特集◆3国関税同盟とその周辺 |
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調査レポート |
ロシア・ベラルーシ・カザフスタン関税同盟の現状と展望 ―統合の現段階と「共通経済空間」が目指すもの― |
調査レポート |
CISの枠組みにおける自由貿易地域創設の歩み |
調査レポート |
ロシアのWTO加盟と対EU関係 |
調査レポート |
欧州と関税同盟の間で揺れるウクライナ |
調査レポート |
沿ドニエストル共和国をめぐるビジネスサイクル ―非承認国家と世界経済― |
ミニ・レポート |
カザフスタンにとっての関税同盟のバランスシート |
出張・駐在の達人 |
複雑怪奇なベラルーシ渡航事情 |
調査レポート |
2011年のロシア乗用車市場の総括 ―回復傾向は続くのか― |
ビジネス最前線 |
医療の国際化とロシアの高い需要 |
研究所長随想 |
トレチャコフ美術館所蔵の「一枚の絵」から |
INSIDE RUSSIA |
2012年ロシア大統領選の小括 |
ロシア極東羅針盤 |
アムール州:目指すは大豆クラスター |
ロシア首長ファイル |
ヤマロ・ネネツ自治管区コブィルキン知事 |
エネルギー産業の話題 |
2011年1〜9月のロシア石炭産業 |
自動車産業時評 |
注目度が高まるAvtoVAZ |
ロジスティクス・ナビ |
統計から読むロシア港湾物流 |
業界トピックス |
2012年2月の動き ◆日本・ロシア極東航空事情 |
通関統計 |
2012年1月の通関実績 2012年1月の日ロ貿易 |
ロシア・ベラルーシ・カザフスタン関税同盟の現状と展望
―統合の現段階と「共通経済空間」が目指すもの―
みずほ総合研究所 主任研究員
金野雄五
はじめに
2010年1月1日にロシア、ベラルーシ、カザフスタンの3ヵ国による関税同盟がスタートしてから2年以上が経過した。この間、2010年7月1日には関税同盟としての税関行政や通関手続き全般について包括的に定めた「税関基本法」が施行され、2011年7月1日には3ヵ国間の国境税関が撤廃されるなど、その関税同盟としての完成度は着実に高まったように見受けられる。さらに2012年1月1日には、3ヵ国の首脳が「共通経済空間」の設立を宣言するなど、関税同盟が経済統合の新たな段階を迎えつつある様子も窺える。
こうした現状を踏まえ、本稿ではロシア、ベラルーシ、カザフスタンによる関税同盟のこれまでの展開と今後の行方について、制度面を中心に考察する。第1節では、2010年以降、現在に至るまでの関税同盟に関する諸制度の変更点を検討する。第2節では、本年初に設立が宣言された共通経済空間について、その実態が現時点でどのようなものかを考察する。最後に、関税同盟(共通経済空間)の拡大可能性について、キルギスとウクライナによる参加を中心に検討する。
CISの枠組みにおける自由貿易地域創設の歩み
北海道大学スラブ研究センター 教授
田畑伸一郎
はじめに
2011年10月18日にサンクトペテルブルグで開かれたCIS政府首脳評議会会議において自由貿易地域条約が調印された。その直前の10月4日付『イズヴェスチヤ』紙にプーチン首相が「ユーラシア連合」の創設を提唱する論文を掲載していたこともあって、CISにおける自由貿易地域創設というニュースは、あたかもCISが一体となってそのような経済統合に突き進んでいるかのような印象を与えた。
実際には、本稿で示すように、CISの枠組みにおける自由貿易地域の創設は、急に出てきた話ではなく、いくつかの障害により、実現されないまま17年もの年月が経過していたものである。また、今回の条約調印により、すべての問題が解決されたわけでもない。この問題は、ロシアがCIS諸国向け石油・ガス輸出からの税収に固執したことによって、翻弄されてきたと言える。
ロシアのWTO加盟と対EU関係
立正大学経済学部 教授
蓮見雄
はじめに
ロシアのWTO加盟が承認されるまでの18年間、EUとロシアのあいだでは様々な紛争が繰り返されてきた。にもかかわらず、EU・ロシアの関係は、(CIS諸国との関係も含めて)着実に深まっている。今や、ロシアはEUにとって中国、米国に次ぐ第3の貿易相手であり、EUはロシアの貿易の5割近くを占める最大の輸出市場である。その貿易構造は、極めて非対称であるとはいえ、両者はその関係を抜きに自らの将来を語ることができないほどに深く依存しあっている。EUはロシアにエネルギーを握られているといった一面的な見方では、EUとロシアの関係のダイナミクスを理解することは難しい。
