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ロシアNIS調査月報2016年12月号特集◆自動車市場はいかに |
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特集◆自動車市場はいかに苦境を乗り切るか |
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調査レポート |
底が見えぬロシア乗用車市場 ―長期化する景気低迷と中古車市場の台頭― |
調査レポート |
ロシア自動車部品メーカーは生き残れるか ―ウリヤノフスクで見た実態― |
調査レポート |
経済統合と通貨安が促すロシアの自動車輸出 |
ビジネス最前線 |
総合商社が進める多角的なロシアビジネス |
地域クローズアップ |
自動車都市サンクトペテルブルグの今昔 |
ウクライナ情報交差点 |
東西の狭間のウクライナ自動車市場 |
特別寄稿 |
具体化する日ロ協力の安倍プラン |
調査レポート |
最新のロシアの政治動向 ―選挙結果と内政の変化― |
調査レポート |
ロシアにおける腐敗防止規制の現況 |
研究所長随想 |
チェーホフとロシアの風景画家レヴィタン ―日ソ貿易外史(11)― |
モスクワ便り |
欧州勢が掲げるロシアビジネスの課題(5) |
エネルギー産業の話題 |
バシネフチの民営化をめぐって |
ロジスティクス・ナビ |
大陸横断コンテナ列車の動向 |
中央アジア情報バザール |
強権化か安定化か? 中央アジア・コーカサス |
データの迷い道 |
ロシアの食肉事情 |
駐在員のロシア語 |
デビットとクレジット |
デジタルITラボ |
ロシア人のアニメ事情 |
シネマ見比べ隊!! |
ロシア・パニック映画の理念 |
業界トピックス |
2016年10月の動き |
通関統計 |
2016年1〜9月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
日ソの「忘れられた戦争」 |
調査レポート
底が見えぬロシア乗用車市場
―長期化する景気低迷と中古車市場の台頭―
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
急激な石油の増産と高い油価水準に支えられロシアの新車販売台数は、2000年代半ばごろから右肩上がりの曲線を描き始め2012年には294万台(小型商用車を含む数字)という過去最高の水準に達したが、2013年からは一転して下降線をたどるようになっている。しかも、不振の度合いは年々深刻となっており、油価の低迷とルーブル安という強烈な嵐が吹き荒れた2015年の販売台数は前年を35.7%も下回る160万台にとどまった(小型商用車を含んだ数字)。市場関係者の底打ち期待もむなしく2016年に入ってからも販売の不振は続いており、1〜9月期の販売台数は前年同期比14.4%減の102万台にとどまった。
本稿では、底の見えない販売不振の中での各メーカーの対応振りや、新車市場にとっての脅威となりつつある中古車市場の動向に着目しながら、2016年秋時点のロシア乗用車市場の状況を紹介する。
調査レポート
ロシア自動車部品メーカーは生き残れるか
―ウリヤノフスクで見た実態―
ロシアNIS経済研究所 研究員
渡邊光太郎
ウリヤノフスク州はロシア系完成車メーカーUAZの本拠地があり、ロシア最大の自動車生産地であるサマラ州に隣接することから、自動車部品の製造が盛んな地域である。10月にビジネスミッションでウリヤノフスク州を訪問して、複数のロシア系自動車部品メーカーの現場を見る機会があった。訪問結果をもとに、ロシア系部品メーカーの置かれた状況と各部品メーカーの動きについて報告する。
調査レポート
経済統合と通貨安が促すロシアの自動車輸出
ロシアNIS経済研究所 調査部長
服部倫卓
