ロシアNIS調査月報2016年2月号特集◆保健医療ビジネスの |
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特集◆保健医療ビジネスのフロンティア |
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調査レポート |
ロシアの医薬品および医療機器市場 ―輸入代替とルーブル安を背景に― |
調査レポート |
ロシアの医療事情と政策の動向 ―改革の歪みが表面化した2015年― |
ビジネス最前線 |
ロシアで存在感を増すアークレイの医療機器 |
ビジネス最前線 |
現地ニーズに根ざしたカザフスタンでの医療ビジネス |
イベント・レポート |
ロシア医療機器セミナー開催される |
ミニ・レポート |
ウクライナとベラルーシの医薬品産業・市場 |
ミニ・レポート |
ロシアのフィットネスクラブ産業 |
中央アジア情報バザール |
中央アジア最新の人口・保健統計 |
地域クローズアップ |
製薬クラスターを核に発展目指すアルタイ地方 |
データバンク |
2014〜2015年版ロシア地域別投資環境ランキング |
研究所長随想 |
トルストイとアジアの思想家たち(1) ―世紀の大作に垣間見る東洋の心とは― |
INSIDE RUSSIA |
2016年のロシア政治展望 |
モスクワ便り |
AEB:ロシア最強の圧力団体 |
ロシア極東羅針盤 |
極東ごみビジネスの世界 |
産業・技術トレンド |
ロシアで拡大する産業用設備需要 ―輸入代替によるビジネスチャンス― |
エネルギー産業の話題 |
石油上流部門でのロシア・中国協力案件 |
自動車産業時評 |
2015年1〜9月期のロシアの商用車市場 |
ロジスティクス・ナビ |
ユーラシアランドブリッジ2015 |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナゆく年くる年 |
デジタルITラボ |
ロシアの映像コンテンツ市場 ロシア人とデジタルコンテンツ(3) |
蹴球よもやま話 |
ロシア諸地域の球技ランキング |
シネマ見比べ隊!! |
動物映画に見るロシアの世相 |
業界トピックス |
2015年12月の動き モルドバで渡会電気土木のペレット設備稼動 |
通関統計 |
2015年1〜11月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
金日成の家 |
ロシアの医薬品および医療機器市場
―輸入代替とルーブル安を背景に―
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
ロシアの医薬品・医療機器市場は現在、輸入代替とルーブル安のダブルショックに見舞われ揺れ動いている。輸入代替とは、輸入品の市場へのアクセスを制限することにより国産品のプレゼンスを強化しようとする政策のことだが、その衝撃は多くの外国メーカーを直撃している。また、油価の低迷を背景とするルーブル安は、輸入品を主力とする外国メーカーのみならず、現地生産を行っている外国メーカーやロシア資本メーカーにも深刻な影響を及ぼしつつある。医薬品にせよ医療機器にせよ国産品とは言っても、輸入原材料・部品への依存度が非常に大きいという事情があるからだ。
本稿では、輸入代替とルーブル安が及ぼす影響に着目しながら、ロシアの医薬品と医療機器市場の現状を紹介する。
ロシアの医療事情と政策の動向
―改革の歪みが表面化した2015年―
衣川靖子
ソ連崩壊後、ロシアの人口は大幅に減少した。ロシア政府は、油価の上昇を追い風に経済が好調に推移した2000年代半ば頃から出生率の向上と死亡率の低下を喫緊の課題として認識し、その一環として医療制度改革、法整備、薬剤給付、医療機器・設備の更新、健康的なライフスタイルの啓発などに取り組んできた。
当然ながら人口や医療の問題は容易く解決されるようなものではなく、その後も様々な課題が指摘されてきた。しかしながら、政府が医療政策に本腰を据えるようになってから約10年を経た昨年は、例年にも増して医療制度改革に対する批判が目立った。
本稿では、その背景にある保健医療事情について統計データを中心に考察した上で、近年の医療制度・政策の動向を概観する。
ビジネス最前線
ロシアで存在感を増すアークレイの医療機器
ARKRAY.Ltd.