冷戦後の20年、両者は対立を繰り返しながらも対話を重ねることによって、EUとロシアの意見の相違、対ロシア政策をめぐる欧州委員会と様々な立場のEU加盟各国との意見の相違を理解し、何が共通の利益で何が対立点であるかを仕分け、困難な局面においても建設的妥協を積み重ねることによって、ロシアのWTO加盟に至る道筋が切り開かれてきたのである。その継続的交渉を可能する安定した制度的枠組を提供したのが、EUがロシアに提示した4つの共通空間構想である。この構想そのものは、目立った成果を上げていないようにみえるが、これはEU自身の特性であるルールとコンセンサスによる協力の枠組を模したものであり、基本原則を基礎に両者が受け入れ可能な新たなルールを創出するための場を提供するフレームワークの役割を果たしてきた。言うまでもなく、ロシアのWTO加盟は、共通空間の発展に大きく貢献するであろう。楽観的に過ぎるかもしれないが、これが筆者の考えである。本稿では、EU加盟国とロシアとのあいだで生じた二国間紛争の考察を通じて、その根拠を示したい。
欧州と関税同盟の間で揺れるウクライナ
ウクライナ科学アカデミー市場問題・経済・環境研究所 研究員
O.エルマコヴァ
はじめに
ウクライナ経済がどのようなベクトルをめざして発展して行くのか。このことは、近年、この国の内外で、最も重要かつ議論の分かれる問題となっている。
よく知られているように、現在のウクライナでは、2つの方向性が検討の対象となっている。ひとつは欧州連合(EU)と自由貿易協定を結んでその自由貿易地域(Free Trade Area、FTA)となること。もうひとつは、ロシア、ベラルーシ、カザフスタンとともに関税同盟を形成するという選択肢である。EUとのFTA締結か関税同盟加盟か――ウクライナ政府はこの問題に関して最終決定の段階に入っており、この問題の緊急性は格段に高まっている。現に、EU側、関税同盟側ともに、2012年にはウクライナを「仲間に迎える」用意があると表明しているのである。
この2つの道には、いずれもメリットとデメリットがある。そもそも、経済同盟あるいは経済統合ということを言うなら、そうした統合の経済的合理性と政治的中立性という2点での分析が不可欠となる。以下、本稿ではその分析を試みるものである。
沿ドニエストル共和国をめぐるビジネスサイクル
―非承認国家と世界経済―
北海道大学グローバルCOEプログラム研究員
藤森信吉
はじめに
本稿は、トランスナショナルなアクター、すなわち多国籍企業の非承認国家における経済活動に議論を集中させる。先行研究においても経済要因は取り上げられているが、緩い国境管理が密輸や非公式ビジネスに寄与している、といった非公式経済を強調する程度であった5)。本稿では、これら多国籍企業の経済活動が如何に「非承認国家」の存続に寄与しているかを沿ドニエストル共和国(Pridnestrovskaia Moldavskaia Respublika)を例にとって論じる。なお、筆者の能力および入手可能なデータの都合から、2000年代の後半以降を主として扱う。国際コモディティの価格上昇が顕著になり、ロシア資本が本格的に沿ドニエストルの民営化に参加し始めた時期である。
ミニ・レポート
カザフスタンにとっての関税同盟のバランスシート
はじめに
この小レポートでは、3国関税同盟がカザフスタン経済にどのような影響を及ぼすかにつき、関連するデータや情報をとりまとめてお届けする。(服部倫卓)
出張・駐在の達人
複雑怪奇なベラルーシ渡航事情
はじめに
今回は、関税同盟の特集に合わせて、その一角を占めるベラルーシへの渡航に関して語ってみたい。しばらく前まで外国人ビジネスマンにとって縁遠かったベラルーシという国だが、それだけに未開拓のビジネスチャンスが多く残っているのか、ここ2〜3年同国についてのお問い合わせを当会にいただくことが非常に多くなった。日本人が出張で出かけるケースも増えているのではないかと思われるので、参考にしていただければ幸いである。(服部倫卓)
2011年のロシア乗用車市場の総括
―回復傾向は続くのか―
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
ロシアの乗用車市場はリーマンショック後に想定外の落ち込みを示し、2009年の販売台数は前年の約半分の約147万台(小型商用車LCVを含む数字)にとどまった。ところが、2010〜2011年と2年連続で業界関係者の予想を上回る回復ぶりを示し、2011年の市場規模は2009年の数字を100万台以上も上回る約265万台に達した。この流れだけを見ると、2012年も好調さが続き同年の販売台数が300万台前後に達するのは確実ではないかとの思いに傾斜するが、ロシアの自動車業界の関係者の予測は意外にも慎重で、伸び幅は最大でも10%弱で、市場規模が縮小する可能性すらあるとの意見が優勢になっている。
