ロシアNIS調査月報
2010年1月号
特集◆ロシア・NIS経済と外国投資
特集◆ロシア・NIS経済と外国投資
調査レポート
ロシアの対ウクライナ投資の国際政治経済学
調査レポート
ロシア石油ガス分野への外国投資
ビジネス最前線
ドイツ流・我慢のロシアビジネス
ミニレポート
ロシアのファストファッション市場と外資
ミニレポート
『世界投資報告書』を紐解く
エネルギー産業の話題
カザフにも積極進出する中国石油会社
自動車産業時評
ルノーの対AvtoVAZ投資の行方
データバンク
カザフの外国投資受入と外資参加企業
ドーム・クニーギ
赤羽・夏目・日高編著『グローバリゼーションと経営学』

調査レポート
ドイツ産業界が進めるロシアビジネス支援
イベント・レポート
第1回日本カザフスタン経済官民合同協議会
研究所長日誌
東西冷戦終結から20年が経過して
クレムリン・ウォッチ
2009年教書・進めロシア!…ゆっくりと
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアにおけるフランチャイズ・ビジネス
データバンク
2009年1〜9月の日本の対NIS主要国貿易統計
業界トピックス
2009年11月の動き
◆製本機の太陽精機がウクライナに販社
◆音響機器TOAがロシアに拠点
2009年1〜10月の通関統計


ロシアの対ウクライナ投資の国際政治経済学

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
1.ロシアの対CIS諸国投資
2.統計的分析
3.政治力学と直接投資の展開
4.主要セクターの状況
結びに代えて


はじめに
 筆者は、ロシア連邦国家統計局の発表する外国投資(対内および対外投資)の統計資料を整理のうえ、それにつき解説するレポートを毎年執筆し、本月報に掲載している。ロシアをめぐる外国投資は読者の中心的な関心事のはずであり、ロシア統計当局がそれに関して発表している公式統計を読者に紹介することは、我々の基本的な責務であるという認識からである。
 ただ、ロシア統計局による外国投資の統計は、規模および中味の両面で、精度に難がある。公式統計を参照することは、一次的接近としては不可欠な作業であるものの、それだけでは現実を把握することはおぼつかない。より多様なソースから情報を補って、公式統計を補足したり批判的に検証したりしなければ、かえって誤った印象を読者に与えてしまうことにもなりかねない。筆者は、これまで自分のそうした努力が充分でなかったと、反省している。
 本稿では、そうした反省も踏まえ、ロシアをめぐる外国投資の状況をよりリアルに把握する試みの一環として、近年とみに増大しているロシアの対外直接投資(つまりロシアから外国への直接投資)に関する研究を試みる。具体的には、ロシアの対CIS(独立国家共同体)諸国投資、とりわけウクライナ向けの投資に着目し、その実像に可能な限り迫るとともに、国際政治経済学の立場から考察を加える。
 まず第1節では、ロシアの対外直接投資が脚光を浴びるに至った経緯を振り返り、先行研究を紹介しつつ、ロシアの対CIS諸国投資の特殊性や主な論点について総論的に論じる。
 第2節では、ロシアの対外投資、とりわけウクライナ向けの投資を、統計的に把握・分析することを試みる。あわせて、ウクライナ側の統計も吟味する。
 第3節では、先行研究に依拠しながら、ロシアの対ウクライナ投資をめぐって、これまで両国の政治・経済がどう展開してきたかを、叙述することにする。
 第4節では、鉄鋼業、石油精製、港湾という3つの産業セクターを取り上げ、ロシアの対ウクライナ投資のケーススタディを行う。
 最後に、議論を総括するとともに、ウクライナのEU(欧州連合)加盟の問題とのかかわりについて若干論及することにする。


ロシア石油ガス分野への外国投資

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.石油ガス分野の外国投資受入状況
2.なぜオフショアからの投資が多いか
3.ロシア石油分野への外国投資の事例
4.ガス分野における外資系企業の動き
おわりに

はじめに
 本稿執筆のために資料を読み込んでいくなか、筆者には2つの大きな疑問が生じた。
 ひとつは、ロシア全体について言えることだが、ロシアの石油ガス分野においてもいわゆるオフショアからの外国投資の受入額が非常に多くなっているが、なぜそのような事象が生じているのかという疑問である。
 もうひとつは、統計上の数字が示しているのはいわば虚像であり、ロシアの石油ガス分野への外国投資の「現実」は別のところにあるのではないかという疑問である。
 本稿の前半部分では、最初の疑問に対する筆者なりの答えを導き出すことを試みる。すなわち、ロシア連邦国家統計局の数字を基に、オフショアからのロシアの石油ガス分野への投資の大きさを検証すると同時に、オフショアからの投資受入額の多さの背景にある事情の考察を試みる。また、後半部分では、ロシアの石油ガス分野における主な外資による投資の具体例をできるだけ多く紹介することにより、統計上の数字からは見えてこない、ロシアの石油ガス分野における外国投資の「現実」に迫りたいと考えている。


