ロシアNIS調査月報2013年11月号特集◆グローバル経済の中のロシア |
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特集◆グローバル経済の中のロシア |
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調査レポート |
ロシアの石油ガス分野にとっての壁 ―世界的プレゼンス低下の危険性― |
調査レポート |
ロシアと中国の造船業界の比較 |
調査レポート |
ロシアにおける金融政策の指標と変遷 |
ビジネス最前線 |
日ロ経済関係の拡大を支えるメガバンク |
ビジネス最前線 |
日系企業が始めるロシアでのオンライン事業 |
ミニ・レポート |
ロシアは穀物・食料輸出大国になりうるのか |
ドーム・クニーギ |
上垣彰・田畑伸一郎編著 『ユーラシア地域大国の持続的経済発展』 |
キーパーソンに訊く |
シベリアの経済開発はかくあるべし |
キーパーソンに訊く |
近年のタジクの高成長は投資環境改善の成果 |
イベント・レポート |
トルクメニスタン大統領訪日とフォーラム開催 |
データバンク |
2013年上半期の日本の対NIS諸国貿易統計 |
モスクワ便り |
池田さんを追悼する |
研究所長随想 |
国際諜報活動の今昔 |
INSIDE RUSSIA |
訪問して感じたロシア極東発展省のありよう |
ロシア極東羅針盤 |
ウラジオLNG環境問題を考える |
ロシア首長ファイル |
ヴォロネジ州ゴルデエフ知事 |
自動車産業時評 |
カザフスタン新車市場の急拡大 |
ロジスティクス・ナビ |
図們江地域へ繋がるシベリア鉄道 |
日ロ異文化遭遇の日々 |
ロシアの欠陥マンション体験記 |
業界トピックス |
2013年8-9月の動き ◆日本企業にとり優位性のあるネットワーク構築 |
通関統計 |
2013年1〜8月の通関実績 |
ロシアの石油ガス分野にとっての壁
―世界的プレゼンス低下の危険性―
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
世界市場におけるロシアの石油ガスの存在感は非常に強い。石油に関しては生産量世界1位の座をサウジアラビアと競い、輸出量に関しても同国とトップ争いをしている。石油製品の輸出量に関してはシンガポールなどとトップ争いをしており、とくに重油と軽油の輸出量が多くなっている。ロシアは、世界の石油および石油製品市場において最も強い影響力を有する供給国のひとつといえる。
ガスについてもロシアは世界有数の生産量を誇り、トップの座を米国と争っている。国内消費量が米国より少ないこともあり、輸出量は世界第1位である。現在は欧州向け輸出が中心となっており、影響力が地域的に限定される傾向はあるものの、ロシアは世界のガス市場においても最も強いプレゼンスを有する国のひとつといえる。さらに、ロシアはLNGを軸にアジアのガス市場への本格進出を目指しており、今後、そのプレゼンスが地理的な広がりを見せることも考えられる。
しかし、次々と発表される壮大な輸出プロジェクトから受けるイメージとは裏腹に、ロシアの石油ガス分野は多くの深刻な問題を抱えており、世界市場でのプレゼンスの強化はおろか現状維持ですら困難になる可能性がある。
本稿では、ロシアの石油ガス分野が直面する主要な問題を詳細に紹介すると同時に、それらの問題の打開策についての考察を試みる。
ロシアと中国の造船業界の比較
高知大学 人文学部
塩原俊彦
はじめに
本稿は、ロシアと中国の造船業界の比較により、もっぱらロシアの造船業界の現状と課題を明らかにすることをめざしている。前稿の「ロシアと中国の民間航空機産業の比較」(『ロシアNIS調査月報』2013年4月号)は、「民間」に重心を置いたが、今回は軍需関連の造船と民需関連の造船をともに考察対象とする。ただし、前回と同じく、同等の比較対照が困難であり、わかる範囲の比較にとどめている点をあらかじめ指摘しておきたい。
