ロシアNIS調査月報
2012年5月号
特集◆新プーチン体制下の
ロシア経済と日ロ関係
特集◆新プーチン体制下のロシア経済と日ロ関係
一般社団法人への移行のお知らせ

調査レポート
ロシア大統領選と新プーチン体制
―せめぎ合う再工業化と脱工業化―
調査レポート
先行き不透明なロシアの経済動向
―2011年の実績と新体制下の見通し―
調査レポート
ロシアの穀物生産の現実と展望
―新政権は輸出先を多様化できるのか―
調査レポート
ロシアのWTO加盟が国内産業に与える影響
ビジネス最前線
建材のトータルな品質をロシアに伝えたい
エネルギー産業の話題
【拡大版】プーチン政権下で石油産業は蘇るか
データバンク
2011年の日ロ貿易 ―震災の渦中で過去最高を達成―
研究所長随想
ロシアの歴史に照らして考えるプーチンの存在
INSIDE RUSSIA
ノヴォロシースク貿易港をめぐって
ロシア極東羅針盤
ウラジオストク・サーキット場計画
ロシア首長ファイル
ウリヤノフスク州モロゾフ知事
自動車産業時評
ロシアで活発化する外資系タイヤ・メーカー
ロジスティクス・ナビ
日ロ間コンテナ物流の諸問題
ロシアビジネスQ&A
ロシアの一戸建て住宅ビジネス

業界トピックス
2012年3月の動き
◆ヤマロ・ネネツ訪問記
通関統計
2012年1〜2月の通関実績


ロシア大統領選と新プーチン体制
―せめぎ合う再工業化と脱工業化―

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 2012年3月4日、ロシア大統領選の投票が行われた。公式発表によれば、V.プーチン現首相が63.6%の過半数を得票し、第1回投票で当選を決めた。大統領の任期は、従来の4年から、今回から6年となる。プーチンは5月7日に就任式を挙行し、2018年までの新たな政権をスタートさせることになっている。D.メドヴェージェフ現大統領は、首相に任命される予定である。
 本稿では、今回のロシア大統領選挙を、筆者なりの視点で総括することを試みる。その際に、選挙の技術的諸問題や有権者の投票行動といったことに関しては、他の論者によって専門的で優れた分析がなされると予想されるので、本稿ではあまり深く立ち入らない。筆者としてはむしろ、選挙の過程で浮き彫りになったロシア国家・社会の構造と、権力闘争の底流としての経済政策路線のせめぎ合いに着目しながら、2012年ロシア大統領選の深層に迫ってみたい。具体的には、N.ズバレヴィチという論者が示している「4つのロシア」論と、それとも関連する「再工業化」と「脱工業化」の相克を、分析枠組みとして利用したい。
 なお、筆者は本月報の「インサイド・ロシア」のコーナーでロシア大統領選をめぐる動きを逐次報告してきた。また、2011年12月の下院選挙結果を踏まえ、本年初頭には「2012年のロシアはどう動くか」というレポートを発表している。本稿は、これらの報告を集大成する試みでもあるので、内容的に既出レポートと重複する部分が少なくないことをお断りしておく。


先行き不透明なロシアの経済動向
―2011年の実績と新体制下の見通し―

北海道大学スラブ研究センター 教授
田畑伸一郎

はじめに
 2011年のロシアのマクロ経済実績は、全体としては悪くない。2010年と同じ4.3%の成長であるが、2010年は前年のベースが低いなかでの4.3%であったわけであり、2011年の実績は、ロシア経済が4%台の成長ならば問題なく実現できることを示しているようにも見える。インフレ率の低下や財政の黒字化など、他の面でも経済の好転が目立った。懸念材料は、ロシア経済自体の問題というよりは、世界経済に関わるものであった。1つは、輸出の実質増加率が0.4%と非常に低かったことであり、これには欧州への輸出が伸び悩んだことが影響した。もう1つは、為替レートや株価において欧州金融不安の影響で不安定な動きが見られたことであり、資本の純流出も大きかった。新プーチン体制の下では、中長期的に5%以上の成長率が目標とされそうであるが、今後も当然ながら世界経済の動向がロシア経済に大きな影響を与えることになる。その点が、ロシア経済の先行きに不透明感を与えている。


