ロシアNIS調査月報
2010年5月号
特集◆2010年代を迎えた
日ロ経済関係
特集◆2010年代を迎えた日ロ経済関係
調査レポート
ロシア経済の動向
―世界金融危機の影響と回復過程
調査レポート
ロシアの長期エネルギー戦略
調査レポート
2009年の日ロ貿易
―経済危機に翻弄された1年を超えて
調査レポート
2025年までの極東バイカル発展戦略
調査レポート
ロシア株式市場の動向と見通し
調査レポート
販売減も先行投資続くロシアのトラック市場
ビジネス最前線
ロシアでの建材流通ルート確立に向けて
研究所長日誌
新たな展開が期待される日露経済関係
―ペレストロイカから25年
データバンク
ロシアの鉱工業・農林水産業の品目別生産高
(1990〜2009年)
データバンク
2009年のロシアの石油産業

ドーム・クニーギ
宇都宮徹壱著『フットボールの犬 ―欧羅巴1999-2009』
クレムリン・ウォッチ
統一ロシア党批判の背景に2012年がある
エネルギー産業の話題
ロシア国営石油会社の随伴ガス有効利用
自動車産業時評
ロシアの電装・電子部品メーカー
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアにおける債権回収の手段
業界トピックス
2010年3月の動き
◆日本食ロシアマーケットセミナー
◆青森県のモスクワ市場開拓調査
通関統計
2010年1〜2月の日本の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績


ロシア経済の動向
―世界金融危機の影響と回復過程―

北海道大学スラブ研究センター 教授
田畑伸一郎

はじめに
1.2009年のGDPの大幅減少
2.資金繰りの悪化
3.財政の動向
4.2010年の展望
5.中長期の経済見通し

はじめに
 2009年におけるロシア経済の落ち込みは、大方の予想を超えるものであった。ロシアにとって今回の経済危機は元々外部からの要因によるものであったが、ロシアのなかで危機が増幅されたことには、ロシアに固有の事情があったことになる。そうした事情としては、資金繰りの悪化という問題が重要であったと考えられる。そのようななかで、2009年には財政の状況もそれまでとは一変した。
 一部の鉱工業部門の生産や投資などについては、未だに大幅な減少が続いているが、2009年第4四半期頃にはロシア経済は最悪期を脱し、回復過程に入っている。本稿では、今年とさらに中長期のロシアの経済見通しにも触れてみたい。


ロシアの長期エネルギー戦略

欧亜総合研究所 代表
杉本侃

はじめに
1.「2020年戦略」の想定と実態の鋏状乖離
2.「2030年戦略」の特徴
3.「2030年戦略」の概要

はじめに
 2009年11月13日に、ロシア政府は2030年までを対象期間とするエネルギー戦略(「2030年戦略」と称す)を採択した。2003年8月に2020年までを対象期間とする戦略(「2020年戦略」と略称する)が作られているので、6年ぶりに、対象期間の延長を伴う改定が行われたことになる。
 「2020年戦略」は、充分な検討を重ねて策定されたが、採択後、「戦略」を取り巻く環境に想定を超える変化が生じて、前提条件や投入要素が陳腐なものになり、ガイドラインとしての意味が薄れてしまった。
 もっとも、「2020年戦略」が想定した条件や要素は、決して当時の現実を無視したものではなく、現実から乖離しない控え目なものであったと言える。「2030年戦略」が策定されることになった背景には、前戦略採択から5年以上が経過し改定の時期を迎えていたことが根底にあり、それに当たって、油価上昇やロシア経済成長などの実勢が予想を遥かに上回る動きを示していたことから、それを考慮した新たな方向性を示すことになったものである。
 なお、「2030年戦略」は、当初2008年に策定を完了させる前提で作業が進められており、同年11月に政府によって承認された案が、翌2009年1月に最終承認される予定であった。しかるに、米国を震源とする経済危機が世界経済に及ぼした影響を受けて、内容の一部の見直しが行われ、それに伴って、ほぼ1年遅れで採択・発表の運びとなったものである。
 「2030年戦略」は、以下に紹介する如く、これまでのこの種のプログラムに比べると、生産高などの予測値や時間的要素が弾力性に富んだものとなっているので、前提条件などの変化に対する受容度が大きいと言える。


2009年の日ロ貿易
―経済危機に翻弄された1年を超えて―

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 例年どおり、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2009年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。当会ではすでに、『ロシアNIS経済速報』2010年2月15日号(No.1487)において、2009年の日ロ貿易を速報値で紹介済みだが、本レポートでは確定値を掲載するとともに、より詳しいデータと解説をお届けする。


2025年までの極東バイカル発展戦略

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
S.レオーノフ

はじめに
1.発展戦略の採択と背景
2.発展戦略の目標とシナリオ
3.インフラ部門の発展課題
4.地域別の発展課題
5.産業別の発展課題
6.北東アジア諸国との国際協力
7.戦略の成果

はじめに
 2009年12月28日、ロシア政府によって「2025年までの極東バイカル地域の社会経済発展戦略」が承認された。同戦略はロシア全体の発展戦略にあたる「2020年までのロシア連邦の長期社会経済発展コンセプト」(2008年11月17日ロシア政府承認)を上位文書とし、その方針に準じて極東バイカル地域における長期発展政策の基本理念や指針を示したものである。
 これまで、この手の文書では、地域を括る範囲として、バイカル湖以東の「極東ザバイカル地域」、すなわち極東連邦管区とブリヤート共和国、ザバイカル地方(旧チタ州+旧アガ・ブリヤート自治管区)が対象とされてきた。だが、今回の戦略では、それにイルクーツク州が加えられ、「極東バイカル地域」となったことに大きな特徴がある。
 すでに検討が始まっている「2014〜2018年の極東ザバイカル発展連邦課題プログラム」では、今回採択された「極東バイカル発展戦略」の基本方針に沿って、具体的プロジェクトや予算措置が決められることとなる。
 同戦略採択後、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のレオーノフ研究員にその要旨をまとめていただいたので、本号ではそれをご紹介することとしたい。(編集部)


