ロシアNIS調査月報2015年1月号特集◆ロシア・ウクライナの |
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特集◆ロシア・ウクライナの金属工業は生き残れるか |
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調査レポート |
苦境に立ち向かうロシア鉄鋼業 |
調査レポート |
ロシアの非鉄金属産業の状況 ―アルミ、ニッケル、白金族― |
調査レポート |
ソ連向け鉄鋼輸出小史 ―終戦直後の混乱から東西冷戦期まで― |
調査レポート |
ドンバス紛争とウクライナ鉄鋼業の行く末 |
ビジネス最前線 |
世界のアルミ産業と最大メーカー・ルサール |
研究所長随想 |
大口径鋼管輸出に賭けた日々 ―日ソ貿易外史(1)― |
INSIDE RUSSIA |
ロシアの企業城下町問題と金属産業 |
地域クローズアップ |
金属産業のメッカ・チェリャビンスク州 |
データバンク |
世界の中のロシア・ウクライナ鉄鋼業 |
キーパーソンに訊く |
ジョージアは10億人市場へのゲートウェイ |
ビジネス最前線 |
総合電機メーカーとしてロシア事業を拡大 |
モスクワ便り |
ウリヤノフスクが生んだ4人の偉人 |
産業・技術トレンド |
ロシア発カーボンナノチューブ価格破壊 |
ロシア極東羅針盤 |
特区に賭ける沿海地方農業 |
エネルギー産業の話題 |
2014年上半期のカザフスタン石油分野 |
自動車産業時評 |
ロシアのプレミアムブランド車市場の動向 |
ロジスティクス・ナビ |
ロシア鉄道の貨物輸送 |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナで新たな議会と内閣が発足 |
中央アジア情報バザール |
中央アジア・コーカサスの外国直接投資受入 |
シネマ見比べ隊!! |
ソ連崩壊と「父殺し」 |
業界トピックス |
2014年11月の動き ◆対ロ制裁下におけるドイツ企業の動向 |
通関統計 |
2014年1〜10月の通関実績 |
苦境に立ち向かうロシア鉄鋼業
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
中国での過剰生産などを背景とする世界的な鉄鋼不況の影響を受け、ロシアの鉄鋼関連企業も苦戦を強いられている。特に中国と競合する汎用品を主力とするメーカーの状況は悪く、なかには倒産の危機に瀕している企業も存在する。また、鉄鉱石の国際価格の下落を受け、世界有数の鉄鉱石生産会社である「メタロインヴェスト」の業績も2014年夏ごろから急激に下降し始めている。さらに、鋼管部門に目を転じれば、設備過剰の傾向が全般的に顕著となっており、各社ともその対応に追われている。
本稿では、ロシアの鉄鋼分野の主要メーカーが苦境にどのように立ち向かおうとしているのかという点に着目しながら、同分野の現状を鳥瞰図的に紹介する。
ロシアの非鉄金属産業の状況
―アルミ、ニッケル、白金族―
ロシアNIS経済研究所 研究員
渡邊光太郎
ロシアは資源国として知られているが、石油・ガスだけでなく、金属資源についても豊富であるというイメージが持たれていると思う。実際に、アルミニウム、ニッケル、白金族金属(プラチナとパラジウム)、チタンは、市場においてロシアの存在感が特に大きい金属である。しかしながら、これらの金属において、ロシアが強みを発揮している理由は異なる。上記の中で、地下資源に恵まれているのはニッケルと白金族金属のみで、アルミニウムは安い電力、チタンは技術力に依拠してその地位を築いた。
本稿では、世界市場におけるロシアのシェアが特に高い非鉄金属の内、すでに以前月報にて取り上げたチタンを除く、アルミニウム、ニッケル、白金族金属について、他の国と比較しながら述べていく。また、ロシアのアルミニウム、ニッケル、チタン産業の比較を行い、ロシアのこれら金属を扱う業界の性格の違いについて明らかにする。
ソ連向け鉄鋼輸出小史
―終戦直後の混乱から東西冷戦期まで―
ロシアNIS経済研究所 所長
遠藤寿一
