特集◆ウラジオストクAPECと極東開発の行方 |
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特報 |
APECの開催と極東開発への道筋 |
調査レポート |
ロシア極東開発で暗躍する3人の実業家 |
調査レポート |
ロシア極東の製造業 ―プーチン戦略の次の一手― |
ビジネス最前線 |
日本製パネル、ルースキー島の水族館へ |
ビジネス最前線 |
沿海地方で始まった日本企業の農業経営 |
ルポルタージュ |
北方領土ビザなし交流報告 ―肌で感じるロシア人島民の変化― |
ルポルタージュ |
ロシアによる北方領土開発の動向 |
データバンク |
データで見るロシアの中の極東 |
ミニ・レポート |
20年ぶりに訪問したカムチャッカ地方 |
ミニ・レポート |
イシャーエフ極東発展大臣の限界 |
INSIDE RUSSIA |
ロシア極東開発の政治・行政体制 |
ロシア首長ファイル |
サハリン州ホロシャヴィン知事 |
出張・駐在の達人 |
ウラジオストクに新ターミナルと空港連絡特急 |
ドーム・クニーギ |
堀内・齋藤・濱野編著『ロシア極東ハンドブック』 |
キーパーソンに訊く |
グルジアの改革成功のキーワードは「簡素化」 |
データバンク |
2012年上半期の日本の対ロシア・NIS貿易統計 |
研究所長随想 |
1993年10月事件のこと |
日ロ異文化遭遇の日々 |
ロシア人は計算とスケジュールが苦手 |
エネルギー産業の話題 |
ガスプロムの上流の現状 |
自動車産業時評 |
モスクワ国際モーターショー開催される |
ロジスティクス・ナビ |
ロシアの港湾発展戦略 |
ロシアビジネスQ&A |
ロシアへの展示品・見本品の輸送 |
業界トピックス |
2012年8-9月の動き ◆エーザイが見るロシア医薬品市場の特徴 |
通関統計 |
2012年1〜8月の通関実績 2012年1〜8月の日ロ貿易 |
特報
APECの開催と極東開発への道筋
9月2日から9日までの1週間にわたり、ロシア極東のウラジオストクで、APEC(アジア太平洋経済協力)が開催された。8〜9日には首脳会議が開かれ、我が国の野田佳彦首相をはじめとする各国首脳が出席。同サミットでは、プーチン・ロシア大統領の議事進行の下、本年の4つの優先課題(貿易・投資の自由化及び地域経済統合、食料安全保障、サプライチェーン、イノベーション)に沿って議論が行われ、会議の成果として、APEC首脳宣言「成長のための統合、繁栄のための革新」が発出された。なお、首脳・閣僚会議の結果については、経済産業省アジア太平洋地域協力推進室にまとめいただいた概要を参考資料として掲載するので(9〜10頁)、ご参照いただきたい。
ウラジオストクAPECの開催は、プーチン体制の下でここ数年間続いてきたロシア連邦政府主導の極東大開発のフィナーレとも言えるイベントであった。しかし、APEC開催都市のウラジオストクで大規模インフラが完成する一方、極東の経済発展はいまだに軌道に乗ったとは言いがたく、現に住民の流出にも歯止めがかかっていない。また、プーチン政権としては極東開発を足掛かりに、ロシアがアジア・太平洋市場に本格的に参入することを目論んでいるものの、日ロ間の北方領土問題を挙げるまでもなく、この地域の国際関係は困難で流動的だ。
ウラジオストクAPECという大きな節目を越えて、果たしてこれからロシア極東の開発はどうなっていくのか? そして、ロシアの東方シフト、日ロ経済協力の成否は? 月報の今号では、様々な角度から、これらの問題に迫ってみたい。
冒頭の本レポートではまず、ウラジオストクAPECの意義を考察し、APEC後のロシア極東開発につき、若干の展望を試みたい。(齋藤大輔)
ロシア極東開発で暗躍する3人の実業家
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
2012年9月初旬にウラジオストクで執り行われたAPEC首脳会議には、ロシアのビジネス界でも特に「謎」が多いといわれている複数の実業家が深くかかわった。2012年度APECビジネス諮問委員会議長で、極東地方において石炭や穀物の積出ターミナル建設計画に取り組んでいることでも知られるジャヴジン・マゴメドフ、APEC首脳会議の会場となったウラジオストクにガスを供給することを主目的とする極東ガスPL建設プロジェクトに関与したアルカディ・ロテンベルグ、APEC首脳会議の会場となったルースキー島の極東連邦大学の新キャンパスの建設に取り組んだアラス・アガラロフの3人である。「謎」という言葉を冠したのは、3人とも情報公開にどちらかといえば消極的で、手掛けているビジネスにも不透明な点が少なくないからである。マゴメドフとロテンベルグに関しては、政界の大物との謎につつまれた関係が彼らのビジネスを支えているとの噂が常につきまとっている。