CEO 坂田哲也さん
京都市に本社を構える医療機器メーカー・アークレイ株式会社は、2013年にモスクワ州ドゥブナ市にて医療機器の現地生産を立ち上げたことで、ロシア医療機器産業における数少ない日本メーカーとして、国内外から注目を集めています。
今回お話を伺うことができた坂田さんは、滋賀県にある同社のマザー工場の工場長であり、ロシア法人の責任者も兼任されていらっしゃいます。日本とロシアを足しげく往き来される中で、可能な限りロシア人スタッフとのコミュニケーションを心がけていらっしゃるそうです。そんな坂田さんから、同社のロシア事業の推移、ロシア人スタッフと仕事をしてみた所感、今後の事業展開など様々なことをお伺いすることができましたのでご紹介します。(鳴沢政志)
ビジネス最前線
現地ニーズに根ざしたカザフスタンでの医療ビジネス
潟Wャパン メディカル&ヘルス
代表取締役 伊礼英樹さん
今回は、カザフスタンで医療ビジネスに着手した、株式会社ジャパン メディカル&ヘルスの伊礼英樹代表取締役から、同社の事業やカザフスタンの医療事情等についてお話を伺いましたのでご紹介します。
同社はすでに、カザフスタン・アルマティにて、国立ビジネスカレッジと提携を結び、日本の医療機器やサービスを紹介するセミナーなどを実施している他、2016年秋には現地で日本式の診療所の開設も予定しているそうです。今後のカザフスタンにおける医療ビジネスの展望も含めてインタビューしました。(長谷直哉)
イベント・レポート
ロシア医療機器セミナー開催される
2015年12月はじめ、ロシアの医療機器認証にあたって、連邦保険監督局の代行業務を行うエルマス社の幹部が来日した。8日には、在日ロシア連邦大使館において、当会とロシア連邦商工会議所との共催で「ロシア医療機器セミナー」を開催した。本稿ではセミナーの概要をご紹介する。
今日、ロシアの医療機関では医療機器の導入、整備が急速に進められており、信頼性の高い先端医療技術を有する日本の医療および医療機器への期待が高まっている。さらに日本企業にとっても、大手製薬会社のロシア進出のほか、医療機器を現地で生産をしている企業も存在するなど、ロシアの医療市場に対する関心は高まってきている。しかし、ロシアにおける医療製品の認証制度の複雑さなどが原因となって、日本企業のロシア市場への進出は進んでいるとはいえない。
今回来日したエルマス社は、ロシアでの医療機器の認証登録の支援を行っている企業であり、医療機器の認証登録手続きの具体的な流れやその際の注意事項、ロシアの医療機器市場の現状などにつき報告が行われた。(鳴沢政志)
ミニ・レポート
ウクライナとベラルーシの医薬品産業・市場
本稿では、西NISの2つの国、ウクライナとベラルーシの医薬品市場について報告する。現地で発表されたレポートをもとに、図表を中心に、両国医薬品市場の概況をお届けする。ともにロシアと欧州の狭間に位置し、初期条件が似通ったウクライナとベラルーシであるが、近年の経済の歩みは好対照となっており、医薬品分野についてもそのことが当てはまる。(服部倫卓)
ミニ・レポート
ロシアのフィットネスクラブ産業
ロシア経済は不振が色濃く、低成長が長期化することを覚悟せざるをえない状況である。しかし、つぶさに見ていけば、ロシアには依然として急成長している分野も確かに存在する。以下では、保健医療特集の一環として、成長するロシアのフィットネスクラブ産業を概観する。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
中央アジア最新の人口・保健統計
今月は、中央アジア(一部、コーカサスも含む)の人口・保健に関する統計データを紹介する。主にCIS統計委員会および各国統計機関のデータを使用して作成しているが、ウズベキスタンやトルクメニスタンのように公表データが限定的な場合もあるため、一部、世界銀行のデータも参考にしている。(中馬瑞貴)
地域クローズアップ
製薬クラスターを核に発展目指すアルタイ地方
ロシアでは、地域経済の発展や投資誘致のツールとして、イノベーション地域クラスターを設定して特定分野の発展を優先的に図る政策を実施している地域が存在する。中でも製薬分野のクラスターを設置したいと考える地域は多数あり、各地域が独自に投資環境の整備に取り組んでいたが、2012年、連邦政府によってパイロット地域クラスターが選定された。製薬分野のクラスターとして選定されたのは、モスクワ、サンクトペテルブルグ、カルーガ、ノヴォシビルスクなど投資誘致制度や研究・開発基盤が整った地域が多い。そんな中、日本であまり知られていないアルタイ地方も製薬クラスターの1つとなっている。(中馬瑞貴)
