ロシアNIS調査月報
2009年4月号
特集◆ユーラシア港湾物語
特集◆ユーラシア港湾物語
Introduction
ロシア港湾の概要と整備計画の行方
調査レポート
ペテルブルグ港とウスチルガ港
―ロシア・コンテナ輸送の拠点―
調査レポート
黒海港湾の覇を競うロシアとウクライナ(上)
調査レポート
ロシア沿海地方主要港の概況
調査レポート
ワニノ・ソヴガワニ輸送産業拠点と経済特区
ビジネス最前線
日ロ貿易の発展を支える総合物流企業
講演録
ムルマンスク輸送ハブ建設計画
データバンク
数字で見るユーラシアの港湾

調査レポート
2008年ロシア乗用車市場の総括
―金融危機の影響を中心に―
データバンク
2008年のロシアのメーカー別鉄鋼生産
データバンク
ロシアの戦略重要企業295社リスト
ユーラシア巡見
ウズベキスタンの電機製造分野における投資機会
―イズバサロフ・ウズベキスタン電機企業協会会長講演―
研究所長日誌
ようやく実現したサハリン産天然ガスの輸入
ドーム・クニーギ
N.ナザルバエフ著『平和と調和の政策』
クレムリン・ウォッチ
プーチンの救命浮輪
エネルギー産業の話題
ヤマル半島のガス鉱床開発状況
自動車産業時評
2008年のロシアのトラック生産・販売状況
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアの医療機器ビジネス
業界トピックス
2009年2月の動き
◆ラーメンサクラがモスクワで新装開店へ
2009年1月の輸出入通関実績


ロシア港湾の概要と整備計画の行方

 月報の今号では、ロシア・NIS諸国の港湾を特集する。冒頭を飾るこの記事ではまず、最重要国であるロシアの港湾につき、総論的に論じることにする。
 ロシアは広大な陸地をもつため、鉄道やパイプラインなど陸送手段が注目されがちだが、港湾もそれに劣らぬ重要な輸送拠点である。とくに海洋国である日本にとっては、ロシアとの貿易を行う上で港湾はなくてはならない存在である。
 2008年、ロシアでは「2030年までの輸送戦略」と連邦特別プログラム「2010〜2015年の輸送システムの発展」が承認され、そこでは、きわめて意欲的な港湾整備が予定されている。以下では、ロシアにおけるこれまでの港湾整備政策の内容と実績を概観し、上記の2文書を中心に今後の計画をご紹介することとしたい。


 ペテルブルグ港とウスチルガ港
―ロシア・コンテナ輸送の拠点―

 ロシアNIS経済研究所 調査役
中居孝文

はじめに
1.サンクトペテルブルグ港の概要と現状
2.ロシア最大のコンテナ取扱港
3.新港「アヴァンポート」の建設計画
4.着々と稼動を始めるウスチルガ港
おわりに

はじめに
 現在、サンクトペテルブルグには日本のトヨタ、日産、スズキのほか、GM、現代など世界の自動車メーカーが相次いで進出し、現地生産を開始しようとしている(トヨタ、GMはすでに生産を開始)。
 何故これらの自動車メーカーは工場建設地としてサンクトペテルブルグを選択したのであろうか。大消費地への近さ、市行政府によるインセンティブ、労働力の確保など様々な理由が考えられるが、それに劣らぬ重要な条件として港の存在を欠かすことはできない。今後、各メーカーの自動車工場が本格的に稼動し始めると、部品輸送等で港の重要性はさらに高まるであろう。
 本稿では、今後ますます貨物量の増大が予測されるサンクトペテルブルグ港の概要と同港の代替港として期待されるウスチルガ港の建設計画について、とくにコンテナターミナルの現状と見通しを中心にご紹介することとしたい。


 黒海港湾の覇を競うロシアとウクライナ(上)