2000年代から世界の主要乗用車メーカーが相次いでロシアでの現地生産に乗り出したが、外国メーカーはロシア国内市場への供給に特化し、生産コストの高いロシア工場から外国への輸出はほぼ想定外だった。しかし、ベラルーシおよびカザフスタンとの関税同盟(現ユーラシア経済連合)が成立したことで、両国向けの自動車輸出の道が開かれた。さらに、昨今では通貨ルーブルの下落により、ロシアと諸外国のコストが逆転し、ロシアからCIS域外への自動車輸出の動きも広がっている。本稿では、乗用車を中心にこうしたトレンドを解説し、輸出データや企業ごとの動きを整理してお伝えする。付随して、ロシアのタイヤ輸出、ベラルーシの自動車生産・貿易にも簡単に触れる。
ビジネス最前線
総合商社が進める多角的なロシアビジネス
双日梶@自動車本部担当部長
金子雅昭さん
双日はロシア・CIS地域でプラント、自動車、石炭、化学品、金属、木材等、幅広い分野でバランスの取れたビジネスを展開しています。今回は1988年から現在に至るまでロシアビジネスの最前線で活躍される金子担当部長に、これまで手がけていらっしゃった自動車事業を含めて双日がロシア・CIS地域で展開しているビジネスの状況、現場でビジネスに携わりどのようにお感じになっているかについてお話しをうかがいました。
2016年4月まで双日ロシア法人社長をされ、今年の5月からは日本からロシアでの自動車分野の新規ビジネスの開拓に従事されています。(渡邊光太郎)
地域クローズアップ
自動車都市サンクトペテルブルグの今昔
モスクワに次ぐロシア第2の都市サンクトペテルブルグ。「聖ペトロ(=ピョートル)の町」と名付けられたのはこの地を首都にすることを命じたロマノフ王朝のピョートル大帝に由来する。
今年は、ソ連が崩壊して25年という区切りの年として注目されているが、来年、2017年は1917年のロシア革命によるロマノフ王朝終焉から100年目という年を迎える。ロマノフ王朝時代に首都として大きく発展したサンクトペテルブルグが首都の座をモスクワに譲ってから約100年ということになる(実際に首都機能の移転が完了したのは1918年)。ロシア帝国の首都であったサンクトペテルブルグはこの100年間でどのような変化を遂げたのだろうか。
また、一方で首都として繁栄した遺産を今なお、残している部分も忘れてはならない。サンクトペテルブルグといえば、今なお歴史的建造物が数多く残り、近代化が著しいモスクワとは異なるロシアを目にすることができるということもあり、国内はもちろんのこと、ロシアを訪れる外国人にとっても人気の高い観光地である。
そこで、本稿ではサンクトペテルブルグの今と昔にスポットを当ててご紹介を試みることにしたい。
(中馬瑞貴)
ウクライナ情報交差点
東西の狭間のウクライナ自動車市場
経済の低迷が続くウクライナは、乗用車の生産拠点、新車の販売市場としては、壊滅状態にある。ウクライナが最重要視しているEUとの連合協定およびFTAも、現在までのところこの分野に肯定的な効果を及ぼしていない。ただし、視野を自動車産業の裾野にまで広げると、すでに西ウクライナにワイヤーハーネスを生産する外資系工場が複数立地しており、EU市場向けの輸出で実績を挙げている。(服部倫卓)
特別寄稿
具体化する日ロ協力の安倍プラン
ロシア連邦極東発展省大臣
A.ガルシカ
12月のプーチン大統領訪日を前に、ロシアのガルシカ極東発展大臣が本誌に「具体化する日ロ協力の安倍プラン」を寄稿しました。 本誌前月号の拙稿「ロシア極東政策の新展開」で、極東発展省が進める先進社会経済発展区や自由港など投資誘致政策を詳しく取り上げたところ、それを読んだガルシカ大臣から次号に寄稿したいとの希望を受け、今回の掲載となりました。(齋藤大輔)
調査レポート
最新のロシアの政治動向
―選挙結果と内政の変化―
ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴
ロシアでは9月18日に下院選挙が行われた。プーチン大統領の政策を全面的に支持し、メドヴェージェフ首相が党首を務める「統一ロシア」が、比例区で54.20%の第1位、小選挙区でも225選挙区中203選挙区で勝利を収め。343議席を獲得した。「統一ロシア」は憲法改正に必要な3分の2以上の議席を得たことになり、予想以上の大勝利となった。
