ロシアNIS調査月報
2011年2月号
特集◆ロシアの地域経済と
産業クラスター
特集◆ロシアの地域経済と産業クラスター
調査レポート
タタルスタンとバシコルトスタンの石油産業
―新首長の下での動き―
調査レポート
ロシア版シリコンバレー「スコルコヴォ」
―上からのイノベーション・クラスター形成―
調査レポート
シベリアの経済発展戦略と産業クラスター
調査レポート
金採掘の町・マガダン
調査レポート
ロシア「鉱山城下町」視察報告
―沿海地方におけるモノゴーラド―
調査レポート
ロシア極東と韓国の経済関係
特別寄稿
危機後のカリーニングラード州経済
ドーム・クニーギ
片桐俊浩著『ロシアの旧秘密都市』
データバンク
2009〜2010年版ロシア地域別投資環境ランキング

イベント・レポート
第4回日露投資フォーラム開催
―ロシアの近代化政策と日ロ協力の可能性―
ビジネス最前線
ロシアの梅酒人気を確立したCHOYAブランド
研究所長日誌
キューバ危機を回避した米ソ首脳の相互信頼
INSIDE RUSSIA
10大ニュースで振り返る2010年のロシア
エネルギー産業の話題
ロシアの企業別の石油化学製品生産動向
自動車産業時評
ロシア・タイヤ業界再編の動き
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道輸送の課題と対応策
ロシアビジネスQ&A
◎極東ロシア地域の水道事業
業界トピックス
2010年12月の動き
◆ロシアNIS諸国でMade by Japaneseを目指す
通関統計
2010年1〜11月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


タタルスタンとバシコルトスタンの石油産業
―新首長の下での動き―

ロシアNIS経済研究所
坂口泉

はじめに
 タタルスタンとバシコルトスタンの石油分野は多くの共通点を有している。たとえば、両共和国とも古くからの産油地域で、上流部門に加え下流部門も非常に発達しており、同分野が共和国の経済の基盤を形成している。また、それぞれの共和国の前大統領一族との密接な関係という共通項もある。さらに、いずれの共和国の石油分野においても、日本企業が強い存在感を示している。
 本稿では、以上列挙した共通点に留意しながら、両共和国の石油分野の上流および下流部門で活動する主要企業の現状を紹介してみたい。


ロシア版シリコンバレー「スコルコヴォ」
―上からのイノベーション・クラスター形成―

ロシアNIS経済研究所
服部倫卓

はじめに
 世界で最も有名な産業クラスターは、おそらく米カリフォルニア州のシリコンバレーではないだろうか。このシリコンバレーを強く意識したハイテクパークが、ロシアに建設されようとしている。数年後にモスクワの近郊にその姿を現すはずのイノベーションセンター「スコルコヴォ」がそれである。
 スコルコヴォでは、@エネルギー効率・省エネ、A核技術、B宇宙技術(とりわけテレコムおよびナビゲーション分野)、C医療技術・医薬品、DICT、という5つの分野のハイテク・クラスターの形成が推進される。米国のシリコンバレーが基本的に自然発生的に形成されたのに対し、ロシアはグリーンフィールドに国家主導でイノベーションセンターを建設しようとしている。そのことは、ロシア経済のイノベーション化の特殊性、困難を物語っている。
 本稿では、イノベーションセンター「スコルコヴォ」が誕生するに至った経緯、法令を中心としたスコルコヴォの要点、運営主体であるスコルコヴォ財団の概要、スコルコヴォをめぐる最新の動きや論争などについて整理する。


シベリアの経済発展戦略と産業クラスター

ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所 主任研究員
V.シュヴィトコ

 ロシア政府は、経済成長や投資を促進する政策を実施するに当たって、様々な方法や手段を取ってきており、国の「インベストメント・イニシアチブ」として宣伝している政策ツールの中には、国際的にもよく使われている各種の「開発機関」(政策融資を行う政府系の金融機関、公的資金を投資に回している公的なファンド(基金)、税制と関税政策で優遇措置を適用している経済特区など)、それにロシアの独特な財政ツール(特定の課題の遂行を図る「目的別」連邦プログラム、投資プログラムなど)が含まれている。その効果や効率の問題は別として、投資を誘致・促進するために、低利の融資または出資を通じて投資に必要な財源を産業に提供する制度・枠組み、並びに機関が複数設置されているわけである。その代表的な例として、ロシア政府の関わる文書によく出てくる「開発対外経済活動銀行(VEB)」、ロシア連邦投資基金、ロシア・ベンチャー・カンパニー(RVK)などがあげられる。また、投資誘致実績が思ったほど上がっていないものの、いくつかの経済特区ならびにテクノパークが活動しており、その中には外資企業が生産拠点を設ける動きが活発化しているところもあると報道されている。
 しかし、最近になって、メドヴェージェフ大統領をはじめ、シュヴァロフ第一副首相などロシア政府の高官や経済政策の責任者は、成長促進よりも経済の多様化・多角化、産業構造の高度化を最大の課題としてあげる傾向がみられるようになった。具体的な政策行動はともかくとして、政府などの関係者が公の場で述べる産業政策構想の内容において、力点の置き方の変化が目立っている一方、構造変化をもたらすと期待される産業政策への総合的なアプローチを求める声が高くなっている印象である。また、メドヴェージェフ大統領がよく口にする「モデルニザーツィヤ」のスローガンを、経済や経済政策の側面から考えると、「近代化」よりも「高度化」の意味で述べられていることが多い。
 その背景を考えるに、産業政策のこれまでのパフォーマンスが十分な効果を生み出さなかったという反省もあり、産業政策の枠内でこれまでに設置した制度や機関の焦点を経済構造の高度化に移すべきであるとの政治的要請も窺われる。


