特集◆日露投資フォーラムとタタルスタン経済 |
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イベント・レポート |
第5回日露投資フォーラムの開催 ―転換期における日ロ協力の課題― |
講演録 |
互恵的な日露協力の更なる深化を目指して |
調査レポート |
タタルスタン共和国の石油および化学産業 |
ビジネス最前線 |
タタルスタンでの石油・化学プラントビジネス |
データバンク |
データで見るタタルスタン経済の概況 |
ミニ・レポート |
アラブガ経済特区視察記 |
ミニ・レポート |
ウリヤノフスク州訪問ミッション報告 |
ミニ・レポート |
カザンにてAPEC貿易担当大臣会合開催 |
INSIDE RUSSIA |
ロシアの連邦管区ごとの長期戦略 |
自動車産業時評 |
タタルスタン経済を支える自動車産業 |
調査レポート |
ロシア極東における石炭輸出インフラの整備 |
ビジネス最前線 |
ロシア・セキュリティ市場の可能性を模索する |
データバンク |
2011年のロシア極東の経済統計 |
報告 |
ロシアNIS貿易会平成24年度定時総会報告 |
研究所長随想 |
ロシア国民歌劇創始者としての化学者ボロディン |
ロシア極東羅針盤 |
激しくなる新知事VS前知事 |
ロシア首長ファイル |
モスクワ州ショイグ知事 |
エネルギー産業の話題 |
ロスネフチに関する最新情報 |
ロジスティクス・ナビ |
日本海側港湾の対ロ貿易 |
業界トピックス |
2012年6月の動き ◆ロシア向けビジット・ジャパン・キャンペーン |
通関統計 |
2012年1〜5月の通関実績 2012年1〜5月の日ロ貿易 |
イベント・レポート
第5回日露投資フォーラムの開催
―転換期における日ロ協力の課題―
はじめに
2012年6月6日、ロシアのタタルスタン共和国カザン市において、経済産業省、ロシア経済発展省、タタルスタン共和国、日露貿易投資促進機構(日本側事務局はロシアNIS貿易会)の主催のもとで「第5回日露投資フォーラム」が開催された。
本フォーラムは、日ロ間の投資協力の促進を目的に2006年9月に第1回が実施されて以来、両国交互にほぼ定期的に開かれている。
今回の第5回フォーラムは、6月4〜5日にカザンでAPEC貿易担当大臣会合が開催される機会を捉えて実施したもので、日本側からは枝野幸男経済産業大臣ほか企業・政府機関・各種団体の関係者など約200名(66社・団体・機関)、ロシア側よりミンニハノフ・タタルスタン共和国大統領、サヴェリエフ経済発展省次官以下、約250名(106社・団体・機関)、合計およそ450名が参加した。
以下では、第5回日露投資フォーラムの概要を紹介する。(中居孝文)
講演録
互恵的な日露協力の更なる深化を目指して
第5回日露投資フォーラムにおける枝野幸男経済産業大臣の基調講演
はじめに
APEC貿易担当大臣会合(MRT)がロシア・タタルスタン共和国のカザン市において開催されたのに際して、我が国の枝野経済産業大臣はロシアのベロウソフ経済発展大臣と会談を行うとともに、第5回日露投資フォーラムに参加し、基調講演を行いました。以下では、枝野大臣の基調講演の講演録をお届けいたします。
タタルスタン共和国の石油および化学産業
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
タタルスタン共和国の石油分野に関しては、上流部門と比較して下流部門が脆弱とのイメージがこれまで強かったが、最近になりTANEKOという新しい製油所が商業生産を開始した他、TAIF-NKという既存の製油所でも設備の近代化ならびに増強計画が動き始めており、そのイメージが覆されつつある。また、同分野の上流部門に関しては、古い鉱床が多く将来性に不安があるとのイメージが強かったが、最近になり超高粘度石油(ビチューメン)鉱床の開発意欲が高まっており、従来のイメージが覆される可能性も出てきている。
さらに、化学分野に目を転じれば、新しい肥料工場の建設が開始された他、ニジネカムスクネフチェヒムやカザンオルグシンテズで大規模な設備刷新もしくは増強計画が具体的に動き始めている。その他、西シベリアを起点としてタタルスタンに至る軽質NGL輸送パイプラインを建設するという壮大な計画も浮上してきている。
本稿では、ダイナミックな変貌ぶりを見せるタタルスタン共和国の石油および化学分野で活動する主要企業の現状をご紹介する。
ビジネス最前線
タタルスタンでの石油・化学プラントビジネス
Yokogawa Electric CIS Ltd.
