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ロシアNIS調査月報2016年3月号特集◆ロシア・NIS諸国の |
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特集◆ロシア・NIS諸国の石油精製業 |
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調査レポート |
ロシア製油部門の変容とその背景 |
調査レポート |
対照的なウクライナとベラルーシの石油精製業 |
キーパーソンに訊く |
ロシア石油精製業の実情をどう見るか |
ミニ・レポート |
ヤロスラヴリ州・バシコルトスタン共和国と石油精製 |
自動車産業時評 |
ロシア・ウクライナでの排ガス規制強化 |
地域クローズアップ |
バランスの取れた経済構造を持つサラトフ州 |
中央アジア情報バザール |
中央アジア・コーカサスの石油精製部門 |
調査レポート |
ロシア空港連絡鉄道の迷走 |
ビジネス最前線 |
理科学機器の輸出でロシアの教育と科学に貢献 |
ビジネス最前線 |
逆境下でも光ケーブル・ワイヤハーネス事業を拡大 |
ミニ・レポート |
急成長で注目されるイルクーツク石油会社 |
研究所長随想 |
トルストイとアジアの思想家たち(2) ―死の1ヵ月前ガンディーに送った手紙― |
INSIDE RUSSIA |
世界同時株安の中のロシア市場 |
ロシア極東羅針盤 |
ハバロフスク地方の逆襲 |
モスクワ便り |
独ロ通商会議所:外国勢の中の最大勢力 |
産業・技術トレンド |
ロシアで現調できない自動車部品の品目 |
ウクライナ情報交差点 |
2015年のウクライナ天然ガス部門の実績 |
デジタルITラボ |
ロシアのコンピュータゲーム市場 |
ロジスティクス・ナビ |
港湾・鉄道物流回顧2015 |
蹴球よもやま話 |
ロシア・サッカークラブのパートナーとスポンサー |
シネマ見比べ隊!! |
理想的ヒロインの創られ方 |
業界トピックス |
2016年1月の動き |
通関統計 |
2015年1〜12月の輸出入通関実績(速報値) |
記者の「取写選択」 |
神のワカサギ釣り:隕石爆発から3年 |
ロシア製油部門の変容とその背景
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
2000年代に入りロシアの石油生産量は急激に増加し始め、2005年の生産水準は2000年の約1.5倍に達した。そして、それと比例して製油部門の原油処理量も増加し始めた。2005〜2006年ごろから石油の生産量の伸びの方は鈍化し始めたが、製油部門の原油処理量の増加テンポはむしろ加速し2005年時点で約2億700万tだったものが2014年には約2億8,900万tに達した。ただ、2015年に入ってから変化が見え始めており、同年の原油処理量は2%程度とごくわずかではあるが前年を下回った。ロシアの製油部門の原油処理量が前年の数字を下回るのは実に十数年ぶりのことであった。
また、ロシアの製油部門では2011年ごろから積極的に設備の近代化が推し進められてきたが、やはり2015年になってからその進捗状況に陰りが見え始めている。特に、ロシア最大の石油会社であるロスネフチ傘下の製油所の近代化の遅れが目立っており、そのことが原因のひとつとなり、ガソリンの新しい環境基準への移行が半年遅れることとなった。
本稿では、2015年に入り観察され始めたそれらの変化の背後にある事情に留意し、石油製品の生産及び輸出、近代化や輸入代替の動向等に注目しながら、ロシアの製油部門の現状を紹介する。
対照的なウクライナとベラルーシの石油精製業
ロシアNIS経済研究所 調査部長
服部倫卓
旧ソ連諸国のうち、西NIS諸国に属すウクライナとベラルーシは、経済発展の初期条件が似通っていると言える。社会主義時代に、主にロシアから原燃料を調達し、それを利用した加工産業を発展させ、加工品の供給地としての役割を担った。
