ロシアNIS調査月報2014年8月号特集◆ROTOBOミッションと |
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特集◆ROTOBOミッションとコーカサス情勢 |
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イベント・レポート |
ROTOBOコーカサス経済ミッション報告 ―アゼルバイジャン・グルジア― |
特別寄稿 |
コーカサスを見る視点 |
キーパーソンに訊く |
アルメニアにはロシアか欧州かの二者択一はない |
中央アジア情報バザール |
コーカサスの投資誘致:地方編 |
INSIDE RUSSIA |
ロシア政府が北カフカス省を設置 |
調査レポート |
変貌を遂げるロシア農業 |
調査レポート |
極東からの石炭輸出出口をめぐる攻防 |
ビジネス最前線 |
ロシアの製造業に日本製工作機械が貢献 |
報告 |
ロシアNIS貿易会平成26年度定時総会報告 |
研究所長随想 |
トルストイの理念を建学精神とした学園 |
モスクワ便り |
日韓がモスクワで接近 |
ロシア極東羅針盤 |
転機を迎えた日系スモールビジネス |
ロシア首長ファイル |
モスクワ州ヴォロビヨフ知事 |
ユーラシア産業紀行 |
タシケントの路上に見るウズベキスタンの産業政策 |
エネルギー産業の話題 |
ロシアの中国向けガス輸出の資源基盤 |
自動車産業時評 |
新社長のもとで再建を目指すAvtoVAZ |
ロジスティクス・ナビ |
シベリア鉄道のコンテナ輸送 ―日数短縮と連携に活路― |
ウクライナ情報交差点 |
EU・ウクライナの連合協定調印される |
日ロ異文化遭遇の日々 |
ロシア人の理解を超えた日本人の細かさ |
業界トピックス |
2014年6月の動き ◆TOYOがトルクメンでガスコンプレクス受注 |
通関統計 |
2014年1〜5月の通関実績 |
イベント・レポート
ROTOBOコーカサス経済ミッション報告
―アゼルバイジャン・グルジア―
はじめに
ロシアNIS貿易会では、6月1日から8日にかけて、西岡喬会長を団長に、「ROTOBOコーカサス経済ミッション」を派遣した。西岡会長率いる経済ミッションはこれまで、2009年に極東、2010年にウラル、2011年および2012年に沿ヴォルガ、そして2013年にはモスクワ近郊とロシアのさまざまな地域を訪問してきた。今年度は初めてロシア以外の旧ソ連地域、アゼルバイジャンとグルジアを訪問した。ROTOBO会長ミッションとして初めてのコーカサス地方の訪問となった。
日本ではまだ情報が少なく、足を運ぶ機会も少ないアゼルバイジャンおよびグルジアに赴き、両国の経済・投資環境の現状を視察し、日本との経済・貿易・投資関係の可能性を探ることに主眼があった。
以下、本稿では今回の会長ミッションの概要と成果につき、事務局よりご報告申し上げる。なお、訪問記録の一部は「中央アジア情報バザール」のコーナーで紹介し、本稿では割愛している点についてご了承いただきたい。(中馬瑞貴)
特別寄稿
コーカサスを見る視点
首都大学東京 都市教養学部 准教授
前田弘毅
はじめに
コーカサス(ロシア語ではカフカス)地方とは、黒海とカスピ海の間に横たわる大コーカサス山脈の南北両側の地域を指す。ロシア、トルコ、イランというユーラシアの地域大国に囲まれた地域であり、現在もロシア連邦の一部である北コーカサスと、ソ連から独立した南コーカサス3国(アゼルバイジャン、アルメニア、グルジア)が主要な構成体となる。
筆者はコーカサスについて、かつて「世界情勢のリトマス試験紙」(前田編『多様性と可能性のコーカサス』)と記したことがある。大きな市場でも、大きな政治力を有する地域でもないが、コーカサスはユーラシア政治や歴史を観察する上で極めて興味深い地域といえる。本稿では限られた紙幅の中であるが、ポイントを絞って地域特性について解説を加えていく。
キーパーソンに訊く
アルメニアにはロシアか欧州かの二者択一はない
駐日アルメニア共和国特命全権大使
G.ポゴシャン
はじめに
アルメニアは、コーカサス山脈の南麓に位置する人口300万の小さな国で、隣国であるトルコ、アゼルバイジャンとは対立関係にあります。ポゴシャン大使は、数学者として日本に20年以上滞在されるアルメニアきっての日本通で、もちろん日本語にも堪能であられます。2010年の大使館開設以来、初代大使として公務にあたられており、今回のインタビューでは、多くの日本人にとって未知の国であるアルメニアについて、また、欧州連合(EU)との連合協定締結を見送り、ロシア主導の関税同盟への参加を決めた経緯、さらに、今後の日本との関係をどのように考えておられるかなどをお聞きしました。(岡田邦生)