ロシアの穀物生産の現実と展望
―新政権は輸出先を多様化できるのか―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 旱魃被害の影響を受け、2010年のロシアの穀物生産量は大幅に落ち込み、2010年8月15日から2011年6月末まで穀物の輸出禁止措置が導入された。輸出禁止措置導入の発表をプーチン首相が行ったのが、ロシア農業省のベリャエフ次官の「ロシアには十分な量の穀物が存在し、輸出に支障が生じることはない。2010/2011の穀物年(ロシアでは、当該年の7月1日から翌年の6月30日までの1年間となっている)の穀物輸出量は前年並みとなるであろう」という輸出禁止措置の導入がないことを示唆する発言のわずか2日後の2010年8月5日だったこともあり、その朝令暮改ぶりは世界の穀物市場に強い衝撃と同時に不信感を与えた。その関係で、2011年7月1日の輸出解禁後のロシアの穀物の国際市場への復帰には大きな困難が伴うと予想されていたが、7月こそフランス産の同等級の小麦との価格差が広がる(国際市場ではフランスの小麦の方が高値で取り引きされることが慣例化している)、あるいは、最大の輸出相手国であるエジプトがロシア産小麦を入札の対象から外す、といった現象が観察されたものの、その後ロシア産穀物は順調に国際市場でのプレゼンスを回復させ、2011/2012の穀物年のロシア産穀物の輸出量は過去最高の水準に達すると見込まれている。そして、その輸出の好調さを背景に、ロシアの農業分野では、極東経由の穀物輸送回廊を構築することにより中東や北アフリカに偏重している穀物の輸出先を多様化しようとする動きが再び見え始めている。プーチンは農業分野を重視しており、5月からスタートを切る新体制下では穀物の輸出先の多様化の動きがさらに活発になると予測される。
 以上の状況を踏まえ、本稿では、ロシアの穀物生産部門の現状を様々な角度から紹介すると同時に、輸出先を多様化するためにプーチン新政権が取り組むべき課題について考察してみたい。


ロシアのWTO加盟が国内産業に与える影響

ロシア科学アカデミー国民経済予測研究所
A. シロフ

はじめに
 ロシアのWTO加盟交渉は18年の長きにおよび、2011年秋、ようやくその幕が閉じられた。WTOへの加盟がまず意味するところは、ロシアの市場経済化が国際社会によって正式に認められたということである。この国際社会の承認こそが、まさに終結した交渉の重要な成果の一つである。ソ連邦崩壊以降の20年間、ロシアでは市場経済化の基軸となる諸制度が整備され、国家および実業界も新たな市場経済の現実に順応してきた。ロシア国内に形成された経済システムは、十分に効率的とはいえないものの、国民の生活水準を向上させ、重要な国家的課題を解決しうるものである。


ビジネス最前線
建材のトータルな品質をロシアに伝えたい

ニチハ梶@海外営業部 上席執行役員海外営業部長
庄司精二さん

はじめに
 外壁材をはじめ屋根材・内装部材まで幅広い建築部材の製造・販売を行っているニチハが、このたびモスクワに拠点を設けました。われわれの製品は壁に取り付けられて初めて「商品」になる――こう語る庄司さんは、ロシア事業の本社サイドの責任者です。ニチハ・モスクワ駐在員事務所は、同社がこれまで着手していなかったNIS・中東欧諸国も視野に入れているとのこと。その責務は小さくありません。これまでの極東中心からモスクワ、サンクトペテルブルグという大都市へ。まだまだこれからのロシア建材市場において、ニチハの商品の、施工方法も含めたトータルな品質の高さをどう伝えるか。庄司さんにロシア進出の経緯から今後の課題や問題点まで伺いました。(芳地隆之)


エネルギー産業の話題【拡大版】
プーチン政権下で石油産業は蘇るか

 ロシアの石油分野では新鉱床の開発が進まず、2010年代半ば以降には生産量が減少傾向に転じるといわれています。そうしたなか、新たなプーチン体制下で求められる税制改革や各石油会社の投資活動を活発化させる政策は何か。今号では拡大版でお届けします。(坂口泉)


データバンク
2011年の日ロ貿易
―震災の渦中で過去最高を達成―

はじめに
 例年どおり、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2011年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。当会ではすでに、『ロシアNIS経済速報』2012年2月5日号(No.1552)において、2011年の日ロ貿易を速報値で紹介済みだが、本レポートでは確定値を掲載する。