そのことは、石油精製業にも当てはまる。ウクライナとベラルーシは独立に際して、ロシア産原油の加工を担う製油所を、ソ連から遺産として引き継いだ。両国ともに、国内で一定量の原油は産出するものの、既存の石油精製キャパシティを稼働させるためには、自国産原油だけでは不充分であり、いまや外国となったロシアからの原油輸入が欠かせない。そして、欧州に隣接するウクライナとベラルーシは、石油製品を欧州市場に販売する上で有利な地理的条件を備えている。
しかし、現実には、近年のウクライナとベラルーシの石油精製業の歩みは、好対照である。ウクライナの製油所が衰退の一途を辿り、現状ではほぼ壊滅状態にあるのに対し、ベラルーシでは石油精製業が最大の基幹産業に成長し、輸出の稼ぎ頭になっている。
以下、本稿では、図表を活用しつつ、ウクライナとベラルーシの石油精製業を比較・分析する。
キーパーソンに訊く
ロシア石油精製業の実情をどう見るか
エネルギー・金融研究所 副所長
A.ベロゴリエフ
本号では、ロシアのエネルギー・金融研究所ベロゴリエフ副所長のインタビューをお届けします。ベロゴリエフ副所長は、30代前半という若さですが、前職のエネルギー戦略研究所勤務時代から、政府のエネルギー政策策定に関わり、ロシアのエネルギー分野において今後の活躍が期待される専門家の一人です。当会が経済産業省の受託を受けて実施している事業の枠内で、本年2月1日〜5日に初めて日本を訪れました。東京および新潟でセミナーを開催し、ロシアの石油ガス分野の現状や中長期的展望についてご報告いただきました。セミナーの模様については別途、ご紹介する予定ですが、今回は訪日に先立ち、ロシアの石油精製部門の現状についてお話を伺いました。油価の低迷や欧米による経済制裁といった環境の下、国の基幹産業の1つである石油精製業がどのような状況にあるのか、統計局が発表したばかりの2015年の最新のデータを交えて興味深いお話を聞かせていただきました。さらに、今後の日本のビジネスチャンスについても、ご意見をいただきましたので、参考にしていただければと思います。(中馬瑞貴)
ミニ・レポート
ヤロスラヴリ州・バシコルトスタン共和国と石油精製
石油が豊富なロシアには石油産業が盛んな地域が数多く存在する。2011年からロシアの石油産業に関する調査に携わり、現地調査として、モスクワだけでなく、石油部門に強い地方都市をいくつか訪問してきた。ヤマロ・ネネツ自治管区(サレハルド市)、タタルスタン共和国(カザン市)、ヤロスラヴリ州、サマラ州、バシコルトスタン共和国(ウファ市)といった具合だ。このうち、ヤマロ・ネネツについては、2012年5月号、タタルスタンについては2014年2月号、サマラについては2015年2月号の月報にそれぞれの訪問記を執筆しているのでそちらをご参照いただきたい。
一方、製油所を訪問する機会を得たヤロスラヴリや最近訪問したバシコルトスタンについてはまだ十分に紹介できていない。そこで、本稿では現地調査で得た見聞を踏まえ、ヤロスラヴリ州とバシコルトスタン共和国の概況・近況と石油精製業につき報告する。(中馬瑞貴)
自動車産業時評
ロシア・ウクライナでの排ガス規制強化
ロシアでは2016年初頭より軽油の環境基準が強化されました。ガソリンに関しても2016年7月1日から強化される予定で、今後は、ロシア国内ではクラス5(ユーロ5にほぼ相当)の軽油とガソリンしか販売できなくなります。
それと歩調を合わせるような形で乗用車の排ガス規制も強化されており、2016年初頭からユーロ5に対応していない輸入車、国産車の新規登録が認められなくなりました。今回は、ロシアの排ガス規制強化をめぐる状況とそれに対する一般市民の反応などについてご紹介します。また、付随してウクライナの動きにも触れます。(坂口泉)
地域クローズアップ
バランスの取れた経済構造を持つサラトフ州
ロシアで石油生産および石油精製業が最も盛んな地域の1つである沿ヴォルガ連邦管区は石油関連以外の産業も盛んであり、経済的に最も発展した地域と呼ばれる所以になっている。そのため、外国企業の関心も高く、多くの外資が進出し、日本も例外ではない。こうした背景から、当会でも、月例報告会や『ロシアNIS調査月報』の特集として沿ヴォルガを取り上げた実績を持つ。そうした中で、沿ヴォルガ地域全体と同連邦管区に含まれる個別の構成主体に着目したが、すべてを網羅できていたわけではない。そこで本稿ではこれまで個別に取り上げられていなかった構成主体の1つ、サラトフ州に着目する。(中馬瑞貴)
