ロシアNIS調査月報
2011年3月号
特集◆西NIS諸国の情勢
特集◆西NIS諸国の情勢
調査レポート
ヤヌコーヴィチ政権下のウクライナ政財界地図
調査レポート
ウクライナとベラルーシの軍需産業
調査レポート
2010年ベラルーシ大統領選挙
―ルカシェンコ大統領4選の軌跡
調査レポート
モルドバの政権交代と外交政策の転換
ビジネス最前線
変わりゆくウクライナのビジネス環境
ビジネス最前線
ウクライナ乗用車市場は堅実路線へ
特報
ヤヌコーヴィチ・ウクライナ大統領訪日
イベント・レポート
ベラルーシ投資セミナーの開催
自動車産業時評
2010上半期のベラルーシ乗用車市場
ミニレポート
ベラルーシ管理経済の内実
ミニレポート
ウクライナ・ベラルーシ・モルドバの長者番付
ミニレポート
知られざるモルドバの乗用車市場

調査レポート
投資が加速するロシアの電力分野
ビジネス最前線
川重のコージェネ設備がロシア極東を変える
研究所長日誌
ソ連邦が崩壊して20年
INSIDE RUSSIA
民族対立の背景としてのモスクワ不法滞在外国人
ロシア極東羅針盤
太平洋パイプライン開業1年
エネルギー産業の話題
ロシア電力分野における外国企業の動き
ロジスティクス・ナビ
悩める日ロ間定期航路
ロシアビジネスQ&A
◎ .ru ドメインの取得ノウハウ
ドーム・クニーギ
岩ア一郎・鈴木拓著
『比較経済分析 ―市場経済化と国家の役割』
業界トピックス
2011年1月の動き
◆ロシア家電市場における韓国企業のプレゼンス
通関統計
2010年1〜12月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


ヤヌコーヴィチ政権下のウクライナ政財界地図

ロシアNIS経済研究所
服部倫卓

はじめに
 2010年2月7日にウクライナ大統領選の決選投票が実施され、ヴィクトル・ヤヌコーヴィチ氏が大統領に選出されてから、ほぼ1年が経過した。この1月にはヤヌコーヴィチ大統領一行が来日を果たし、3月にはキエフで日本・ウクライナ経済合同会議も開催されるので、改めてウクライナという国に関心を寄せられている向きも多いであろう。そこで本稿では、この1年間のヤヌコーヴィチ/地域党政権の歩み、政権幹部の顔ぶれ、ビジネスと政治権力の関係、基幹産業である鉄鋼業の動向、ロシアとの関係などについて整理し、現下ウクライナの政治・経済体制を鳥瞰図的に描くことを試みたい。なお、固有名詞はウクライナ語風の表記とさせていただく。


ウクライナとベラルーシの軍需産業

高知大学 人文学部
塩原俊彦

はじめに
 本稿では、ウクライナとベラルーシの軍需産業を比較考察する。そのためには、ウクライナとベラルーシの軍事的背景として、軍改革および国防費や武器輸出の推移などについてごく簡単に説明する必要がある。そのうえで、各国の軍需産業について詳しく考察したい。一部の個別企業についても紹介する。とくに、ロシアとの協力関係についても注意を払いたい。なお、ルカシェンコ大統領のもとで情報開示が遅れているベラルーシについては、情報が得にくいと率直に認めなければならない。そのため、比較が必ずしも的確に行えないことをあらかじめ指摘しておきたい。


2010年ベラルーシ大統領選挙
―ルカシェンコ大統領4選の軌跡―

前・在ベラルーシ共和国日本国大使館専門調査員
半田美穂

はじめに
 アレクサンドル・グリゴリエヴィチ・ルカシェンコ(Aleksandr Grigoljevich Lukashenko。1954年生まれ)は、ソ連崩壊後の1994年にベラルーシ共和国の初代大統領に就任した。以来17年という長期にわたり国家元首の座を占め続けている。長期政権そのものは世界的に見れば決して珍しいものではないが、これが「欧州の中心」に存在している以上、西側諸国の関心を惹きつけないわけにはいかない。
 2010年12月19日に行われたベラルーシ大統領選挙では、10人の立候補者の中から現職のルカシェンコ大統領が約80%の高得票率で4選を果たした。本稿では、2010年12月のベラルーシ大統領選挙におけるルカシェンコ大統領4選の軌跡を、同国の社会・政治情勢をふまえて概観する。