金採掘の町・マガダン

ロシアNIS経済研究所
齋藤大輔

はじめに
 「マガダン」。その響きに悲しみを覚える人も多いのではないか。
 首都モスクワから7,000km以上離れた北緯60度の極北に位置するマガダン。ロシアの中でも過疎化が進んでいる地域の1つだ。人口はこの20年間で半分以下に激減した。
 金と銀の大産地で、最盛期には年間80t以上の金を生産した。州だけでなく国の経済を支える。話題のレアアースも豊富に存在する。
 そんなマガダンに、昨年9月と11月の2回にわたり出張した。筆者にとって、6年ぶりの訪問だった。
 街は6年前と変わらず、こぢんまりとしてどことなく寂しげだった。ソ連時代そのままの地名や通りの名称が残り、建物は外壁が崩れかけていた。
 違っていたのは市民の表情だった。そこからは明るさが感じられた。資源高を背景とするロシアの好景気の波がマガダンにも広がっているようだ。
 そこで本稿では、現地でのヒアリングや入手した資料をもとに、金採掘の町・マガダンを概観する。


ロシア「鉱山城下町」視察報告
―沿海地方におけるモノゴーラド―

在ウラジオストク日本国総領事館 専門調査員
諸富学

はじめに
 2010年9月23日〜26日及び29日にかけて、ロシア沿海地方のモノゴーラド(企業城下町)を視察する機会を得た。対象は、カヴァレロヴォ、ダリネゴルスク及びスヴェトロゴリエの3ヵ所であり、それぞれ鉱業を経済基盤として発展した市町村1)である。沿海地方には、鉛、亜鉛、錫、タングステン、チタン等、所謂レアメタルを含む鉱物資源の鉱床が多数存在しており、それら生産物の一部は日本にも輸出されている。希少資源の確保が日本の国家的課題として叫ばれる昨今であるが、同地方における「鉱山城下町」の現状は注目に値するように思われる。また、後述するとおり、モノゴーラドが抱える問題は、ロシア独特の地理・産業構造と密接に結びついており、ロシア経済の実情を知るうえでも興味深いテーマである。
 本稿ではモノゴーラドの概念を軸にカヴァレロヴォ、ダリネゴルスク及びスヴェトロゴリエという各地方自治体の状況を比較し、それぞれの特徴及び課題から所謂モノゴーラド問題について考察を進める。


ロシア極東と韓国の経済関係

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
D.スースロフ

はじめに
 周知のとおり、韓国はロシア市場での重要なプレーヤーであり、とくにロシア極東では、日本、中国と常にしのぎを削る好敵手である。
 この度、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のスースロフ研究員より、ロシア極東と韓国の経済関係に関わる論文を寄稿いただいたので、本号ではそれをご紹介することとしたい。


危機後のカリーニングラード州経済

立正大学経済学部 教授
蓮見雄

はじめに
 2010年1月、カリーニングラードで1万人規模のデモが行われた。EU内に位置するロシアの飛び地で生じた大規模な反政府集会は、クレムリンにとって衝撃であった。デモを主導したギンズブルグ州議会議員によれば、「他のロシア地域と違って、われわれはポーランドやリトアニアと生活条件を比較できる」。クレムリンは、知事交代によって事態の収拾を図ろうとしたが、8月のデモでは約3,000人がプーチン首相の退任を求めた。クレムリンは、この特殊な地域のデモに対して強硬措置をとることができず、反対者の不満に耳を傾ける姿勢を示さざるを得なくなった。
 州全体が経済特区になっているカリーニングラードでは、関税特恵を利用した家電と自動車の委託生産が経済発展を牽引してきたが、これを支えてきた条件が急速に悪化し、2008年から2009年にかけて大量失業が生じた。州政府は危機対策を講じたものの(職業訓練、起業支援、公共事業、中小企業支援など)、2009年の州財政は約25%減少したこともあり、その効果は限られたものだった。
 2010年に入り、カリーニングラード州の経済は急速に回復している。またツカノフ新知事は、2016年に期限切れを迎える関税特恵を2021年まで延長するよう求めている。だが、彼はモスクワでのロビー能力を欠いているため実現は難しく、仮にそれが実現したとしても、ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの関税同盟やロシアのWTO加盟に伴って関税率が下がると予想されることから、関税特恵に依存した発展パターンの継続は困難である。つまり、カリーニングラードは新しい発展の道を見いださなければならないという課題に直面しているのである。
 そこで、本稿では、2009年の経済危機をカリーニングラード経済発展パターンの転換点の契機と捉え、どのような変化が生じているかを明らかにしたい。