1989年11月9日、東西冷戦の象徴だった「ベルリンの壁」が崩壊した。2014年は25周年にあたり、現在の混沌とした世界情勢を考えると、複雑な気持ちになる。日本の戦後外交は1951年9月のサンフランシスコ講和条約(ソ連・中国等を除く単独講和)に始まるが、同時に調印された日米安保条約ならびに1952年8月のココム協定加盟で、日本も東西冷戦構造の渦中に入りこむことになった。1956年10月19日、モスクワで合意された「日ソ共同宣言」でソ連との国交が回復し、1957年12月に締結された「日ソ通商条約」と「日ソ貿易支払協定」により日ソ貿易の基盤が整備された。しかし、その後の日ソ貿易は時として東西冷戦に翻弄されることが多かった。
ドンバス紛争とウクライナ鉄鋼業の行く末
ロシアNIS経済研究所 部長
服部倫卓
2014年に未曾有の国家的危機に直面したウクライナ。同国にとって最大の基幹産業が、鉄鋼業である。しかも、現在戦乱に見舞われているドンバス地方こそ、まさにウクライナ鉄鋼業の中心地である。鉄鋼業の要因を考慮することなくして、ウクライナの未来予想図を描くことも、ドンバス問題の解決の道筋を見出すことも、不可能だと言って過言でない。
そこで、以下本稿では、まずウクライナ鉄鋼業の概要・現状を改めて整理する。その際に、筆者はこれまでも本誌で何度かウクライナの鉄鋼業について論じてきたので、本稿では直近の生産・経営データを紹介することに重点を置く。表の掲載が中心になるが、ウクライナ鉄鋼業に関するまとまったデータは本邦ではなかなか得られないので、それなりに重宝していただけるのではないかと思う。その上で、2014年春に発生したドンバス紛争が、ウクライナ鉄鋼業にどのような打撃を及ぼしているかを検証することとする。
ビジネス最前線
世界のアルミ産業と最大メーカー・ルサール
泣泣Tールジャパン
代表取締役 東邦彦さん
アルミニウムはロシアの存在感の大きい分野の一つであり、ルサール社は世界最大のアルミニウムメーカーとして知られています。ルサール社は日本法人を置き、日本でもビジネスを展開しています。今回はルサール社と日本におけるルサール社のビジネスについてお話を伺いました。
実は、ロシアはアルミニウム資源に恵まれていませんが、それにもかかわらず、ルサール社が世界最大のアルミニウム生産量を誇る事情や、中国等との競合関係、今後の見通し等について貴重なお話をいただきました。(渡邊光太郎)
研究所長随想
大口径鋼管輸出に賭けた日々
―日ソ貿易外史(1)―
天然ガス輸送用の幹線パイプラインに使用する大口径鋼管の注文が、日本にも出されるらしいという噂が広まったのは、1974年末頃であっただろうか。空気を運ぶような56インチ(1,420mm)の大口径鋼管を、ソ連が貴重な外貨を使ってまで買付けるだろうか。しかし、この話は現実となり、幾多の困難をも乗り越え1975年の初成約から13年間で1,000万tの輸出を達成したのであった。当初は想像もできなかった数量である。(遠藤寿一)
INSIDE RUSSIA
ロシアの企業城下町問題と金属産業
筆者はかつて、「ロシアのモノゴーラド(企業城下町)問題」(『ロシアNIS調査月報』2010年2月号)と題するレポートを発表したことがある。リーマンショック後にロシアの多くの企業城下町で経済・社会的緊張が高まり、ロシア政府が緊急の対策を迫られている様子を報告したものだった。その際にも触れたように、金属産業はロシアの企業城下町問題のかなりの部分を占めている。
最近になり、ロシア経済の先行き不透明感が強まるとともに、鉄鋼部門の不振が色濃くなっている。そうした中、7月のロシア連邦政府決定で、モノゴーラドが3つのカテゴリーに分類されるとともに、その分類にもとづく具体的なモノゴーラドの一覧が発表された。以下で簡単に報告を試みる。(服部倫卓)
地域クローズアップ
金属産業のメッカ・チェリャビンスク州
今月号から新連載「地域クローズアップ」をスタートする。これまで「ロシア首長ファイル」でロシアの連邦構成主体首長について紹介してきた。その際にも当該地域の社会・経済情勢について適宜触れてきたが、本連載では地域そのものに重点をおいて経済、社会、政治などさまざまな側面から紹介する。
