ロシアNIS調査月報
2014年12月号
特集◆ロシア・ベラルーシ・
カザフスタンの経済と統合
特集◆ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの経済と統合
イベント・レポート
ユーラシア経済連合プレゼンテーション
イベント・レポート
第5回日本カザフスタン経済官民合同協議会
調査レポート
ロシア石油分野の税制改革
―迫られるユーラシア統合への対応―
キーパーソンに訊く
開かれた対外経済政策はベラルーシの生命線
ビジネス最前線
ユーラシア経済連合にみる日本企業のメリット
データバンク
2014年版ロシア大企業ランキング
講演録
ベラルーシの投資誘致とハイテクパーク
ロジスティクス・ナビ
中国と欧州を結ぶ新シルクロード鉄道輸送
INSIDE RUSSIA
ロシア国民のユーラシア統合支持の危うさ
中央アジア情報バザール
カザフスタンとキルギスの統合世論

ビジネス最前線
ロシアへの航空貨物輸送で幅広いニーズに対応
研究所長随想
国家が消滅するとき
モスクワ便り
リゾート地として復活を目指すソチ
ロシア極東羅針盤
チーム・ガルシカの突破力
ロシア首長ファイル
ノヴォシビルスク州ゴロデツキー知事
ユーラシア産業紀行
自動車の街トリヤッチ
エネルギー産業の話題
ロシアのポリエチレン需給動向
自動車産業時評
2014年1〜6月期のロシア商用車市場
ウクライナ情報交差点
2014年ウクライナ最高会議選挙
シネマ見比べ隊!!
サンクトペテルブルグの跳ね橋
出張・駐在の達人
ロシアが通年で「冬時間」に変更
業界トピックス
2014年10月の動き
◆ロシアに対する武器等の輸出制限の厳格化
通関統計
2014年1〜9月の通関実績


イベント・レポート
ユーラシア経済連合プレゼンテーション

はじめに
 ロシアNIS貿易会は2014年9月19日(金)、東京の如水会館において、「ユーラシア経済連合プレゼンテーション ―カザフスタン・ベラルーシ・ロシア経済統合の行方」を開催した(在日カザフスタン共和国大使館、在日ベラルーシ共和国大使館、在日ロシア連邦大使館と共催)。3国関税同盟/共通経済空間の事務局であるユーラシア経済委員会の幹部が来日した機会を捉え、委員会の専門家にその通商政策、技術規制等につき日本の実業界向けに解説していただいたものだ。本レポートでは、このプレゼンテーションの模様につき報告する。
 2010年にカザフスタン・ベラルーシ・ロシアの3国で発足した関税同盟は、2012年に「共通経済空間」へと深化した。そして、2014年5月29日に3国は「ユーラシア経済連合」を創設する条約に調印し、2015年1月1日に始動することになっている。この10月にはアルメニアが同連合に加わるという動きもあった。(服部倫卓)


イベント・レポート
第5回日本カザフスタン経済官民合同協議会

  2014年10月23日、カザフスタン共和国アスタナ市にて「第5回日本カザフスタン経済官民合同協議会(第14回日本カザフスタン経済合同会議を兼ねる)」が開催された。主催は、経済産業省、外務省、日本カザフスタン経済委員会、(一社)ロシアNIS貿易会、カザフスタン共和国投資・発展省、カザフスタン日本経済委員会であった。 同協議会は2009年10月の第1回(アスタナ開催)、2010年9月の第2回(東京開催)、2011年10月の第3回(アスタナ開催)、2014年2月の第4回(東京開催)に続くもので、日本側は石黒憲彦・経済産業審議官、中原秀人・日本カザフスタン経済委員会会長ほか、政府機関および商社、メーカー、銀行などから約110名、カザフスタン側からはマシモフ・カザフスタン共和国首相、イセケシェフ投資・発展大臣、サガディエフ投資・発展省次官ほか政府機関関係者とエシムベコフ企業家会議所会頭、クルマンセイト・カザフスタン日本経済委員会会長ら企業関係者合わせて約325名(カザフスタン側公表数)、合計約435名の参加者を集め、過去最大規模の協議会となった。
 マシモフ首相およびイセケシェフ大臣も参加した今回の協議会では、日本・カザフスタン投資協定の調印が行われ、両国の経済協力関係の新たな発展段階への移行を期待させる有意義な意見交換の場となった。
 以下では、マシモフ首相およびイセケシェ大臣の発言内容を掲載するとともに、事務局を担当したロシアNIS貿易会より協議会の概要について紹介する。(中馬瑞貴)


