ロシアNIS調査月報2015年3月号特集◆ロシア・中国関係の深層を探る |
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特集◆ロシア・中国関係の深層を探る |
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調査レポート |
中ロ協力の現在:軍事と金融を中心に |
調査レポート |
中国・ロシア国境最新事情 |
ビジネス最前線 |
水産業パートナーとしてのロシアと中国 |
データバンク |
ロシア連邦と極東管区の対中貿易データ |
エネルギー産業の話題 |
ロシアの石油・ガス・石炭産業と中国企業 |
自動車産業時評 |
ロシア市場で攻め続ける中国自動車メーカー |
ロシア極東羅針盤 |
ロ中朝国境ルポ2015 |
INSIDE RUSSIA |
なぜロシアはベトナムを重視するのか |
調査レポート |
諸問題が噴出するロシアの電力事業 ―2014年の動きを中心に― |
データバンク |
2014年版カザフスタン200大企業ランキング |
データバンク |
2014年の日ロ貿易(速報値) |
研究所長随想 |
1960年になって動き出した日ソ貿易 ―日ソ貿易外史(3)― |
モスクワ便り |
ルーブル下落と狂騒の12月 |
地域クローズアップ |
2015年注目の地域バシコルトスタン共和国 |
産業・技術トレンド |
日本企業から見たロシア航空産業概観(上) |
ロジスティクス・ナビ |
ロシア海陸物流2014 |
ウクライナ情報交差点 |
散々だった2014年のウクライナ鉱工業生産 |
中央アジア情報バザール |
大統領演説から中央アジア各国を読み解く |
シネマ見比べ隊!! |
ロシア女性の生きる道 |
業界トピックス |
2015年1月の動き ◆味の素がロシアで枝豆の販売を開始 |
通関統計 |
2014年の輸出入通関実績(速報値) |
中ロ協力の現在:軍事と金融を中心に
高知大学 人文学部
塩原俊彦
はじめに
ウクライナ危機後の欧米を中心とする経済制裁から、ロシアは中国との協力関係強化に力を入れている。だが、中ロの思惑は必ずしも一致していない。2014年5月、10年来の協議を経て決着したロシアから中国への天然ガス輸出にしても、双方の利害が対立するなかで、おそらくロシア側の譲歩から妥結に至ったように思われる。本稿では、2014年5月、10月、11月に政府間レベルや政府・民間レベルで締結された文書を総ざらいしたうえで、その特徴を明らかにするところから始めたい。ついで、軍事面と金融面の協力を中心に現状を詳しく分析する。軍事や金融の分野での協力が、今後の世界秩序を揺さぶりかねない側面を有しているからである。エネルギー面や輸送面などの協力については、別の機会に譲りたい。
中国・ロシア国境最新事情
ロシアNIS経済研究所 主任
齋藤大輔
はじめに
国境というのは、実にワクワクする。なぜここに国境が引かれたのだろうか、境界線1つでこんなにも住んでいる人が違うのかなど、そうさせる要因はいろいろあるけれども、ロシアと中国の国境の魅力は、やはりその緊張感である。
中ロ国境で、人や車をずっと眺めていても、まったく飽きることがない。人が引いた線は、アジア的世界とヨーロッパ的世界を分ける。はたして国境の向こう側はどうなっているのだろうかと考えてしまう。境界線1つで住んでいる人たちの民族、宗教、生活、文化が違うのは当たり前なので、そう驚くことではないけれど、ロシアと中国ほど、そのコントラストを感じるところはない。もちろん、両国とも外交関係が途絶えるような対立関係にはないので、人やモノは行き来しているのだが、国境に立ってバスや船を見ていても、許可をとったバスや船が往来しているだけで、国境の賑わいに出会うことはない。最も南にある中ロ国境にいたっては、バスや列車が1日数本走っているだけで、寂しいとしか言いようがない。地元の人ならば、見慣れた光景なのかもしれない。が、ヨーロッパの国境に行ったことがある人ならば、かなりショックを受ける光景といえる。