記念すべき第1回目は本誌の特集のテーマである金属に関連して、ロシア有数の金属産業の中心であるチェリャビンスク州を取り上げる。チェリャビンスクといえば、2013年2月に巨大な隕石が落下したことで日本を含む世界で一躍有名になった。
原子力を含む軍需産業の中心でもあったため、「閉鎖都市」であった都市も抱えており、外国人も自国民もなかなか近づくことができず、外部との接触が遮断されていた。本稿では、チェリャビンスクの現状について紹介する。(中馬瑞貴)
キーパーソンに訊く
ジョージアは10億人市場へのゲートウェイ
ジョージア大統領
G.マルグベラシヴィリ
ギオルギ・マルグヴェラシヴィリ・ジョージア大統領は、2014年10月21日から25日まで、実務訪問賓客として日本を初訪問されました。5日間の滞在中、天皇皇后両陛下、安倍総理、岸田外相、西川農相、伊吹衆院議長、谷垣自民党幹事長、逢沢日グ友好議連会長、田中JICA理事長など、たくさんの要人とお会いになりました。そして西岡会長、段谷副会長など、ROTOBO会員企業の代表と円卓会議を持たれ、積極的にジョージアへの進出をアピールされました。ジョージアは人口450万人の小さな国ですが、2014年6月に欧州連合(EU)と連合協定を結んだことによって、今後、同国を起点に旧ソ連圏のみならず、欧州圏も見据えたビジネスが可能になり注目を集めています。大統領には、ジョージアの対外経済政策、日本への期待、そして2008年に戦火を交えた北の隣国ロシアとの関係などについてお聞きしました。(岡田邦生)
ビジネス最前線
総合電機メーカーとしてロシア事業を拡大
三菱電機ロシア 社長
植村憲嗣さん
三菱電機のロシア拠点設立は1997年の三菱電機ヨーロッパ社モスクワ駐在員事務所開設にまでさかのぼります。その後、同国の経済・金融危機(1998年)、リーマンショック(2008年)と大きく市場が揺れ動く状況に遭遇したものの、ロシア市場の有望性への確信は変わらず、今回の現地法人「三菱電機ロシア」の設立、営業開始に至りました。新会社は、ロシアおよび周辺諸国における空調冷熱事業・FA(ファクトリーオートメーション)事業を中心とする三菱電機の事業強化に取り組み、2015年度売上は100億円を目指すとのことです。今号では新会社の社長を務める植村さんに、その具体的な事業の内容と今後の展望、そして、対ロ制裁下における今後のビジネスのあるべき方向性についてもお話していただきました。(芳地隆之)
モスクワ便り
ウリヤノフスクが生んだ4人の偉人
出張中、予定していたアポイントがドタキャンになったり、飛行機の出発までの時間が妙に空いてしまったり、あるいは土日を挟んだりして、ぽっかりと空白の時間ができることがある。そんなとき、その土地に縁のある偉人の記念館を訪ねたりすると、思わぬ収穫を得ることがある。今回は、ウリヤノフスクでそうした機会に恵まれたのでご紹介したい。(中居孝文)
産業・技術トレンド
ロシア発カーボンナノチューブ価格破壊
カーボンナノチューブは、炭素原子が筒状に結合した極小の物質で、強度、電気を伝える機能、熱伝導性等が極めて高いという特徴を持つ。こうした性質を利用することで、これまでにない性能を実現できる可能性がある。例えば、ゴムやプラスチックは電気を流さず熱を伝えにくいが、カーボンナノチューブを極微量加えることで、ゴムやプラスチックとしての性質を失うことなく金属のように電気や熱を伝えるようにできる。カーボンナノチューブの中でも高性能な単層カーボンナノチューブは、物質の性質としての可能性は高かったが、価格が1gあたり数万円と非常に高価であることから、これまで普及しなかった。今回はこれまで1gあたり数万円であったカーボンナノチューブを1gあたり数百円レベルで販売できるとするOCSiAl社について紹介する。(渡邊光太郎)
ロシア極東羅針盤
特区に賭ける沿海地方農業
ロシア極東開発の起爆剤として期待を集めている先進経済発展区(以下、新型特区)。極東発展省からはすでに14ヵ所の候補地が発表されている。そのうち、5ヵ所が沿海地方に集中しており、極東発展省の同地方への期待の高さが窺える。