データバンク
2009〜2010年版ロシア地域別投資環境ランキング

はじめに
 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2010. 12.20-26, No.50)が、毎年恒例のロシアの地域別投資環境ランキングの最新版(2009〜2010年版)を発表したので、この資料を抜粋して紹介する。


イベント・レポート
第4回日露投資フォーラム開催
―ロシアの近代化政策と日ロ協力の可能性―

ロシアNIS経済研究所
中居孝文

はじめに
 2010年11月12日、東京のホテルニューオータニにおいて、経済産業省、ロシア経済発展省、日露貿易投資促進機構(日本側事務局はロシアNIS貿易会)の主催の下で「第4回日露投資フォーラム」が開催された。
 本フォーラムは、日ロ間の投資協力の促進を目的に2006年9月に第1回が実施されて以来、両国交互にほぼ定期的に開かれている。
 今回の第4回フォーラムは、横浜におけるAPECサミットほか関連行事に絡んでロシアから多数の政府要人や企業幹部が訪日する機会を捉えて実施したもので、ロシア側よりナビウリナ経済発展大臣以下237名(120社・団体・機関)、日本側からは松下忠洋経済産業副大臣ほか企業・政府機関・地方自治体の関係者など364名(122社・団体・機関)、合計およそ600名が参加した。
 以下では、第4回日露投資フォーラムの概要を紹介する。


ビジネス最前線
ロシアの梅酒人気を確立したCHOYAブランド

チョーヤ梅酒梶@海外事業部 主任
稲葉信二さん

はじめに
 ロシアでは梅酒=「CHOYA」として浸透しました。とくに同国では日本食とともに市場に広まり、モスクワに数多ある日本食レストランでは、おしゃれな女性たちがお寿司と一緒に梅酒のグラスを傾ける姿がよく見られます。その一方、梅酒人気に乗じて、日本産梅酒と見まがうようなコピー商品も出回るようになりました。稲葉さんは「CHOYA」ブランドの品質の高さをロシアの消費者に知ってもらうべく、頻繁にロシアへ出張し、啓蒙・販売促進活動や梅酒のバラエティに富んだ飲み方の提案を行っているほか、カザフスタンやウクライナなど、旧ソ連諸国での販路拡大でも奮闘中です。


INSIDE RUSSIA
10大ニュースで振り返る2010年のロシア

はじめに
 今回から始まった新企画、「INSIDE RUSSIA」。ロシアの最新の政治・経済のトピックスを取り上げて、なるべくその背景や内幕に迫るような連載にしたいと考えている。
 第1回目の今回は、10大ニュースで、2010年のロシアを振り返ろうという企画。ロシアのノーヴォスチ通信が毎年暮れに、同国の10大ニュースを発表しており、しかも各ジャンルごとの10大ニュースも出しているので、同国の最近の動きを総括するうえで、非常に便利な資料となっている。そこで、このノーヴォスチ通信の10大ニュースを使って、2010年を回顧してみたい。(服部倫卓)


エネルギー産業の話題
ロシアの企業別の石油化学製品生産動向

 最近、ロシアの石油化学分野に関する当会への問い合わせが多くなっています。そこで今回は、ニジネカムスクネフチェヒムやカウスチク等のロシアの大手石油化学会社の年次報告書に掲載されている情報をベースに、いくつかの石油化学製品の企業別の生産状況をご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシア・タイヤ業界再編の動き

 2010年11月になりロシアのタイヤ業界の再編に向けた動きが明らかになりました。もし計画通りに再編が実施されれば、市場シェアが約60%に達する巨大タイヤ会社が誕生することになります。今回は、この業界再編の動きの具体的内容をご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道輸送の課題と対応策

 先月号に続き、11月に東京で開催された第4回日露投資フォーラムの分科会B「輸送・インフラ:近代化の可能性」における発表の中からテーマを選んで紹介します。今号では三井物産常務執行役員物流本部長の山内卓氏による「TSR(シベリア鉄道)輸送の課題と解決策」と題する報告の要旨に、直近の関連情報を付け加え構成しました。グラフは各港湾の内部資料及び公表資料にもとづいて作成しました。(辻久子)


ロシアビジネスQ&A
極東ロシア地域の水道事業

 昨年、新聞各紙で東京都や名古屋市、北九州市などいくつもの日本の地方自治体が、東南アジアや中東諸国に対して水道事業の売り込みを積極的に行っていると報じられました。
 日本の水道技術とその運営にあたる水道事業者の管理能力は、世界最高水準にあると高く評価されています。世界全体の水ビジネスの市場規模は2025年までに100兆円に達すると言われていますが、これまで日本は機器や資材などの納入実績はあるものの、プラント建設から管理運営など総合的な水道事業の受注までには至っていません。ロシア政府が日本の参入を求めた投資プロジェクトに水道事業が含まれており、ロシアにおける水ビジ ネスの展開に期待がかかります。
今回は極東ロシア地域の水道事業についての質問にお答えします。(原真澄)