ロシアNIS調査月報
2011年9-10月号
特集◆ロシアの貿易と
極東の対外関係
特集◆ロシアの貿易と極東の対外関係
調査レポート
2010年のロシアの貿易統計
調査レポート
APEC準備と極東の未来
調査レポート
ロシアの製鉄原料部門の現状
―貿易動向を中心に―
データバンク
2010年のロシア極東の貿易
データバンク
2010年のロシア極東の外国投資受入状況
ミニレポート
ロシアの石油ガスの輸出関税をめぐる動き

ビジネス最前線
ロシアでの油田随伴ガス回収事業と排出権取引
研究所長日誌
19世紀後半欧米に派遣された日本使節団が見たものは
INSIDE RUSSIA
ロステフノロギーをめぐる攻防
ロシア首長ファイル
ハンティ・マンシ自治管区コマロヴァ知事
エネルギー産業の話題
ヤマロ・ネネツでの随伴ガス利用状況
自動車産業時評
新旧工業アセンブリー措置と各自動車メーカー
ロジスティクス・ナビ
ロシアの高速旅客鉄道
ロシアビジネスQ&A
◎ロシア産わらびが日本に来るまで
業界トピックス
2011年7月の動き
◆アムール川を挟んだ中ロ国境貿易
通関統計
2011年1〜6月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


2010年のロシアの貿易統計

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 ロシア連邦関税局が発行する『ロシア連邦外国貿易通関統計』の2010年年報が刊行され、2010年の同国の貿易動向に関する詳しいデータが明らかになった。そこで以下では恒例により、ロシア通関統計およびその他の資料を駆使し、同国の最新の貿易統計を詳細に紹介するとともに、データに関する解説をお届けすることにする。


APEC準備と極東の未来

ロシアNIS経済研究所 主任
齋藤大輔

はじめに
 ロシア極東のウラジオストクで、来年9月に沖合のルースキー島でAPEC(アジア太平洋経済協力)首脳会合を開催するのを機に、同市を「ロシアの東の玄関口」として再開発する事業が最終段階を迎えている。ロシア政府は2014年のソチ冬季五輪と並ぶ一大イベントと位置づけ、インフラ整備や再開発に日本円で2兆円近くを投じる。
 本番まであと1年あまりとなり、街の至るところでダンプカーやトラックなどの工事車両が行き交い、建設ラッシュに沸く。街中の道路や公園が掘り返され、重機の音が鳴り響く。街の光景は一変した。
 そこで、本稿では、現地調査や専門家との対話をもとに、APEC準備の状況とロシアの極東政策についてまとめるとともに、ロシア極東の未来について考えてみた。なお、APEC準備への外資の参加状況については、連載「ロシア極東羅針盤」(本誌2011年6月号)を参照願いたい。


ロシアの製鉄原料部門の現状
―貿易動向を中心に―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ロシアは世界最大級の鉄鉱石の資源国として知られているが、還元鉄や銑鉄の世界有数の輸出国でもある。本稿では、ロシアの鉄鉱石、還元鉄、鉄スクラップ、銑鉄の生産と貿易の状況、ならびに、それぞれの部門で活動する主要なプレーヤーの概要等をご紹介する。


データバンク
2010年のロシア極東の貿易

 極東税関が発表した通関統計によると、2010年の貿易高は、輸出が159億ドル、輸入が76億ドルとなり、輸出入合わせて235億ドルと前年と比べて52.5%増えた。輸出は前年と比べて48.2%、輸入は同62.2%増えた。輸出・輸入とも過去10年で最大の伸びとなった。収支は83億ドルの黒字となった。


データバンク
2010年のロシア極東の外国投資受入状況

はじめに
 小誌ではこれまで、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所よりご提供いただいたロシア極東連邦管区の外国投資受入データを掲載してきた。しかし、前号掲載のレポート「2010年のロシアの外国投資統計」で報告したとおり、ロシア連邦国家統計局がウェブサイト上でデータベースを開設したことにより、ロシア極東の外国投資受入状況に関しても、従来よりも詳細なデータを把握できるようになった。そこで本年からは、ロシア統計局のデータベースにもとづき、当該統計資料をお届けする。


ミニレポート
ロシアの石油ガスの輸出関税をめぐる動き

はじめに
 石油ガス分野は国家の主要な税収源となっており、2011年1月20日付の『ヴェードモスチ』紙によれば、2010年の連邦予算の歳入の実に約46%が石油ガス分野の2つの主要税(採掘税と輸出関税)により占められたとされている。最近になり、これら2つの主要税のうち輸出関税をめぐる動きが激しくなっている。具体的に言えば、それは、「60-66」改革(原油と石油製品の輸出関税率の変更)、ガソリンの輸出関税率の暫定的引き上げ、東シベリアの主要鉱床に適用されていた原油輸出関税上の特典の廃止、ガス輸出関税上の特典の廃止の検討等の動きである。本稿では、これらの動きの概要と、その背景にある諸事情をご紹介する。(坂口泉)


