国内販売トップはロシア最大の純国産メーカー「AvtoVAZ」だったが、その販売高は55億ドル程度だったと推測される。このままでいくと、2008年には恐らくトヨタがAvtoVAZを追い抜きトップに立つことになるだろう。その他の日本メーカーも、金額ベースでみると全般的に市場でのプレゼンスがさらに高くなる。
 ロシア市場は、各日本メーカーにとってきわめて重要な意味を持つ有望市場になったといえよう。ただ、ロシアの乗用車市場はかなり個性的な側面を有しており、その個性への対応を充分に検討しておかないと、今後思わぬ困難に遭遇する可能性も否定できない。そこで、本稿ではロシア乗用車市場の個性に着目しながら、同市場の2007年を回顧することとする。


ロシア企業の日本市場進出事例

ロシアNIS経済研究所 調査役
芳地隆之

はじめに
 ここ数年、ロシアの企業幹部の日本訪問ミッションが相次いでいる。昨年11月5〜6日に、RBC(ロシアの大手経済メディア)が主催し、当会が日本側事務局を務めた国際ビジネス会議「日露ビジネス対話:経済多角化の基礎としてのイノベーション」が東京で開催された際には、ロシア側より240名が参加した。また、東京だけでなく、大阪でも関西経済連合会他の主催による「日露経済フォーラム」が定期的に開かれており、ロシア官民合同の大型ミッションが参加している。こうした経済・投資フォーラムの目的は、ロシア側による日本企業への投資誘致が中心であるが、ここ数年、日本市場に注目し、現地法人や駐在員事務所を設立するロシア企業も現れている。そこで本稿では、そのいくつかの例を、駐在員事務所もしくは現地法人の設立順に紹介したいと思う。


ビジネス最前線
日ロ経済関係の新たなステージへ

(株)双日総合研究所 副所長 兼 ロシア・NISデスク リーダー
久保田三郎さん

はじめに
 今回は、長い歴史を踏まえた上で日ロ経済関係を語ることのできる数少ない方の一人、双日の久保田さんにご登場願って、ロシアの政治・経済について縦横無尽に話していただきました。内外のメディアからは得ることのできない、ビジネスの現場を歩き続けてこられた久保田さんならではの見方は、ロシアの抱える様々な問題とともに、今後の大きなビジネスチャンスを示唆してくれます。また、ロシア側が日本に大きな期待を抱いているとの指摘は、日ロ経済関係が新たな段階に入っていくことを予感させるものでした。


講演録
ロシア極東経済と新極東発展プログラム

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所 所長
P.ミナキル

はじめに
 (社)ロシアNIS貿易会では、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のミナキル所長を招聘し、2月12日、東京証券会館において「ロシア極東経済と第三次極東発展プログラム」と題して、2007年11月に承認された「2013年までの極東ザバイカル経済発展プログラム」の内容を中心にご報告いただきました。以下では、その要旨をご紹介いたします。


クレムリン・ウォッチ
次期政権の経済政策
―看板倒れのプーチン・プラン―

はじめに
 ロシアの政局は新大統領の就任に向けてじわじわと動いています。肝心な部分は舞台裏で進行していて、よく分かりませんが、メドヴェージェフのリベラル色を現実政治に反映させていきたい人々と、プーチン次期首相を頼んでそれを抑制したい人々、それぞれの思惑が交錯し、いかにも現代ロシアらしい宮廷陰謀的な手段を交えた抗争が進んでいることは外からも窺えます。やがて大統領府幹部人事や、内閣の組織再編と副首相級人事が発表されれば、政権発足段階での政権内諸勢力の力関係が見えてくるでしょう。ロシアのメディア報道では、人事に関する予測、憶測が賑やかですが、本稿ではこの問題に踏み込むことは避けて、経済政策についていくつかのポイントを眺めてみることにします。(月出皎司)


RUSSIAN STYLE
ロシア著名人ランキング2007

はじめに
 「 日本で一般的に知られている現代ロシアの有名人といえば、プーチン、メドヴェージェフ、そしてテニスのシャラポワ、大富豪アブラモヴィチ……といったところだろうか。
それでは、ロシア国内では、どんな人が有名で、人気があるのか? 今回は、2007年12月22〜23日に全ロシア世論調査センターが実施した世論調査結果をもとに、ロシアの「時の人」をご紹介したい。(山本靖子)


ユーラシア巡見
ウクライナ・ベラルーシ・モルドバの中小企業事情

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 2月16日から25日にかけて、西NISの3国、すなわちウクライナ、ベラルーシ、モルドバから、中小企業政策担当者が来日した。日本の外務省が招聘したものであり、我が国において「中小企業振興ワークショップ」を開催し、もって同諸国の市場経済化、民主化を側面支援することが目的であった。
 ロシアNIS貿易会では、2月21日に、研究所の服部が中心となり、ワークショップ参加者一行の訪問を受け入れた。この会合では、当方より、当会が中小ビジネス関係で取り組んでいる試みについて説明しただけでなく、3国の側からも、各国の中小企業事情について報告してもらうという、双方向の意見交換の場とすることにした。そこで、以下このレポートでは、会合におけるウクライナ・ベラルーシ・モルドバ3国の政策担当者とのやり取りの要旨を、読者の皆様方に紹介してみたい。これらの国々の国情を理解していただくうえで、一助にでもなれば幸いである。


ロジスティクス・ナビ
ロシア最大級の港となるウスチ・ルガ港

  現在、サンクトペテルブルグ近郊でロシア最大級となるウスチ・ルガ港の建設が進んでいます。自動車メーカーなどの進出に沸くペテルブルグですが、他方で経済活況にともなう物流需要増大への体制強化が迫られています。ウスチ・ルガ港の建設は、その突破口として大きな期待がかけられています。