ロシアNIS調査月報
2014年1月号
特集◆ウクライナの選択と
ビジネスの可能性
特集◆ウクライナの選択とビジネスの可能性
特別寄稿
ウクライナ政治の実相を見誤るな
調査レポート
ウクライナの東西選択と経済的利害
調査レポート
台頭する農業大国ウクライナ
調査レポート
ウクライナ地域発展政策の現状と課題
ビジネス最前線
省エネ・環境を軸にウクライナビジネスを構築
ビジネス最前線
売れ筋に特化しウクライナ乗用車市場を生き抜く
エネルギー産業の話題
ウクライナの石油・ガス・石炭産業
自動車産業時評
2013年1〜9月のウクライナ自動車市場
ミニ・レポート
ウクライナのビジネス環境大躍進をどう見るか

ビジネス最前線
ロシアのものづくりと日本製工作機械
研究所長随想
50年前のモスクワ駐在員生活
INSIDE RUSSIA
プーチン派とメドヴェージェフ派、それぞれの実業家
モスクワ便り
ロシアの中のアジア:ブリヤート共和国
ロシア極東羅針盤
ロシア極東の新しい発展モデル
ロシア首長ファイル
ペルミ地方バサルギン知事
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道の活況
日ロ異文化遭遇の日々
ロシア人はなぜ貯金をしないのか
出張・駐在の達人
シェレメチェヴォ・エクスプレスを使ってみた
業界トピックス
2013年11月の動き
◆ロシア在留邦人数と日系企業の進出事例
通関統計
2013年1〜10月の通関実績


特別寄稿
ウクライナ政治の実相を見誤るな

北海道大学スラブ研究センター 教授
松里公孝

はじめに
 2013年11月28〜29日にヴィルニュスで予定されていた欧州連合東方パートナーシップ・サミットを目前にした11月22日、ウクライナ首相ムィコラ・アザロフは、欧州連合との連合協定締結作業を先送りにすると発表した。欧州連合が協定締結の条件としていたユリア・ティモシェンコ前首相の釈放をウクライナ議会が拒否したことから、協定へのウクライナの調印はもともと困難視されていたが、それでもウクライナ側が欧州連合の面子を潰すような形で自分から交渉を棚上げにしたことは識者を驚かせた。いつものことだが、ウクライナがこのような決定をすると、ロシアが数十億ユーロの経済援助を約束しただとか、天然ガスの安価な供給を約束しただとかいう憶測が飛ぶ(ウクライナ政府は否定している)。
 本稿では、日本に専門家が少ないことからほとんど知られていないかステレオタイプ的に理解されているウクライナ政治を概観する。


ウクライナの東西選択と経済的利害

ロシアNIS経済研究所 次長
服部倫卓

はじめに
 ウクライナは地域的なコントラストが激しく、また様々な主張や利害がぶつかり合う国だ。現在焦点となっている同国の対外戦略の選択に関しても、然りである。西、すなわち欧州連合(EU)への統合をめざすべきか、あるいは東、ロシアを中心とするユーラシア統合に向かうべきかをめぐって、国民の意見は割れている。
 さて、それでは、ウクライナの発展を担い、また我々のビジネス上のパートナーとなることが期待される同国の経済主体は、東西選択の問題にどのような利害を抱き、いかなる態度を示しているのか? それが本稿のテーマである。とりわけ、ウクライナの経済力の太宗を占め、しばしば当国を陰で操っているとイメージされる大資本家、いわゆるオリガルヒの動きが、注目されるところだ。
 本稿では、極力ステレオタイプを排し、統計分析や報道情報などにもとづいて、ウクライナの東西選択と、経済・ビジネス上の利害とのかかわりを、なるべく具体的に論じるよう努めたい。


台頭する農業大国ウクライナ

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ウクライナの農産物と食品は強い輸出競争力を有しており、2012年の同国の総輸出額の約4分の1を占めた。主要な輸出品目である小麦、大麦、とうもろこし、ひまわり油などは、世界市場で高いプレゼンスを有している。 ただ、同国が世界の食糧市場で存在感を強めたのは最近になってからである。穀物を例にとれば、ソ連解体後、激減した生産量が回復傾向を見せ始めたのは2000年代に入ってから、輸出国として注目されるようになったのは2000年代後半になってからである。いまやウクライナは世界最大のひまわり油の輸出国となっているが、その輸出量が急増し始めたのは2000年代後半のことであった。
 本稿では、世界の食糧市場における急激な台頭を可能した要因に着目しながら、ウクライナの農業分野の主要部門の現状と、同分野において中核的存在となりつつあるアグロホールディングの概要を紹介するとともに、同分野がさらなる成長を遂げるために克服しなければならない課題についての考察も試みる。