一方、ロシア極東では、中国からの人やモノ、そして文化の流入が進む。「中国製品だから品質が悪いということはない」。ロシアの友人たちは「中国製の品質はどうなのか?」という問いに、またかという表情でそう答える。中国と3,000km以上にわたって国境を接するロシア極東では、ロシアのどこよりも中国製品が身近な存在となっている。食料品、洋服、文房具、家具、スポーツ用品など、ありとあらゆる日用品が、中国から入ってきている。そして市場に行けば、刺青屋、理髪店、食堂まで中国人が経営している。ロシア極東で働く中国人は公式には2万〜3万人であるが、短期就労や不法滞在を含めると、20万人とも30万人ともいわれている。ロシア極東の「中国」といえば、これまで食料品や衣服の販売、さらには労働力の提供が中心であったが、最近ではインフラ建設や金融など新しい分野への進出が目立つ。ウクライナ危機と欧米との関係悪化に伴う両国の接近もあり、対中意識に変化が起きていると感じる。そこで本稿では、ロシア極東と中国の現地で何が起きているのか、とくに国境地帯の状況をみていきたい。
ビジネス最前線
水産業パートナーとしてのロシアと中国
兜幸 水産商事部長
衣笠誠さん
はじめに
宝幸のロシアビジネスは日ソ国交回復前の1955年まで遡り、今年は60周年を迎えます。今回ご登場いただく衣笠さんは、長年にわたってロシア事業に携わってこられました。ソ連時代には、カムチャッカ沖でズワイガニを獲るための技術を移転するという日ソ漁業共同事業に参画。母船に水揚げしたカニをボイルし、商品にしたものを日本にもって帰るという事業で約半年の船上生活を送ったそうです。そのときの印象は「個人的に付き合うとロシア人っていい人だな」。それ以来、「付き合いが続いて」います。対ロシアの水産事業もこの間、ずいぶん変わりましたが、その歴史を振り返るに、それは発展的な変化であり、将来の対ロシア貿易がより重要になっていく、とお話を伺って確信した次第です。(芳地隆之)
データバンク
ロシア連邦と極東管区の対中貿易データ
ロシア連邦関税局によると、2013年のロシアと中国の貿易高はロシアから中国への輸出が356億ドル、中国からロシアへの輸入が532億ドルとなり、輸出入の総額は888億ドルとなった。3年連続で過去最高を更新し、900億ドル台寸前まで迫った。(齋藤大輔)
エネルギー産業の話題
ロシアの石油・ガス・石炭産業と中国企業
かつてロシアは中国に対し強い警戒心を抱いており、中国企業によるロシアの石油ガス権益の獲得は事実上不可能でした。ところが、ある時期からロシア側の態度が軟化し、ロシアのエネルギー分野における中国のプレゼンスが徐々に高まり始めました。そして、今、欧米諸国の対ロ制裁を契機として、その流れが加速しようとしています。本コーナーでは、なぜ、ロシアの中国に対する警戒心が薄れたのか、あるいは、中国への傾斜の強まりが何をもたらすのかといった点に着目しながら、石油、ガス、石炭の3部門での中国企業の動きをご紹介します。(坂口泉)
自動車産業時評
ロシア市場で攻め続ける中国自動車メーカー
ロシアの乗用車市場を取り巻く環境は厳しくその前途には暗雲が立ち込め始めていますが、各中国メーカーは攻めの姿勢を全く崩しておらず、まるで先を争うかのように、ロシア国内での本格的な現地生産に踏み切ろうとしています。本コーナーでは、不可解ともいえる積極性の背景にある事情に留意しながら、各中国メーカーのロシア市場での動きを紹介します。(坂口泉)
ロシア極東羅針盤
ロ中朝国境ルポ2015
ロシア、中国、北朝鮮の国境が接する「トライアングル」地帯。中国側の展望台からみると、緩やかな低地が広がり、ここが河口部ということがすぐにわかる。天気が良ければ、17km先の日本海を望むこともできる。手前がロシアと中国の境界線。線が引かれているわけではないが、鉄柵が長く延びているので、なんとなくわかる。豆満江をはさんで左側がロシアのハサンで、右側が北朝鮮の豆満江だ。2014年12月、ロ中朝国境地帯を3年ぶりに訪れた。(齋藤大輔)
INSIDE RUSSIA
なぜロシアはベトナムを重視するのか
はじめに
完全に個人的なことで、恐縮である。1月に私的な旅行でベトナムのハノイに行ってきた。純然たる観光旅行なので、仕事のことは忘れ、羽を伸ばすつもりでいた。しかし、いざ現地に赴いてみると、悲しい性と言おうか、街を歩けばロシアに関係したものを探してしまうし、英字新聞があればついロシア絡みの記事を読んでしまう。これはもう、職業病のようなものである。
