ロシアNIS調査月報
2015年4月号
特集◆工業団地・経済特区
・テクノパーク
特集◆工業団地・経済特区・テクノパーク
特別寄稿
ロシア工業団地協会の組織と活動
―工場立地環境の改善に取り組む若手たち―
調査レポート
ロシアの工業団地と経済特区の概観
調査レポート
カザフスタンの新経済政策と経済特区
モスクワ便り
モスクワで工業団地セミナーを開催
ミニ・レポート
特区存続の是非に揺れるカリーニングラード州
ミニ・レポート
トムスクのベンチャーインキュベーター
地域クローズアップ
アストラハン州で新たな経済特区誕生
ウクライナ情報交差点
EU向け輸出加工基地めざすザカルパッチャ州
イベント・レポート
ウリヤノフスク州の経済と外国投資動向

調査レポート
2014年のロシア乗用車市場の総括
―年末に出現した駆け込み需要―
ビジネス最前線
商品をともに育てていく口煩いパートナーとして
研究所長随想
日ソ貿易初期のビジネス・マッチング
―日ソ貿易外史(4)―
イベント・レポート
露日ビジネスカウンシル・プレゼンテーション
―日ロビジネス協力の現在と未来―
INSIDE RUSSIA
「ケネディ」を失ったロシア
―さようなら、ボリス・ネムツォフ―
ロシア極東羅針盤
アムールの大豆クラスターはどこまで進んだか
産業・技術トレンド
日本企業から見たロシア航空産業概観(下)
エネルギー産業の話題
逆境下のロシア石油ガス企業の動き
自動車産業時評
ロシア乗用車市場の長期予測
ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾の貨物流動動向
中央アジア情報バザール
カザフスタンの地下鉄事情
シネマ見比べ隊!!
原発事故とディアスポラ
記者の「取写選択」
壇上のネムツォフ
ドーム・クニーギ
池内恵著『イスラーム国の衝撃』
業界トピックス
2015年2月の動き
◆サトーHD、ロシア・プライマリーラベル市場進出
通関統計
2015年1月の輸出入通関実績


ロシア工業団地協会の組織と活動
―工場立地環境の改善に取り組む若手たち―

ロシア工業団地協会日本・アジア太平洋諸国担当顧問
兼ロシアNIS貿易会モスクワ事務所アドバイザー
大橋巌

 ロシア経済が回復基調に乗り、消費財市場が急速な拡大を見せた2000年代半ば、トヨタや日産など自動車産業を中心に日本企業に工場進出の動きが高まった。しかしその頃、ロシアには外国企業が「普通に」工場進出できる立地環境は未整備で、トヨタも日産も、原野や山林に近い状態の土地を地方当局から提供され、自社負担で地盤を整備し、電力や上下水などのユーティリティを周辺の幹線から引き込まなければならなかった。さらに用地整備の許可取得やユーティリティの設営には不透明で巨額コストと煩雑な手続きが必要であった。
 こうした悪条件を改善し、工場立地を促すため、ロシアでは2005年に経済特区法が制定された。連邦政府により区画やユーティリティが整備され、専任の管理会社を持つ工業生産型経済特区が初めてタタルスタン共和国とリペツク州に創設された。この経済特区が先行モデルとなって各地方で開発公社が創設されるようになり、特区ではないが地方政府が率先して区画とインフラを整備し、一元的な管理を行う工業団地を造設する動きが始まった。民間でも2006年にスイスの建設会社がモスクワ州ノギンスクに初の工業団地を開業した。
 初期の工業団地整備の推進主体となった地方の開発公社(特にカルーガ州開発公社)や民間の工業団地デベロッパー、不動産・建設系のコンサルティング会社などが集まって2010年に創設されたのが、ロシア工業団地協会である。


ロシアの工業団地と経済特区の概観

ロシアNIS経済研究所 部長
服部倫卓

はじめに
 本稿では、ロシアに存在する工業団地・経済特区・テクノパークの一覧を整理し、その全体像の把握を試みる。ロシアの工業団地政策、産業政策におけるその位置付けに関しては、今号掲載の大橋巌ロシア工業団地協会顧問による解説が詳しいので、そちらを参照していただきたい。