モルドバの政権交代と外交政策の転換

静岡県立大学大学院国際関係学研究科 教授
六鹿茂夫

はじめに
ウクライナやグルジアとは対照的に、モルドバ共和国(以下モルドバと略)では色革命(revolution)は起きず、中道右派政権の誕生に向けた漸進的な政治発展(evolution)の道が選択された。2010年11月28日のモルドバ議会選挙で、2001年4月から2期8年にわたって続いた共産政権に終止符を打ち、EU加盟を最優先課題に掲げる第二次「欧州統合連合」(AIE)内閣が成立したことは、その政治発展の成果の賜である。ウクライナとグルジアの色革命が混沌とした状況に陥り、旧ソ連圏の民主化傾向に暗雲がたれ込めているまさにこの時期に、改革志向の親欧米政権がモルドバに誕生した意義は少なくない。
 ウクライナのオレンジ革命は、2004年11月の大統領選挙における大がかりな不正選挙をきっかけに、厳寒の中多数の市民が連日抗議デモに参加することで成就したが、革命の落とし子たるオレンジ連立政権は内紛を繰り返し、2010年2月の大統領選挙で地域党党首ヤヌコーヴィッチに政権を譲り渡した。そして、ヤヌコーヴィッチ政権は経済的見返りと引き替えにロシア黒海艦隊のセヴァストーポリ駐留を25年間延長して2042年まで認める条約を締結したり、NATO加盟を外交目標から外すなど、ロシア寄りの政策に切り替えるとともに、民主化でも後戻りし始めた。他方、2003年末のバラ革命によって誕生したサーカシヴィリ政権は、武力を含む強引な領土保全回復政策の試み、与党政治エリートによる権力の独占と野党に対する強権政治、2008年8月の対ロシア戦争の敗戦などにより国際的信用を失墜した。
 欧米の暖かい視線がモルドバの新政権に注がれ始めたのは、まさにこのような国際状況を反映してのことである。そこで、小論では、モルドバに誕生したAIE政権に焦点をあて、2010年11月の議会選挙結果をモルドバの議会内政治勢力関係の推移の中で位置づけるとともに、同政権の誕生がもたらした外交政策の転換について考察することで、同政権の成否の可能性とその決定要因について考える手掛かりとしたい。


ビジネス最前線
変わりゆくウクライナのビジネス環境

三井物産梶@キエフ事務所
前所長 富田 健司さん

はじめに
 言うまでもなくウクライナのキエフには日本のすべての大手商社が事務所を構えていますが、そのなかから今回は三井物産の富田所長にご登場願い、ウクライナのビジネス事情について語っていただきました。
 富田さんがキエフに赴任されたのは、バブル真っ盛りだった2008年7月のことでした。しかし、その直後にリーマンショックが発生し、その後ウクライナは金融・経済危機、そして大統領選挙、政権交代と激しく揺れ動いてきました。この間の変化を、富田さんはビジネスの現場から、どのように見ておられたのでしょうか? 実は富田さんは2011年1月をもって日本にご帰国になるとのことで、いわば2年半にわたるキエフ駐在を総括していただくインタビューとなりました。


ビジネス最前線
ウクライナ乗用車市場は堅実路線へ

スバル・ウクライナ 社長
滝田振一郎さん

はじめに
 金融・経済危機で大きな打撃を被ったウクライナでは、乗用車販売でも大きな落ち込みに見舞われました。2009年にはウクライナの新車販売は前年から74.0%も落ち込み、お隣のロシアよりもはるかに大きな販売減となりました。果たして、2010年の回復具合は、どうだったのでしょうか? そして今後の展望は?
 そこで、編集部ではキエフ市内にあるスバル・ウクライナの事務所にお邪魔し、滝田社長にインタビューを試みました。ウクライナ乗用車市場の全般的動向、スバル・ウクライナの概要と販売動向、また地域党政権下の変化などについて語っていただきました。総じて言うと、ウクライナの乗用車市場は落ち着きを取り戻したものの、しばらく劇的な伸びは望みにくく、堅実路線で行かざるをえないということのようです。