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 黒海・アゾフ海は、新興国に囲まれたユニークな内海である。沿岸諸国が高い経済成長を遂げ、それに伴い港湾の整備が急がれる一方、未熟な政治・経済体制ゆえの混乱も生じ、港湾セクターはダイナミックかつ混沌とした様相を呈している。
 ロシアとウクライナの両国にとっても、黒海の重要性は論を待たない。ロシア最大の港湾であるノヴォロシースク港は、黒海沿岸に位置する。ウクライナに至っては、海港がすべて黒海・アゾフ海に面している。
 図1は、ロシアの黒海諸港とウクライナの諸港による2007年の取扱貨物量を比較したものである。興味深いことに、ロシアの貨物量が1億5,972万t、ウクライナの貨物量が1億5,792万tで、ほぼ互角である。ロシアがノヴォロシースク港に集中しているのに対し、ウクライナは中小規模の港に分散しているという違いはあるにせよ、トータルで見れば両国はまさに「好敵手」と言っていい。
 ただ単に規模が同等というだけではない。両国は貨物の奪い合いという意味でも、ライバル関係にある。ロシア・ウクライナの政府および業界による港湾開発構想・計画は、お互いを強く意識したものとなっている。ロシア側にとっては、自らの港湾を拡充し、現在ウクライナの港で処理されている自国貨物を奪還することが、長期的な課題のひとつだ。ロシアはウクライナと対立することが何かと多いため、これは安全保障上の要請でもある。逆に、ウクライナ側には、ロシア貨物のトランジットを今後も維持し、さらには黒海におけるコンテナ輸送のネットワークで主導的な地位を築きたいという思惑がある。
 本稿では、ロシアとウクライナの黒海港湾の諸問題を、両国の対抗関係をひとつの軸に、論じることとする。なお、紙幅の都合上、上下に分け、まず今回はロシアに関する第1節をお届けする。ウクライナを扱う第2節は、5月号または6月号に掲載する予定である。


 ロシア沿海地方主要港の概況

ロシアNIS経済研究所 研究員
齋藤大輔

はじめに
1.ナホトカ港
2.ヴォストーチヌィ港
3.ウラジオストク港
4.その他の港
最後に

はじめに
 ロシア極東諸港の重要性が高まっている。経済成長に伴う物流の活発化で、ここ数年、貨物取扱量を伸ばしてきた。その一方で、極東諸港を支配するモスクワ資本の「プライベートポート」化は一段と進み、効率的な荷動きは実現されていない。金融危機による景気の急激な悪化で、極東の港の状況も一変した。そこで本稿では、ロシア極東の中でも取扱量の多い港湾が集中する沿海地方主要港の概況およびモスクワ資本による港湾支配の問題点について最新情報を交えて報告する。


ワニノ・ソヴガワニ輸送産業拠点と経済特区

 ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
O.レンジン

はじめに
1.ワニノ港とソヴガワニ港
2.輸送産業拠点の開発計画
3.港湾経済特区の創設
4.極東地域開発の課題と展望

はじめに
 ロシア極東の長期開発戦略は、同地域における大規模な輸送産業複合システムの形成を前提としている。その一環として、ハバロフスク地方においてワニノ・ソヴィエツカヤガワニ(以下、ソヴガワニ)輸送産業拠点が形成されつつある。このプロジェクトの最も重要な要素は、極東地域初の(そして現時点では海港としてロシア唯一の)港湾経済特区が創設されるという点だ。
 港湾特区では、港湾施設の近代化と整備、鉄道・自動車輸送、エネルギー、公共サービス、社会インフラの拡充が図られる。同時に、一連の産業施設も建設される計画だ。たとえば、船舶修理・造船センター、木材や魚・水産物の加工施設等の建設が計画されている。
 このような輸送産業拠点の形成の基盤となるのが、ソ連時代から存在するワニノ港とソヴガワニ港の周辺に集積する輸送・産業施設である。


ビジネス最前線
日ロ貿易の発展を支える総合物流企業

日本郵船(株)
モスクワ事務所長 松方雪雄さん
サンクトペテルブルグ事務所長 柏井省吾さん

はじめに
 日本郵船は2004年、モスクワに全額出資の子会社「NYKロジスティクスCIS」を設立して以降、ロシア向けの国際物流業務に加え、ロシア国内での高品質な物流サービスを提供しています。現在はモスクワとサンクトペテルブルグに事務所を構え、モスクワに新倉庫を完成させるなど、欧州地域での事業を広げると同時に、サハリンではロシア側パートナーと協力して、サハリンUにLNG船を就航させました。今号では、モスクワとサンクトペテルブルグ両事務所の所長に、ロシアの物流網を着々と整備する日本郵船のビジネスの現状について伺います。