本稿では、2011年の販売の好調さをけん引した要因、業界関係者の市場に対する慎重な見方の背景にある理由、主要メーカーの動向等に留意しつつ、2011年のロシアの乗用車市場の回顧と、今後の見通しについての考察を行う。
ビジネス最前線
医療の国際化とロシアの高い需要
ピー・ジェイ・エル
代表取締役 山田紀子さん
はじめに
医療ツーリズムと聞くと、海外からの患者さんを自然豊かな医療機関で受け入れて、ゆったりした環境で治療してもらう――そんなイメージを抱く方もおられるかと思います。ただ、本来の意味は、海外での医療サービスを受けるために国境を越えること。長年、人道支援としてロシアの患者さんを受け入れてきたロシア向け専門商社ピー・ジェイ・エルは、経済産業省にその実績を評価され、日本における「医療の国際化」を目指すMedical Excellence JAPAN Project(MEJ)コンソーシアムのメンバーとなっています。ロシアの医療機器、医薬品市場への日本企業の関心も高まるなか、ピー・ジェイ・エルの山田さんから、医療交流コーディネーターとしての現場からの声をお聞きしました。(芳地隆之)
INSIDE RUSSIA
2012年ロシア大統領選の小括
はじめに
2012年3月4日、ロシア大統領選の投票が行われた。この文章を書いているのはその直後であり、すでに結果は判明しているものの、今回の選挙とロシア政治を取り巻く様々な問題について、しかるべき総括を行うのには、あまりタイミングがよろしくない。そこで今回のこのコーナーでは、「小括」にとどめさせていただく。より本格的な分析は、次号で試みることとしたい。(服部倫卓)
ロシア極東羅針盤
アムール州:目指すは大豆クラスター
荒廃した農地を再生し、収穫した大豆で油や醤油などの加工製品をつくる。そんな取り組みがアムール州で持ち上がっている。農業で注目を集めるアムール州がロシアの食品加工の拠点としても発展するかもしれない。アムール州のブラゴヴェシチェンスク郊外。収穫したばかりの大豆畑が広がる。ここがロシア最大の大豆産地・アムール州だ。(齋藤大輔)
ロシア首長ファイル
ヤマロ・ネネツ自治管区コブィルキン知事
はじめに
最近ロシアでは、2005年から始まった知事任命制を廃止し、以前行われていた住民による知事の直接選挙を復活させる法案の策定が進んでいる。現行制度の詳細については調査月報の2011年12月号に掲載しているので、ここでは省略するが、任命制は大統領の意向が強く反映される制度であり、プーチン、メドヴェージェフ両大統領にはそれぞれ特徴がある。メドヴェージェフ大統領の知事任命の特徴の1つとして、積極的に若手を起用していることが挙げられる。
そのような若手知事の一例が、ロシア経済の中枢を担う天然ガス生産でロシア第1位を誇るヤマロ・ネネツ自治管区の知事、ドミトリー・コブィルキンである。1971年生まれの彼は、2010年の知事就任当時、38歳であった。(中馬瑞貴)
エネルギー産業の話題
2011年1〜9月のロシア石炭産業
今回は、ロシアの石炭専門誌『ウーゴリ』の2011年12月号に掲載されたデータをベースに、同年1〜9月期のロシアの石炭の生産および輸出入の動向をご紹介します。また、日本でも注目されているエレゲスト炭鉱とエリガ炭鉱に関する最新情報もご紹介することとします。(坂口泉)
自動車産業時評
注目度が高まるAvtoVAZ
ルノー・日産アライアンスがAvtoVAZにおける持ち株比率を現在の25%から過半に増やすことを具体的に検討しているとの情報がマスコミで報じられ、AvtoVAZに対する関心が日本でも高まりつつあります。ただ、関心の高まりの割には、同社の実態はあまりよく知られていません。そこで、今回は、AvtoVAZと同社傘下のIzhAvtoの現状をご紹介することとします。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
統計から読むロシア港湾物流
年初の1月から2月に掛けて、ロシア極東およびサンクトペテルブルグ周辺の主要港湾を視察しました。約1万km隔てた大陸の両端ですが、多くの点で共通する傾向を発見しました。最近公表された港湾統計『2011年のロシア、バルト諸国、ウクライナの海港を通じた貨物取扱状況』Mortsentr-TEK、(2012年、モスクワ)からロシア港湾物流の流れを読み解くこととします。(辻久子)