特報
ヤヌコーヴィチ・ウクライナ大統領訪日

はじめに
 ウクライナのヤヌコーヴィチ大統領と代表団が1月18日から21日にかけて訪日した。この機会を捉え、18日には経団連において「ウクライナ ヤヌコーヴィチ大統領一行との懇談会」が、翌19日にはホテルニューオータニにおいて「ウクライナ投資セミナー」(主催はJETROと国際協力銀行)が開催された。また、日本・ウクライナの政府間および業界で、いくつかの動きがあった。
 ここでは、ヤヌコーヴィチ大統領訪日関連情報を、とりまとめてお伝えする。(服部倫卓)


イベント・レポート
ベラルーシ投資セミナーの開催

はじめに
 2010年11月9日、東京のホテル・オークラにおいて、ベラルーシバンク主催、在日ベラルーシ大使館、ロシアNIS貿易会(ROTOBO)後援の下で、セミナー「ベラルーシの投資・ビジネスの可能性」が開催された。ベラルーシとの間で、投資セミナーが開かれるのは初めて。本セミナーには、ベラルーシ側よりエルマコヴァ・ベラルーシバンク頭取以下、ベラルーシの主要企業の社長および幹部33名(15社)、日本側からは西岡喬ROTOBO会長ほか企業・政府機関関係者など62名、合計およそ100名が参加した。そこで、セミナーの概要を紹介する。(齋藤大輔)


自動車産業時評
2010年上半期のベラルーシ乗用車市場

 ロシアの「アフトビジネス」社より、2010年上半期のベラルーシの乗用車市場に関する情報を入手できましたので、その概要をご紹介いたします。(坂口泉)


ミニレポート
ベラルーシ管理経済の内実

はじめに
 ベラルーシへの国際社会からの批判が強まっている。昨年12月の大統領選での不正と野党勢力への弾圧を批判する欧米諸国は制裁拡大を決め、兄弟国のロシアも是々非々の姿勢に転じた。「欧州最後の独裁者」とよばれるルカシェンコ大統領は、周辺諸国が市場経済に移行する中で、「社会志向型市場経済」とよばれるソ連型管理経済を築き上げてきた。そこで本稿では、管理経済の内実とロシアとの石油・ガス問題について報告するとともに、大統領選についてコメントする。(齋藤大輔)


ミニレポート
ウクライナ・ベラルーシ・モルドバの長者番付

はじめに
 ウクライナの『ジェーラ』誌のウェブサイトに、面白い資料が掲載された。CIS諸国の長者番付である。米『フォーブス』誌の世界長者番付というのは有名だが、『ジェーラ』誌はCIS(ロシア・NIS)諸国に絞った長者番付の作成を試みているわけだ。具体的には、ロシア、ウクライナ、ベラルーシ、モルドバ、カザフスタン、グルジアが対象になっている。ロシアやウクライナについては富豪ランキングの類は珍しくないが、ベラルーシやモルドバとなると、ほぼ前例がないのではないかと思われる。いくつかの雑誌による推計値を寄せ集めた感があり、どこまで厳密なものなのかは定かないが、興味深いことに変わりはない。
 そこで、このコーナーでは、この『ジェーラ』誌の記事のなかから、今号の特集テーマであるウクライナ・ベラルーシ・モルドバの富豪ランキングを抜粋して紹介する。(服部倫卓)


ミニレポート
知られざるモルドバの乗用車市場

はじめに
 モルドバのサイト「MDinto.biz」に、2010年の同国の乗用車販売に関するデータが掲載された。同国の乗用車市場はあまり知られておらず、興味深いところなので、以下でその内容を紹介してみることにする。


