ロシアNIS調査月報
2016年8月号
特集◆農業とその
関連産業の動向
特集◆農業とその関連産業の動向
調査レポート
輸入代替が加速するロシアの農業分野
調査レポート
ロシア・ウクライナ・ベラルーシの肥料産業と輸出
ビジネス最前線
ロシア極東での野菜の温室栽培事業
ミニ・レポート
ロシアの農業機械の市場と産業
研究所長随想
大手商社の対ソ直接貿易50年と農業
―日ソ貿易外史(9)―
地域クローズアップ
ロシア南部の大農業地域ロストフ州
ウクライナ情報交差点
伸び悩むウクライナのEU向け農産物輸出
中央アジア情報バザール
中央アジアの農業大国カザフスタン
エネルギー産業の話題
石油ビジネスに取り組む農業企業ユーグ・ルーシ

報告
ロシアNIS貿易会平成28年度定時総会報告
イベント・レポート
ペテルブルグで日ロラウンドテーブル開催
INSIDE RUSSIA
曲がり角に来たロシアの経済特区
モスクワ便り
欧州勢が掲げるロシアビジネスの課題(2)
ロシア極東羅針盤
極東地方の特区と輸入代替
産業・技術トレンド
技術移転の成功事例、アエロコンポジット社
自動車産業時評
2016年春時点のロシアの中古車市場
ロジスティクス・ナビ
ロシアの黒海水域港湾とウクライナ・トランジット
データの迷い道
総合ランキングと格付け
駐在員のロシア語
レザノフとロック
デジタルITラボ
2015年のロシアのタブレット市場
シネマ見比べ隊!!
新生ロシアに育った子供たち
蹴球よもやま話
ロシア・ウクライナのユーロ2016反省会
業界トピックス
2016年6月の動き
通関統計
2016年1〜5月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
原爆投下とシベリア抑留


調査レポート
輸入代替が加速するロシアの農業分野

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 2014年8月にロシア政府は対ロ制裁への対抗策として欧米からの食品の輸入を禁止するという措置を打ち出したが、そのことを契機にロシアでは国産の農畜産物に対する関心が急激に強まることとなった。たとえば、国産の食肉に対する需要が高まり、成長フェーズに陰りが見え始めていた畜産分野が息を吹き返した。また、温室栽培を広範に普及させ、自給率が全般的に低い野菜の生産量を大幅に増やそうとする動きも活発化した。
 この国産の農畜産物の生産量を増加させ食品の自給率を高めようとする動き、すなわち農業分野においてできるだけ短期間で輸入代替を実現しようとする動きは、シリア国境付近で起きたトルコ軍によるロシア軍用機撃墜事件の報復措置としてロシア政府がトルコ産の野菜や鶏肉の輸入を2016年1月1日から禁止するという方針を打ち出してから、さらに加速した。トルコは、ロシアにとって農産物の主要な輸入相手国のひとつだったからだ。
 本稿では、加速する輸入代替の動きに着目しながら、ロシアの主要農産物の生産ならびに輸出入動向を紹介する。


調査レポート
ロシア・ウクライナ・ベラルーシの肥料産業と輸出

ロシアNIS経済研究所 調査部長
服部倫卓

 旧ソ連は無機肥料産業の世界的な集積地であり、その中でもロシア・ウクライナ・ベラルーシが伝統的な生産・供給地域となってきた。本稿では、ロシア・ウクライナ・ベラルーシ3国の肥料産業と輸出動向につき、図表を駆使しながら概観する。なお、筆者は2015年6月30日に開催したROTOBO月例報告会で「ロシア・ウクライナ・ベラルーシの肥料産業」と題する報告を行っており、本稿はその際の発表内容をアップデートしたものである。


ビジネス最前線
ロシア極東での野菜の温室栽培事業

日揮梶@第三事業本部
ビジネス開発部 中村博明さん

 我が国を代表するエンジニアリング会社の日揮(JGC)は、北海道銀行系のファンドおよびロシア企業と共同で現地法人「JGC Evergreen」を設立し、ロシア極東のハバロフスク市で野菜の温室栽培事業に参入しました。本年2016年4月25日には開所式を執り行い、すでに生産・出荷が始まっています。本件は、日本とロシアの経済関係の、新たな可能性を切り開く注目すべき新事業です。そこで、日揮でこのプロジェクトを担当しておられる中村博明さんに、事業の概要や今後の展開についてお答えいただきました。(坂口泉)