ロシア石油分野の税制改革
―迫られるユーラシア統合への対応―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 ユーラシア経済連合は、2025年を目処に、加盟国間の石油および石油製品の貿易を完全に自由化することを視野に入れている。ロシアからベラルーシへの石油の輸出を例にとれば、現時点では輸出枠が設定されており、一定量しか輸出できなくなっているが、完全自由化されれば、輸送インフラの能力が許す限りの量の石油を無関税でベラルーシに輸出することが可能となる。その際にロシア政府が最も恐れているのは、ベラルーシがロシアよりも遥かに低い輸出関税率を設定することである。そうなると、ロシアの石油会社はベラルーシ経由で石油および石油製品を輸出することになり、ロシアの輸出関税収入は大幅に減少することになる。さらに、カザフスタンに関しても同様の危惧が存在する。
 よく知られているように、石油収入はロシアの国家予算にとっての命綱であり、同国にとってこれは看過できない大きなリスクだといえる。そこで、ロシア政府は2014年春ごろから石油と石油製品の関税率の大幅引き下げと、石油採掘税率の大幅引き上げを基本軸とする税制改革法案の策定を開始し、完成した法案の内容を同年夏に公表した。公表された法案に関してはすでに政府内でコンセンサスが得られており、大きな修正が加えられることなく2014年末までに採択される可能性が高いとみられている。
 本稿では、石油分野の現時点での税制(現行法に基づく税制)の仕組みを紹介した後に、税制改革法案の骨子と税制改革がもたらす影響について言及する。


キーパーソンに訊く
開かれた対外経済政策はベラルーシの生命線

ベラルーシ共和国外務次官
A.グリヤノフ

はじめに
 ベラルーシは人口940万人の内陸国で、東にロシア、西にポーランド、南にウクライナ、北にリトアニア、ラトビアと国境を接しています。その地理的な条件から隣の大国であるリトアニア、ポーランド、ロシアの影響下におかれ、歴史上何度も国境線が揺れ動きました。1994年以降、ルカシェンコ大統領が一貫して国家元首を務め、「社会志向市場経済」による国造りを目指すなど、他の旧ソ連諸国と比べて異色の存在に思えるところもありますが、昨今のロシア・ウクライナ紛争では重要な調停役を果たすなど、国際的に大きな注目を集めました。国際経済協力を担当されるグリヤノフ外務次官には、ベラルーシの対外経済政策、ユーラシア経済連合への期待、重要な貿易相手国である隣国ウクライナの情勢をどのようにみておられるかなどを伺いました。(岡田邦生)


ビジネス最前線
ユーラシア経済連合にみる日本企業のメリット

鞄月ナ 産業政策渉外室 国際渉外チーム 担当部長
小倉正広さん

はじめに
 小倉さんがソ連・ロシアのビジネスに携わったのは1982年。当時のソ連向けの音響製品、テレビ、照明器具などの輸出を皮切りに、1989年には東芝社内に新設されたソ連東欧グループに加わり、その後のソ連邦解体を経て現在にいたるまで、30年以上にわたるキャリアを積み上げてこられました。大学時代にはドイツ語を専攻されていた小倉さんですが、子供の頃に聴いたチャイコフスキー、プロコフィエフ、ハチャトリアンの音楽のもつダイナミズムに圧倒されたのがロシア体験の原点とのこと。東芝フィルハーモニー管弦楽団の創立者としてフルートを吹かれている、そんな小倉さんに、ロシアにおける最近の東芝の活動、日本企業にとってのユーラシア経済連合の意味、近年盛んになっている日ロのスポーツ・文化交流など、幅広いテーマで語っていただきました。(芳地隆之)


データバンク
2014年版ロシア大企業ランキング

はじめに
 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2014年10月20〜26日号、No.43)に、毎年恒例のロシア大企業ランキングが掲載されているので、本誌でもこれを抜粋して紹介するとともに、解説をお届けする。


講演録
ベラルーシの投資誘致とハイテクパーク

駐日ベラルーシ共和国大使館参事官
S.チェレンチェフ

はじめに
 ロシアNIS貿易会では2014年4月より、会会員企業の皆様向けの情報提供サービスを拡充すべく、「ROTOBO月例報告会」を開催している。第7回の10月の回では、セルゲイ・チェレンチェフ駐日ベラルーシ共和国大使館参事官を講師にお招きし、「ベラルーシの投資誘致とハイテクパーク」というテーマで講演を行った。 講演ではベラルーシの最新の経済動向や投資環境に加え、日本との経済的つながり、最近注目を浴びている同国のIT産業への投資の可能性性などについて報告がなされた。以下ではその内容をお伝えする。


ロジスティクス・ナビ
中国と欧州を結ぶ新シルクロード鉄道輸送

 中国から欧州に至る伝説のシルクロードに沿って、国際コンテナ列車が相次いで定期運行を開始しました。新たな鉄道回廊のニーズと今後の課題、既存の貿易回廊との比較、日本との関係などを展望します。(辻久子)