ロシアにおける金融政策の指標と変遷
旭川大学 教授
大野成樹
はじめに
本稿の目的は、ロシア中央銀行が2000年以降、どの指標に重点をおいて金融政策を運営してきたかを分析することにある。分析期間を2000年以降としたのは、1998年のロシア金融危機以降、バーターや疑似通貨などの非通貨取引が減少し始め、金融政策が有効に機能する前提が整いつつある時期であると考えたからである。
分析に際しては、3つの期間区分、すなわち第1期:2000年〜2008年半ば、第2期:2008年半ば〜2010年頃、第3期:2011年頃以降、を導入する。第1期は2000年から米国発世界金融危機が深刻化するまでの時期、第2期は危機に対応した政策が採られた時期、第3期はロシア経済が比較的安定化した時期である。
Christiano and Eichenbaum (1992)は、金融政策指標を以下の2つに分類している。すなわち、貨幣供給量を指標とするMルールと、短期金融市場の金利を指標とするRルールがそれである。以下では、第1期から第3期までのそれぞれにおいて、ロシア中央銀行がMルールとRルールのどちらに重きを置いて金融政策を実施してきたかを論じる。
ビジネス最前線
日ロ経済関係の拡大を支えるメガバンク
ロシア三井住友銀行 社長
生坂敬行さん
はじめに
日本のメガバンクの一角である三井住友銀行は、2009年にロシアに子会社「ロシア三井住友銀行(ZAO Sumitomo Mitsui Rus Bank)」を設立し、同年12月から業務を開始しています。今回は、ロシア三井住友銀行の生坂社長にインタビューに応じていただき、ロシアにおける現法設立の経緯と会社の概要、ロシア・NIS諸国における業務展開、三井住友銀行による日系進出企業への支援などについてご説明いただきました。あわせて、ロシアの銀行業界や為替の動向などについても、専門家としてのご意見をお伺いしました。(服部倫卓)
ビジネス最前線
日系企業が始めるロシアでのオンライン事業
YAR-Bank Ltd.
持田太市さん
はじめに
ロシアの銀行に出資したSBIホールディングス(SBI)は、同国のオンラインバンキング事業を展開しています。ロシアの同事業には同国の大手銀行の大半が参入していますが、まだ発展途上にあるのが現状です。SBIのパートナーであるロシアの金融グループ、METROPOLはSBIがこれまで培ってきた安全性や利便性の技術を高く評価しており、ロシア市場の開拓に期待しています。今号では共同経営を目的にロシアの銀行へ出向されている持田さんに、同国におけるオンラインバンキング事業の現状や今後の課題、そしてロシアの同僚の方々との温かい交流のエピソードについても語っていただきました。(芳地隆之)
ミニ・レポート
ロシアは穀物・食料輸出大国になりうるのか
はじめに
プーチン大統領は2012年12月の連邦議会に対する年次教書演説のなかで、「今後4〜5年の間に我々は、主要な食品について完全な自給自足体制を確立し、さらにその後、世界最大級の食料の輸出国にならねばならない」という注目すべき発言を行った。
ロシアは2001/2002の穀物年に穀物のネットの輸出国に転じ、世界の穀物市場において注目される存在になってはいるが、その他の主要食品についてはいまだ輸入に大きく依存している。たとえば、野菜と果物に関していえば、ロシアは世界でも五指に入る大口の輸入国となっている。また、畜産分野の状況が近年急激に改善されているとはいえ、牛乳・乳製品の自給率は約70%、豚肉の自給率も約66%にそれぞれとどまっている。さらに、穀物についてもネットの輸出国であるとはいえ、2010/2011の穀物年には不作の影響で輸出禁止措置が導入されるなど安定感に欠ける傾向が見受けられる。