ビジネス最前線
ドイツ流・我慢のロシアビジネス

泣宴塔Nセス モスクワ
CISマーケティング&ロジスティクス部長
マルティン・アスムートさん

はじめに
 ドイツの特殊化学品メーカー、ランクセス(LANXESS)は2009年3月にモスクワの販売子会社、有限会社ランクセス・モスクワを設立し、高性能ゴム、化学品、プラスチック製品等の販売活動を始めました。経済危機の影響で需要が停滞しているなか、ロシアへの投資を決行したわけですが、その決断を支えたのは、長い目で見たロシア市場の大きな可能性。今回は同社がオフィスを構えるモスクワのコンフェデレーションタワーにお邪魔し、お話を伺いました。


ミニレポート
ロシアのファストファッション市場と外資

はじめに
 2008年秋のリーマンショック以降、ロシアの消費市場は全般的に低調であるが、衣料品市場、中でも特にファストファッション部門では危機をチャンスと捉える外資が活発な動きを示している。たとえば、GAPが2008年春にロシア市場への進出の意向を表明しモスクワに店舗を開店した他、2009年3月にはH&Mもモスクワに2店舗を開店しロシア進出を果たした。さらに、日本のファーストリテイリング(ユニクロ)もロシア進出の準備をしているといわれている。その他、それらの外資を迎え撃つロシア資本の企業も活動を活発化させている。以上の状況を踏まえ、本稿ではロシアの衣料品市場の現状と、ファストファッション部門における内外資本の投資状況について紹介する。(坂口泉)


ミニレポート
『世界投資報告書』を紐解く

はじめに
国連貿易開発会議(UNCTAD)は、『世界投資報告書(World Investment Report)』と題する報告書を刊行している。これは、同機関が全世界の外国直接投資(FDI)、M&Aおよび多国籍企業の動向を分析し、毎年9月に発表しているものである。定型的な統計分析に加え、毎年一つの特集テーマが選ばれ、そのテーマに関する掘り下げた分析も披露される。
同報告書は、国際的な投資活動を把握するうえでのバイブル的な資料として、広く利用されている。そこで、この小レポートでは、『世界投資報告書』のシリーズを紐解きながら、そこで示されているロシア・NIS諸国の対内・対外直接投資の動向について吟味してみることにしたい。なお、本稿は当会『ロシアNIS経済速報』2009年9月25日号(No.1474)に掲載した「『世界投資報告書 2009』を読む」に、加筆を施したものである。


エネルギー産業の話題
カザフにも積極進出する中国石油会社

  カザフスタンの石油分野では、外資系の石油会社が数多く活動していますが、最近はとくに中国企業のプレゼンスが高まっています。別稿「ロシア石油ガス分野への外国投資」のなかで、中国石油企業のロシアへの進出状況について詳しく解説しましたが、本コーナーではそれを補足すべく、中国系石油企業のカザフスタンへの進出状況と、2009年上半期の活動ぶりをご紹介いたします。情報の出所はすべて、『石油ガス垂直統合』誌(2009.No.20)です。


自動車産業時評
ルノーの対AvtoVAZ投資の行方

  ルノーは、ロシア最大の純国産乗用車メーカー「AvtoVAZ」の株式の25%を保有しています。ロシア向け投資で、グリーンフィールド方式を選好する外国自動車メーカーが多いなかで、ルノーの対AvtoVAZ投資は、異彩を放つ事例と言っていいでしょう。ただ、周知のとおりAvtoVAZは現在非常に厳しい財務状況下に置かれているだけに、ルノーの今後の対応振りが注目されるところです。
 そうしたなか、ルノーのロシア支社のクリスチャン・エステフ社長が、2009年11月9日付の『ヴェードモスチ』紙のインタビューに応じ、AvtoVAZおよびロシア市場におけるルノーの今後のプランに関し具体的に語っているので、今回はその要旨をご紹介いたします。


