ロシアNIS調査月報
2010年6月号
特集◆NIS諸国と対外経済関係
特集◆NIS諸国と対外経済関係
調査レポート
2009年のNIS諸国の経済トレンド
調査レポート
ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの関税同盟
調査レポート
試練にさらされるNIS諸国の乗用車市場
ビジネス最前線
ウズベク経済発展の鍵を握る日本企業
データバンク
2009年のNIS諸国の経済統計
データバンク
2008〜2009年のNIS諸国の貿易統計
データバンク
NIS諸国の外国投資受入統計
データバンク
2009年の日本の対NIS諸国貿易統計
エネルギー産業の話題
カザフとウズベクの石油下流部門
ドーム・クニーギ
宇山智彦・クリストファー・レン・廣瀬徹也編著
『日本の中央アジア外交 ―試される地域戦略』

研究所長日誌
日露戦争時のロシア人捕虜の扱い
クレムリン・ウォッチ
軍事ドクトリン改訂と新START条約締結の背景
自動車産業時評
2009年のロシアのバス生産
ロシアビジネスQ&A
◎為替変動リスクへの対処
業界トピックス
2010年4月の動き
◆中央アジアの人材に注目するペリーレッド
通関統計
2010年1〜3月の日本の対ロシア・NIS諸国輸出入通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績


2009年のNIS諸国の経済トレンド

ロシアNIS経済研究所

はじめに
 本誌では毎年6月号において、前年のCIS諸国の経済実績を踏まえつつ、各国の最新の経済動向について論評するという企画をお届けしている。本年も2009年のデータがほぼ出揃ったので(経済統計は「データバンク」のコーナー参照)、早速それを試みたい。
 ただし、2009年にはCISからグルジアが脱退するという新たな動きがあった。CIS統計委員会の刊行物やウェブサイトにも、グルジアの最新データは掲載されなくなってしまった。とはいえ、本誌読者の皆様にとって、グルジアは引き続き一定の関心事のはずであり、本企画からグルジアを外す理由もない。そこで、本年からは「NIS諸国の経済」とタイトルを変え(NISであれば当然グルジアも含まれる)、CIS諸国にグルジアも加えた形で、経済情勢のレビューをこれまでと同様にお伝えすることとしたい(『ロシアNIS経済速報』2010年4月15日および4月25日号より再録)。
 執筆は当会ロシアNIS経済研究所のスタッフによるものであるが、ロシアについては北海道大学スラブ研究センターの田畑伸一郎教授にとくにご寄稿いただいた。


ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの関税同盟

みずほ総合研究所 主任研究員
金野雄五

はじめに
1.3か国関税同盟形成までの経緯
2.関税同盟の現段階と完成までのスケジュール
3.関税同盟形成による影響
4.今後の展望

はじめに
 ロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3か国の大統領は2009年11月27日、関税同盟のスタートに関する一連の共同文書に調印した。そしてこれらの共同文書に基づき、2010年1月1日から域外国に対して3か国共通の輸入関税率が導入された。
 3か国ではすでに、1990年代半ばに締結された二国間条約によって、相互間の物品の貿易に関して、基本的に輸入関税が適用されない自由貿易地域が実現されていた。このため、2010年初からの共通輸入関税率の導入によって、これまで長らく自由貿易地域に留まってきた3か国の経済統合は、関税同盟という次なるステージに向けて大きく前進したとみなされる。
 他方、3か国による共通輸入関税率の導入は、関税率の変更を通じて、当該国の貿易フローに影響を及ぼす可能性がある。また、関税同盟の形成と、3か国が現在加盟を目指しているWTO(世界貿易機関)のルールとの整合性の問題も重要となる。
 そこで本稿では、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンによる関税同盟の概要の整理と、関税同盟の形成による経済・制度的含意に関する考察を行う。まず第1節では、3か国による経済統合のこれまでの経緯を簡単に概観する。第2節では、2010年初から始動した関税同盟の現段階と関税同盟完成までの今後のスケジュールについて検討する。第3節では、関税同盟形成による3か国の貿易フローへの影響について考察する。そして最後に、WTO協定との整合性の観点から、3か国関税同盟の当面の行方を展望する。


試練にさらされるNIS諸国の乗用車市場

ロシアNIS経済研究所 次長
坂口泉

はじめに
1.ウクライナ
2.ベラルーシ
3.カザフスタン
4.ウズベキスタン
おわりに

はじめに
 NIS諸国の乗用車市場でも、リーマン・ショック以降不振が続いている。たとえば、ここ数年市場が急拡大していたウクライナでは、2008年秋のリーマン・ショックの後、新車の販売台数が激減している。また、ウクライナほど極端ではないが、ベラルーシやカザフスタンでも、新車の販売台数が大幅に減少している。
 本稿では、NIS諸国のうち、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタンという4ヵ国を取り上げ、それぞれの自動車産業ならびに乗用車市場の経済危機後の状況を紹介する。その他、ベラルーシとカザフスタンの2ヵ国に関しては、ロシアとの関税同盟創設に伴う乗用車の輸入関税率の変化が両国の乗用車市場に及ぼす影響についても言及したい。