ミニ・レポート
ロシアの農業機械の市場と産業

 本レポートでは、現地で発表された資料にもとづきながら、ロシアの農業機械の市場と産業の概況についてお伝えする。主要品目であるトラクター、コンバインを主に取り上げる。(坂口泉)


研究所長随想
大手商社の対ソ直接貿易50年と農業
―日ソ貿易外史(9)―

 第二次世界大戦に日本が敗れ、GHQ(連合国最高司令官総司令部)が発足し(1945年9月初め)、大胆な日本占領政策を果敢に進めた。経済に関しては、企業の非軍事化と民主化を求めて、1945年9月末クレーマー経済科学局長が、三井・三菱・住友・安田の四大財閥代表を呼び、傘下企業を統括する財閥本社を解体する方針を伝えた。そして11月6日、日本政府に四大財閥の本社解体案を発表させたのである。各財閥企業は、それぞれ数十の企業に分割された。一方では連合国の中で米ソの対立が鮮明になり、いわゆる「米ソ冷戦」が始まる。(遠藤寿一)


地域クローズアップ
ロシア南部の大農業地域ロストフ州

 ロシア統計局が発表している地域別の統計資料集『ロシアの地域:社会・経済指標』(2015年版:クリミアおよびセヴァストポリ含む)によると、2014年のロシアの地域別農業生産高は、第1位がクラスノダル地方;2,865億1,900万ルーブル、第2位がロストフ州;1,913億1,600万ルーブル、第3位がベルゴロド州;1,882億1,700万ルーブルとなっている。また、地域別作付面積を見ると、第1位がアルタイ地方;547万600ha、第2位がロストフ州;436万5,600ha、第3位がオレンブルク州;424万8,300haと続く。このように豊富な農業生産と広大な農地を有するロストフ州は、産品別でも、穀物生産においてはロシア第2位を占める。(中馬瑞貴)


ウクライナ情報交差点
伸び悩むウクライナのEU向け農産物輸出

 ウクライナ農業省の発表によれば、2016年6月に終了した2015/16穀物年度に、ウクライナは3,940万tの穀物を輸出し、これは前年度を13%上回る記録的水準だったという。
 このように、農産物輸出は現下ウクライナ経済を支える重要部門となっている。しかし、同国が統合を遂げようとしているパートナーの欧州連合(EU)への輸出は、思うように伸びていない。2015年のウクライナのEU向け農産物・食料品(第1〜24類)輸出は40億4,906万ドルで、前年比15.0%減だった。なお、ウクライナの農産物・食料品輸出に占めるEU向けの比率は、2014年:28.6%、2015年:27.8%となっている。他方、現時点でEU向けの小麦輸出国としては、ウクライナがトップに立っている。
 以下では、ウクライナ産農産物・食料品のEUへの輸出が伸び悩んでいる問題を、EU側の関税割当に焦点をあてて考察する。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
中央アジアの農業大国カザフスタン

 中央アジアで農業というと、綿花の栽培で有名なウズベキスタンを思い浮かべるのではないだろうか。しかし、実はカザフスタンも伝統的な農業大国である。広大な面積を誇るカザフスタンでは南北で気候や風土が異なるため農業も多様性に富む。北部のステップ地帯で小麦、大麦、カラス麦などの穀物を中心とした農作物の栽培と牛や馬の飼育を中心とする畜産業が展開され、南部では比較的温暖な気候を利用してヒマワリの種、野菜や果物など多岐にわたる農作物の栽培が盛んに行われている。
 伝統的な農業国であるが、1990年代はソ連崩壊のダメージを受けて農業生産は不安定化し、1990年代後半から2000年以降の経済発展の時期も鉱工業分野の発展が重視され、作付面積は縮小を続けた。しかし最近は、資源に依存しない経済、産業多角化を目指すカザフスタン政府にとって、国家の経済政策の重要かつ優先分野の1つとして注目されている。
 そこで本稿では、最新の統計データを踏まえてカザフスタンの農業の現状や農業発展に向けた国家政策について紹介する。(中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
石油ビジネスに取り組む農業企業ユーグ・ルーシ