INSIDE RUSSIA
ロシア国民のユーラシア統合支持の危うさ

はじめに
 ロシア・ベラルーシ・カザフスタンの3国は2014年5月29日にユーラシア経済連合創設条約に調印し、10月10日にはアルメニアもこれに加わった。このユーラシア統合に対するロシア国民の支持の度合いは、いかほどのものなのだろうか? 今回は、世論調査結果を手掛かりに、この問題を考えてみたい。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
カザフスタンとキルギスの統合世論

はじめに
 今号掲載の別稿「ロシア国民のユーラシア統合支持の危うさ」では、ロシア・NIS諸国の国民がユーラシア統合をどのように評価しているかという国際比較世論調査結果を紹介している。同資料によれば、カザフスタン国民が最も親ユーラシア的であり、一方キルギス国民は(ロシアやカザフへの依存度が高い割には)意外に統合反対論も強いという傾向が示されている。ここでは、両国個別の世論調査結果で、そのあたりをさらに掘り下げてみたい。(服部倫卓)


ビジネス最前線
ロシアへの航空貨物輸送で幅広いニーズに対応

エアブリッジカーゴ航空 日本支社
アドバイザー 佐上勝彦さん
日本・韓国地区総支配人 杉森敏雄さん
営業課長 古郷栄一さん

はじめに
 エアブリッジカーゴ航空は大型貨物輸送で知られるボルガドニーパ(ヴォルガ・ドニエプル)グループの貨物専門航空会社で、地方都市も含めロシアに定期路線網を持ち、大型の貨物も輸送できるボーイング747貨物専用機を運航しています。日本発便を含め、同社が持つ定期路線網の知名度はまだ十分ではありませんが、この定期路線網を活用すれば、ロシアへの物流の効率化向上の可能性があります。同社のロシアへの定期輸送の仕向地や、対応できる貨物の幅の広さ、ロシアへの航空便の現状について、エアブリッジカーゴ航空の日本の営業窓口である日本支社を訪問しお話を伺いました。(渡邊光太郎)


研究所長随想
国家が消滅するとき

 今から23年前、1991年12月はソ連邦が69年の歴史を閉じて、慌ただしく消滅した月だった。当時奇数年には、歴史に残るような変動が起こると噂されていたが、自分自身がその場に居合わせることになると、一瞬冷静さを失い、何故そうなったのか、頭の中を即座に整理することができなかった。1991年末ソ連邦が崩壊すると、バルト3国を除く各共和国は順次独立していった(バルト3国は1991年9月6日ソ連邦国家評議会で独立が公式に承認されている)。駐ソ連邦日本大使は、旧ソ連各国の大使をとりあえず兼任することになり、信任状奉呈の行事が重要な仕事になっていた。大使館からの要望で、企業代表にも同道してもらい、当該国の経済関係者との会議を通じて、日本との交流を確かなものにしたいとのことであった。この最初の仕事が1992年10月ウクライナとベラルーシ訪問である。(遠藤寿一)


モスクワ便り
リゾート地として復活を目指すソチ

はじめに
 9月下旬、ソチ国際投資フォーラムに参加するため、ロシア南部・黒海沿岸の有名な保養・リゾート地であるソチを訪れた。本年2月に開催された冬季五輪に向けて、ソチでは、交通インフラやホテル・宿泊施設を整備し、街の雰囲気を一新させた。ソ連時代にリゾート地として栄えたソチは、オリンピックをきっかけに、その輝かしい過去の復活を目指している。(中居孝文)


ロシア極東羅針盤
チーム・ガルシカの突破力

 ロシア極東に前例のないスーパーゾーンをつくり、国内外の製造業を誘致して輸出拡大によって発展を図る。APEC開発を成功させたプーチン政権が新しい「仕掛け」に打って出た。その仕掛けを懐疑的に見ていた地元や企業も、「チーム・ガルシカ」の行動力と突破力を見て、期待に変わりつつある。(齋藤大輔)