今回のAPEC首脳会議を契機に3人がロシア極東地方でのプレゼンスをさらに強化し、同地方と地理的に近い日本の企業と彼らが経営する企業の接点が今後急激に広がる可能性も充分に考えられる。本稿では現時点で入手可能な情報をベースに、彼らの経歴、展開するビジネスの概要、人脈等をご紹介する。謎の実業家といわれるだけあって、彼らに関する明確な情報は少なく、今回ご紹介する情報の中には一部憶測も含まれていることを予めご了承願いたい。
ビジネス最前線
日本製パネル、ルースキー島の水族館へ
日プラ株式会社
代表取締役 敷山哲洋さん
はじめに
「この雑誌の趣旨には合わない話かもしれませんよ」。世界各国の水族館にアクリルパネルを納入している、業界では世界のトップシェアを誇る日プラ(本社:香川県三木町)の敷山社長の第一声でした。同社はAPEC開催時の目玉のひとつとしてウラジオストクのルースキー島に建設中のプリモールスキー水族館向けへの納入が決まったものの、「技術屋」を自任する敷山社長には、水族館建設の何たるかを知らず、かといってこちらの指導をきちんと受け入れようとしない現地の企業の姿勢に、当初は我慢がならなかったそうです。とはいえ、お話を伺っていると、ロシアNIS諸国からの発注はこれから増えていく模様。私たちとしては、同諸国において日プラ製アクリルパネルの高い品質が広く認知され、同社が蓄積してきた水族館運営に関するノウハウが普及してほしいと願うところです。(芳地隆之)
ビジネス最前線
沿海地方で始まった日本企業の農業経営
イービストレード梶@TRUSTRADE事業部
部長 山田康夫さん
課長 松尾泰寛さん
はじめに
「日本一元気な30人の総合商社」(寺井良治社長)を自負するイービストレードのロシア事業部門であるTRUSTRADE事業部は、シベリア極東を中心に様々なビジネスを展開しています。今年になって、着手したのが沿海地方の地元農家と提携してのソバ栽培。これまで注目されながら、なかなか日本企業による事業化がなされなかった分野です。ロシアビジネスのリスクは、経済発展が著しい国の不確定要素として当たり前のものと捉え、最初は小規模で始めて、それを徐々に広げていく。ロシアビジネスを行っている企業のなかでもユニークな存在であるイービストレードのお2人に、沿海地方でのアグリビジネスについてお話を伺いました。(芳地隆之)
ルポルタージュ
北方領土ビザなし交流報告
―肌で感じるロシア人島民の変化―
時事通信社マーケット情報部
徳山あすか
北方四島交流事業(通称:ビザなし交流)は、旅券・査証無しで、北方四島に住むロシア人と、相互に往来することのできる特別な枠組みである。1992年の開始以来、今年で20年目を迎えた。相互交流なので、日本人が北方四島を訪問する訪問事業と、四島在住のロシア人が日本各地を訪れる受け入れ事業がある。このうち私は、訪問事業に7回参加することができた。
私が北方領土問題と出会ったきっかけは、今から10年前、早稲田大学の政治サークル「鵬志会」に入会したことである。鵬志会の会員募集チラシには「北方領土ビザなし訪問に参加できます」と書いてあり、それが私の心を妙に惹きつけた。それまで、北方領土とは、日本であるのに日本人が自由に入れない特殊な地域であるという認識しか持っていなかった。いつか行ってみたい、という漠然とした希望はあったが、そのチラシによって、希望が現実感を帯び、未知の世界への好奇心が大きく膨らんだ。
ルポルタージュ
ロシアによる北方領土開発の動向
「北方領土にはこれまでに7回行ったが、いくたびにロシア色が強まってきている。もう昔の島の面影はなくなった」
北方領土の歯舞群島のひとつ水晶島出身の柏原榮さん(81)は昨年5月に国後島を訪問したときの印象をこう話す。国後島の古釜布(ロシア語名はユジノ・クリリスク)の港では、大規模な改修工事が進められ、数年前までソ連時代の老朽化した桟橋が残り、座礁した船がいくつも打ち捨てられていた港が一変。2,000〜3,000tクラスの大型の貨物船が接岸していた。
市街地には定員90人の幼稚園が完成し、地元行政府の担当者からは、上水道や下水処理施設の整備も始まると説明を受けたという。上水道は地下水をくみ上げ、フィルターで水質をきれいにする予定で、下水処理施設は2014年に完成の見通しで島内では下水処理率が100%になる。