新型特区候補地14ヵ所のうち、農業タイプは全部で3ヵ所あり、そのうちの1つが沿海地方のミハイロフスキー地区である。農業タイプの新型特区の設置が検討されている地域は有数の穀倉地帯となっており、穀物をはじめ多くの農産物が生産されている。極東発展省は、それら地域に新型特区を設置することで食品加工企業などの進出を促し、生産物の高付加価値化と、国際競争力の獲得を目指す。(鳴沢政志)
エネルギー産業の話題
2014年上半期のカザフスタン石油分野
カザフスタン政府は当初、2014年の石油生産量は、前年を1.5%程度上回る約8,300万tに達するとの見通しを発表していましたが、実際には数字は伸び悩み、上半期の生産量は前年同期比1.63%減の3,972万tにとどまりました。今回は、減産の背景にある事情に留意しながら、2014年上半期のカザフスタンの石油生産をめぐる状況や、製油部門の状況などについてご紹介します。(坂口泉)
自動車産業時評
ロシアのプレミアムブランド車市場の動向
ロシアの新車販売の不振は続いており、2014年1〜10月期の販売台数(小型商用車を含む)も前年同期比12.7%減の199万台にとどまりました。しかし、そのような状況の中、不況に強いといわれるプレミアムブランドの販売は全般的に堅調で、前年同期より販売を伸ばしたブランドも少なくありません。本稿では、ロシア市場に進出しているプレミアムブランドのうち、3強といわれているメルセデスベンツ、アウディ、BMWの他、レクサスやポルシェ等の状況についてもご紹介します。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
ロシア鉄道の貨物輸送
ロシアを覆う不況の影は鉄道輸送にも及んできました。景気のバロメーターとも言われる鉄道貨物輸送の現状と、その中で比較的好調を持続しているコンテナ輸送について紹介します。(辻久子)
ウクライナ情報交差点
ウクライナで新たな議会と内閣が発足
前回の本コーナーでお伝えしたとおり、ウクライナでは10月26日に最高会議(国会)選挙の投票が実施された。それを受け、新たな議会が召集され、議会の連立与党が形成されるとともに、新生ヤツェニューク内閣が誕生した。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
中央アジア・コーカサスの外国直接投資受入
本稿では、中央アジア・コーカサスの外国投資に関するデータを紹介する。従来、これらの地域の経済統計はCIS統計データおよび各国の統計機関が発表しているデータを掲載するが、一部の国のデータを入手するのが大変困難である。そこで、今回は全8カ国のデータを公表しているUNCTADのデータを使って外国直接投資額の推移をまとめた。なお、UNCTADが公表しているデータは、CIS統計委員会や各国統計機関のデータと整合性がないという点についてあらかじめご注意いただきたい。(中馬瑞貴)
シネマ見比べ隊!!
ソ連崩壊と「父殺し」
『パパって何?』VS『父、帰る』
今回のシネマ見比べポイントは「父殺し」のテーマです。「父殺し」といえば、エディプス・コンプレックスの概念の基となる古代ギリシャの悲劇『オイディプス王』が想起されますけれども、ロシアでは、なんといっても、ドストエフスキーの長篇『カラマーゾフの兄弟』によってこのテーマは社会的に共有され、かつ、人々の意識に自問の可能性を与えつつ芸術分野において伝統を重ねてきたテーマではないかと思います。
さらに言うと、1991年のソ連邦崩壊後の新生ロシアでは、「国家」と同一視される「父権」の喪失、さらには「父殺し」をモチーフとする映画作品が少なからず制作されているのです。そうした観点から今回ご紹介したいのは、ヴェネツィア国際映画祭、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞などで受賞やノミネートを果たしたパーヴェル・チュフライ監督の『パパってなに?』(1997年)と、ヴェネツィア国際映画祭グランプリ金獅子賞をはじめ国内外の映画祭で賞を総なめにしたアンドレイ・ズビャギンツェフ監督の『父、帰る』(2003年)です。(佐藤千登勢)