ロシア首長ファイル
ノヴォシビルスク州ゴロデツキー知事

はじめに
 本稿ではカザフスタンと国境を接するロシアの連邦構成主体の1つ、ノヴォシビルスク州を紹介する。同州はロシアの構成主体の中でもユニークな経済構造を持ち、地方経済を支えているのはサービス産業である。また州都ノヴォシビルスクは多くの高等教育機関や研究機関を有する学術都市であり、イノベーションビジネスの開発・発展を促進する「学術パーク」や「バイオテクノパーク」なども設置し、高度技術・イノベーション技術の発展に力を入れている。
 ノヴォシビルスク州では2014年3月にユルチェンコ前知事に汚職問題が浮上し、大統領の不信任により解任された。以後、同年9月に予定されていた統一地方選挙までヴラジミル・ゴロデツキー副知事が知事代行務め、選挙で正式に知事に就任した。
 ゴロデツキーは副知事就任以前、ノヴォシビルスク市の市長を13年間務めてきた。同市はモスクワ、サンクトペテルブルグに次いでロシア第3位の人口を誇る大都市であり、シベリア連邦管区の行政中心都市である。ノヴォシビルスク州では同市を中心とした大都市圏の創設を基盤とした社会・経済発展を目指しており、同市に精通したゴロデツキー知事の活躍が期待される。そこで、本稿ではゴロデツキー知事の経歴をについて、ノヴォシビルスク州の現状と合わせて紹介する。(中馬瑞貴)


ユーラシア産業紀行
自動車の街トリヤッチ

はじめに
 トリヤッチはソ連時代から現在に至るまで一貫して、ロシア最大の乗用車の生産地である。しかし、同地では、かつては100万台を超える生産をしていたものの、2013年の数値では、50万台強にまで生産を落としている。リーマンショックで大きく落ち込んだロシアの乗用車市場全体は、2010年より回復に入り、外資系自動車メーカーが数字を伸ばしたために、リーマンショック前の最高値である2008年を上回る規模に成長した。トリヤッチでの生産はやや回復したものの、リーマンショック前の水準に戻ることなく、2011年以降は再び減少を続けている。一方で、2012年から日産のアルメーラの生産が始まり、トリヤッチにおいても外国ブランドモデルの生産に勢いがついてきたようにも見える。今回は、伝統的な自動車生産が急激に落ち込みつつも、ルノー・日産グループの成長の希望が芽生え始めたトリヤッチについて、自動車生産台数のデータとともに紹介する。(渡邊光太郎)


エネルギー産業の話題
ロシアのポリエチレン需給動向

 ロシアの石油ガス分野では製品の高付加価値化が主要な目標のひとつとして掲げられており、プラスチック生産に対する関心が高まっていますが、今回は、5大汎用樹脂のうちポリエチレンをとりあげ、その需給動向をご紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
2014年1〜6月期のロシア商用車市場

 ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2014年1〜6月期のロシアの商用車(トラック、バス、小型商用車)の生産、販売、輸入に関するデータを入手することができましたので、今回は、それらのデータをもとに同期のロシアの商用車市場の状況をご紹介することにします。(坂口泉)


ウクライナ情報交差点
2014年ウクライナ最高会議選挙

はじめに
 ウクライナでは、10月26日に最高会議(国会)選挙の投票が実施された。今回は、この選挙の概要と結果について整理してお伝えする。(服部倫卓)


シネマ見比べ隊!!
サンクトペテルブルグの跳ね橋
『十月』VS『ストリート・レーサー』

はじめに
 みなさま、はじめまして!
 ソ連・ロシア映画を2作品以上とりあげて、あれやこれや見比べたい、その面白さや作品の魅力をみなさまと分かち合いたいというコンセプトで、この12月号から、連載を担当させていただくことになりました、さとうと申します。シネマ見比べ隊!! と申しましても、隊員は今のところ私ひとりです。その見比べポイントは、作品に共通するモチーフやテーマのこともあれば、映画化した原作が共通のものということもあります。ですから、制作時代のかけ離れたものであれ、ジャンルの異なるものであれ、ある共通項を見出しては見比べていこう、そして時には、映画の制作されたソ連・ロシアの社会背景や時代についても考えてみようと思っているわけです。
 さて、その第一弾としてとりあげたい二つの作品とは、20世紀最高の監督の一人とされるセルゲイ・エイゼンシュテインが十月革命10周年にむけて制作した映画史に残る傑作『十月』(1928年)と、オレグ・フェセンコ監督のカーアクションもので国内大ヒットとなった『ストリート・レーサー』(2008年)です。ギャップのありすぎる両者を「見比べたい!」というにはかなりムリがあると思われるでしょうが、まずは、『十月』から簡単に紹介していきましょう。(佐藤千登勢)


出張・駐在の達人
ロシアが通年で「冬時間」に変更

 ロシアでは2011年より「夏時間」が通年適用されてきた。これは、夏時間と冬時間があり、年に2回時間が変更されると、体調に悪影響が及ぶといった理由からだった。しかし、日の出が遅くなることで、特に冬季は朝が暗く生活リズムが崩れがちとなり、国民の間で不評だった。そこで、2014年7月22日に成立した法律により、通年で冬時間を適用することが決まり、10月26日(日)午前2時にそれが施行されたものである。今後は夏にサマータイムが適用されることはなく、冬時間が通年適用される。(服部倫卓)