カザフスタンの新経済政策と経済特区

ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴

はじめに
 (一社)ロシアNIS貿易会(ROTOBO)では2015年2月にカザフスタンの経済特区を訪問する視察団を派遣した。2013年11月に続く第2回となった今回の視察団では経済特区「国営石油化学工業団地」(アティラウ州)、経済特区「アクタウ港」(マンギスタウ州)、経済特区「ホルゴス−東の窓口」(アルマチンスク州)の3か所を訪問した。
 そこで本稿では、視察団による経済特区訪問を踏まえ、国家政策として改めて重要視されつつあるカザフスタンの経済特区の全般的な制度や政策と、各特区の現状について概説する。なお、制度や政策については第1回の視察団派遣後に『ロシアNIS調査月報』2014年3月号で紹介した。今回はその後の経済特区法の修正に伴う新しい情報を中心に取り上げる。
 また、本報告では一般に公表されている法律や政策文書の他に、現地訪問で入手した資料や担当者の発言なども引用しており、一部に発言者及び筆者の主観的な内容が含まれている。そして、これらの情報はすべて2015年2月時点のものであり、その後の進展や変更に対応できていない場合があることを予めご了承いただきたい。


モスクワ便り
モスクワで工業団地セミナーを開催

はじめに
 本号は「工業団地特集」ということで、今回は昨年12月12日にロシアNIS貿易会とモスクワ・ジャパンクラブ、そしてロシア工業団地協会がモスクワで主催した「ロシア工業団地セミナー」について紹介したい。(中居孝文)


特区存続の是非に揺れるカリーニングラード州

はじめに
 筆者は、ロシアの最西端で、飛び地となっているカリーニングラード州を2015年2月に訪問した。カリーニングラード州は、周囲をEU諸国(ポーランド、リトアニア)に囲まれ、2005年制定の一般的な特別経済区とは別の枠組みで特別経済区に指定されている。自動車生産台数では2位を占める企業があり、軍事拠点としても重要な独特な地域である。この特別経済区の制度も2016年3月で関税特典が廃止予定である。今後、工業団地も重要な役割を果たすのか気になるところでもある。これらを踏まえ、カリーニングラードの経済事情の一端について報告する。 (高橋浩)


トムスクのベンチャーインキュベーター

はじめに
 ロシアは元々優れた技術開発力を発揮していた国であるが、ソ連崩壊前後から20年の間、製造業が停滞していたため、そうしたことが忘れられがちである。ロスナノにはベンチャーインキュベーターの機能があり、研究開発活動やビジネスの立ち上げの支援を行なっている。今回は、シベリアのトムスクでベンチャーインキュベーターを行なうSYGMA TOMSKについて紹介する。個々の技術については、内容を十分に調査していないため、詳細は別の機会に譲り、今回は簡単な紹介に留める。(渡邊光太郎)


地域クローズアップ
アストラハン州で新たな経済特区誕生

はじめに
 2014年12月、ロシアの経済発展省はアストラハン州政府および同州ナリマノフ地区自治体政府と三者協定を結び、工業生産経済特区「アストラハン」を同地区に設置することを決定した。工業生産経済特区は他の技術導入特区、観光・レクリエーション特区、港湾特区に比べると成功例が多く見られ、新設が相次いでいる。
 一方で、アストラハンと聞いてどこにあるか、どんな州なのか思い浮かぶ人はなかなかいないのではないだろうか。そこで、本稿では日本とは関係が希薄なアストラハン州について紹介する。(中馬瑞貴)


ウクライナ情報交差点
EU向け輸出加工基地めざすザカルパッチャ州

はじめに
 西ウクライナに、ザカルパッチャ州という地域がある。州都はウジホロド。ウクライナ最西端の地域であり、ポーランド、スロバキア、ハンガリー、ルーマニアと国境を接している。ウクライナの州で、4つものEU諸国と国境を接しているようなところは、もちろんここだけである。
 ウクライナは国として、ロシア圏ではなく、EU圏との統合に舵を切った。もう後戻りはできない。ただ、実際にEUとの経済関係が今後深まっていくのか、不透明感も強い。そうした中、ザカルパッチャ州においては、エレクトロニクス部門などで、当地がすでにEUのサプライチェーンに組み込まれ始めている萌芽が見て取れる。
 その際に、今後を展望する上でのヒントになりうるのが、日本の矢崎総業が自由経済地区「ザカルパッチャ」に設立した矢崎ウクライナ社の経験である。以下本稿では、ザカルパッチャ州の対外経済関係の概況につき報告するとともに、矢崎ウクライナ社長のインタビューでの発言要旨を紹介する。(服部倫卓)