「ロシア人住民との対話集会で、北方領土は日本の領土だと話したところ、『その話は1945年でケリがついている。なぜ今さらそんな話をするんだ』と言われましてね。『経済開発のおかげで住民の生活は確実に良くなっている』とも言われ、島の返還が遠のいたと感じざるを得ませんでした」(柏原さん)。
2009年に択捉島、2010年に色丹島を訪問した元島民の高橋清志さん(79)は、「インフラ整備といっても、ロシアの業者による建設工事は仕事が粗い。空港の滑走路もコンクリートのパネルを敷き並べただけ。日本の工事のレベルとは違う」と印象を語るが、それでも「港湾や住宅など、やはり島は随分と変わったと認めざるを得ない」という。
データバンク
データで見るロシアの中の極東
はじめに
ロシア極東を特集するにあたって、本コーナーでは、ロシアの中での極東の位置付け、ロシア全体と比較した場合の特徴や水準を示す指標を図表にまとめ、お届けすることにする。ロシア極東とその諸地域の姿を知るための基礎資料としてご利用いただければ幸いである。
なお、以下の図表のうち、図表8〜11では、極東の諸地域に加え、いわゆる「バイカル地域」の3つの連邦構成主体のデータも参考値として掲載している。バイカル地域とは、ブリヤート共和国、ザバイカル地方、イルクーツク州の3地域のことであり、所属はシベリア連邦管区ながら、経済開発政策では極東と同一の枠組みで扱われることも多いので、参考までに示した。
統計数値は、数字が揃う最新年である2010年の数値で統一した。データの出所はすべてロシア連邦国家統計局の刊行物およびウェブサイトだが(一部、筆者による算出値も含まれる)、煩雑になるので出典を逐一明記することは省略させていただく。(服部倫卓)
ミニ・レポート
20年ぶりに訪問したカムチャッカ地方
はじめに
2012年9月、私を含め2名が、当会の職員としては久しぶりにカムチャッカ地方を訪問した。現地は2泊のみであったので、表面的なものとなるが、現地の事情の一端を報告する。今年度中に、カムチャッカ地方から政府、ビジネスマンが訪日し、同地方のプレゼンテーションを行う予定があるので、読者の方は、そのときに、ぜひお集まり願いたい。(高橋浩)
ミニ・レポート
イシャーエフ極東発展大臣の限界
極東開発の方向性では大統領や政府、地方政府もおおむね一致している。これまで以上に資金を投じ、開発を加速させていくというものだ。ただ、その方法論をめぐってはプーチン大統領とイシャーエフ極東発展大臣との間に相違がある。プーチン大統領は巨額な資金を投じて立ち遅れたインフラ整備や製造業の再生・育成を引き続き進めることで、人口の定住促進を図るとしているのに対し、イシャーエフはインフラ開発の必要性を認めつつも、それに加えて、住民が極東に住み続けることのインセンティブを与えるよう求めている。具体的には、土地税や法人税など諸税の免除や軽減税率の適用、極東で製造された製品のモスクワ方面への鉄道輸送料金の割引などである。いずれもソ連時代の優遇措置を彷彿とさせるもので、シュヴァロフ第一副首相らは、この要求を突っぱねている。(齋藤大輔)
INSIDE RUSSIA
ロシア極東開発の政治・行政体制
はじめに
新プーチン体制のロシアは、どのような政治・行政の枠組みで極東開発を推進していこうとしているのか。本稿では、新たに設置された極東発展省をめぐる動きを中心に、この問題に迫ってみたい。(服部倫卓)
ロシア首長ファイル
サハリン州ホロシャヴィン知事
はじめに
本誌の極東特集に合わせて、ここでも極東の知事を取り上げる。モスクワからは遠く、むしろ日本に近い極東地域において各構成主体と日本との関係は密接なところが多い。中でも、ロシアで唯一島から成るサハリン州は州都ユジノサハリンスクに日本領事館があり、歴史的に深い日露間の懸案事項である領土問題の対象となる北方領土(クリル諸島)を管轄するため、日本にとって最も重要な構成主体の1つと言える。このサハリン州で現在知事を務めるのは、地元出身のアレクサンドル・ホロシャヴィンである。彼は訪日経験も豊富で、2010年11月に横浜で行われたAPECの際にはメドヴェージェフ大統領率いる代表団の一人として日本を訪れている。
そこで今回は地理的・歴史的・政治的に日本との関係が深いサハリン州のホロシャヴイン知事について紹介する。(中馬瑞貴)
出張・駐在の達人
ウラジオストクに新ターミナルと空港連絡特急
APEC(アジア太平洋経済協力)サミット開催に合わせて、ウラジオストク空港に新旅客ターミナルが完成し、7月23日にオープンした。新しいターミナルはこれまでのターミナルから約数百メートル離れた、滑走路により近いところに3年の期間をかけて建設された。一部の定期便を受け入れる暫定供用後、APEC時には国家元首やサミット関係者を迎えるための専用ターミナとして使われ、APEC後の9月に本格供用を開始した。(齋藤大輔)