副社長 茅野博之さん
はじめに
カザンで開催された第5回日露投資フォーラムにおいて、Yokogawa Electric CISは「化学、石油ガス化学」分科会でロシア産業発展への貢献と今後の見通しについて報告しました。2005年1月のカザン・オフィス、2008年11月の自社テクニカルセンターの開設と、タタルスタン共和国で着々と地盤を固めてきた同社は、今回の日露投資フォーラムに相応しい日系企業だといえます。ただ、その背景には、横河電機がソ連時代から長い年月をかけて培ってきた実績と信頼があることを忘れてはいけません。茅野さんには、横河電機のソ連・ロシア事業の歴史を振り返ってもらいながら、タタルスタンにおけるビジネスの現状、そして今後のロシアビジネスの展望と課題について語っていただきました。
データバンク
データで見るタタルスタン経済の概況
はじめに
月報の今号では、先頃カザン市で開催された日露投資フォーラムと、開催地であるタタルスタン共和国の経済に関する特集をお届けしている。このコーナーでは、タタルスタン共和国に関する基礎データを整理してお伝えし、若干の解説を試みることとする。
本稿に掲載する図表は、図表13を除いて、すべてロシア連邦国家統計局およびそのタタルスタン共和国支部の刊行物とウェブサイトにもとづいて作成した。(服部倫卓)
ミニ・レポート
アラブガ経済特区視察記
はじめに
「第5回日露投資フォーラム」では、会議翌日の6月7日(木)、希望者を対象に開催地カザンと同じタタルスタン共和国内に位置するアラブガ経済特区への視察を実施した。以下にその概要をご紹介する。なお、この地名はロシア語では「エラブガ」であるが、今般フォーラムでは主催者の1つであるタタルスタン共和国に敬意を表し、表記には一貫してタタール語の「アラブガ」を採用した。本稿もこれに従ったことをお断りしておく。(輪島実樹)
ミニ・レポート
ウリヤノフスク州訪問ミッション報告
はじめに
当会は、第5回日露投資フォーラムが6月6日にタタルスタン共和国の首都カザンで開催されたのに合わせ、タタルスタン共和国の南隣にあるウリヤノフスク州に、西岡会長を団長に総勢14名で6月4〜5日の日程で会長ミッションを派遣した。ウリヤノフスク州は今年、2012年3月に副知事を団長に代表団が来日しており、そのとき来日できなかった同州のモロゾフ知事の招待を受けての訪問である。
ウリヤノフスク州は人口が129万人(2010年国勢調査)、州都のウリヤノフスク市は61万人(同)と大きいとは言えないが、ロシアのなかでは中規模の州である。州都のウリヤノフスクは、大河ヴォルガを挟んだ両岸に展開し、2本の橋でつながる。300万人以上の人口のある隣接する北のタタルスタン共和国や南のサマラ州などに比べると目立たない。しかし、以下に紹介するように、工場立地先として、日本企業が見過ごせない地域のようである。(高橋浩)
ミニ・レポート
カザンにてAPEC貿易担当大臣会合開催
はじめに
6月4、5日、ロシアのカザンにおいて、アジア太平洋経済協力(APEC)貿易担当大臣会合が開かれた。経済産業省からは枝野大臣、外務省からは山口副大臣が出席した。今回、経済産業省の代表団の一員として参加する機会に恵まれた。そこで、大臣会合の概要を経済産業省のプレスリリースをもとに簡単に報告するとともに、ロシアの議長ぶりや受け入れ態勢について感想を述べてみたい。(齋藤大輔)
INSIDE RUSSIA
ロシアの連邦管区ごとの長期戦略
はじめに