以上のような状況下にあるロシアが、本当に食料の一大輸出国となりうるのだろうか。ロシアが食料品の一大輸出国に転じる上で重要な役割を果たすと目される穀物部門、畜産分野、油料種子(大豆)部門の現状と課題の分析を通し、考察を試みる。(坂口泉)
キーパーソンに訊く
シベリアの経済開発はかくあるべし
ロシア科学アカデミー・シベリア支部経済・工業生産組織研究所 副所長
V.セリヴョルストフ
はじめに
ロシアNIS貿易会では今年度、ロシアの地域開発政策に関する調査事業を実施しています。その一環として先日ノヴォシビルスクに出張し、シベリア開発のキーパーソンの一人であるV.セリヴョルストフさんにお話をうかがってまいりました。セリヴョルストフさんは、ロシア科学アカデミー・シベリア支部経済・工業生産組織研究所で、研究活動担当の副所長を務めています。シベリアの経済発展戦略の策定にも中心人物として参加してきた、このエリアを代表する碩学です。その主張には、資源ナショナリズムや保護主義的な傾向も若干見て取れますが、それも人一倍のシベリア郷土愛ゆえなのでしょう。以下、インタビューの模様をご紹介いたします。(服部倫卓)
キーパーソンに訊く
近年のタジクの高成長は投資環境改善の成果
タジキスタン共和国投資・国有資産管理国家委員会 議長
D.サイドフ
はじめに
タジキスタンは、ここ数年7%台の高い経済成長を続けており、世界銀行の「Doing Business」の分析においても、総合的な順位は低いものの、近年、ビジネス環境改善の速度が著しいと評価されています。また、本年3月にはWTOの正式加盟国になるなど、経済制度改革は順調に進展しているように思えます。その一方で、タジキスタン経済を支えているのは、ロシアやカザフスタンで働く出稼ぎ労働者からの送金であり、その規模はGDPの半分近くであるとの評価もあります。サイドフ議長には、タジキスタン経済の現状、投資環境改善への取り組み、政府が注力する産業分野、隣国ウズベキスタンやロシアとの関係などについてお話いただきました。また、日本の印象や日本との関係の今後の展望、日本企業への期待などについても語っていただきました。(岡田邦生)
イベント・レポート
トルクメニスタン大統領訪日とフォーラム開催
はじめに
2013年9月11日から13日にかけて、トルクメニスタンのグルバングルィ・ベルディムハメドフ大統領が公式実務訪問賓客として日本を訪問した。2009年12月に続き、トルクメニスタン大統領として、まだ同大統領個人としても2回目の訪問である。
この機会を受け、9月12日、ロシアNIS貿易会(以下、ROTOBO)は日本トルクメニスタン経済委員会、ならびにトルクメニスタン政府と共催で、「日本・トルクメニスタン・フォーラム〜協力発展のより良き展望〜」(以下、フォーラム)を帝国ホテルにて開催した。本稿では同フォーラムの概要を、大統領のプレゼンテーションの抄訳とともに紹介する。(輪島実樹)
データバンク
2013年上半期の日本の対NIS諸国貿易統計
はじめに
日本財務省発表の貿易統計にもとづいて、2013年上半期(1〜6月期)の日本とNIS主要国との貿易に関し、輸出入商品構成のデータをとりまとめて紹介する。取り上げるのは、ウクライナ、ベラルーシ、カザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンである。なお、ロシアのデータはすでに9-10月号に掲載済みだ。
モスクワ便り
池田さんを追悼する
はじめに
あまりに突然のことだった。9月28日、モスクワ・ジャパンクラブ事務局長の池田正弘さんが旅行中の与那国島で急逝した。それから1週間たった今でも、まだ現実のこととは思えない。