 ロシア南部のロストフ州を拠点とするユーグ・ルーシはロシア有数の農業企業グループとして知られていますが、2009年に拠点であるロストフ州にグリーンフィールド方式でノヴォシャフチンスキーという製油所を完成させ、さらに2015年にはハンティ・マンシ自治管区の石油鉱床の開発ライセンスも獲得しました。一時同社は製油所の売却を検討していたようですが、再び、石油ビジネスに本格的に取り組むことを決断したと考えてよいでしょう。以上の状況を踏まえ、今回は、ユーグ・ルーシという企業の概要と、同社の石油ビジネスの現状をご紹介することとします。(坂口泉)


ロシアNIS貿易会平成28年度定時総会報告

 一般社団法人ロシアNIS貿易会は東京の如水会館にて、6月8日に平成28年度定時総会を開催いたしました。定時総会では「平成27年度事業報告」、「公益目的支出計画実施報告書」の報告、第1号議案「平成27年度計算書類等」、第2号議案「役員選任の件」の承認がなされました。
 以下では定時総会において報告された平成27年度事業報告の内容を掲載するとともに、定時総会における来賓の赤石浩一経済産業省大臣官房審議官(通商政策局担当)のご挨拶、また村山会長の挨拶を掲載いたします。


イベント・レポート
ペテルブルグで日ロラウンドテーブル開催

 2016年6月16日〜20日、サンクトペテルブルグで毎年恒例のペテルブルグ国際経済フォーラム(SPIEF)が開催された。SPIEFは毎年ロシア大統領が出席する政府主催のビジネスフォーラムで、ロシア最大のビジネスの祭典である。第20回の記念となる今年のフォーラムには、133カ国から1万2,000人強の参加者が集まった。今回は、対ロ経済制裁を続ける欧州からEUのユンケル欧州委員会委員長とイタリアのレンツィ首相が出席したことで、その発言や動向が内外の耳目を集めた。
 今回のSPIEFにおいては全体で87の会合が行われたが、うち11が二国間・地域間セッションで、日本をはじめイタリア、インド、ドイツ、中国、英国等がラウンドテーブルを開催した。SPIEFで日本がラウンドテーブルを開催するのは昨年に続き2度目のことである。本コーナーでは、6月16日に行われたビジネスラウンドテーブル「日本とロシア:新たなビジネスモデルの創造と展開」の概要をご紹介したい。(中居孝文)


INSIDE RUSSIA
曲がり角に来たロシアの経済特区

 ロシアでは2005年制定の連邦法にもとづいて経済特区の整備が進められてた。しかし、10年を経過しても、思うような成果が挙がっていないとして、ここに来て風当たりが強まっている。(服部倫卓)


モスクワ便り
欧州勢が掲げるロシアビジネスの課題(2)

  2016年6月24日、英国でEUからの離脱を問う国民投票が行われ、過半数の英国民が離脱を支持し、世界中に激震が走った。英国のEU離脱が、ロシアと欧州の関係に今後どのような影響を与えるのか、たいへん注目すべきところである。
 さて、今回は前号に引き続き、欧州ビジネス協会(AEB)が発表した2015/16年版の「ポジション・ペーパー」の要旨を紹介する。今回は、家電製品と医療・製薬、小売業を取り上げることにしたい。(中居孝文)


ロシア極東羅針盤
極東地方の特区と輸入代替

 新型特区(先進社会経済発展区)の構想発表から約3年が経とうとしている。もはやロシア極東の特区政策は珍しい存在ではなくなった。2016年7月1日現在、特区は12ヵ所、入居企業は60件を超え、さらに増える。約1年遅れでスタートしたウラジオストク自由港も、中小企業を中心に入居者は40社を超え、地域経済活性化の起爆剤として期待が高まっている。(齋藤大輔)