ビジネス最前線
ロシアでの油田随伴ガス回収事業と排出権取引

三菱商事梶@地球環境事業開発部門 新エネルギー・電力事業本部
排出権事業ユニットマネージャー 稲田和男さん
排出権事業ユニット部長代理 竹下章一さん

はじめに
 三菱商事鰍ニJX日鉱日石エネルギー鰍ヘ、ロシアの石油大手ガスプロムネフチ社と共同で、ロシアのヤマロ・ネネツ自治管区のイエティプーロフスコエ油田において、随伴ガス回収事業を推進しています。このプロジェクトは2010年7月に、ロシア政府初のJIプロジェクトとして認定されました。そして、2011年1月には、本件プロジェクトに対して、ロシア政府初となる排出権が発行されました。
 今回のプロジェクトは、日ロ間の経済関係がまた一つ新たな領域に踏み出したことを意味し、きわめて意義が大きいものと考えられます。そこで、三菱商事で本プロジェクトを担当しておられる稲田さん、竹下さんのお2人をお訪ねし、インタビューに応じていただきました。なお、今回のインタビュー内容は専門性が高いため、ロシアの環境政策にお詳しい関西大学の徳永昌弘准教授にインタビュアーを務めていただきました。(編集部)


INSIDE RUSSIA
ロステフノロギーをめぐる攻防

 現時点でロシアには、ロステフノロギー、預金保険庁、対外経済銀行、オリンプストロイ、ロスアトムなどの国家コーポレーションが存在する。国家コーポレーションはそれぞれ個別の法律によって設立されているが、事業実施を目的としながら、組織形態上は「非商業組織」とされている点に特徴がある。その配下にある資産は、「国家コーポレーションの所有」とされ、決して国有ではない。国家コーポレーションの傘下企業は利潤税を課税されず、破産認定もされず、会計報告義務も負わない。このように、国家コーポレーションの特例的で不明朗なあり方は、多くの識者によって問題視されてきた。(服部倫卓)


ロシア首長ファイル
ハンティ・マンシ自治管区コマロヴァ知事

  ロシアにおいて女性知事と言えば、サンクトペテルブルク市のヴァレンチナ・マトヴィエンコが最も有名であるが、実はロシアにはもう1人、女性知事が存在する。ロシア最大の石油・電力生産地(ガスは第2位)として知られるハンティ・マンシ自治管区のナタリヤ・コマロヴァ知事だ。同自治管区は地理的にはチュメニ州に属しているが、独立した連邦構成主体であり、豊富な天然資源のおかげで連邦政府からの補助金に頼ることなく、むしろその経済がロシア経済全体を支えており、「ドナー地域」とも呼ばれる地域である。今月は、このハンティ・マンシ自治管区の女性知事、コマロヴァ女史について紹介する。(中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
ヤマロ・ネネツでの随伴ガス利用状況

 ロシアでは2012年より随伴ガスの有効利用率95%を達成することが各石油会社に義務付けられる予定となっています。 その流れを受け、今年の4月にヤマロ・ネネツ自治管区のサレハルドで随伴ガスの有効利用をテーマとする国際会議が開催され、日本企業の関係者も複数参加しました。サレハルドで当該の会議が開催された背景には、ヤマロ・ネネツ自治管区行政府の強い危機感が存在します。今回は、同行政府の強い危機感の背景にある諸事情をご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
新旧工業アセンブリー措置と各自動車メーカー

 工業アセンブリー措置とは、一定の条件を満たした自動車関連工場に一定期間部品の輸入関税上の特典を供与することを規定した措置で、ロシアでは2005年から導入されています。2011年2月に条件を厳格化した新工業アセンブリー措置の導入が正式決定した後、当該措置をめぐり多くの興味深い動きが観察されていますが、今回はそのうちのいくつかをご紹介したいと思います。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
ロシアの高速旅客鉄道

 世界的に高速鉄道がブームになっています。ロシアでもモスクワを起点に高速列車の運行が始まりました。また、2018年にロシアで開催されるFIFAワールドカップに世界中からやってくるサポーターの移動手段として、鉄道が注目されています。本稿ではロシアの高速旅客鉄道の現状とヴィジョンを紹介します。(辻久子)


ロシアビジネスQ&A
ロシア産わらびが日本に来るまで

 わらびやゼンマイなどの山菜は、日本食にはかかせない食材ですが、最近、国産品は少なく、市場に出回っているものは輸入品がほとんどと言われています。農家や山菜採りを趣味としている人が、趣味と実益を兼ねて収穫していますが、生育地が山間部であり危険と隣り合わせの作業ということもあり、年々、収穫する人も市場への入荷量も減ってきています。35年前、ひとりの日本人ビジネスマンが、シベリアで天然わらびの群生地を見つけ、日本での販売を思いつきました。以来、辛抱強く買い付け交渉と技術指導を続け、今日では、ロシア産わらびは高い評価を受け、日本市場の3分の1を占めるまでになりました。今回はロシア産わらびがどのように日本に運ばれてくるのかについて、ロシア産わらびの輸入のパイオニアである株式会社日ソ貿易営業部の矢部 克さんにお答えいただきます。