ロシアNIS調査月報
2011年11月号
特集◆金融危機3年後の
ロシア自動車市場
特集◆金融危機3年後のロシア自動車市場
調査レポート
近代化を志向するロシア自動車産業
―経済危機3年後に吹き始めた追い風―
調査レポート
極東中古車はどこにいくのか
―主役から脇役へ―
ビジネス最前線
ロシアで交通事故による犠牲者ゼロをめざす
データバンク
2011年上半期のロシア乗用車市場
―経済危機から順調に回復―
ロシア首長ファイル
自動車産業地域の首長
―サンクトペテルブルグ市とカルーガ州―
データバンク
ロシアの自動車ローン提供銀行ランキング

ビジネス最前線
注目すべき日ロ経済関係の相互補完性
データバンク
2011年上半期の日本の対ロシア・NIS貿易統計
研究所長日誌
大祖国戦争(独ソ戦)開戦から70年
INSIDE RUSSIA
プーチンの大統領復帰でロシアはどうなる
ロシア極東羅針盤
APEC準備と出稼ぎ労働者
エネルギー産業の話題
好調な数字を示すロシア石油分野
ロジスティクス・ナビ
チャイナ・ランドブリッジの現状
業界トピックス
2011年8-9月の動き
◆純日本製ジーンズを展開するオイカワデニム
通関統計
2011年1〜8月の通関実績
日本の対ロシア月別輸出入通関実績
日本の対ロシア月別乗用車輸出動向


近代化を志向するロシア自動車産業
―経済危機3年後に吹き始めた追い風―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 2011年5月末に、完成車メーカー4社(企業連合を含む)が新工業アセンブリ措置に関する協定を締結する意向を正式に表明した。また、ほぼ同時期に、多くの部品メーカーが新工業アセンブリ措置に関する協定を締結した上で現地生産を開始することを検討していることや、フィアット、マツダ、および、三井物産とSollersの合弁企業が旧工業アセンブリ措置の適用を受けた上で生産を開始することなども判明した。
 その他、ロシアの乗用車市場の経済危機からの復活のテンポが加速する中、中国の自動車メーカーや、すでに旧工業センブリ措置の適用を受けている自動車メーカー等の動きも活発化している。ロシアの自動車産業に追い風が吹き始めているとの印象を強く受ける。ロシア政府は自動車産業の近代化を推進することに躍起になっているが、この追い風を的確に捉えフルに活用することができれば、近代化の足場を構築することも不可能ではないだろう。
 以上の状況を踏まえ、本稿では、新工業アセンブリ措置の適用を受けた上での現地生産を決断した4社のプロジェクトの概要、旧工業アセンブリ措置の枠内でのプロジェクトの現状、中国メーカーや部品メーカーの動き等について紹介することとする。


極東中古車はどこにいくのか
―主役から脇役へ―

ロシアNIS経済研究所 主任
齋藤大輔

 いつ消滅しても不思議でないロシア極東の中古車ビジネスが生き延びる状況が20年以上も続いてきた。このビジネスは、政府の支援もなければ、異端児扱いされながらも、1990年代の混乱下の地域経済を支え、2000年代以降は成長エンジンの一翼として生きてきた。これは時代錯誤的な特殊なビジネスなのか、それとも国や時代をも超越した先進的な自立型ビジネスなのか。そんなロシア極東に今注目が集まっている。
 ロシア極東に注目が集まるのは、今年に入ってから、日本メーカーの現地進出が相次いでいるからだ。これまでは日本からの中古車が大量に流れ込む地域として注目を集めてきたが、それが下火となった今、新車で注目を集めるようになった。ソ連解体後、造船や機械などの製造業が壊滅的な打撃を受けたロシア極東にとって、新車製造は歓迎すべきものだった。しかし、国が新車製造の条件として、中古車の輸入規制に踏み切ったことで、地元の反発は強い。


ビジネス最前線
ロシアで交通事故による犠牲者ゼロをめざす

タカタ・ヨーロッパ 広報部長
ヤコブ・ルクスさん

はじめに
 自動車安全システムを提供する専門メーカー、タカタ株式会社の欧州統括会社TAKATA(Europe)GmbHは2010年7月、ロシア初の生産拠点として、沿ヴォルガ連邦管区・ウリヤノフスク州に子会社TAKATA-PETRI Rusを設立しました。同工場の敷地面積は9万9,000u、投資額は約20億円、主な生産品目は自動車用シートベルト、エアバッグ、ステアリング・ホイールであり、2012年4月の生産開始を予定しています。ウリヤノフスク州に進出した初めての日系企業としても注目が集まるなか、今回はドイツのTAKATA(Europe)GmbH広報部長のヤコブ・ルクスさんにお話を伺いました。


データバンク
2011年上半期のロシア乗用車市場
―経済危機から順調に回復―

はじめに
 リーマンショックを発端とする世界的経済危機の影響はロシアの乗用車市場にも及び、2009年は市場規模が大幅に縮小したが、2010年春より回復に転じ、その傾向は今も続いている。油価次第の部分もあるが、新車販売の好調さは今後も続き、早ければ来年中にも経済危機前の市場規模にまで回復するとの見方や、2019年までにロシアの新車市場の規模が400万台に達するといった予測も最近になり出始めている。
 本稿では、2011年上半期の数字を中心に、順調な回復ぶりを見せるロシアの乗用車市場の現状をご紹介する。(坂口泉)