イベント・レポート
ウリヤノフスク州の経済と外国投資動向

はじめに
 1月29日に「ウリヤノフスク州の経済と外国投資動向」と題し、ROTOBO月例報告会を当会会議室で開催した。ウリヤノフスク州は優れた投資環境で知られ、日系企業でもいすゞ自動車、ブリヂストン、DMG森精機、タカタ、小糸製作所が進出している。ウリヤノフスク州で進出企業の支援を行なっているウリヤノフスク州開発公社のリャビコフ副社長から、ウリヤノフスク州の経済活動の概況と投資環境について説明し、当会から同地の航空産業、自動車産業、進出企業等に関する補足説明を行なった。
 航空産業、自動車産業の現状についての補足説明の内容はすでに当月報にて報告させていただいたもの、今後報告を予定しているものであるので、本稿ではリャビコフ副社長のプレゼンテーションの内容、特に工業団地について一部補足しつつ報告させていただく。(渡邊光太郎)


2014年のロシア乗用車市場の総括
―年末に出現した駆け込み需要―

ロシアNIS経済研究所 部長
坂口泉

はじめに
 本稿では、2014年のロシアの乗用車市場を回顧すると同時に、同市場の今後の展望についての考察を試みる。


ビジネス最前線
商品をともに育てていく口煩いパートナーとして

潟Aルゴナフト 代表取締役社長
菅原専さん

はじめに
 アルゴナフトという社名の由来は、金の羊毛を見つける航海にでる伝説の船「アルゴ号」に乗り合わせる乗組員たちのこと。力を合わせ、知恵を絞り、様々な障害を乗り越えて航海を進めるアルゴ探検隊のストーリーに、会社の未来像を重ね、事業を発展させようという想いから名づけられたそうです。ソ連解体直後の1993年、ロシアとはいったいどんな国なんだろう? という強い好奇心と冒険心でサンクトペテルブルグへ留学した若き日から、やがてロシア極東や北東アジアへの魅力も感じるようになり、ビジネスマンとして同国に関わってこられた菅原さん。商売をきちんと成立させるためには、日ロ双方への厳しい助言も厭わない、自称「うるさがられる商社マン」として、忙しい日々を過ごされています。今回は同社貿易事業部長の長谷川知さん、ならびに旅行事業部マネージャーの有本麗子さんからもお話を伺いましたので、合わせてご紹介いたします。(芳地隆之)


研究所長随想
日ソ貿易初期のビジネス・マッチング
―日ソ貿易外史(4)―

 1957年10月、ソ連は人類史上初めての人工衛星スプートニク第1号の打ち上げに成功し、当時世界最強の国家を自負していた米国は、大きなショックを受けた。
 この翌年の1958年4月大阪で開催された国際見本市にソ連は初めて参加し、特設館を設けて、このスプートニクの模型を展示したのである。一般参観者には大人気となり、未知の国であったソ連に関心を持つ人が急速に増大した。(遠藤寿一)


イベント・レポート
露日ビジネスカウンシル・プレゼンテーション
―日ロビジネス協力の現在と未来―

はじめに
 A.レピク実業ロシア会長を団長とする代表団が来日し、2015年2月10日、ホテルニューオータニにおいてロシアNIS貿易会との共催で日ロビジネス会議「日ロビジネス協力の現在と未来」と題するプレゼンテーションが開催された。本稿では同プレゼンテーションの様子をご紹介する。
 同プレゼンテーションでは上述のレピク氏に加え、西岡喬ロシアNIS貿易会会長、S.ヴォスクレセンスキー・ロシア連邦経済発展省次官、M.シェレイキン・ロシア連邦極東発展省次官が開会の挨拶を述べ、続いてI.ディヤチェンコ露日ビジネスカウンシル執行理事、O.クリロヴァ戦略的イニシアチヴエージェンシー(ASI)極東連邦管区支部長、A.ルディク「RusForest AB」取締役、A.ダニレンコ「ロシア乳製品企業」取締役によるプレゼンテーションが行われた。(鳴沢政志)


INSIDE RUSSIA
「ケネディ」を失ったロシア
―さようなら、ボリス・ネムツォフ―

はじめに
 ロシアで、B.エリツィン大統領の時代に第一副首相を務め、V.プーチン大統領の現体制の下では反体制側に回っていたB.ネムツォフ氏が、2月27日にモスクワで暗殺された。ロシア内外に、大きな衝撃が走った。今回の本コーナーでは、この事件の意味合いにつき、考察する。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
アムールの大豆クラスターはどこまで進んだか