投資が加速するロシアの電力分野

ロシアNIS経済研究所
坂口泉

はじめに
 ロシアでは2000年代前半から統一電力システムの分割民営化を軸とする電力分野の構造改革が開始され、21の大規模発電会社(OGK、TGK、ルスギドロ)、FSK(連邦送電会社)、MRSK(地域間送配電会社)等の新会社が誕生した。2008年2月には各OGK、TGK等による新発電ユニットの建設スケジュールを規定した「2020年までの電源開発マスタープラン」が承認された。しかし、その後、電力分野をめぐる状況の変化に伴いマスタープランの見直しが実施され、2010年夏に各OGKおよびTGKの新しい「設備投資(新発電ユニット建設)計画」が発表された。以上の状況を踏まえ、本稿では、各大規模発電会社の新しい計画に沿った設備投資状況を中心に、ロシアの電力分野の現状を紹介する。


ビジネス最前線
川重のコージェネ設備がロシア極東を変える

川崎重工業梶@産業ガスタービン海外営業部
三浦良三さん

はじめに
 モスクワ・エネルギー大学による川崎重工業のコージェネレーション設備のモデルプラント採用から、同社がロシア極東におけるコージェネレーション化プロジェクトへ参画するまでを振り返り、営業責任者としてこれらの案件を進めてきた三浦さんは「(なかなか進まない)ロシア事業は暖めてヒナを返すように」と表現されました。約5年前にロシア市場の開拓を開始以来、ひとつひとつ実績を積み重ねてきた営業活動は、ロシア極東経済発展の鍵となるプロジェクトに結実しようとしています。「(ロシアNIS諸国の市場で)やれることはまだまだある」という三浦さん。今後も頻繁にロシアへ飛び、事業のさらなる拡大を目指す日々が続きそうです。


INSIDE RUSSIA
民族対立の背景としてのモスクワ不法滞在外国人

はじめに
 モスクワ・ドモジェドヴォ空港で1月24日に爆弾テロが起き、36人が死亡、200人近くが負傷する惨事となった。政権当局は事件直後に、チェチェン分離派の犯行という見方は退けたものの、2月初頭現在で「北カフカスのある共和国の20歳の住人が実行犯だった」との見方が有力となっている。いずれにせよ、12月のモスクワ中心部の暴動といい、ロシアにおける民族的ロシア人と非ロシア人の対立、とりわけカフカス地方出身者の問題が、改めてクローズアップされるところだ。
 今回のコラムでは、ロシアおよびモスクワにおけるロシア人と非ロシア人の関係を考える上での手掛かりとなりうるデータを紹介しつつ、ごく簡単に考察を試みたい。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
太平洋パイプライン開業1年

はじめに
 ロシアが膨大な埋蔵量を誇る東シベリアの石油をロシア極東の太平洋沿岸から輸出するプロジェクトをスタートさせてからちょうど1年となる昨年12月28日、出荷量が1,500万tとなり、当初の計画を達成した。その4日後の1月1日には、中国へのパイプラインも稼働を開始し、同じく年間1,500万tの原油輸出を始めた。パイプラインを太平洋沿岸まで延伸させる工事も2013年の完成を目指して急ピッチで進んでいる。エネルギー輸出をテコにアジア太平洋地域に進出するというロシアの戦略が着々と実現している。(齋藤大輔)


エネルギー産業の話題
ロシア電力分野における外国企業の動き

 ロシアでは2011年に入り、個人向け等の一部を除き、電力卸売市場がほぼ全面的に自由化されました。それに伴い、各電力会社の資金力が強化され、設備投資が活性化することが期待されています。そのような流れの中、ロシアの電力分野でのプレゼンスの強化を目指す外国企業の動きが目立ちはじめています。今回は、そのような動きの例をいくつかご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
悩める日ロ間定期航路

 日本と極東ロシアを結ぶ定期航路の利用が低迷しています。日ロ貿易の構造的要因や不況の影響もありますが、貨物を欧州航路や韓国港湾経由に奪われているのも事実です。本稿では同航路の生い立ち、現状及び望まれる姿について解説します。(辻久子)


ロシアビジネスQ&A
.ru ドメインの取得ノウハウ

 ロシア向けにインターネット経由で情報発信しようとする場合、日本国内の既存のウェブサイトにロシア語のページを追加しても十分ですが、YandexやRamblerといったロシアの主要な検索サイトで上位に表示されるようにするには、やはりロシアのインターネット・ドメインを取得した方が有利です。
 今回はロシアのインターネット・ドメインの取得方法についての質問にお答えします。(原真澄)