ロシア首長ファイル
自動車産業地域の首長
―サンクトペテルブルグ市とカルーガ州―

はじめに
 今月は本誌全体が自動車特集号ということで、「首長ファイル」でもロシアにおいて自動車産業が盛んな地域を取り上げてみたい。ロシアを訪れるとモスクワでも地方都市でも街中に車があふれており、中でも日本車の存在感は大きい。日本とロシアの経済・ビジネス関係において自動車産業はもっとも盛んな分野の1つであると言えよう。
 日本にとってロシアにおける自動車産業の中心地としてすぐに思い浮かぶのは、トヨタ、日産などが進出したことで一躍注目を浴びたサンクトペテルブルグ市ではないだろうか。一方、日本に限らず、世界の自動車企業が集中し、少し遅れて日本でも注目されつつある地域にカルーガ州がある。今月はこの2つの主要自動車産業地域の首長ポルタフチェンコとアルタモノフ知事を紹介する。(中馬瑞貴)


データバンク
ロシアの自動車ローン提供銀行ランキング

はじめに
 ロシアのビジネス情報機関「RBC」のウエブサイトに、ロシアの銀行の自動車ローン貸出額のランキングが掲載されているので、抜粋して紹介する。2011年上半期の貸出額にもとづくランキングで、原典では68行のデータが示されているが、ここでは上位30行を取り上げる。前年までトップだったズベルバンクの貸出額が減り、代わってルスフィナンス・バンクが首位に躍り出た。日系のトヨタ・バンクが8位に入っている。


ビジネス最前線
注目すべき日ロ経済関係の相互補完性

センコン物流
社長室次長 国際営業部次長
西條信彦さん

はじめに
 仙台市に本社を置くセンコン物流がロシアで最初に手掛けたのは中古車の輸出でした。その後は化粧品や食品の輸出、さらにはビザ取得のサポートや現地での車両手配のサービスなど、本業とは違う分野の事業を展開されてきたのですが、これもロシアにおける物流発展のための地盤を固めるためでした。それから10年近くを経た現在、蒔いた種が芽を出し、花が咲こうとしています。今回登場いただく西條さんは、2000年代前半にロシア行きを命じられて以降、中国ほか海外事業と並行しながら、ロシアビジネスに携わってきました。これまでに蓄積したノウハウを武器に、東日本大震災からの復興も視野に入れつつ、ロシア事業の本格的なスタートを準備しています。


INSIDE RUSSIA
プーチンの大統領復帰でロシアはどうなる

はじめに
 ロシアで9月24日、政権与党「統一ロシア」の党大会が開かれた。大会で演壇に立ったメドヴェージェフ大統領は、2012年3月の大統領選挙に同党からプーチン現首相を擁立することを提案した。むろん、形式論から言えば国民が選挙で大統領を選ぶわけだが、現体制を代表して戦う候補者が確定したことで、ロシアを悩ませてきたいわゆる「2012年問題」には、実質的に終止符が打たれた。かねてから可能性を指摘されていたプーチン氏の大統領復帰というシナリオが実現することが、確実となったわけである。現大統領のメドヴェージェフ氏は、「統一ロシア」の候補者名簿の筆頭で本年12月の下院選挙を戦ったのちに、プーチン大統領の下で首相に就任することになった。
 今回は、現地専門家の分析に依拠しながら、一連の動きにつき簡単に整理・考察を試みる。なお、本稿は拙稿「プーチンの大統領復帰『確定』をめぐって」『ロシアNIS経済速報』2011年10月5日号(No.1541)に若干の加筆を加えたものであることをお断りしておく。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
APEC準備と出稼ぎ労働者

 ルースキー島でいったい何が起きているのだろうか。来年9月のAPEC(アジア太平洋経済協力)サミットに向けたインフラ特需に沸く沿海地方・ウラジオストク。その特需を底辺で支えているのが海外からの出稼ぎ労働者だ。その彼らが過酷な状況におかれている。ルースキー島のサミット会場施設(のちの極東連邦大学)の建設現場では、昨年以降、未払い賃金の支払いと待遇の改善を求める「争議」が相次いでいる。(齋藤大輔)


エネルギー産業の話題
好調な数字を示すロシア石油分野

 2011年上半期のロシアの石油生産量(ガスコンデンセートを含む)は2億5,248万tに達しましたが、これはソ連解体後で最高の数字です。また、油価の水準も前年同期よりも40%以上も高い水準で推移し、多くの石油会社で増収増益となりました。もっとも、このような好調な数字とは裏腹に、将来に不安を抱かせる事象も少なからず観察されています。今回は、そのような不安点も含め、最近のロシア石油分野の状況を簡単にご紹介いたします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
チャイナ・ランドブリッジの現状

 中国からロシアや中央アジアへと延びる国際鉄道ネットワークは、日本ではチャイナ・ランドブリッジ(CLB)とも呼ばれ、シベリア・ランドブリッジの代替ルートと位置付けられてきました。古の歴史を思い起こし、‘Iron Silkroad’(鉄路のシルクロード)と呼ばれることもあります。本稿では中央アジアやロシア向け物流ルートとしてのCLBの現状を紹介します。(辻久子)