ビジネス最前線
ウズベク経済発展の鍵を握る日本企業

伊藤忠商事梶@ タシケント事務所 所長代行
橋本 英樹さん

はじめに
 4月22日、東京のホテルニューオータニで開催された国際コンフェレンス「日本のパートナーのためのウズベキスタンへの新たな投資チャンス」で、伊藤忠商事が出資する「サマルカンドオートモバイルファクトリー」の紹介をなさった橋本さんに、同社の事業内容、ウズベキスタン経済、さらには中央アジア全体について、様々な視点から語っていただきました。そこから浮かび上がってきたのは、現地工場への技術支援を行ういすゞ自動車、並びに日本とウズベキスタンのパイプ役を担う伊藤忠商事の存在感でした。


データバンク
2008〜2009年のNIS諸国の貿易統計

はじめに
 本誌では、NIS諸国の基礎的な経済データの紹介に努めており、その一環として毎年1回、NIS諸国の貿易データをまとめて掲載することにしている。その際に、これまでは基本的に、CIS統計委員会の統計集『CIS諸国の外国貿易』を情報源として利用してきた。NIS諸国の貿易データを共通の様式で編纂したものとして、同統計集は有用だからである。
 ただし、『CIS諸国の外国貿易』は刊行に時間がかかるという難点がある。2008年の貿易データを採録した『2008年のCIS諸国の外国貿易』の発行は例年以上に遅れ、世に出たのはようやく2010年2月になってからであった(奥付上は2009年発行となっているが、実際に出たのは2010年2月末頃である)。
 以下では、恒例により、『2008年のCIS諸国の外国貿易』にもとづいてNIS諸国の貿易統計を紹介するわけだが、今さら2008年の数字というのはいかにも遅く、編集部としても不本意である。そこで今回は、『2008年のCIS諸国の外国貿易』にもとづき2008年の統計を共通様式で紹介することを基本としつつも、可能な範囲内で2009年のデータも盛り込むことにした。結果的に、様式が不揃いになっているが、ご容赦いただきたい。


データバンク
NIS諸国の外国投資受入統計

はじめに
 CIS統計委員会の統計集『CIS諸国の金融・投資・価格』(2009年) に、同諸国の外国投資の受入状況に関するデータが掲載されている。残念ながらすべての国が扱われているわけではなく、かなり不満の残る内容ではあるが、NIS諸国の外国投資受入データがこのように対比可能な形で示されている資料は貴重なので、本誌でも初めての企画としてこれを紹介してみることにしたい。
 『CIS諸国の金融・投資・価格』には、ロシア、ベラルーシ、モルドバ、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、アゼルバイジャン、アルメニアという8ヵ国の2005〜2008年の外国投資(直接投資・証券投資・その他投資)の受入額が示されている。
 『CIS諸国の金融・投資・価格』で取り上げられていない国のうち、重要国であるウクライナについては、同国統計委のウェブサイトに詳細な情報が掲載されているので、それをもとにまとめた図表を末尾に掲載する。ウクライナの場合には直接投資のみの(つまり証券投資・その他投資が含まれていない)統計であり、またフローではなく受入残高のデータなので、ご注意願いたい。


データバンク
2009年の日本の対NIS諸国貿易統計

はじめに
 恒例により、日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2009年の日本とNIS諸国との貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。日ロ貿易については、すでに5月号に掲載済みである。


エネルギー産業の話題
カザフとウズベクの石油下流部門

 今回はロシアの石油ガス専門誌『石油ガス垂直統合』の各号に掲載されたカザフスタンとウズベキスタンの石油分野の下流部門に関連した記事をもとに、両国の石油精製と石油製品販売の状況をご紹介いたします。 (坂口泉)


クレムリン・ウォッチ
軍事ドクトリン改訂と新START条約締結の背景

 2月に新しい「軍事ドクトリン」が発表されました。自由化、民主化、法治主義の方向を示し、外交ではプーチン時代の強硬な対外姿勢を改めて欧米との協調を指向するメドヴェージェフ大統領が、頑なナショナリズムがいまだに根強いこの分野で、はたして自分の理念を明確にできるかどうかが注目点でした。
 NATOによる国際法侵犯、ロシアの内政への干渉、領土要求、戦略的安定を崩そうとする試み、国連違反の軍事力行使への強い非難など、プーチン外交と変わらない強硬姿勢が打ち出されたという見方もありましたが、浅い読み方だと思います。(月出皎司)


自動車産業時評
2009年のロシアのバス生産

 ロシアのバス市場は2001年頃から拡大に転じましたが、経済危機の影響もあり、2008年、2009年と2年連続で販売が大幅に落ち込みました。また、生産台数の方も減少傾向が続いています。今回は、経済危機が及ぼした影響に留意しつつ、2009年のロシアの主要バスメーカーの生産状況をご紹介いたします。(坂口泉)


ロシアビジネスQ&A
為替変動リスクへの対処

 世界的な経済危機の影響により、2008年後半から2009年にかけて、ルーブルの外国為替レートが急激に下落しました。そのため輸入を手がけるロシア企業の多くに為替差損が発生し、資金繰りに困窮する事態が生じました。そのため、ロシアの外国からの輸入額が急激に減少しました。
 そこで今回は、ロシアとの貿易における為替変動リスクの対処方法について、先月に引き続き、ロシアと旧ソ連諸国の税務・法務・会計に詳しい潟~ナト国際コンサルティングの代表取締役で公認会計士の上村雅幸さんにお答えいただきます。