中央アジア情報バザール
中央アジア・コーカサスの石油精製部門
本稿では、中央アジア・コーカサスの石油精製部門について紹介する。特にこの地域で石油が豊富なカザフスタンとアゼルバイジャンは国家経済が石油生産・輸出に大きく依存しているが、近年は国内でより高い付加価値をつけることを目指し、石油精製部門の近代化を国の重要課題の1つとしている。このように石油精製部門に関心を強めるカザフスタンとアゼルバイジャンの同部門の現状と課題に注目する。(中馬瑞貴)
ロシア空港連絡鉄道の迷走
ロシアNIS経済研究所 次長
齋藤大輔
「ウラジオストクの空港連絡鉄道がいよいよ開業する。ウラジオストク・空港間は最短42分で結ばれ、空港へのアクセスが大きく改善する」。そんな記事を書いたのは今から3年半前。まさかこんな早く撤退するとは。アエロエクスプレス社が2015年2月末、ウラジオストクでの空港連絡鉄道の運行から撤退した。撤退後は、地元政府が出資する公営鉄道会社が細々と運行する。アエロエクスプレス社はカザンとソチの空港連絡鉄道の経営からも撤退した。巨大開発の光と影。その姿は、新幹線開通に伴って並行在来線がJRから切り離されてしまう日本とどこか似ている。それはまたロシアの地方鉄道の厳しい経営実態を映し出す。そこで本稿では、ウラジオストクの空港連絡鉄道をめぐる出来事を通じて、ロシアの地方鉄道の実態についてまとめた。
ビジネス最前線
理科学機器の輸出でロシアの教育と科学に貢献
東京貿易テクノロジー
取締役 川辺常孝さん
東京貿易グループは1959年モスクワに事務所を開設。今年で57年目を迎え、産業機械、プラント、理科学機器の輸出、原料の輸入などビジネスを展開されています。今回は、東京貿易テクノロジー(株)の川辺取締役にお話しをうかがいました。川辺取締役は1986年にモスクワに駐在されて今年でちょうど30年目を迎えられます。理科学機器の輸出を中心にインタビューさせていただきました。(渡邊光太郎)
ビジネス最前線
逆境下でも光ケーブル・ワイヤハーネス事業を拡大
フジクラ モスクワ事務所
事務所長 増谷州欧さん
今回、ご紹介するフジクラは1885年に電線メーカーとして創業し、近年では電線・各種ケーブルの他、光通信製品、エレクトロニクス、自動車電装品に事業領域を拡大しています。ロシアでも合弁設立し、大手通信業者に光ケーブルを納入している他、日本企業の多くが二の足を踏むこの時期に、ロシアでワイヤハーネス工場をオープンし、さらにはウクライナに工場を開設しようとしています。今回は、そうした話題を含めて、フジクラの増谷州欧モスクワ事務所長にお話しを伺いました。(中居孝文)
ミニ・レポート
急成長で注目されるイルクーツク石油会社
欧米による対ロ経済制裁及び最近の急速な油価の下落にロシアの多くの石油企業が対処に苦しんでいる中、それでも気を吐いて存在感を高めている独立系企業として、イルクーツク石油会社(以下、INK)があげられる。日本では独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や伊藤忠商事と共同探鉱事業を行っている中堅石油企業として知られているのみであるが、ロシアでは最近、INKの急成長振りに注目が集まっている。例えば同社は、2015年に原油及びガスコンデンセートの年間生産量を前年比約38%増の561.2万tにまで増加させており、この生産量は2008年時点の約19倍に達している。