また、下院選挙と同時に9連邦構成主体で首長選挙、39構成主体で地方議会選挙も行われた。下院選挙と同時開催ということで、例年に比べるとあまり大きく取り上げられていないが、首長選挙に対する無関心の理由は他にもあるようだ。また、地方議会選挙は下院選挙のように「統一ロシア」の大勝利とはならなかった地域も多くみられることは非常に興味深い。
最近のロシアは経済や国際情勢という文脈で注目されることが多いが、2018年3月に連邦大統領選挙が予定されているロシアにとって、今回の選挙結果はその前哨戦ともいえ、内政動向はかなり重要になっている。国内政治の要となる大統領府の人事異動、クリミア連邦管区の廃止、地方における選挙外での人事異動など、明らかに慌ただしい動きがみられる。そこで、本稿ではロシアの最新の政治動向をお伝えする。
調査レポート
ロシアにおける腐敗防止規制の現況
太陽コスモ法律事務所 弁護士
村上康聡
ロシアはかねてより腐敗度の高い国と指摘されており、Transparency International(TI)が実施している世界各国の公共部門における腐敗認識指数によると、ロシアは、2013年は177ヵ国中127位、2014年は175ヵ国中136位、2015年は167ヵ国中119位である。
そこで、ロシアでは、近年、刑法や行政罰法を改正して処罰・制裁内容を強化するとともに、2013年1月に腐敗防止法(ロシア連邦法No.273-FZ)を改正し、法人等の団体に対し腐敗防止のためのコンプライアンスを法的義務として課すに至った(同法13.3条)。法的義務として課している国はロシア以外にはなく、その内容は厳しいものとなっている。
本稿は、ロシアにおける腐敗防止規制の最新情報を紹介するものである。
研究所長随想
チェーホフとロシアの風景画家レヴィタン
―日ソ貿易外史(11)―
今から半世紀も前の1960年代、私はモスクワに駐在し日ソ貿易発展のため奮闘していた。
日ソ貿易で財閥系商社は、米ソ冷戦の影響を受けて取引には直接関与せず、ダミー商社を窓口に取引を続けてきた。商業活動は当局から認められていなかったので、市内のホテルに長期出張者として滞在し、事務所の看板は出せなかった。
ソ連の絵画に興味をもつようになったのは、事務所がホテルにあった1960年代初期の頃である。いつも行くレストランの横に小さな本屋があり、画集がいつもきれいに整頓されて並んでいた。初老のインテリ風の女性がいつもは座っているが、話しかけると立ち上がって画集について語りだすのが常であった。話し出すと次第に熱を帯び、逃げ出すタイミングを見出すことが難しかった。ここにはロシアの風景画家の画集が、いつも揃っていた。(遠藤寿一)
モスクワ便り
欧州勢が掲げるロシアビジネスの課題(5)
ロシアにおいて外国人が仕事をするには、当然ながら政府当局から各種の就労許可や居住許可を取得しなければならない。これらの許可に関わる内容や取得に伴う手順は、ロシアで活動する外国企業にとって必ず把握しておかなければならない基本中の基本である。
ロシアにおける一連のビジネス環境改善の取り組みの中で、HQSの導入を中心に就労許可制度も簡素化が進んでいる。だが、依然として、些細なミスで労働許可が取れなかったり、理由不明のまま雇用クォータが減らされたり、取り消されたりするケースが少なくないのも事実である。
今回は、欧州ビジネス協会(AEB)が発表した2015/16年版の「ポジション・ペーパー」の中から、就労手続きの問題に従事する就労委員会の報告を読み解き、その課題を紹介することにしたい。(中居孝文)
エネルギー産業の話題
バシネフチの民営化をめぐって
財政赤字に苦しむロシア政府は、中堅の国営石油会社であるバシネフチの民営化を2016年中に実施することを発表していましたが、この民営化は紆余曲折を経て、結局、国営企業であるロスネフチが、国営企業であるバシネフチを買収するという奇妙な形で決着することになりました。実はバシネフチの民営化はこれが2度目なのですが、本稿では、最初のやはり不可解な点の多い民営化の経緯をまず説明した後に、今回の民営化の経緯を説明することとします。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