ロシアに8つ設けられている連邦管区のうち、我々日本の実務家に最も馴染み深いのは極東連邦管区であり、その極東管区を対象として長期発展戦略が策定されていることは、ご存知の方も多いであろう。現行の戦略は、2009年12月28日にロシア連邦政府によって承認された「2025年までの極東・ザバイカル地域の社会経済発展戦略」である。同戦略につき詳しくは、本誌2010年5月号掲載のS.レオーノフ氏のレポートで解説されているので、ご参照いただきたい。
実は、近年ロシア政府は、極東以外の連邦管区についても長期戦略を策定し、各管区の経済発展の青写真を描いている。そして、興味深いのは、その政治的文脈である。現政権は、2011年下院選挙と2012年大統領選挙という政治的関門をかなり強く意識して、管区ごとの長期戦略策定を進めてきた印象が強いのだ。
というわけで、今回は、ロシアの連邦管区ごとの長期発展戦略の問題を検討してみたい。また、一つの事例として、月報今号の特集テーマであるタタルスタン共和国のケースを取り上げることにする。(服部倫卓)
自動車産業時評
タタルスタン経済を支える自動車産業
タタルスタンにはいくつかの自動車関連工場が存在しますが、中でも最も注目度が高いのは、ロシアのSollersと米国のフォードの合弁企業であるフォードSollers傘下の2工場と、トラック工場のKAMAZです。フォードSollers傘下の2工場では新工業アセンブリ措置の適用を受けた上で、フォードの複数のモデルの生産が開始されることになっており、その動向が注目されています。一方、KAMAZの場合は、MAZとの合併の動きやダイムラーによる株式の買い足しの動き等があり、注目を集めています。本稿では、フォードSollers傘下の2工場とKAMAZの現状と今後の展望をご紹介することとします。(坂口泉)
ロシア極東における石炭輸出インフラの整備
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
A.ヴァルダリ、Ye.ザオスロトキフ、O.デミナ
ロシアにおける石炭の生産量は2000〜2010年の10年間で約25%増加したのに対し、輸出量は3倍近くに増加した。 輸出の増加は、国際石炭市場の好況によるものである。2010年の世界の石炭取引量は11億t超を記録し、前年比13.5%増加した。このような市場拡大の背景には、中国とインドにおける石炭需要の増加および日本、台湾、トルコ、ブラジル、CIS諸国といった伝統的な石炭消費国における金融危機後の経済回復があった。
ビジネス最前線
ロシア・セキュリティ市場の可能性を模索する
OPTEX SECURITY, LLC 社長
鴨下龍哉さん
はじめに
センサ大手・オプテックスのロシア法人、オプテックス・セキュリティがモスクワ市内、クレムリンの近くに設立されたのは2011年10月31日です。同社社長に就任した鴨下さんは滋賀県本社SEC事業本部・事業開拓部長との兼任で、現法立ち上げに向けて頻繁にロシアへ足を運びました。現在は現地代理店と連携しながら、同国のセキュリティ市場のリサーチと攻略に努めています。とはいえ、同市場に関するデータの入手は容易ではなく、苦労が絶えないとのこと。ロシアにおけるセキュリティ関連事業の一層の拡大と強化を図るという目的を達成するため、ビジネスチャンスを探る日々が続いています。(芳地隆之)
データバンク
2011年のロシア極東の経済統計
ロシア極東は2011年も引き続き、好調な経済パフォーマンスを維持した。成長率は発表されていないが、おそらく国の成長率を上回る伸び率になったものとみられる。ロシアでは2009年に世界同時不況の影響を受け、マイナスに落ち込んだ。しかし、極東に限ってはプラスを維持し、1999年以降、13年連続してプラス成長となった。
ここ数年の高成長は、経済開発の進展に伴う大規模な公共投資や石油・天然ガスなどの資源輸出が好調だったことが大きい。