中央アジア情報バザール
コーカサスの投資誘致:地方編
はじめに
本誌で特集しているROTOBOコーカサスミッションでは、アゼルバイジャンおよびグルジアの地方についても見聞きする機会に恵まれた。アゼルバイジャンでは首都バクーの近郊都市スムガイトに建設中のスムガイト化学インダストリアルパーク(SCIP)についてのプレゼンテーションが行われた。非石油ガス分野の発展に力を入れるアゼルバイジャン政府の優先政策の1つである。グルジアでは、首都トビリシの他に黒海沿岸に位置するアジャラ自治共和国の行政中心都市バトゥミを訪問し、行政府でヒアリングを行うとともに、港や建設中のホテルを視察した。国際的な物流拠点を目指すグルジアにとって、黒海沿岸の港の開発・整備は重要課題である。
国の経済発展を実現するためには地方の発展も欠かすことはできない。近年、ロシアを含む旧ソ連圏では地域発展が国家の主要な政策課題となっている。なかなかアクセスする機会のないアゼルバイジャンとグルジアの地方都市について、今回のミッションで入手した情報を中心に紹介したい。(中馬瑞貴)
INSIDE RUSSIA
ロシア政府が北カフカス省を設置
ロシアでは5月に国家組織改革および人事異動があり、特に北カフカス連邦管区の統治体制に変更があった。その一環として、連邦政府に、新たに北カフカス省が設置された。今回は、これをめぐる動きについて整理してみたい。(服部倫卓)
変貌を遂げるロシア農業
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
ロシアの農業分野では現在、様々な変化が生じている。たとえば、穀物部門では最近になりトウモロコシの生産量が急増し始めており、今後、ロシアの穀物輸出に質的変化が生じる可能性が高まりつつある。畜産分野に目を転じれば、ここ数年順調な成長を続けてきた養鶏および養豚部門において停滞傾向が観察され始めているが、その一方で、低迷が続いていた養牛部門では大規模プロジェクトが始動し状況改善の兆しが見え始めている。さらに、油用種子部門では大豆の生産量が増加し始めており、現時点では大豆の純輸入国であるロシアが、今後、純輸出国に転じる可能性が生じつつある。その他、現在は禁止されているGMO(遺伝子組換え作物)の栽培が数年後には容認される可能性や、ロシア極東地方がアジア市場向け農作物の供給源になる可能性も見え始めている。
極東からの石炭輸出出口をめぐる攻防
ロシアNIS経済研究所 主任
齋藤大輔
はじめに
ロシア極東最大のヴォストーチヌィ港。マイナス20度まで下がった1月下旬。港内は黒い層が立ち込めていた。道路は黒く汚れ、積もった雪の上には黒粉が降っていた。冬は放射冷却で汚染物質を含む冷たい空気が地上付近にたまりやすくなる。
港が一望できる展望台から見ると、黒い層と澄みきった空気の層がはっきりとわかる。昼ごろになると、拡散するため、黒い層も消える。
「黒」の正体は石炭である。石炭の山があちこちにできていた。コンテナや化学肥料のバースまでもが石炭を扱い始めた。コンテナ置き場は黒く染まり、化学肥料の白いテントも黒く汚れる。積み替え施設の前には石炭を積んだ貨車の列が待機する。
黒い層は3年ほど前から現れるようになった。港関係者は「環境基準をクリアしており、健康に影響はない」と話す。
世界的に石炭の需要が高まるなか、ロシア極東の港が空前の活況に沸いている。2013年の石炭取扱量は2008年と比べ2.4倍に急増。ロシアの石炭輸出量の半分以上を占めるまでになった。この活況を受け、ロシア極東ではいま、新しい積出施設をつくる計画が目白押しだ。そこで本稿では極東港湾の現状と新しい石炭積出ターミナルのプロジェクトについてまとめた。
ビジネス最前線
ロシアの製造業に日本製工作機械が貢献
椛澤鉄工所 代表取締役社長
原田一八さん
はじめに
工作機械メーカーの滝澤鉄工所(本社:岡山市)は今年1月にロシアの産業機械大手、KEMP(コヴロフ・エレクトロメカニカル・プラント)社と業務提携したことを発表しました。自動車や建設機械などの分野で使われる滝澤鉄工所の複合旋盤「TS-4000YS」をKEMP社が自社工場で生産するとともに、販売代理店としての役割も担います。「ロシアには50才を過ぎて初めて行きました」という滝澤鉄工所の社長である原田さん。「当初はよくわからない国」というイメージで不安を抱きつつ、モスクワから幹線道路を走って現地に行ってみると、意外や素朴でいい人が多く、その国民性がとても好きになったそうです。とはいえ、日本製工作機械メーカーのロシア市場進出を難しくしている現状への問題意識も強くおもちであり、インタビューでは硬軟織り交ぜて語っていただきました。(芳地隆之)
モスクワ便り
日韓がモスクワで接近
はじめに
