特集◆ロシア自動車市場の現状と特質 |
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特報 |
2012モスクワ自動車見本市視察報告 |
調査レポート |
個性が際立つロシア乗用車市場 ―外資系完成車メーカーの対応― |
調査レポート |
ロシア極東中古車ビジネス最前線 ―変化と規制の間で― |
ビジネス最前線 |
好調なSUVを原動力に15万台達成を目指す |
ビジネス最前線 |
サミットモータースが極東で築き上げた信頼 |
ビジネス最前線 |
ニジェゴロドの軸受メーカーを買収して ―ロシアとともに挑むモノづくり― |
データバンク |
2012年1〜9月のロシア乗用車市場 ―低価格帯セグメントに異変― |
ロシア首長ファイル |
サマラ州メルクシキン知事 |
ドーム・クニーギ |
坂口泉・富山栄子著 『ロシアの自動車市場 ―激戦区のゆくえ―』 |
キーパーソンに訊く |
モルドバの生きる道とは ―悪い平和も、良い戦争よりはまし― |
研究所長随想 |
アジアはドイツの歴史感覚に学ぶべき ―過去に目を閉ざす者は現在にも目を閉ざす― |
INSIDE RUSSIA |
ウクライナ議会選とロシアの対応 |
日ロ異文化遭遇の日々 |
有給休暇はロシア人の生き甲斐 |
エネルギー産業の話題 |
ロスネフチによるTNK-BPの買収 |
ロジスティクス・ナビ |
対ロシア・コンテナ輸送の近況 |
出張・駐在の達人 |
ユーロ開催で底上げされたキエフの街 |
業界トピックス |
2012年10月の動き ◆ロシアからプラモデルを輸入 |
通関統計 |
2012年1〜9月の通関実績 2012年1〜9月の日ロ貿易 |
特報
2012モスクワ自動車見本市視察報告
月報の今号では、「ロシア自動車市場の現状と特質」と題する特集をお届けする。自動車産業が、日本とロシア間の経済関係の柱になって久しい。2008年のリーマンショックによる深刻な落ち込みこそあったものの、その後市場は目覚ましく回復している。最近では、日系メーカーの現地生産が新たな展開を見せ、またロシアのWTO加盟やリサイクル税(廃車税)導入といった話題もあった。ただ、ギリシャ情勢に端を発する欧州の経済不安の影響はどうなのか? 本特集では、そのあたりの最新事情を、取りまとめてお送りしたい。また、今号ではロシア自動車市場の特質をより深く考察することも試みている。特集冒頭の本レポートでは、本年の8月末から9月初頭にかけてモスクワで開催された2つの自動車関連見本市、「モスクワ国際自動車サロン(MIAS)」と「インターオート」の視察報告をお届けする。写真の紹介が中心になるが、現場の雰囲気を感じ取っていただければ幸いである。(服部倫卓)
個性が際立つロシア乗用車市場
―外資系完成車メーカーの対応―
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
販売の堅調さに加えWTO加盟に伴う期待感の高まりもあり、外資系完成車メーカーの多くがロシア市場への攻勢を強めようとしているが、攻めあぐねているとの印象を受けるケースも少なくない。その主因は、ロシア市場が非常に個性的な側面を有しており、他の新興国市場では通用する戦術や戦略が通用しないことにあると推測される。たとえば、ロシアでは何よりもまず車のサイズの大きさに価値観を見出す消費者が多く、いくら低価格であってもサイズの小さいAセグメントカーは受け入れられない。
また、ロシアは石油ガス分野に過度に依存したモノカルチャー的経済構造を有しており、油価という不安定な要素に左右される度合いが非常に強くなっている。その関係で、ロシアの乗用車市場は、多様化した産業構造を有する国々の市場の常識では考えられないようなトリッキーな動きを示す危険性を秘めており、長期戦略をたてることが困難になっている。
さらに、ロシアでは消費者の車に対する趣味嗜好が非常に多様化しており、1モデル当たりの販売台数が一定以上伸びないという傾向が見受けられる。そのことは外資系完成車メーカーによる現地生産計画に一定の困難さをもたらしている。