講演録
ムルマンスク輸送ハブ建設計画
「ロシアにおける運輸インフラプロジェクトセミナー」より (2009年1月14日、如水会館)

マネージメント会社「ムルマンスク・トランスポート・センター」
社長 A.シャポヴァリヤンツ

はじめに
 2009年1月14日に、東京・如水会館にて、レヴィチン・ロシア運輸大臣一行をお迎えし、国土交通省主催、ロシアNIS貿易会他の後援により「ロシアにおける運輸インフラプロジェクトセミナー」が開催されました。ここでは、ロシア側による一連の報告のなかから、今号の特集テーマの港湾に深く関連するプレゼンテーション「ムルマンスク輸送ハブ建設計画」の要旨をご紹介いたします。報告を行ったのは、元経済大臣で、現「ムルマンスク・トランスポート・センター」社長のA.シャポヴァリヤンツ氏です。
 なお、シャポヴァリヤンツ氏はパワーポイントの資料を引用しつつプレゼンテーションを行っていますが、本記事では紙幅の都合上、資料は省略させていただきます。こちらのサイトに、パワーポイントがアップしてありますので、ご利用ください。


2008年ロシア乗用車市場の総括
―金融危機の影響を中心に―

 ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.生産動向
2.販売動向
3.経済危機後の国産メーカーの状況
4.経済危機後の外資系企業の動き
5.経済危機後のディーラーの動き
おわりに

はじめに
 ロシアの乗用車市場は2008年に入ってからも順調に成長していた。とくに外国新車の販売が好調で、2008年1月の販売台数は前年同月比で53%もの伸びを示した。その後も販売の好調さは続き、上半期の外国新車の販売台数は前年同期比47%増の約106万台に達した。
 市場関係者の多くは、下半期も同様の状況が続くと予想していた。しかし、8月になり、変化の兆しが見え始めた。前年同月比で販売台数が落ち込むメーカーが目立ち始め、全体としても前年同月比23%の伸びにとどまった。この頃から、市場が成熟化してきているのではないかとの声が市場の一部で囁かれ始めていた。
 そのような状況の中、2008年9月半ばに世界的金融危機が勃発する。9月こそ外国新車の販売台数はそれほど落ち込まなかったが、10月以降販売が停滞し始め、11月、12月と2ヵ月連続で外国新車の販売台数は前年同月割れとなった。一方、純国産車の販売も夏頃から低迷し始め、ほとんどの純国産メーカーが過剰在庫を抱え、現在危機的な状況に直面している。また、外資系企業の現地工場をめぐる状況も、金融危機以降、全般的に悪化している。
 以上の状況を踏まえ、本稿では、金融危機が与えた影響に留意しつつ、2008年のロシア乗用車市場の総括を試みる。さらに、金融危機勃発後の純国産メーカーや外資系企業の現地工場の現状についても論じる。


 データバンク
ロシアの戦略重要企業295社リスト


はじめに
 ロシア政府は昨年12月25日、ロシア経済の根幹を成す戦略重要企業295社のリストを制定した。以下に、そのリストを掲載する(『ロシアNIS経済速報』2月15日号で紹介済みだが、思いのほか読者からの関心が高かったので、本『月報』にも再録する次第である)。
 問題のリストであるが、プーチン首相の肝いりで、シュヴァロフ第一副首相が中心となり取りまとめたと言われている。リストの制定に当たっては、各企業の従業員数、年商規模などが選定基準となったようだ。ただ、このリストは必ずしも最終確定版というわけではないとも言われており、今後随時補充されるという見方もある。
 156と178が重複しているし、子会社が付記されているなど、正確に言うと295社ではない。業種はかなり幅広いが、金融機関は入っておらず、また外資系企業も対象外となっている模様である。シェレメチェヴォ空港があってドモジェドヴォ空港がないなど、不可解な点も散見される。
 このリストに掲載されることで、具体的にどのようなメリットがあるのかは、明確になっていない(今号の「クレムリン・ウォッチ」では、これに載ったからといって国の支援策が約束されるわけではないと指摘されており、実際そのとおりであろう)。ただ、ロシア政府により戦略的重要企業と認定される意味は小さくないはずで、注目に値する資料であることは間違いない。