また、RBC誌が2011〜2014年までの財務データ分析に基づき2015年11月に「急成長企業50社」ランキングを公表しているが、そこで分析対象期間における売上高の平均成長率が約44%であったこと等から、INKは19位にランクインした(RBC誌はこうした事実を以って、INKを「垂直統合石油企業に属さない最大の石油企業」と評した)。ロシアの成功者がやりがちな異業種への参画などにはほとんど関心を示さず、淡々と事業拡大に努めている点が経済紙で評価されている。最近では、INKの創業者にして同社持ち株会社会長であるニコライ・ブイノフ氏がForbes誌の富豪ランキングに入ったこともあり(資産総額は約17億ドルと報じられている)、主要紙にインタビュー記事がとりあげられている。本稿では、INKの設立経緯や事業概要について説明した上で、同社の現状と展望を分析する。(長谷直哉)
研究所長随想
トルストイとアジアの思想家たち(2)
―死の1ヵ月前ガンディーに送った手紙―
1847年に19歳の青年トルストイは病気でカザンの病院にいたが、その隣のベッドに顔面をひどく傷つけられたラマ教の僧侶がいた。トルストイはその僧侶から初めて「無抵抗」の掟の啓示を受け、それを全生涯の奔流の中で30年間保ち続けることになったのである。それから63年後の1910年に、若いインド人ガンディーは臨終のトルストイの手からその聖なる光を受け取った。それまでロシアの老教徒はその光をみずからの愛で暖め、みずからの苦しみで養いつつ、抱いて育ててきたのであった。そして若いインド人はその光をもってインドを照らす炬火(たいまつの火)とした。しかもその光の反射は全世界の各地へ及んだのである(ロマン・ロラン著「トルストイの生涯」より)。(遠藤寿一)
INSIDE RUSSIA
世界同時株安の中のロシア市場
このコーナーとしては若干変り種の話題であるが、今回はロシアの株式市場の概要と近況について解説してみたい。中国発で、世界的な株安が広がる中で、果たしてロシアの株式市場は現在どうなっているのだろうか?(服部倫卓)
ロシア極東羅針盤
ハバロフスク地方の逆襲
新型特区などプーチン政権が進める新しい極東政策で、ハバロフスク地方の存在感が増している。プーチン政権のウラジオストク重視の影響で、ここ数年は一地方都市としてしか扱われてこなかった。ところが最近は、プーチン政権の極東政策の目玉の1つである新型特区をうまく活用したり、第2の都市コムソモリスクナアムーレの集中再生に中央政府のお墨付きをもらったりとプラス面が増え、再びハバロフスクに注目が集まっている。(齋藤大輔)
モスクワ便り
独ロ通商会議所:外国勢の中の最大勢力
2015年末時点で、ロシアには5,583社ものドイツ企業が登録されており、これはロシアで活動する外国勢の中でも飛びぬけて多い。ドイツのビジネス界はロシアを重要な戦略的市場とみなし、貿易相手というよりは投資先と捉えて、着々と現地生産化を進めている。ドイツ企業の中には、フォルクスワーゲンやシーメンス、ボッシュのように、ロシアにおいて複数の生産拠点を構えているところも少なくない。ロシアでこうした活動を展開するドイツ企業に対して、様々なサポートを行う独ロ通商会議所は、在ロシアの各国商工会の中でも存在感のたいへん大きい組織である。今号では独ロ通商会議所の活動についてご紹介することにしたい。(中居孝文)
産業・技術トレンド
ロシアで現調できない自動車部品の品目
ロシアにおける自動車生産は、販売台数の大幅減から苦境に陥っている。加えて、販売台数減だけでなく、ロシアで自動車の原材料・部品が現地調達できないという“伝統的問題”が、更に苦境に追い討ちをかけているようだ。ルーブル安により、輸入部品のルーブル建てコストが大幅に上昇し、この“伝統的問題”はただでさえ売上が減る中、コストも悪化させるという状況を生み出している。一方で、この問題は“伝統的問題”であるので、多くの方の努力により一部では改善が進んできた。その結果、現地調達できる品目と現地調達できない品目が混在することになり、一方で“現地調達は可能”という声が出て、一方で“現地調達は困難”という声もあり、問題が見えにくくなっていると思う。自動車部品は多種多様なものがあり、品目によって状況や問題の性質が異なる。品目を特定しなければ、なぜ現地調達ができないのかがわからないし、対策もできない。そもそも、本当に現地調達ができていないのかすらわからない。この場でも、2万点ある品目の詳細まで明らかにしていくことはできないし、精密さにも欠けるが、これまで得てきた情報から、どのような部品が調達でき、どのような部品が調達できないかの大雑把な部分を明らかにしたいと思う。(渡邊光太郎)