外資系完成車メーカーもロシア市場の個性を強く意識するようになっており、それぞれ独自の対応策を打ち出そうとしている。本稿では、まずロシア市場において見受けられる様々な個性についての説明を行った後に、主要外資系完成車メーカーのそれらの個性に対する対応ぶりを見ていく。
なお、本稿では率直な意見を述べているが、それらはすべて筆者個人の見解であって、当会の共通認識ではないことを予めお含みおきいただきたい。
ロシア極東中古車ビジネス最前線
―変化と規制の間で―
ロシアNIS経済研究所 主任
齋藤大輔
はじめに
よもや中古車輸出の世界でも「ミャンマーブーム」が起きているとは思わなかった。民政移管1年を境に経済制裁が本格的に解除され、「いよいよミャンマーの時代だ!」「バスに乗り遅れるな!」と言わんばかりに、日本企業の進出ラッシュが起きているが、中古車輸出でもミャンマー向けが急増している。9月単月の輸出台数はロシアを抜いてトップに躍り出た。日本の中古車輸出に異変が起きているようだ。
ロシアでも大きな変化があった。世界貿易機関(WTO)加盟に伴う関税引き下げと新税の導入がそれで、規制に終わりがないことを印象づけた。しかし、計算してみると、中古車でも負担減になる車があるなど、規制強化とは一概には言えない面がある。
そこで本稿では、日本の中古車輸出統計を分析するとともに、ロシアが踏み切った関税引き下げと新税について詳しく解説する。
ビジネス最前線
好調なSUVを原動力に15万台達成を目指す
ロルフ・インポート Co-CEO
高井直哉さん
はじめに
ランサーが一時代を築くなど、ロシアの乗用車市場で三菱車が大きな成功を収めてきた大きな要因として、現地で販売を担うロルフ・グループ(Rolf Group)の存在があったことは、広く知られているとおりです。三菱商事は2009年、同グループで三菱車の輸入販売を手掛けるロルフ・インポート(Rolf Import)に、40%の出資を行いました。そこで、三菱商事から出向してロルフ・インポートのCo-CEO(共同社長)を務めておられる高井さんにお目にかかり、ロルフ・グループ/インポートの概要、出資の経緯と狙い、ロシア市場についてのご意見、三菱車の販売戦略などについて、お話を聞かせていただきました。(服部倫卓)
ビジネス最前線
サミットモータースが極東で築き上げた信頼
住友商事
自動車事業第二本部 自動車欧州部部長 橋本 祐吾さん
自動車欧州第三課長 滝徹さん
はじめに
新生ロシアとほぼ同時期にスタートした「サミットモータース・ウラジオストク」は今年で創立20周年を迎えました。ウラジオストクでは「サミットモータース」の方が親会社である住友商事よりも有名で、最近の調査では市内のドライバーの8割以上がその存在を知っているとのこと。ロシアの自動車市場と一言で言っても、モーターショーで各国メーカーの最新モデルが紹介されるモスクワを中心とした欧州地域と、日本製中古車の右ハンドルが席巻する極東地域では、事業の展開は大きく異なります。ロシア政府がウラジオストクを自動車生産の重要拠点とみなし、今後、徐々に変化が進むと思われる極東でのビジネスについて、住友商事のお二人に語っていただきました。(芳地隆之)
ビジネス最前線
ニジェゴロドの軸受メーカーを買収して
―ロシアとともに挑むモノづくり―
大同メタルロシアLLC
副社長 三代 元之さん
はじめに
ロシアにおける一大工業センターの役割を担う沿ヴォルガ連邦管区ニジェゴロド州の軸受メーカーを大同メタル工業が買収し、「大同メタルロシアLLC」として生産を開始してから5年が経ちました。三代(みよ)さんは、モスクワやサンクトペテルブルグといった大都市とも、日本に近いウラジオストクやハバロフスクとも違う、「ディープな」ロシアでの現地法人立ち上げに当初から関わってこられ、現在も地域密着型で事業を進めています。三代さんからは大同メタルロシアの歩んでこられたプロセス、事業の内容、今後の展望だけでなく、沿ヴォルガ地域ならではの特性についてもお話ししていただきました。(芳地隆之)
データバンク
2012年1〜9月のロシア乗用車市場
―低価格帯セグメントに異変―
はじめにロシアの乗用車市場はリーマンショック後に想定外の落ち込みを示し、2009年の販売台数は前年の約半分の約147万台(小型商用車=LCVを含む数字)にとどまった。ところが、2010〜2011年と2年連続で業界関係者の予想を上回る回復ぶりを示し、2011年の市場規模は2009年の数字を100万台以上も上回る約265万台に達した。