産業・技術トレンド
技術移転の成功事例、アエロコンポジット社

 ロシアでは技術移転による国内産業の育成がテーマとなっている。しかし、技術移転の要望の中には実際に進みそうのないものも多いのではないだろうか。今回は、要素技術がしっかりと移転された成功例としてアエロコンポジット社による複合材成型技術をとりあげ、ロシアにおける実効性のある技術移転の可能性について紹介する。アエロコンポジット社の技術移転がビジネス面も含めてありとあらゆる意味で成功であったと断定するには時期尚早かもしれないが、ロシア国外でも業界関係者から高く評価される技術を取得し、調達から販売に至るまでの流れが実際にできているこの事例は、いかにもうまくいきそうもない案件とは明らかに別世界のものである。(渡邊光太郎)


自動車産業時評
2016年春時点のロシアの中古車市場

 ロシアの新車市場では停滞傾向が続いており、2016年1〜5月期の販売台数(小型商用車を含む)は、前年同期比14.7%減の54万8,119台にとどまりました。一方、中古車市場の方はといえば、昨年こそ不振で市場規模が20%程度縮小しましたが、2016年に入り順調な回復ぶりを示しています。この状況を踏まえ、今回は、ロシアの調査会社「Autostat」のデータを参考として、2016年春(3〜5月)時点でのロシアの中古車市場の状況をできるだけ詳細にご紹介することとします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
ロシアの黒海水域港湾とウクライナ・トランジット

 アゾフ・黒海水域はロシアの5つ水域の中でも成長著しく、2015年はバルト海水域を抜いてトップに立ちました。ウクライナをめぐる国際情勢からの影響を余儀なくされてきた同水域港湾の現状を、港湾統計を用いて読み解きます。(辻久子)


データの迷い道
総合ランキングと格付け

 今回は、主観的要素も含め、様々な要素が関係する総合ランキングをテーマとし、世界銀行が発表している「ビジネスの容易さランキング」(Ease of doing business ranking)、そして「格付け」を取り上げる。(高橋浩)


駐在員のロシア語
レザノフとロック

 モスクワ駐在はロシアの文化に触れる大きなチャンスだ。ロシア語を知らない観光客がバレエやオペラを鑑賞するのもロシア文化に親しむことだが、ロシア語で仕事をこなし、生活するのであれば、たまには演劇にも親しんではどうであろう。(新井滋)


デジタルITラボ
2015年のロシアのタブレット市場

 J'son & Partners Consulting社によると、2015年のロシアのタブレット市場は、国内経済の停滞等の要因により縮小傾向にある。国内での販売台数をみると、2014年に930万台であったのが、2015年には620万台と、33%減となった。世界市場におけるタブレットの販売台数を見ると、前年比10%減と、同じく減少が見られるが、ロシア市場における動向ほど著しいものではない。(大渡耕三)


シネマ見比べ隊!!
新生ロシアに育った子供たち
『夏の終止符』VS『ソード・ハンド』

 今年8月19日、あのソ連8月クーデターから四半世紀が経とうとしています。ということは、ソ連を知らずに新生ロシアの混迷期に育った子供たちも今や25歳以上となり、社会を担う大人に成長しているということで驚きを禁じ得ません(当時の書記長ゴルバチョフが健在であることにも驚嘆しますが)。このたびは、そんな感慨にふけりながら現代ロシアの若者像を描いた2つの作品をご紹介しましょう。(佐藤千登勢)


蹴球よもやま話
ロシア・ウクライナのユーロ2016反省会

 6月10日から7月10日にかけて開催されたサッカーの欧州選手権、ユーロ2016フランス大会。ロシア・NIS諸国からは、ロシアとウクライナが本大会に出場した。しかし、両国の成績は、まったく期待外れに終わった。というわけで、今回は両国のユーロ反省会である。(服部倫卓)


記者の「取写選択」
原爆投下とシベリア抑留

 「アメリカの大統領は(広島で)日本国民に謝罪しなかった。当時の政治家と軍人は恐ろしい戦争犯罪に責任があるのに。この態度には驚かされる」
 今年6月17日、東京・帝国ホテル。ロシアのナルイシキン下院議長=写真=は日本とロシアの十数人の記者の前で、米国の原爆投下とオバマ大統領の広島訪問を批判した。記者側からオバマ氏の訪問にコメントを求めたわけではない。問わず語りだった。(小熊宏尚)