そんなことをしているうちに、この際だから、ロシアとベトナムの関係を簡単にでもまとめておこうかと思い立った。ベトナムはロシアにとってソ連時代以来の友好国であり、今でも色んな繋がりがある。月報の今号ではロシア・中国関係の特集を組んでいるが、そこにベトナムという要因を加えた三角関係で捉えることで、ロ中関係もより複眼的な視点で見ることができるはずだ。(服部倫卓)
諸問題が噴出するロシアの電力事業
―2014年の動きを中心に―
ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉
はじめに
ロシア政府が過大な電力需要予測に基づき新発電ユニットの建設を促進した結果、ロシアの多くの地域で発電設備が余剰になりつつある。多くの批判にもかかわらずロシア政府は新発電ユニットの建設を継続する意向を示しており、一部の地域では設備過剰問題がさらに深刻化する可能性がある。その一方で、南連邦管区のように電力不足がいまだに解消されていない地域も存在する。このアンバランスを是正するには電源立地政策を抜本的に見直し電力が余剰となっているエリアでの新発電ユニットの建設を中止すると同時に、電力が不足しているエリアでの電力インフラの整備を急ピッチで進める必要があるが、今のところ事態の改善に向けた具体的な動きは見受けられない。
また、ロシアでは最近になり、熱生産・供給部門において様々な問題点が表面化してきており、熱併給発電所およびそれらの発電所を数多く傘下にかかえる発電会社が苦境に追いやられているが、この問題についても解決の具体的道筋はまだ見えていない。
さらに、ロシア政府は一時電力料金の自由化を高らかに宣言したものの、料金の想定外の高騰を受け方針を変更し、最近は、料金の抑制に躍起となっているが、そのことも様々な問題を生みつつある。本稿では、列挙した諸問題に留意しながら、2014年のロシアの電力分野を回顧する。
データバンク
2014年版カザフスタン200大企業ランキング
はじめに
当会ではこれまでも何度か、『エクスペルト・カザフスタン』誌が発表したカザフ大企業ランキングを紹介してきたが、同誌2014年11月10-17日号に2013年の売上高にもとづく2014年版のランキングが掲載されたので、今年もこれを紹介してみたい。
データバンク
2014年の日ロ貿易(速報値)
はじめに日本財務省から、2014年の貿易統計が発表されたことを受け、当会では同年の日本とロシア間の貿易に関し、輸出入商品構成をまとめたので、早速これを紹介したい。なお、今号の巻末に、ロシア以外のNIS諸国との2014年の輸出入動向も掲載しているので、あわせてご参照いただきたい。なお、2014年のデータは速報値である。小誌の5月号に、確定値を掲載する予定だ。
研究所長随想
1960年になって
動き出した日ソ貿易
―日ソ貿易外史(3)―
1956年日ソ国交が回復し、翌1957年に日ソ通商条約と日ソ貿易支払協定が締結され、1年ごとに更新されてきたが、1960年からは3か年の長期協定になって日ソ貿易への期待が広がってきた。しかし、1960年は日米安保闘争で日本が大揺れになった年でもあった。(遠藤寿一)
モスクワ便り
ルーブル下落と狂騒の12月
はじめに
周知のとおり、昨年12月16日、ルーブルが急落した。大幅なルーブル安を受けて、12月には耐久消費財市場が空前の活況を呈する一方、市民生活や企業活動に深刻な影響を及ぼす懸念も生じている。本号では、今回のルーブルの下落に関して筆者の体験も交えつつレポートをしてみたい。(中居孝文)
地域クローズアップ
2015年注目の地域バシコルトスタン共和国
はじめに
ロシアでは2012年にウラジオストクでAPECサミット、2013年にタタルスタンのカザンでユニバーシアード、2014年にソチでオリンピックと、地方で大々的に国際イベントが行われてきた。近年は国内外から注目を浴びるこうした機会に合わせて地方のインフラ整備や都市開発などを進める傾向にある。今後は2018年にロシア各地の会場を使ったサッカーワールドカップの開催が注目されている。2015年はどの地域が注目されるのか?