データバンク
2014〜2015年版ロシア地域別投資環境ランキング
ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』は、毎年末頃に、ロシアの地域別投資環境ランキングを発表している。先日、最新版(2014〜2015年版)が関連ウェブサイトに掲載されたので、この資料を抜粋して紹介する。
研究所長随想
トルストイとアジアの思想家たち(1)
―世紀の大作に垣間見る東洋の心とは―
トルストイの大作「戦争と平和」は、1865年(トルストイ37歳)から1869年(41歳)にかけての4年間に書かれた。ここに描かれた時代は、1805年ロシアが英国と同盟し、オーストリア・プロシアとともに第三次対仏大同盟に参加し、同年12月ロシアはオーストリア軍とともにアウステルリッツの会戦でナポレオン軍に大敗することから始まり、デカブリストの反乱前夜に至る20年間のロシアの歴史・社会を取り上げた一大叙事詩である。 (遠藤寿一)
INSIDE RUSSIA
2016年のロシア政治展望
ロシアのメディアでも、新年の展望が様々な形で語られている。本コーナーではその中から、2016年のロシアの内政・外交に関する有識者たちの予想を、抜粋して紹介する。なお、2016年のロシア経済の展望に関しては、1月15日号の『ロシアNIS経済速報』に拙稿を掲載する予定なので、そちらを参照していただきたい。(服部倫卓)
モスクワ便り
AEB:ロシア最強の圧力団体
ロシアにおいて活動する外国企業の中で欧州勢は進出数が最も多く、また業種も多様である。ロシアにおいて、それら欧州企業の利益を代表して、活発に活動しているのが、欧州ビジネス協会(略称:AEB)である。同協会は、法律や政策の立案・提言から個々のビジネス事案の紛争解決に至るまで広範な分野で、ロビー活動をアクティブに展開していることで知られており、ロシアの実業界ではその動向が常に注目されている。そこで本号では、「ロシア最強の圧力団体」とも呼ばれるAEBの組織と活動内容において紹介することとしたい。(中居孝文)
ロシア極東羅針盤
極東ごみビジネスの世界
ロシア極東でも、ようやくごみの分別が定着しつつあるようだ。2015年9月、ウラジオストクのごみ収集業者に会って話を聞いてみた。(齋藤大輔)
産業・技術トレンド
ロシアで拡大する産業用設備需要
―輸入代替によるビジネスチャンス―
ロシアの経済情勢はご存知のとおりであり、ロシア市場の売り上げ減に苦しんでいる方が少なくないと拝察する。日本からの輸出を見ると、ほぼ壊滅的に全面減となる展開であり、ロシアへの輸出ビジネスの苦境が読み取れる。とはいえ、よくよく見ると金属加工機械のように増えている品目もある。原油安による経済情勢の悪化に加え、ルーブル安によりロシアの購買力が落ちる一方、輸入をやめた分を国産化しようとしているため、ロシアが自分で生産活動を行うために必要な機械の需要が増えていることが統計上に現れているのだろう。もちろん、こうした製造業向け設備の需要は、日本からロシアへの自動車輸出の商売量に比べれば小さい。しかし、ロシア市場では、欧米製、特にドイツ製設備の勢力が強く、日本製品の伸び代が大きいのも事実である。
今回は、輸入代替により発生する設備需要について、なぜ設備の需要が増えるかについてと現状を紹介する。(渡邊光太郎)
エネルギー産業の話題
石油上流部門でのロシア・中国協力案件
2015年12月のメドヴェージェフ首相の訪中の際に、石油ガス分野でのロ中の協力に関するいくつかの文書への調印が行われましたが、石油上流部門に限定すると、大型案件に関する文書への調印はありませんでした。この事実からもわかる通り、何かと話題にはなるものの、石油の輸出契約を除けば、ロシアの石油上流部門でのロ中の協力案件は現実的にはそれほど進展していません。本稿では、いくつかのプロジェクトを取り上げ、その点を検証してみます。(坂口泉)
自動車産業時評
2015年1〜9月期のロシアの商用車市場