17年3カ月にわたるモスクワでの駐在生活を通じて、池田さんは、本当に多くの日本人、そしてロシア人に慕われ、頼りにされていた。その池田さんについて、私が語ることが適当かどうか自信はない。もっと相応しい語り手がいるような気がする。
ただ、この約2年間、身近で仕事をしたものとして、せめてお世話になった感謝と尊敬の気持ちを天国の池田さんに伝えたいと思う。(中居孝文)
INSIDE RUSSIA
訪問して感じたロシア極東発展省のありよう
はじめに
ロシアでは、8月末から9月にかけて、極東開発に関連する大きな動きが相次いだ。そうした中、筆者は9月下旬、今年度実施しているロシアの地域開発政策に関する調査事業の一環として、極東発展省を訪問し幹部と面談する機会を得た。連邦政府の一部ながら、ハバロフスクに本部を置くという異色の同省に関しては、その組織と機能のありようにつき、個人的に以前から強い関心を持っていた。今回初めて訪問して、そのあたりを体感することができたので、報告をお届けする。(服部倫卓)
ロシア極東羅針盤
ウラジオLNG環境問題を考える
ガスプロムがLNGプラントの建設予定地を沿海地方ハサン地区のペレヴォズナヤにしたのは意外だった。ロシア極東をウォッチしてきた者からすると、ペレヴォズナヤに対するイメージは必ずしもプラスとは言えない。むしろマイナスのイメージというべきであろう。誤解してほしくないのだが、ペレヴォズナヤという場所に問題があるのではない。
ペレヴォズナヤは漁業が産業の中心をなす、人口300人強の、怒られるかもしれないが、いわば寒村である。道路と鉄道が通っているだけの場所で、道沿いに店が数軒あるだけだ。近くに自然保護区があるという以外、何の変哲もない村である。この場所に産業施設をつくることに問題があるのである。(齋藤大輔)
ロシア首長ファイル
ヴォロネジ州ゴルデエフ知事
はじめに
2013年4月末に安倍総理大臣が訪ロした際に日ロ協力発展における優先分野の1つに農業が掲げられた。エネルギー資源、自動車、電化製品といった従来の貿易・投資分野とは異なる新しい可能性を秘めた分野であり、日本でロシアの農業の現状が注目されつつある。
ロシア国内で有名な農業地域と言えば、南部のクラスノダル地方、肥沃な沿ヴォルガ地域のバシコルトスタン共和国、極東ではアムール州などが挙げられるが、本稿で取り上げるヴォロネジ州もロシア有数の農業地域である。
さらにヴォロネジ州のゴルデエフ知事は1999年8月から約10年間、農業大臣を務めていた。大臣就任以前にも農業関連組織・企業に務めた経験を持つ。昨今、ロシアでは連邦政府から地方行政府への異動がよくみられるが、これは必ずしも降格を意味しない。広大なロシアにおいて地方の社会・経済発展が国家全体の発展には不可欠であると連邦政府は十分認識しており、連邦政府での経験を活かし、地方の経済発展を任されるケースが多い。最近ではソビャニン・モスクワ市長やアブドゥラティポフ・ダゲスタン共和国大統領が良い例であろう。
本稿では、連邦政府と地方行政府どちらの経験も持つゴルデエフの農業を中心としたその経歴と連邦および地方での成果を追いかけることにする。(中馬瑞貴)
自動車産業時評
カザフスタン新車市場の急拡大
カザフスタンでは、2011年7月より関税率が大幅に引き上げられ個人による中古車の輸入量が激減しましたが、その関係で、中古車市場から新車市場に大量のユーザーが流入しており、新車市場が急激に拡大しています。今回は急成長が続くカザフスタンの新車市場の2013年上半期の状況をご紹介します。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
図們江地域へ繋がるシベリア鉄道
2013年夏、沿海地方南部と中国・吉林省及び北朝鮮・羅先を繋ぐ国際鉄道の試験運行が相次ぎました。いずれも図們江開発や朝鮮半島縦断鉄道構想の一環として長年待たれていた鉄道運行プロジェクトです。その概要と意義について考えます。(辻久子)