キーパーソンに訊く
グルジアの改革成功のキーワードは「簡素化」
ベシッゼ駐日グルジア大使インタビュー
はじめに
今月は、ベシッゼ駐日グルジア特命全権大使に、お話を伺いました。本文中に述べた通り、この「キーパーソンに訊く」の企画が生まれたのは、大きく変化したグルジアの姿に感化されてのことでした。
大使は、既に3年近く日本に勤務されていますが、日本におけるグルジアの認知度はまだまだ低いと考えておられます。一方、近年、中小企業を含め、徐々にではありますが、日本企業のグルジアに対する関心が高まっている兆候も見られるとのことです。
インタビューでは、地理学者から外交官への転身の理由や、日本の第一印象や今後の日本への期待等を伺いつつ、一番知りたかった「どうしてグルジアでは可能だったのか」という、改革成功のカギをお聞きしました。(岡田邦生)
データバンク
2012年上半期の日本の対ロシア・NIS貿易統計
はじめに
日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2012年上半期(1〜6月期)の日本とロシア・NIS主要国との貿易に関し、輸出入商品構成のデータをとりまとめて紹介する。取り上げるのは、ロシア、ウクライナ、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンである。
日ロ異文化遭遇の日々
ロシア人は計算とスケジュールが苦手
日本で言う大学4年生まで私はごく「普通」のロシア人として育ち、このままずっとロシアで暮らしていくだろうと思っていました。しかし、日本に留学するチャンスに恵まれ1995年に日本に行きました。そして、1年の語学留学のはずが「日本の大学院への進学」→「日本の大学への就職」→「日本人との結婚」→「日本の会社に就職」と、気が付いたら日本で暮らして14年も経ってしまい、私はロシアからすっかり遠ざかってしまいました。子供たちも生まれ家族みんなでこのままずっと日本で暮らしていくだろうと確信していました。しかし、人生とは予測できないものです。私はロシアに関係する仕事に就き、ロシアに赴任することになってしまいました。
私が留学でロシアを去った1990年代とは、ロシアが激しく変化していく時代でした。そのため、14年ぶりにロシアで暮らし始めた私が目の当たりにした「ロシア」は、私が去って行った「ロシア」とは似ても似つかない国になっており、特に赴任した当初は私にとって知らないことばかりで毎日戸惑いの連続でした。そういう戸惑いのことや、勤め先の日露合弁会社の中で気づいた日本人とロシア人の働き方や考え方の違いを、このコーナーの中でどんどん取り上げていこうと思います。ロシアのことを知っていただく上で、少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。(T.ケキーゼ)
エネルギー産業の話題
ガスプロムの上流の現状
ガスプロムは毎年、年次株主総会の直前に記者会見を行い、自社の現状についての説明を行っています。その際、普段マスコミで報じられることのない貴重なデータが明らかにされることが多いのですが、今年(2012年)も上流のひっ迫した状況を示す貴重なデータが公開されました。今回は、主としてそのデータを参考としながら、専門家の間でも意外と知られていないガスプロムの上流の現状をご紹介します。(坂口泉)
自動車産業時評
モスクワ国際モーターショー開催される
2012年8月末から9月初めにかけモスクワでモーターショーが開催されましたが、その際に、多くのメーカーが今後ロシア市場に投入する予定の新型モデルを公開しました。今回は、モーターショーでお披露目された新型モデルの中で特に注目されるものをピックアップし、ご紹介したいと思います。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
ロシアの港湾発展戦略
「2030年までのロシア海洋港湾インフラ発展戦略」が2012年8月にロスモルポルトより公表されました。同戦略はロシア港湾の現状分析、将来予測、制度的・技術的課題の検討などを含む密度の濃い内容となっています。以下、その戦略の中で示された港湾貨物需要予測及び極東の主要港湾整備計画について紹介します。(辻久子)
ロシアビジネスQ&A
ロシアへの展示品・見本品の輸送
ロシア企業との商談やロシアで開催される展示会に出展するため、製品・商品の見本を携えてロシアに出張に行くことがあります。その際、入国時および出国時にロシアの空港税関に呼び止められ、荷物を見せるよう言われたり、あれこれと質問されたりした体験をお持ちの方も多いでしょう。(原真澄)