INSIDE RUSSIA
ノヴォロシースク貿易港をめぐって

はじめに
 今号では、大統領選挙を中心としたロシアの政治・経済情勢について別途レポートをお届けしているので、本コーナーではケーススタディ的な話題を提供することにする。
ノヴォロシースク港は、ロシアの黒海沿岸に位置し、取扱貨物量でロシア最大の港となっている。そして、同港で主たる貨物オペレーターとして活動しているのが、公開型株式会社「ノヴォロシースク貿易海港」である(以下単に「ノヴォロシースク貿易港」と呼ぶ)。
 ノヴォロシースク貿易港グループは、取扱貨物量でロシア最大で、ヨーロッパ第3位の港湾オペレーター。同社には、ノヴォロシースク貿易港の本体のほか、ノヴォロシースク穀物ターミナル、ノヴォロシースク船舶修理工場、ノヴォロシースク貿易港船団、ノヴォロスレスエクスポルト、IPP、バルト・ステベ会社、レニングラード州のプリモルスク貿易港(2011年から)が加入している。
 プーチン大統領とメドヴェージェフ首相の新体制において、焦点となる政策の一つが民営化であり、ノヴォロシースク貿易港のケースも重要な試金石となっている。現時点では、ノヴォロシースク貿易港の株式の20%を連邦政府が保有しているが、その国家保有株は2011〜2013年の民営化リストに掲載されており、売却が予定されている(民営化のコンサルタントはモーガン・スタンリーが務めている)。それをめぐる駆け引きは、すでに始まっている。 (服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
ウラジオストク・サーキット場計画

 ロシア極東のウラジオストクに、国際サーキット場をつくる。こんな計画が動き出している。経済混乱で苦しんでいた10年前には想像もできなかったチャレンジングな事業だ。だが開発を担うロシア企業の資金難や事業の採算性を危ぶむ声などで、事業が進まない可能性もある。
 ウラジオストク市中心部から車で25分、空港から10分。ハバロフスクを結ぶ幹線道路と空港に向かう道路が交差するジャンクションの付近にある森林地。そんな場所に国際自動車連盟(FIA)公認F2クラスのサーキット場やモトクロス場ができる。ホテルやショッピングセンターなどもつくられる。総投資額は1億7,200万ユーロ(1ユーロ=110円換算で189億円)を見込む。事業は3つの段階からなる。順調に行けば、2016年6月の完成予定だ。(齋藤大輔)


ロシア首長ファイル
ウリヤノフスク州モロゾフ知事

はじめに
 近年、ロシアの地方代表団の訪日が増えていたが、2011年3月11日の東日本大震災以来、その流れは一時停止していた。しかし、2012年3月28日、ロシアの沿ヴォルガ地域に属するウリヤノフスク州の副知事(公務のため、知事の訪日はキャンセル)を団長とする代表団が来日し、同州の経済状況や投資ポテンシャルを紹介するセミナーを当会と共同で開催した。セミナーには日本の商社、メーカー、銀行、政府関係機関等、幅広い分野から50人以上が参加し、ロシア側も同州代表団のみならず在日通商代表部や在日ロシア大使館が参加した。ウリヤノフスクは自動車・航空機製造業の盛んな地域であり、今回のセミナーでは特に自動車部品産業分野における日本のビジネスチャンスについても具体的な紹介が行われた。
 当初、訪日を予定していたモロゾフ知事は公務により、残念ながら訪日されなかったが、本稿にて紹介し、ウリヤノフスク州についてのイメージを拡大していただきたい。なお、セミナーの内容等については、すでに『ロシアNIS経済速報』4月5日号にて紹介済みであるため、本稿では特に言及しないことをお許しいただきたい。(中馬瑞貴)


自動車産業時評
ロシアで活発化する外資系タイヤ・メーカー

 最近になって外資系のタイヤ・メーカーのロシア市場での動きが活発になっています。そこで今回は、ロシアの新聞雑誌のインタビュー記事などをもとに、ノキアン、ピレリ、コンチネンタル、ミシュラン、横浜ゴムのロシア市場での最新の動きをご紹介することとします。その他、ロシアのタイヤ市場の概況もご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
日ロ間コンテナ物流の諸問題

 日ロ間コンテナ物流を巡る諸問題について、各種統計を基にまとめてみました。現状の理解と今後の展望に役立てば幸いです。(辻久子)


ロシアビジネスQ&A
ロシアの一戸建て住宅ビジネス

 ロシアの一般的な一戸建て住宅の建築工法はどのようなものでしょうか。また日本の建材は使用されているでしょうか?(原真澄)