ウクライナ情報交差点
2015年のウクライナ天然ガス部門の実績
今回は、図表を駆使しつつ、2015年のウクライナの天然ガスにかかわる統計数字を紹介する。天然ガスの生産、輸入、消費、トランジット輸送の状況を見ていくことにする。(服部倫卓)
デジタルITラボ
ロシアのコンピュータゲーム市場
モスクワに住んでいると、バスや地下鉄の車内、銀行、病院等の公共スペースにおいて、専用プレイヤーやスマートフォン等のデバイスを使って音楽や動画を視聴する人、電子書籍を読んでいる人等を見かけることも多く、ロシア人のデジタルライフもすっかり板についてきたような印象を受ける今日この頃。今回は、暇さえあれば麻雀アプリのプレイに勤しみつつも、ここ最近のゲーム事情には全くついていけていない筆者が、ロシアのコンピュータゲーム市場について概要をまとめてみた。(大渡耕三)
ロジスティクス・ナビ
港湾・鉄道物流回顧2015
2015年のロシア経済は深刻な経済の失速が明らかになっていますが、物流分野に目を向けると景気動向にも分野により濃淡があることが分かります。公開された2015年の速報値から全体的傾向を読み解きます。(辻久子)
蹴球よもやま話
ロシア・サッカークラブのパートナーとスポンサー
従来、日系企業がロシア・サッカー界と協業することは、あまりなかったように思う。しかし、2015年には複数の日系企業がロシアの有名どころのサッカークラブとパートナー契約を結ぶという、見逃せない動きがあった。日ロ経済関係に停滞ムードが漂う中で、明るい話題と言えよう。そこで今回の本コーナーでは、2015年に成立した日系企業とロシア・サッカークラブの提携関係を、まとめておくことにする。
また、現在のところ日系企業とロシア・サッカークラブのコラボは「パートナー」という段階であるが、今後さらに踏み込んで「スポンサー」の役割を買って出る企業も、もしかしたら出てくるかもしれない。そこで、現時点でどんな企業がロシア・プレミアリーグ各クラブのゼネラルスポンサー(冠の付くメインスポンサー)になっているかも、あわせてチェックしてみることにする。(服部倫卓)
シネマ見比べ隊!!
理想的ヒロインの創られ方
『貴族の巣』VS『狩場の悲劇』
思えば、ロシア文学やロシア(ソ連)映画のヒロインたちは、それぞれの性格や運命、生き方や価値観に違いこそあれ、いずれも、いわゆる「永遠の女性」はたまた「運命の女性」として、ある時は男性にインスピレーションや愛の喜びを与え、またある時は男性を破滅に追い込むという、実に魅力的な女性ばかりです。多くのロシアの芸術作品が、そうした女性の魅力と美しさ、聖性あるいは魔性を描くために捧げられていると言っても過言ではないでしょう。昨年のこの欄(3月号)においては、ロシアの土壌にはフェミニズムの思想が育ちにくく、むしろ、異性にとってつねに魅力的であるように振る舞い、女性性を大切にする女性が多いという趣旨のことを書きましたが、同時に、男性側が女性を聖母のごとく崇め、理想化し、女性として敬意を払う傾向も、フェミニズムが浸透しなかったがためなのか、19世紀から社会主義の時代を経てもなお、そして今日に至るまでなにか国民性のようなものとして、あり続けるように思われます。このたびは、「国際婦人デー」に因み、かくも男性から崇められるロシアの理想的女性像について、ツルゲーネフ原作の映画『貴族の巣』(1969)とチェーホフ原作の『狩場の悲劇』(1978)に登場するヒロインたちについて考えてみたいのです。(佐藤千登勢)
記者の「取写選択」
神のワカサギ釣り:隕石爆発から3年
ロシア・ウラル地方の百万都市チェリャビンスクの上空で隕石が爆発し、甚大な被害をもたらしてから、この2月15日で3年になる。あの日、私は隕石を追いかけて現場に急行し、同市の西約70キロのチェバルクリ湖に翌日たどり着いた。トラックも渡れる分厚い湖面の氷を穿った直径8メートルほどの穴が、その爪痕だった。白い世界にぽかんと現れた湖水は、快晴の空を吸い込んだような濃紺。隕石を重りにして、神様がこの穴でワカサギ釣りに興じる姿を空想した。(小熊宏尚)