ロシアNIS調査月報
2011年8月号
特集◆ロシア・NIS諸国の石炭産業
イベント・レポート
沿ヴォルガ経済ミッションの派遣
特集◆ロシア・NIS諸国の石炭産業
調査レポート
日本との接点を強めるロシア石炭産業
調査レポート
ウクライナ石炭産業の概況と課題
エネルギー産業の話題
ロシア石炭産業における諸外国の動き
ロジスティクス・ナビ
ロシアの石炭輸送の諸問題
ロシア首長ファイル
ケメロヴォ州トゥレエフ知事
データバンク
ロシア・NIS諸国の石炭生産量比較

報告
第41回ロシアNIS貿易会通常総会報告
ビジネス最前線
トヴェリ州で担う日立建機の大きな役割
データバンク
2010年のロシアの外国投資統計
データバンク
2010年のロシア極東の経済統計
研究所長日誌
ソ連崩壊を早めた20年前のクーデター失敗
INSIDE RUSSIA
大統領の切り札、モスクワ国際金融センター
ロシア極東羅針盤
好景気で悩む外資導入
自動車産業時評
ロシアの車検制度改革をめぐって
ロシアビジネスQ&A
◎ロシアの自転車市場
業界トピックス
2011年6月の動き
◆前サンクト日本センター所長・朝妻氏が講演
通関実績
2011年1〜5月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


イベント・レポート
沿ヴォルガ経済ミッションの派遣

はじめに
 2011年6月12日から19日にかけて、ロシアNIS貿易会では、「ロシア・沿ヴォルガ経済ミッション」をタタルスタン共和国(カザン市)とバシコルトスタン共和国(ウファ市、ベレベイ市)に派遣した。
 西岡喬会長(三菱重工相談役、三菱自動車会長)を団長、荻村道男副会長(住友商事特別顧問)及び寺岡一憲常任理事(双日副社長)を副団長とする同ミッションには、商社、メーカー、政府機関等から28名が参加した。
 タタルスタンではミンニハノフ共和国大統領、バシコルトスタンではハミトフ共和国大統領を表敬し、日本とのビジネス交流の促進について意見交換を行った。また両共和国において地元政府関係者や主要企業の代表の参加を得て貿易投資セミナーを開催し、両地域の経済・投資環境や主要プロジェクトの把握に努めるとともに、両共和国の代表的な企業を訪問し、視察を行った。
 以下では、ロシア・沿ヴォルガ経済ミッションの結果概要を紹介する。(中居孝文)


日本との接点を強めるロシア石炭産業

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ロシアの石炭生産量はソ連解体後、一時激減したものの、10年ほど前から回復に転じ、生産の好調さは今も続いている。また、輸出量もその頃から急増しており、国際市場における同国のプレゼンスは強まっている。それに伴い、石炭の調達源の多様化を目指す日本のロシア石炭分野への関心が高まっていたが、最近は逆方向の動き、すなわち、ロシア石炭分野の日本市場への関心の度合いの高まりも顕著になりつつある。さらには、ロシアの石炭会社が日本の鉱山機械を以前にも増して積極的に購入する事例がこのところ目立ち始めている。東日本大震災の影響もあり、石炭分野での日ロ間の交流の拡大と深化がさらに加速する気配が濃厚になりつつあると見てよいのではなかろうか。
 しかるに、ロシアの石炭分野の最新の動向を鳥瞰図的に紹介する資料は乏しく、そのことが同分野における日ロ間協力の進展に否定的影響を及ぼす可能性も排除できない。
 以上の状況を勘案し、本稿では、パートナーとしてのロシアの石炭分野のポテンシャルを評価する上で、必要不可欠となる同分野に関する基礎情報を紹介する。


ウクライナ石炭産業の概況と課題

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 石炭産業は、ウクライナの最重要産業の一つである。それは、つい最近までこの国に「石炭産業省」という専門の省が設けられていた事実からも、明らかである(2010年12月の省庁再編で、燃料・エネルギー省と石炭産業省が合併し、エネルギー・石炭産業省となった)。また、石油ガスを輸入に依存するウクライナは、エネルギー自給率が45%にとどまっているが、そのなかで唯一、89%という高い自給率を誇り、一部品目では輸出も可能なのが石炭なのである。
 しかしながら、ウクライナの石炭産業が高い収益性と将来性を有する「宝の山」かと言えば、そうではあるまい。むしろ、赤字体質や近代化の遅れなどで、当国の重荷になっている側面が強いだろう。ウクライナで石炭産業が重要であるということの意味は、むしろその産業・地域・社会政策上のデリケートさにあると言えるかもしれない。
 本稿では、生産および輸出入データなどをもとに、ウクライナ石炭産業の全体像を描くとともに、業界の最新の動きについて報告してみたい。