極東の経済力の60%以上がサハリン州、沿海地方、ハバロフスク地方に集中している。2010年の伸び率でみると、沿海地方が11.7%、ハバロフスク地方が11.0%、サハリン州が8%と高く、この3州が極東の成長を支えた。これら3州が好調であれば、極東全体の経済成長もそれに伴って上昇していく構造にある。(齋藤大輔)
ロシアNIS貿易会平成24年度定時総会報告
はじめに
一般社団法人ロシアNIS貿易会は東京の如水会館にて、6月13日に平成24年度定時総会を開催いたしました。「平成23年度事業報告及び事業報告の附属明細書」の報告、第1号議案「平成23年度計算書類等」、第2号議案「補欠役員の選任」の承認がなされました。
以下では総会において報告された平成23年度事業報告を掲載するとともに、総会における西岡会長の挨拶、役員および顧問名簿を掲載いたします。
ロシア極東羅針盤
激しくなる新知事VS前知事
9月のAPECサミットを前にして注目を浴びる沿海地方。そうした華やかさの一方で、沿海地方は今、「新時代」をつくるための生みの苦しみの中にある。それは、ダリキン知事時代の腐敗した構造との決別である。
ダリキングループとミクルシェフスキー新知事との対立は日増しに激しくなっている。口火を切ったのはミクルシェフスキー知事の方だった。知事解任から2ヵ月後の4月末、ダリキンの同級生で側近のオヴェチキン議会議長の逮捕(在宅のまま)に踏み切った。容疑は2008年に石油関連の民間企業から3,800万ルーブルをだまし取った詐欺の疑い。その後、オヴェチキンは議長辞任に追い込まれた。APEC準備で道路建設を請け負った会社にもメスが入り、前社長が逮捕された。いずれもダリキンに近く、彼のグループに対する「警告」という見方が強い。(齋藤大輔)
ロシア首長ファイル
モスクワ州ショイグ知事
はじめに
ロシアでは大統領の交代に合わせて、新しい首相が任命され、新政府が編成される。エリツィン、プーチン、メドヴェージェフと3人の大統領の下で20年近く、同じポストを務め続けたセルゲイ・ショイグ元市民防衛・非常事態・災害復興大臣(以下、非常事態大臣)がモスクワ州知事に任命された。
モスクワ州は首都モスクワ市を取り囲むように位置する州であり、首都で働く人々のベッドタウンとして人口が多い。社会・経済水準も高く、昨今ではモスクワ市との地理的再編でも注目されている。
地理的・社会・経済的に重要なモスクワ州の知事に就任したショイグの経歴について本稿で紹介する。(中馬瑞貴)
エネルギー産業の話題
ロスネフチに関する最新情報
セーチン前副首相がロスネフチの社長に就任しました。就任後、セーチン社長は精力的な動きを示しており、複数の大手石油会社をメンバーとする「石油クラブ」という団体を設立したほか、大統領直轄の燃料エネルギーコンプレクスに関する委員会の設立に際し主導的な役割を果たし、同委員会の事務局長に就任しました。事態の進捗次第では、ロスネフチという営利組織の社長が、燃料エネルギー分野の国家戦略決定プロセスを主導するという状況が生じる可能性も出てきました。また、ロスネフチを軸に業界再編の動きが活発になる可能性もあり、同社の注目度が以前にも増して高くなっています。そこで、今回は、ロスネフチに関する最新情報をご紹介することとします。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
日本海側港湾の対ロ貿易
日本海側諸港は長きにわたり、対岸のロシア極東との草の根的交流に特別な情熱を持って取り組んできました。今後予定されているロシアのWTO加盟、極東の発展計画、日ロ間共同プロジェクトなどは、日本海側諸港にどのようなチャンスを与えるのでしょうか。まずは対岸貿易の現状を分析します。(辻久子)