実は、2015年7月にはバシコルトスタン共和国ウファ市で上海協力機構およびBRICSのサミットが予定されており、同地域の開発・整備が進んでいる。そこで、今月は今年、注目すべき地方の一つとして、バシコルトスタンを紹介する。(中馬瑞貴)
産業・技術トレンド
日本企業から見たロシア航空産業概観(上)
はじめに
ロシアでは景気減速傾向にあるのだが、経済混乱の影響を受けつつもまだ、引き続き設備投資が進行中な業界がある。それは、航空産業で、現在新型旅客機MS-21型機生産のための業者選定や設備投資が佳境となっている。ロシアの航空機生産と言うと、戦闘機を想像される方が多いと思う。加えて、ロシアの旅客機と言えば旧態依然とした燃費の悪い売れない旅客機が一般的イメージであろう。そのためロシアの航空産業はビジネスの対象としてふさわしくないと考えられている方が多いのではないかと思う。しかし、ロシアでは国の方針として航空産業復活を掲げ、最近は生産数が増え、性能を刷新した新機種の開発も進み、それなりの成果を上げているように見える。今回はすでに生産を伸ばしつつあるスホーイスーパージェットや開発が進みつつあるMS-21の状況を紹介した上で、ロシアの旅客機生産の復活とそれに伴うビジネスについて、日本企業から見たビジネス上の魅力がどれだけあるかという観点で論じる。
前編では最近の動きを事実ベースにて報告し、後編では、どのようにビジネスに繋げるかについて論じる。(渡邊光太郎)
ロジスティクス・ナビ
ロシア海陸物流2014
資源価格下落にルーブル暴落が追い打ちをかけ、ロシア経済は光明が見いだせないまま2015年を迎えました。国内経済に大きな混乱はまだ見られないとのことですが、この間のモノの動きについて各種速報値を基に分析します。(辻久子)
ウクライナ情報交差点
散々だった2014年のウクライナ鉱工業生産
はじめに
今回は、ウクライナ統計局の発表データにもとづき、2014年のウクライナの鉱工業生産統計を整理しておく。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
大統領演説から中央アジア各国を読み解く
はじめに
ウクライナ問題、欧米およびロシアによる経済制裁、ルーブルの下落、油価の急落と、2014年に起きた国際情勢の変化は、ロシアだけでなく周辺の中央アジア・コーカサス諸国にも影響を与えた。これが紛れもない事実であることを各国大統領も認識している。一方で、国ごとに若干のニュアンスの差はあれ、2014年も経済成長を達成することができたこと、そして2015年も継続的に発展を目指すことを彼らは主張している。
本稿では中央アジア・コーカサス諸国の2014年の経済発展の成果と国際情勢の影響、そして、そのような影響受け、2015年は何を目指していくのかについて、各国大統領が年末年始に行った演説から読み取ってみることにする。紙幅の関係によりすべての国を取り上げることはできないので、今回は、比較的、経済発展が進み、日本でも注目が高いカザフスタン、ウズベキスタン、トルクメニスタン、アゼルバイジャンの4カ国について紹介する。(中馬瑞貴)
シネマ見比べ隊!!
ロシア女性の生きる道
『持参金のない娘』VS『モスクワは涙を信じない』
はじめに
3月8日は「国際婦人デー」。20世紀初頭のニューヨークで起きた女性労働者たちのデモに端を発すると言われる記念日ですが、ロシアでも、1917年には二月革命の一翼を担う女性たちのデモをひき起こし、女性の権利と地位を尊重する日として祝われてきました。今日でも、男性が女性にミモザの花束を贈り、全世代の女性に感謝する祝日として定着しています(全世代の男性を女性が祝うロシアの祝日は、2月23日の「祖国防衛の日」ですね)。国際婦人デーが祝日で、女性がかくも大切にされるロシア。社会主義の名残からか女医や女性研究者の数も日本に比べて多いこの国では、女性の社会的地位も高いのか?と、今から20年ほど前に私は思ったものです。
今回は、国際婦人デーにちなみ、ロシア女性の生き方という観点からエリダール・リャザーノフ監督の『持参金のない娘』(1984年)と、ウラジーミル・メニショフ監督の『モスクワは涙を信じない』(1979年)を見比べたいのです。時代背景がまったく異なる2つの作品ですが、「女性の生き方」に焦点をあてている共通項を手掛かりとして、またもネタバレご容赦で紹介してまいりましょう。(佐藤千登勢)