エネルギー産業の話題
ロシア石炭産業における諸外国の動き

 ロシアの石炭分野では、中国、インド、韓国等が石炭鉱床の権益の獲得を目指し、積極的な動きを展開しています。今回は、それらの動きを紹介したいと思います。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
ロシアの石炭輸送の諸問題

  近年石炭への需要が国際的に拡大し、埋蔵量豊富なロシア炭への関心が高まっています。世界第4位の石炭輸出国であるロシアから、世界第1位の石炭輸入国である日本への輸送の現状を紹介し、今後の可能性と課題を考えます。(辻久子)


ロシア首長ファイル
ケメロヴォ州トゥレエフ知事

はじめに
 今月は、石炭産業の特集号ということでロシア最大の石炭産地であるクズネツク炭田(通称クズバス)の大部分が広がるケメロヴォ州の知事を紹介する。ロシア各地で90年代から長年地方を治めていた「重鎮首長」がメドヴェージェフ政権の下で次々と解任されていく中、いまだに長期政権を維持している地方もわずかながら存在する。ケメロヴォ州のアマン・トゥレエフ知事はまさにその一人であり、すでに15年近く知事を務めている。(中馬瑞貴)


第41回ロシアNIS貿易会通常総会報告

はじめに
 社団法人ロシアNIS貿易会は平成23年5月23日に東京の如水会館にて第41回通常総会を開催いたしました。総会においては、第1号議案「平成22年度事業報告書」、第2号議案「平成22年度財務諸表」、第3号議案「平成23年度事業計画書」、第4号議案「平成23年度収支予算書」、第5号議案「役員選任の件」が承認されました。
 以下では総会において承認された平成22年度事業報告、平成23年度事業計画、新役員および顧問名簿を掲載するとともに、総会における西岡会長の挨拶を掲載いたします。


ビジネス最前線
トヴェリ州で担う日立建機の大きな役割

日立建機
ロシア生産工場建設推進プロジェクト・リーダ 柴田浩延さん
欧州・ロシア戦略部 部長代理 孫国玲さん

はじめに
 トヴェリはモスクワの北西、ヴォルガの上流域に位置し、モスクワとサンクトペテルブルグを結ぶ輸送路の中継地として栄えてきました。この地に数少ない外資として進出を決めたのが日立建機です。建設機械は自動車に次ぐ、日本の重要なロシア向け製品であり、現地で生産が行われることで、ロシアの顧客のニーズに対する、よりきめ細かい対応が可能となります。トヴェリ州の日立建機に寄せる期待も小さくありません。今回は工場建設地の選定からこのプロジェクトを指揮してこられた柴田さん、日立建機の旧ソ連時代から続く対ロ貿易の歴史を知る孫さんから、同社のロシアビジネスの過去・現在・未来について、お話を伺いました。


データバンク
2010年のロシアの外国投資統計

はじめに
 例年どおり、ロシア連邦国家統計局の各種資料にもとづき、2010年のロシアの外国投資統計をとりまとめて掲載するとともに、データに関する解説をお届けする。
 ロシアの「外国投資」の慣行には特殊事情が多く、それを記録したロシア統計局による資料にも若干の問題がある。それでも、ロシアが発表している公式統計を把握しておくことは、やはり不可欠な作業であろう。本稿は、統計を駆使した経済分析というよりも、統計そのものをなるべく詳しく紹介する点に主眼があることをお断りしておく。
 なお、ロシアの外国投資統計をめぐる状況には、最近になって大きな変化があった。ロシア連邦国家統計局が、同国の外国投資受入状況に関する統計を、ウェブサイト上のデータベースで無料公開するようになったのである。そこで、今回はまず、第1節において、そのデータベースについての解説を試みたい。
 そのうえで、第2節において、ロシアの外国からの投資受入状況について、最新データをなるべく詳細に取り上げる。第3節では、新データベースによって日本の対ロシア投資統計の詳細も明らかになったので、それを検討する。第4節では、ロシアから外国への投資データを、ごく簡単に紹介する。(服部倫卓)