商用車に関してはこれまで、ロシアの調査会社「ASMホールディング」のデータをベースにした情報をご紹介してきましたが、今回はロシアの別の調査会社「アフトビジネス」から入手したより詳細なデータを参考にして2015年1〜9月期のロシアのトラック市場とバス市場の状況をご紹介することにします。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
ユーラシアランドブリッジ2015
2015年のロシア・コンテナ物流は港湾、鉄道ともに失速しました。他方、中国・欧州を結ぶ鉄道コンテナ輸送が注目されています。2015年11月に開催されたCCTT年次総会において公表された資料を基に実態を解明します。(辻久子)
ウクライナ情報交差点
ウクライナゆく年くる年
2015年もウクライナでは厳しい国難が続き、一向に事態が好転する気配が見えない。以下では、ウクライナのメディア情報にもとづいて、2015年のウクライナを簡単に振り返るとともに、2016年の展望を示すことにする。また、ロシアの政治学者の分析を紹介する。(服部倫卓)
デジタルITラボ
ロシアの映像コンテンツ市場
ロシア人とデジタルコンテンツ(3)
J'son & Partners Consulting社の分析によると、ロシアの有料テレビ市場規模は2014年に665億ルーブルに達しており、今後も順調な拡大を続け、2019年には930億ルーブルを超えることが予想されている。また、有料テレビの加入世帯数については、2014年に3,760万世帯となり、加入率は67%となっている。今後は加入率も上昇し、2019年には80%を超えるものと予想されている。(大渡耕三)
蹴球よもやま話
ロシア諸地域の球技ランキング
ロシアの地域事情、スポーツ事情を知る上で興味深い資料を見付けたので、紹介してみたい。「ペテルブルグ政治基金」というシンクタンクがあり、ここはロシアの地域別の政治・経済安定度をランキング形式で発表している機関なので、それを参照していたところ、思いがけず今回の資料に遭遇した。これは、ロシアの83地域の地元スポーツクラブの集団球技(サッカー、アイスホッケー等々)における活躍度をポイント化し、競技ごとの順位を示すとともに、それらを集計して総合順位を弾き出しているものである。調査の対象となっているのは、集団球技の中でもポピュラーなサッカー、アイスホッケー、バンディ(ボールを使って氷上で行うホッケー)、バスケットボール、バレーボール、ハンドボール、フットサル、ラグビー、フィールドホッケー、水球である。(服部倫卓)
シネマ見比べ隊!!
動物映画に見るロシアの世相
『こねこ』VS『ロック&ロール』
「猫愛」の伝統において、ロシアの人たちの右に出る国民はいないのではないでしょうか。エルミタージュ美術館の鼠対策として多くの猫が18世紀から飼われてきたことは有名ですが、ロシアの飲食店、果ては図書館の食堂でも、猫が堂々と客の相手(?)をしている姿を見かけます。子供が家を出た後の老夫婦の家庭ではかなりの確率で猫を飼っておりますし、モスクワには猫のサーカスでお馴染みのククラチョフ猫劇場があるほどですね。何よりも最近では、シベリアの都市バルナウルで、市長の汚職に辟易した市民が猫のバルシクさんを推薦し(非公式ですが)、なんと他の人間の候補者に大差をつけて圧勝した、という冗談のようなニュースも届きました。
猫は犬よりも賢く、人間の感情を読み取り、とにかく愛くるしい動物と思われてきたようです。一方、ロシアの富裕層の間では、血統書付きの高価な犬を飼うことがステータスとなっている傾向も見られるように思います。かつて、ロシアの犬といえば首輪もなく、野犬のように道路を走っていたものですが、近年では、リードをつけて散歩を楽しむ見事な毛並みの犬を頻繁に見かけるようになりました。プーチン大統領の愛犬家ぶりもよく知られるところです。
このたびは、ロシア人の伝統ある猫愛の有り様と、人気の高まる犬愛のトレンドを反映させたような作品『こねこ』(1996)と『ロック&ロール』(2015)とをネタバレご容赦で、見比べてみたいのです。(佐藤千登勢)
記者の「取写選択」
金日成の家
ロシア・北朝鮮国境を流れる豆満江のロシア側、ハサン駅の敷地にある小さな木造建造物が2015年11月12日早朝、全焼したとロシアの各通信社が報じた。正式名称は「ロシア朝鮮友好の家」。通称「金日成の家」と呼ばれた建物だ。出火原因は報じられなかった。(小熊宏尚)