 アムールの大豆。この言葉を聞いてもピンとくる人は、そう多くはないだろう。極東のアムール州はロシアの大豆産地の1つだ。そんなアムールの大豆が大豊作に沸いている。
 2014年の収穫量は天候に恵まれたことから、前年と比べて2.7倍増えて、99.7万tとなった。収穫量は年々増えていたが、2013年はアムール川水系で発生した洪水の影響で大幅に減らしていた。天候に恵まれて発芽が順調に進み、単収が向上したことも記録的な豊作につながった。(齋藤大輔)


産業・技術トレンド
日本企業から見たロシア航空産業概観(下)

はじめに
 前月はロシアの航空産業でどのような動きがあるのかを紹介したが、今回はその動きがどのようにビジネスに結びつくかについて検討する。(渡邊光太郎)


エネルギー産業の話題
逆境下のロシア石油ガス企業の動き

 対ロ制裁の影響で外国の金融マーケットにおける資金調達が困難になっていた石油ガス会社に追い討ちをかけるように、2014年秋口から油価が急落し始めました。その結果資金繰りがタイトになったロシアの各石油ガス会社は、設備投資額の削減などの対応を迫られています。
 今回は、対ロ制裁ならびに油価の低迷という逆境の中でのロシアの石油ガス会社の動きを紹介します。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシア乗用車市場の長期予測

はじめに
 月報の今号では、「2014年のロシア乗用車市場の総括」と題するレポートを掲載しているので、市場の概況についてはそちらをご覧いただきたい。ここでは、一つの参考資料として、プライスウォーターハウスクーパースが発表したロシア乗用車販売市場の長期的見通しの数字をご覧に入れる。(編集部)


ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾の貨物流動動向

 東西南北の5つの水域をカバーするロシア港湾の最新の動向について、公式港湾統計『2014年のロシア、バルト諸国、ウクライナの海港を通じた貨物取扱状況』のデータを使って解説します。(辻久子)


中央アジア情報バザール
カザフスタンの地下鉄事情

 カザフスタンのアルマトィにある地下鉄の駅のプラットフォーム。ロシアのモスクワやサンクトペテルブルクの地下鉄も、まるで美術館のようにきれいな壁画が飾られていることは有名である。したがってこのような壁画が地下鉄に飾られていることは決して珍しくはない。しかし、ロシアを訪問した人なら誰でも経験したことがあるのではないだろうか。地下鉄でカメラを出したときの警備員の反応、ましてやシャッター音が聞こえたらただ事ではない。撮影禁止と怒鳴られ、撮影した写真を削除しろと注意され、最悪の場合にはカメラを取り上げられることもある。その警戒心が習慣づいているため、地下鉄に乗車する際に、いかに目立たないように写真を撮影しようかと悩んでいた。そんな矢先、あきらかに地元っ子と思われる人たちが壁画の前でポーズを決めて写真を撮っている。そこで本稿では彼女らに触発されて思い切って撮影した写真を掲載しつつ、カザフスタンの地下鉄について紹介する。(中馬瑞貴)


シネマ見比べ隊!!
原発事故とディアスポラ
『アレクセイと泉』VS『故郷よ』

 1986年4月26日、それは旧ソ連のウクライナ共和国でチェルノブイリ原発事故が起きた日として記憶されます。ゴルバチョフ元書記長がグラスノスチ(情報公開)を掲げて民主的な社会への変革を推進しようとしていた時期でしたが、ソ連政府はスウェーデンから打診があるまで事故の事実を隠蔽し、ゴルバチョフ氏もメーデーの催しのほうが重要だと考えていたようだ、と批判を受けることになりました。
 しかし、問題は原発事故による自然、人間、住環境等々、地球全体への終わりのない放射性物質による汚染、甚大な被害でしょう。この事故の影響で消防士、軍人ら30数名が被曝死し、数多の住民が病死し、多くの子供達が小児甲状腺癌や白血病、水頭症に苦しんできました。そして言うまでもなく、数十万にのぼる市民が故郷を離れ他の土地への移住を余儀なくされました。今回は、こうして故郷をおわれ離散して暮らす人々をディアスポラと広義で捉え、一方で、汚染された故郷の土地に留まって暮らす人々のメンタリティという視点から、本橋成一監督の『アレクセイと泉』、そしてミハル・ボガニム監督の『故郷よ』を見比べたいと思います。(佐藤千登勢)


新コーナー! 記者の「取写選択」
壇上のネムツォフ

 共同通信の小熊宏尚さんによる新連載「記者の『取写選択』」がスタートしました。小熊さんはロシアをはじめ世界各地で豊富な取材経験をお持ちで、写真のアーカイブも充実しているので、そうしたものを活かしつつ、フォトエッセイを綴っていただくという趣旨のコーナーです。(編集部)