ウクライナ地域発展政策の現状と課題

ウクライナ科学アカデミー市場問題・経済・環境研究所 研究員
O.エルマコヴァ

はじめに
 ソ連時代の地域政策の現場では、ある地方公共団体の経済的後進性を解決するための基本としたのは「平準化」の原則であった。生産力を均等配置したのも、同様の目的からであった。一見するとこうしたアプローチは、不況地域の社会的・経済的成長を促進したかのようにも思われる。しかし、経済的に発展した地域と比較すると、これらの地域の後進性に変化はなく、むしろ、さらに後退したようにすら思える。それだけでなく、このようなアプローチは自らの発展の道筋を模索することなく、中央の援助だけを当てにしてきた地域の受身の姿勢、非主体性を助長し、居候根性を根付かせてしまっている。
 多くの点においてこのような関係性は、独立したウクライナの多くの地域にもそのまま残っている。この20年間においてウクライナにおける地域政策は政権が交代しても根本的に変化することはなかった。
 しかし、地域が競争の奔流に巻き込まれるという、新しい競争の文脈に照らしてみると、地域発展に向けて新たなアプローチを模索しなければならないことは自明の理である。先進国の諸地域が堅持している自律的発展の最新構想も諸地域の社会的・経済的発展のレベルの平準化を目指すものであった。ただし、その際に駆使されているのは別のツールである。それは独自に策定した行動計画に基づいて自らの持てる資源を動員するというものである。すべての地域が援助を受けることになるが、それは金銭的な形ではなく、地域における自発性の成長に向けた刺激策という形になる。
 ウクライナの現在の発展段階における地域政策の主要課題とは、地域が国際舞台において競争力のある経済主体として自立するための援助をすることである。


ビジネス最前線
省エネ・環境を軸にウクライナビジネスを構築

住友商事 キエフ事務所長
喜納政生さん

はじめに
 ウクライナに日本の大手商社が進出している中で、最も深くウクライナに浸透してビジネスを展開しているのが住友商事であるというのは、衆目の一致するところです。自動車、建機、農薬の販売を軌道に乗せ、これらについてはすでに現地に販売会社を設立しています。また、商社本体としては、省エネ・環境ビジネスを中心に、日本とウクライナの互恵的なビジネスの構築に尽力されています。そこで、キエフ所長の喜納さんにお目にかかり、住商のウクライナビジネスの概要についてお伺いするとともに、EUとの連合協定の問題も含め、最近のウクライナ情勢についてもコメントしていただきました。(服部倫卓)


ビジネス最前線
売れ筋に特化しウクライナ乗用車市場を生き抜く

ホンダ・ウクライナ求@社長
笠原琢さん

はじめに
 NIS諸国の中で、ロシアに次ぐ自動車販売市場の規模を有するのは、ウクライナです。しかし、リーマンショック後の市場の回復が遅れている上に、昨今では輸入車に対する追加関税(特別関税)、リサイクル税の導入が重なり、市場は沈滞している模様です。
 今回編集部では、キエフ郊外に最近開設されたばかりのホンダ・ウクライナの事務所にお邪魔し、笠原社長にインタビューに応じていただきました。商社に販売を任せるブランドもある中で、ホンダはメーカー自らがウクライナに現地法人を設立して販売に乗り出したパターンであり、それだけ同市場を重視していることの表れと受け取れます。(服部倫卓)


エネルギー産業の話題
ウクライナの石油・ガス・石炭産業

 ロシアの石油ガス専門誌『石油ガス垂直統合』の各号に掲載されたウクライナ関連の記事を参考に、同国の石油ガス分野と石炭分野の状況をご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
2013年1〜9月のウクライナ自動車市場

 ロシア同様、ウクライナでも輸入車と一部の国産車にリサイクル税が課せられることになりました。今回は、リサイクル税の影響にも留意しながら、2013年1〜9月期のウクライナの自動車市場の状況をご紹介します。(坂口泉)


ミニ・レポート
ウクライナのビジネス環境大躍進をどう見るか

はじめに
 先日、世銀および国際金融公社から、世界各国のビジネス環境を評価してランキング化し毎年発表している資料の最新版『Doing Business 2014』が刊行された(2013年に発表される2014年版という意味であり、以下では発表年ではなくあくまでもタイトルに表記されている年を主とする)。同資料に関しては、『ロシアNIS経済速報』2013年11月15日号(No.1611)で紹介済みだが、実は今回世界で最も順位を上げた国がウクライナだったので、ウクライナ特集の文脈で改めて取り上げてみたい。