2012年に関しては、「欧州の経済不安の影響を受け、販売台数の伸び幅は最大でも前年比10%程度の水準にとどまる」との見方が年初時点では優勢となっていたが、比較的価格の高いモデルを中心に売れ行きが好調で、1〜9月期の販売台数は前年同期を14%上回る約219万台に達した。この流れを受け、ロシアの大手自動車販売会社「ロルフ」は秋に、年初に発表した280万台という2012年の市場規模予測の数字を297万台に上方修正している。欧州市場が全般的に不振な中での堅調さは、ロシア市場の注目度を一層高める形となった。外資系完成車メーカーの現地生産プロジェクトに新たな動きが目立ち始めている。
本稿では、2012年1〜8月期のロシアの乗用車の生産動向と同1〜9月期の販売状況の他、外資系完成車メーカーの現地生産をめぐる最新の情報をご紹介する。(坂口泉)
キーパーソンに訊く
モルドバの生きる道とは
―悪い平和も、良い戦争よりはまし―
V.ラザル・モルドバ共和国副首相
はじめに
モルドバはウクライナの南西、ルーマニアの北東に位置する内陸国で、九州より少し小さい国土に、およそ360万人が住む、小さな国です。ソ連崩壊後、連邦の産業構造のなかで支えられていたモルドバの経済は一挙に疲弊し、現在でも「欧州最貧国」などと揶揄され、さらに、独立に際し、国内の民族問題が内戦に至り、ロシア人が多く住む沿ドニエストル地方が分離独立し、今に至るなど、政治的にも難しい問題を抱えています。日本、モルドバ共に大使館は未開設で、昨2011年の両国の貿易も1,700万ドルに留まっています。モルドバは日本にとって、旧ソ連諸国の中で一番「遠い国」の一つでしょうか。
一方、モルドバのGDP成長率は、2010年に7.1%、2011年に6.4%とCIS平均を上回り、欧米からの投資も増えつつあるとのことです。
ラザル副首相は、経済相を兼務されており、モルドバ経済の現状及び将来像、ロシアや欧州に対する対外経済政策の「哲学」、そして、日本との関係に期待することなど、様々なお話をお聞きしました。(岡田邦生)
INSIDE RUSSIA
ウクライナ議会選とロシアの対応
はじめに10月28日、ウクライナ最高会議(議会)の選挙が実施された。今回は、この選挙戦をめぐる動向・結果と、ウクライナ政局に対するロシアの対応につき吟味する。(服部倫卓)
エネルギー産業の話題
ロスネフチによるTNK-BPの買収
2012年10月にBPの取締役会が、同社が保有するTNK-BPの株式50%をロシアの国営石油会社「ロスネフチ」に売却することを承認したとの情報が出ました。また、ほぼ同時期に、ロスネフチがTNK-BPのロシア側の株主であるコンソーシアム「AAR」との間で、同コンソーシアムが保有する株式50%の買収に関する交渉を行っていることも判明しました。これらの取引が成立すれば、世界最大級の石油会社が誕生することになります。今回は、ロスネフチによるTNK-BP買収の概要をご紹介すると同時に、この取引の背景にある事情などについてもご紹介します。 (坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
対ロシア・コンテナ輸送の近況
恒例のシベリア鉄道に関する国際会議が9月に開催され、各国の利用状況が明らかとなりました。一方、日系自動車メーカーのロシアにおける現地生産拡大に伴い、コンテナによる部品供給が課題となっています。世界と日本の動きを合わせて論じることとします。
(辻久子)
出張・駐在の達人
ユーロ開催で底上げされたキエフの街
はじめに2012年6月8日から7月1日にかけて、ウクライナとポーランドの共催により、サッカーの欧州選手権が開催された(UEFAユーロ2012)。ウクライナ国内では、キエフ、リヴィウ、ハルキウ、ドネツィクという4つの街が開催都市となった。
ここ数年のウクライナは、この大イベントを目指して走ってきたと言っても過言でない。首都キエフも、都市として1ランク上がった感がある。
そこで以下では、ビジネスマンが駐在・出張する街としてのキエフにつき、語ってみたいと思う。(服部倫卓)