ユーラシア巡見
ウズベキスタンの電機製造分野における投資機会
―イズバサロフ・ウズベキスタン電機企業協会会長の講演より―


はじめに
 1月24〜29日にA.イズバサロフ・ウズベキスタン共和国電機企業協会会長が来日されたのを機に、ロシアNIS貿易会では1月27日、当会会議室において、「ウズベキスタン共和国の電機産業」と題するプレゼンテーションを開催いたしました。以下に、そのプレゼンテーションの概要をご紹介いたします。
 なお、当会ウェブサイトに、プレゼンテーション資料を掲載いたしましたので、あわせてご利用ください。(編集部)


クレムリン・ウォッチ
プーチンの救命浮輪


 サハリンLNG工場の完工式の機会に麻生首相とメドヴェージェフ大統領の会談が行われました。政府は領土問題交渉進展の展望が出てきたという雰囲気を振りまきました。具体的な事実関係が明確でないのは毎度のことで、今回も関係者の自己PRだけなのかと思ったら、どうやら本気らしいのです。
 日本政府が繰り返しロシアに申し入れて来たプーチン首相の訪日が5月に実現するというので、関係者は興奮しているようです。プーチン首相は北方領土返還問題に関して譲歩案をもってくるという話のようです。何か根拠があるはずですが、その点はまだ秘密なのでしょう。
 大統領として2005年11月に訪日した際にプーチンは、ロシアによる4島領有は国際法上、実質的にも形式上も完璧であり、日本との間でなんらの合意文書を結ぶ必要も、ロシアとしてはまったくない、と日本側に伝えました。平和条約締結交渉の継続には同意するし、島の返還についても56年共同宣言のロシア側解釈の線でなら含みを残すという姿勢だったと思いますが、4島領有に何の追加文書も必要ないという「法律論」は、それ以前のロシア政府の立場から大きく後退しています。なぜかその人物が譲歩を提案するために日本にやってくるというのです。
 もしも本当に北方領土問題で進展があれば、一番喜ぶのはたぶん麻生首相でしょう。ホワイトハウスに呼ばれた後も支持率は一向に改善せず、もはや沈没必至といわれている政権が一気に生き返るかもしれないのですから。これはプーチン首相から救命浮輪を投げてもらうようなものです。
 外交の秘密は当局に任せて、ここでは、プーチン首相を巡る最近の状況を観察してみましょう。(月出皎司)


エネルギー産業の話題
ヤマル半島のガス鉱床開発状況

 ロシアは世界最大の天然ガス埋蔵量を誇る国ですが、これまで本コーナーでも何度か触れてきたとおり、その生産基盤は磐石とは言いがたいのが実情です。今回は、そうした観点から大きな焦点となるヤマル半島でのガス鉱床開発状況についてご紹介いたします。


自動車産業時評
2008年のロシアのトラック生産・販売状況

 2006年と2007年は建設ブームや農業分野での投資の活性化といった好材料が重なり、ロシアのトラックの生産ならびに販売台数は大幅に伸びました。2008年も上半期は好調でしたが、9月の世界的金融危機以降は需要が極端に落ち込み、通年の生産台数は前年比11%減の25万7,516台にとどまっています。
 今回は、秋以降の状況に力点を置きつつ、2008年の主要純国産トラックメーカー別の生産・販売状況、ならびに、外国ブランド車の現地生産の状況をご紹介いたします。


ロシアビジネスQ&A
ロシアの医療機器ビジネス

 メドベージェフ大統領とプーチン首相は国民生活の向上を目指すため、教育、保健、住宅、農業の4つの分野を国家優先プロジェクトに定め強力に推し進めてきました。特に保健分野は他のプロジェクトよりも予算規模が大きく、外国の医療機器メーカーにとってロシアを魅力的な市場にしています。経済危機の最中にあっても、プロジェクトが継続して実施される可能性が高いと見られています。
 今回はロシアの医療機器市場についての質問に答えします。