ビジネス最前線
ロシアのものづくりと日本製工作機械

JAPAN TOOL SERVICE Ltd. 取締役社長
岩本茂さん

はじめに
 JAPAN TOOL SERVICEのロシア現地法人は、工作機械および同周辺装置、食品加工製造ライン、厨房設備などの納入、据え付け、サービスの業務などを行っています。ソ連解体後のロシアの機械産業の歴史を振り返ると、技術者の国外流出、マネジメントや市場調査部門の人材の不足、製造業を支える輸送や物流管理のノウハウの欠如が問題となっていました。プーチン大統領はエネルギー資源輸出に依存する国内の産業構造を転換すべく、とくに民間分野の製造業の育成を強調しており、日本の得意分野である「ものづくり」、日本製工作機械のプレゼンスを強化するチャンスが生まれつつあるといえます。そこで今号ではソ連時代から機械の輸出入に携わってこられた岩本さんに、ロシアの機械・部品ビジネスの現状と今後の可能性について話していただきました。(芳地隆之)


INSIDE RUSSIA
プーチン派とメドヴェージェフ派、それぞれの実業家

 ロシア『コメルサント・ジェーニギ』誌の2013年11月18-24日号(No.45)に、ロシアの大実業家を様々な観点からランキングした資料が掲載されている。いわゆるオリガルヒたちは資産額の規模で序列付けされることが多いが、彼らの影響力をより多角的に検証するために、今回の企画を考案した由。とりわけ興味深いのが、「権力への近さ」という項目である。当該の大実業家が、マスコミ報道の中で、V.プーチン大統領およびD.メドヴェージェフ首相とともに取り上げられた回数を数え、その傾向を調べたものだ。そこで今回は、このデータを簡単に紹介してみたい。(服部倫卓)


モスクワ便り
ロシアの中のアジア:ブリヤート共和国

はじめに
 11月21日から23日にかけてモスクワ・ジャパンクラブの地方視察で、原田大使に同行し、東シベリアのブリヤート共和国を訪問した。ブリヤート人は、モンゴル系民族であり、ロシアとは文化的にも宗教的にも異質な存在だ。こういうところを訪問すると、ロシアはつくづく多民族国家なのだということを実感する。今回は、ブリヤートでの印象を通じて、多民族国家ロシアの一面を紹介できたらと思う。(中居孝文)


ロシア極東羅針盤
ロシア極東の新しい発展モデル

 極東発展省は10月、アジア太平洋地域の経済成長を同地域への輸出拡大を通じて取り込むため、新型特区を極東地域の複数の都市に設けることを決め、制度設計に取り掛った。新型特区は、自動車メーカーへの部品供給を目的とした特区や観光開発を目的した特区などロシア政府がこれまで設置してきた内需型とは異なるもので、ロシア極東に豊富に眠る石油やガスなどのエネルギー資源や金属や木材などの資源を活用して、アジア太平洋市場への輸出拡大を図り、それを通じてアジア太平洋の成長を取り込み、極東経済の発展につなげる戦略だ。ガルシカ大臣が10月24日にコムソモリスクナアムーレで開かれた極東発展委員会会合で提案した。(齋藤大輔)


ロシア首長ファイル
ペルミ地方バサルギン知事

はじめに
 ロシアはソ連崩壊直後、89の連邦構成主体から成る連邦国家であったが、2000年代半ばに連邦制度改革の一環として、一部の州と内包する自治管区が合併し、その数は83まで減少した(2013年12月現在)。そのような合併の1例であるペルミ地方は、2003年12月に行われた住民投票の結果によって、ペルミ州とコミ・ペルミャーク自治管区との合併が承認され、2005年12月に誕生した。現在、ペルミ地方を主導するのは元連邦地域発展大臣ヴィクトル・バサルギンだ。バサルギンはウラル地方にゆかりが深く、現行の連邦管区制度の下では沿ヴォルガに属するものの、ウラル最大地域のスヴェルドロフスク州に隣接するペルミは、彼にとって比較的なじみのある地方だ。メディアのインタビューでバサルギンは、彼が連邦中央で仕事をしていた時、彼と家族はモスクワとスヴェルドロフスクとでバラバラに暮らしていたが、知事に就任してからは、家族がみんなペルミに移住し、一緒に暮らしていることを明かした。連邦全体の地域発展を統括していたバサルギンがペルミ地方ではどのような活躍を見せているのだろうか。(中馬瑞貴)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道の活況

 シベリア鉄道が活気づいています。キーワードは石炭、自動車部品、内陸、課題は輸送能力と経済競争力です。2013年11月にCCTT(シベリア鉄道調整評議会)が発表した資料に基づき直近の動向を分析します。(辻久子)


出張・駐在の達人
シェレメチェヴォ・エクスプレスを使ってみた

  先日モスクワに出張した際に、シェレメチェヴォ空港と市中心部を結ぶ鉄道「アエロエクスプレス」を、初めて使ってみた。普段はあらかじめ車両を手配しておくのだが、一度鉄道を試してみようと思い、個人的には初めて乗ってみたのである。すでに何度も利用している読者には「今さら」という話題だとは思うが、まだ未体験という向きもいるはずなので、ご参考までに報告する。(服部倫卓)