大陸横断コンテナ列車の動向
2016年に入り若干明るい兆しが見えてきたTSR(シベリア・ランドブリッジ)、および驚異の急成長を続けるTCR(チャイナ・ランドブリッジ)の現状を各種データ使って解説します。(辻久子)
中央アジア情報バザール
強権化か安定化か? 中央アジア・コーカサス
2016年9月2日、ウズベキスタンの初代大統領イスラム・カリモフが亡くなった。権威主義体制が色濃い中央アジア・コーカサスの中でも群を抜いてその色合いが強かった国と言われてきた一方で、経済・社会情勢に不安定要因を多く抱えるウズベキスタンで25年間もその安定を維持した「偉大な独裁者」としてカリモフを称える声もある。カリモフ大統領の功績、ウズベキスタンの今後の展望については、到底、連載で扱える量ではないので、別途、レポートにまとめたものを参考にしていただきたい。
ウズベキスタンだけでなく、昨今、中央アジア・コーカサスでは、政治の動きが著しい。特に5月にタジキスタン、9月にトルクメニスタンとアゼルバイジャンで憲法改正が行われ、各国で現職大統領の権限が強化されている。一方、中央アジアで唯一、議院内閣制を採用するキルギスでも、憲法改正が予定されているが、こちらは大統領ではなく首相の権限をさらに強化しようという動きだ。
そこで、本稿では、変化の兆しが見られる中央アジアの政治情勢について整理することにしたい。
(中馬瑞貴)
データの迷い道
ロシアの食肉事情
今回は、ロシア人の食生活、特に食肉事情の話である。ロシアというと、肉、特に牛肉が固いという印象であったが、JALの機内食でロシア産が使われるほどに柔らかな牛肉が生産されるなど、様変わりである。(高橋浩)
駐在員のロシア語
デビットとクレジット
デビットとクレジット、これらの対をなす言葉について、その使い方別にロシア語の表現を整理してみたい。(新井滋)
デジタルITラボ
ロシア人のアニメ事情
早いもので2016年も残りわずかとなった今日この頃。年末年始は家族揃ってアニメを観るという方も多いだろう。デジタルITというテーマからは若干逸れてしまうかもしれないが、今回はロシア人とアニメとの関わりについて簡単にご紹介したい。(大渡耕三)
シネマ見比べ隊!!
ロシア・パニック映画の理念
『デッド・オア・ウェイブ』VS『メトロ42』
映画作品には「パニック映画」というジャンルがありますね。自然災害や大惨事に遭遇した人々が生死をわけるその危機にいかに立ち向かっていくかを描くジャンルです。極限状態におかれた人間の行動にこそ、その人の本質も浮き彫りとなり、示唆的な要素も含むものです。人類滅亡をはじめ、私たち人間の心に潜む、日常を脅かされる不安を描出したものと捉えられますが、ここ20年間ほどのパニック映画やディザスター・ムービーは、CGの進化に伴い、興行収入を見込んだ派手な映像やスリルを楽しむエンターテインメント性に重きが移り、危機感や不安を煽る傾向は薄らいでいるような気がします。そんななか、ロシアのパニック映画はどうでしょう。2000年以降ロシアでも、潜水艦事故、テロ、新興財閥による陰謀、生物兵器、地下鉄事故など、実際に起きた惨事や想定内の事故をテーマにパニック映画が次々と創られるようになりました。
このたびは、日本やアメリカのパニックものとは一味違うロシアン・パニックものを2作品、見比べながらご紹介しましょう。(佐藤千登勢)
記者の「取写選択」
日ソの「忘れられた戦争」
白布で包まれた木箱が、民家にしずしずと運ばれてきた。「井戸井重市様のご遺骨でございます。どうぞお受け取りください」。「陸軍伍長」の肩書を冠した氏名が書かれた箱を受け取った5人のお年寄りは「ありがとうございます」と絞り出すように声を発し、深々と頭を下げた。
古い映画のような光景だが、今年9月1日の北海道小樽市での出来事だ。遺骨はロシア・カムチャツカ半島に近い千島列島の最北東端、占守(シュムシュ)島で23歳で戦死した上智大の学徒兵。5人は彼の弟と妹たちである。(小熊宏尚)