6月20日、在ロシア韓国大使館で在モスクワの日韓企業の意見交換会が開催された。私の知るかぎり、ロシアビジネスに関連して日韓が共同のイベントを行ったのは、これが初めてである。今回は、意見交換会における両国の報告を基に日韓の対ロ貿易及び投資の現状を比較するとともに、このイベントが開催された背景について触れてみたい。(中居孝文)
ロシア極東羅針盤
転機を迎えた日系スモールビジネス
ロシア極東マーケットは独特だ。プロジェクトをなかなか獲ることができない。日本企業に限ったことではなく外資全般に言えることだ。その理由として、外国人をあまり受け付けない慣習がある、東南アジアやアフリカ諸国と違ってそれなりに高い技術をもっている、行政障壁が大きいことなどがあげられる。極東に限った理由としては面積が大きいわりには人口が少ない、割高なコストなどがある。(齋藤大輔)
ロシア首長ファイル
モスクワ州ヴォロビヨフ知事
はじめに
今月は2012年5月〜11月というわずか半年でモスクワ州知事を退任したセルゲイ・ショイグの後任として州知事代行に就任し、2013年9月に行われた選挙で正式に知事に選出されたアンドレイ・ヴォロビヨフを取り上げる。
クラスノヤルスク地方出身で、長年、統一ロシア選出の連邦下院議員を務めてきたヴォロビヨフはモスクワ州とは縁もゆかりもない。そんな彼のモ知事就任は前任者ショイグとの関係が大きく影響している。
ヴォロビヨフの父親ユーリー・ヴォロビヨフは、1994年から非常事態大臣を務めていたショイグの片腕として、省の設立当時から第一次官を務めていた。そして、息子のアンドレイも1999年からショイグの補佐官を務めており、アンドレイは州知事代行就任後のインタビューでショイグを政界における自分の「名付け親(ゴッドファーザー)」と語っていた。「親」の後を継いで知事に就任したヴォロビヨフの経歴を紹介する。(中馬瑞貴)
ユーラシア産業紀行開業
タシケントの路上に見るウズベキスタンの産業政策
はじめに
ロシアで道路を観察すると、ロシアブランドだけでなく世界各国の乗用車を見ることができるが、ウズベキスタンで道路を観察すると、道路上にいる乗用車はほぼ大宇、シボレー、ラーダに限定される。日本では日本車の割合が高く、韓国では韓国メーカーの車が多いのと同様、非常に特徴的であると言える。今回は、その観察結果と自動車産業の歴史、市場データを見比べながら、ウズベキスタンの自動車産業について紹介する。(渡邊光太郎)
エネルギー産業の話題
ロシアの中国向けガス輸出の資源基盤
2014年5月のプーチン大統領の訪中の際に、ロシアのガスプロムと中国のCNPCが、最大で年間380億立米のガスを中国に供給することを規定した総額4,000億ドルの30年契約を締結しました。この超大型契約の主要な資源基盤となるのは、ガスプロムがライセンスを保有するチャヤンダとコヴィクタの2鉱床ですが、状況次第では、それら以外の鉱床(ガスプロム以外の会社がライセンスを保有する鉱床も含む)が補足的な資源基盤の役割を果たす可能性もあります。今回は、チャヤンダとコヴィクタの2鉱床に加え、補足的資源基盤の役割を担う可能性がある鉱床の概要も紹介します。(坂口泉)
自動車産業時評
新社長のもとで再建を目指すAvtoVAZ
AvtoVAZは深刻な販売不振に苦しみ業績が悪化していますが、2014年1月にGMの元幹部でGAZの前社長であるスウェーデン人のボー・アンダーソン氏が新社長に就任し、同氏のもとで苦境からの脱出を目指すことになりました。今回は、AvtoVAZの現状、ならびに、アンダーソン新社長が打ち出している同社の再建策の概要などについてご紹介します。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道のコンテナ輸送
―日数短縮と連携に活路―
シベリア鉄道を利用した国際コンテナ輸送(TSR輸送)は活況を呈しています。ロシア鉄道による輸送日数短縮へ向けての取り組み、中国など隣接国との連携が成果を上げ始めており、中央アジア向けなどで日系企業の利用も始まりました。最近の動きを紹介します。(辻久子)
ウクライナ情報交差点
EU・ウクライナの連合協定調印される
はじめに
2014年6月27日、欧州連合(EU)とウクライナの連合協定が、ついに調印された。2013年11月に、当時のV.ヤヌコーヴィチ大統領/地域党の政権が、この協定の締結をいったん断念し、それが発端となって同政権が崩壊してしまったという、いわくつきの文書である。ここ数年、ウクライナがずっと直面してきた難問に、ひとまず区切りがついたことになる。なお、EUは同日、モルドバおよびグルジアとも、連合協定を結んでいる。
本稿では取り急ぎ、協定に関する事実関係と、協定条文の全体像を整理することを試みる。
(服部倫卓)