ロシア株式市場の動向と見通し

ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所 主任研究員
V.シュヴィトコ

はじめに
1.金融危機に至るまでのロシア株式市場
2.「ロシアの金融市場の2020年までの発展戦略」と株式市場の見通し
3.2008〜09年金融危機の打撃
4.ロシア経済の回復と株式市場の復調
5.最近の景気動向と株式市場の課題

はじめに
 2008〜2009年に世界の主要経済国に起こった金融市場の不安と経済不況は、ロシアの証券市場、とりわけ株式市場にとって大きな試練となった。安定成長のパターンが崩れ、市場の方向性が不透明で将来への不安が高まる時、外国の短期資本が急激に引き揚げ、国内金融部門の後進性と脆弱性が表面化し、真っ先にその犠牲となるのは、当然のことながらリスクのより高い新興国市場である。今回の危機も例外ではなかった。サブプライムローン問題をはじめ、米国に端を発した今回の金融不安は、先進国経済よりも、国際資本主義経済の周辺とも呼べる新興市場にこそ打撃を与えた。2008年後半のロシアの株価下落はあまりにも深刻で、実体経済に及んだ影響もBRICs諸国の中で最も大きかったと見られている。また、株取引高の減少幅やその後の市場変動の幅が異常と言えるほど大きく、ロシア株式市場の未成熟性を露呈したように思える。
 本稿では、金融危機に至る前史やその基本的特徴を含めて、ロシアの株式市場の背景、環境、並びに今後の見通しについて論じてみたい。


販売減も先行投資続くロシアのトラック市場

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.登録台数と生産をめぐる状況
2.市場の状況
3.輸入の状況
4.主な純国産メーカーの現状
5.外国ブランド車の現地生産
おわりに

はじめに
 乗用車市場の拡大フェーズの始まりとほぼ時を同じくして、トラックの販売台数も2003年頃から徐々に増加し始め、その傾向は2008年夏頃まで続いた。しかし、2008年秋のリーマンショック以降、トラック市場は乗用車市場よりもさらに大きな落ち込みを記録し、2009年のトラック販売台数は前年比で72%も減少してしまった。2010年に入ってからも厳しい状況が続いているが、外資はロシアのトラック市場のポテンシャルを高く評価しており、同市場への関心をむしろ強めつつある。
 たとえば、経済危機にもかかわらず、ダイムラーはロシアの大手トラックメーカー「KAMAZ」の株式10%を2008年末に買収した他、2009年11月にはKAMAZとの間に2つの合弁企業を設立した。そのうちの1つでは、三菱ふそうの小型トラックが生産される予定となっている。
 また、カルーガに現地工場を保有するボルボ・トラックスは最近になり、「輸入在庫が一掃されたので現地工場での生産を強化する」との意向を表明している。このような先行メーカーの積極的な動きに触発されるような形で、進出がやや遅れ気味の外国メーカーの間でもロシア市場に対する関心が最近になり急激に高まっている。
 以上の状況を踏まえ、本稿では外資の動きに焦点をあてながら、ロシアのトラック市場の現状を紹介する。


ビジネス最前線
ロシアでの建材流通ルート確立に向けて

JKホールディングス
海外事業室 主任
首藤要介さん

はじめに
 住宅関連企業103社をグループ傘下に置く持ち株会社、JKホールディングス株式会社がウラジオストクに海外9拠点目となる現地法人(Rus Interra)を設立しました。同社の初代社長に就任するのが今回、ご登場いただく首藤さんです。駐在員事務所ではなく、現地法人にしてほしい――ロシア赴任の条件としてこう会社に主張したという首藤さんは、若くてエネルギッシュ。ウラジオストクを拠点に、ばりばり働く姿が目に浮かびます。新たな市場参入者として、日本の高品質の建材をどのように売っていくか。現地赴任を前にした首藤さんに語っていただきました。


クレムリン・ウォッチ
統一ロシア党批判の背景に2012年がある

  このところ統一ロシア党に対する批判が強まっていますが、その裏にはかなり複雑な事情があるようです。(月出皎司)


エネルギー産業の話題
ロシア国営石油会社の随伴ガス有効利用

  ロシアでは、2009年1月の政府決定により、2012年までに随伴ガス有効利用率95%を達成できなかった石油会社には、巨額の罰金が課せられることになっています。本稿では、ロスネフチとガスプロムネフチの随伴ガス有効利用の現状についてご紹介いたします。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシアの電装・電子部品メーカー

  今回は、ロシアの主要な電装・電子部品メーカーの概要をご紹介いたします。具体的には、TANDEM社、PRAMO社、Elektrom社、SOATE社、アフトエレクトロニカ社、アフトプリボール社、Pegas社、ELARA社、マルチトロニクス社、アルトニカ社、アフトエレクトリカ社、オルビタ社を取り上げます。(坂口泉)


ロシアビジネスQ&A
ロシアにおける債権回収の手段

 従来、ロシアにおいては、支払いの滞った取引先から有効に債権を回収する方法がありませんでした。ところが、昨年2009年に法律が改正され、担保制度が新しくなり、債権保全の有効な手段となることが期待されています。 そこで今回は、ロシアの新しい担保制度とその活用方法について、ロシアと旧ソ連諸国の税務・法務・会計にくわしい株式会社ミナト国際コンサルティングの代表取締役で公認会計士の上村雅幸さんにお答えいただきます。