データバンク
2010年のロシア極東の経済統計

  ロシアは2003年以降、毎年5%以上の経済成長率を達成し、BRICsの1ヵ国として、好調な経済パフォーマンスを続けてきた。2008年秋に発生した世界的な経済危機はロシア経済にも大きな影響を与えた。経済成長率は1998年以来のマイナス成長となった。2010年はエネルギー価格の上昇や世界的な景気回復で4.0%のプラス成長となった。
 ロシア極東の成長率は発表されていないが、おそらくは国の成長率の4%前後になったものとみられる。ロシアの統計数字はこれまで意図的に操作することが多いとされ、とりわけ地方の主要経済指標については、特段の要因がない限り、国の数字の前後とすることが慣習となっている。ロシア極東に度々訪問している者からすると、成長率はもっと高いように感じる。経済が回復する中、極東はその一翼を担ったといえよう。(齋藤大輔)


INSIDE RUSSIA
大統領の切り札、モスクワ国際金融センター

はじめに
 2012年ロシア大統領選に向け、メドヴェージェフ大統領とプーチン首相の動静に注目が集まっている。このコーナーでは、単に権力闘争的な観点からロシア政治を追うだけでなく、それをなるべく経済政策とリンクした形で論じていきたいと考えている。
 今回はその一環として、モスクワ国際金融センターの問題を取り上げてみたい。これは、メドヴェージェフ氏が大統領になってから浮上したプロジェクトで、イノベーションセンター「スコルコヴォ」と並んで、メドヴェージェフ政権が経済近代化の起爆剤と位置付けているものだ。この6月に開かれたサンクトペテルブルグ経済フォーラムで、大統領が再びその課題を提起し、その関連でいわば新都心計画のようなものを提唱したことにより、波紋が広がっている。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
好景気で悩む外資導入

 昨年11月、ハバロフスクで、日本の大手商社などを招いた会議が開かれた。外国企業が極東地域に投資する上での問題点を話し合うために、イシャーエフ大統領全権代表が呼びかけたもので、会合には日米韓中など5ヵ国の企業14社(日本からは住商、双日、丸紅の3社)が参加した。 2002年まで数億ドルにすぎなかったロシア極東への外国直接投資額は、2004年に30億ドル、2006年に40億ドルを超え、多額のマネーが極東に向かった。その大半はサハリンでの石油・天然ガス開発への投資だった。しかし、2009年は15億ドル、2010年は12億ドルと減少。サハリン向けの投資が一段落したことによるものだが、沿海地方など他の地域への投資も振るわなかった。(齋藤大輔)


自動車産業時評
ロシアの車検制度改革をめぐって

 2011年4月末にメドヴェージェフ大統領が、(現行の)車検制度は不要であるという主旨の発言を行った後、事態が急展開を見せ始め、5月下旬には車検証の更新を1年間猶予することを規定した政府決定が出されました。そして、6月下旬には、新しい車検制度の導入を規定した連邦法案が連邦会議で承認され、2012年1月から施行される見込みとなっています。今回は、この一連の動きの背景にある、現行の車検制度の問題点、新法の施行がロシアの車検制度にもたらす変更点等についてご紹介します。(坂口泉)


ロシアビジネスQ&A
ロシアの自転車市場

 ガソリン価格高騰、メタボ対策、環境意識の高まり、そして東日本大震災時の交通マヒを目の当たりにして、日本では第四次ともいわれる自転車ブームが到来しています。街では自転車で通勤する人を多く見かけます。
 環境先進地域である西欧や北欧では、市街地に自転車専用レーン、自転車専用の信号が整備され、またエコタクシーやベロタクシーと呼ばれる自転車タクシーが広く利用されています。
 ロシアでは長く厳しい冬と道路の舗装状態がよくないことからか、これまで自転車を利用する人はほとんどいませんでした。ところが、近頃ではモスクワやサンクトペテルブルグでも自転車に乗っている人を見かけるようになりました。ロシアでも自転車ブームが起きているのでしょうか。
 今回はロシアの自転車市場についての質問にお答えします。(原真澄)