データバンク
カザフの外国投資受入と外資参加企業

はじめに
 このコーナーでは、カザフスタンの外国投資受入状況と、同国における外資参加企業(合弁企業および100%外資企業)の設立・活動状況に関する統計を図表にまとめてお伝えする。情報源は、カザフスタン共和国統計庁と同国中央銀行のウェブサイトである。


ドイツ産業界が進めるロシアビジネス支援

ロシアNIS経済研究所 調査役
芳地隆之

はじめに
 先般、ドイツのロシア経済の専門家と意見交換をする機会を得た。ドイツはロシアにとっての最大の貿易パートナーであり、両国の貿易高は、2000年代に入ってから、毎年、最高記録を更新してきた。しかしながら、2008年秋の世界的な経済・金融危機以降は激減し、現状は非常に厳しい。にもかかわらず、ドイツの専門家たちは対ロビジネスの将来については楽観的であった。本リポートでは、大手企業の対ロ・プロジェクトを推進する立場、独ロ経済関係を大局的に見る立場、そして中小企業のロシア進出をサポートする立場から、ドイツ経済界が進めている対ロビジネス支援について報告したい。


イベント・レポート
第1回日本カザフスタン経済官民合同協議会

はじめに
 2009年10月22日、カザフスタン共和国アスタナにおいて、「第1回日本カザフスタン経済官民合同協議会」が開催されました。主催は、経済産業省、外務省、日本カザフスタン経済委員会、私ども(社)ロシアNIS貿易会、そしてカザフスタン共和国エネルギー・鉱物資源省です。
 これまで、日本とカザフスタンとの間では、民間を主体とする日本カザフスタン経済委員会が、カウンターパートであるカザフスタン日本経済委員会(主として官にて構成)と過去9回にわたり合同会議を開催し、協議を重ねてまいりましたが、2008年6月ナザルバエフ大統領訪日の際に、上述のメカニズムを両国の官民の代表の関与を得て、より充実させることが両国首脳間で合意されました。これを受け、日本カザフスタン経済合同会議に日本側の官(経済産業省、外務省、政府関係機関)が正式参加することにより「官民合同の枠組み」を立ち上げることで関係者が基本的に合意し、今回、第1回経済官民合同協議会が開催されるに至りました。 日本から石毛経済産業審議官、高島日本カザフスタン経済委員会会長ほか、政府機関および商社、メーカー、銀行等などから約90名、カザフスタン側からマガウオフ・カザフスタン共和国エネルギー・鉱物資源省次官ほか産業貿易省などから約50名、合計約140名が参加しました。
 会議の全体会合では、カザフスタン経済および二国間関係、協議会の枠組み、アクションプラン、ウランやレアメタルに関する事業展開について報告され、その後の4分科会では、貿易投資環境整備、資源開発協力、産業育成、投資拡大へ向けた協力についてさらに踏み込んだ報告と意見交換が行われました。別掲プログラムご参照ください。
 会場はカザフスタン外務省。開催の前日には、夏井駐カザフスタン日本国特命全権大使主催による懇談会が、会議終了後には、カザフスタン側主催レセプションが開催されました。また、翌日には企業視察が行われました。
 以下では、まず、経済産業省の原室長による本協議会の開催趣旨、成果についての寄稿を掲載し、後節では、本協議会事務局を担当したロシアNIS貿易会より、開催概要についてご報告申し上げます。


クレムリン・ウォッチ
2009年教書・進めロシア!…ゆっくりと

  9月にメドヴェージェフの論文『進めロシア!』という形で予告編が出ていた2009年度大統領教書が11月12日に発表されました。 全体的な印象は、9月論文の特徴だった大胆な思想的表現が減って、実務的な口調が強まったこと。昨年度の教書に憲法の一部改正という目玉があったこととの比較で言えば、かなり地味な教書とも言えます。今年の主題は「経済の近代化」で、記述の大半は産業の近代化に関するある程度具体的な議論に費やされています。(月出皎司)


ロシアビジネスQ&A
ロシアにおけるフランチャイズ・ビジネス

  モスクワのみならず、ロシアのどこへ行っても、巨大なショッピングモールが開発されています。中に入ってみると、明るい内装、品揃え豊かな店舗、美味しそうなファーストフードやレストラン、楽しげなアミューズメント施設があり、一日中そこで過ごしていても飽きることがありません。でもよく見ると、そこに入っている店舗は、どのショッピングモールでも似たり寄ったりです。ロシアでは多くの企業が多店舗展開をしていますが、お客の立場では、それらの店舗が直営店なのかフランチャイズ・チェーン店なのか区別がつきません。 そこで今回はロシアのフランチャイズ・ビジネスを取り上げてみたいと思います。