ロシアNIS調査月報
2017年2月号
特集◆プーチン大統領訪日後の
日ロ経済関係
特集◆プーチン大統領訪日後の日ロ経済関係
イベント・レポート
「日露ビジネス対話」開催報告
調査レポート
輸入代替とルーブル安に揺れるロシアの医薬品市場
ビジネス最前線
産業インフラ整備を通じ国の発展に貢献したい
講演録
2016年のロシア経済の総括
INSIDE RUSSIA
ロシア対外政策コンセプトに見る東方シフト
連載レポート
ロシアにおける税務紛争の概要(1)
モスクワ便り
対日ロビイストの思考
ロシア極東羅針盤
中ロ国境を越える
地域クローズアップ
新しい日ロ経済協力拠点ヴォロネジ州
産業・技術トレンド
ロシアの鉄道車両メーカー「ウラル機関車」社
エネルギー産業の話題
協調減産に対するロシア石油会社の対応
自動車産業時評
ロシア・オートバイ市場の復活
ロジスティクス・ナビ
シベリア・ランドブリッジの利用促進へ向けて
データの迷い道
ロシアの社会は安全?
デジタルITラボ
ロシアのデジタル経済の発展
蹴球よもやま話
アイスホッケーを日ロのスポーツ架け橋に

研究所長随想
ソ連邦解体の前夜(2) ―日ソ貿易外史(13)―
ウクライナ情報交差点
2016年のウクライナを振り返る
中央アジア情報バザール
観光立国を目指す中央アジアの世界遺産
駐在員のロシア語
営業会議
シネマ見比べ隊!!
女性狙撃兵という生き方
業界トピックス
2016年12月の動き
通関統計
2016年1〜11月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
21世紀のスターリングラード


イベント・レポート
「日露ビジネス対話」開催報告

 プーチン・ロシア連邦大統領の訪日を機に、12月16日(金)、東京のホテル・ニューオータニ及び経団連会館において「日露ビジネス対話」が開催された。本ビジネス対話は、日本側では日本経済団体連合会、ロシアNIS貿易会、ロシア側では露日ビジネスカウンシル、ロシア産業家企業家連盟、実業ロシアの双方合わせて5団体が協力し、共催したものである。
 日露ビジネス対話は、分科会と全体会合の2部構成となり、前半はホテル・ニューオータニにおいて、2016年5月に安倍総理がプーチン大統領に提案した「8項目の協力プラン」のテーマに沿った8つの分科会が実施された。これら分科会には、日本側579名、ロシア側283名の合計832名が参加した(メディア関係者を含む)。
 また夕方より経団連会館にて行われた全体会合には、安倍晋三内閣総理大臣とプーチン大統領が参加し、スピーチを行ったほか、日ロ双方の実業界の代表によるパネルディスカッションが開催された。全体会合には、日本側から150名、ロシア側から200名、計350名が出席した。
 本稿では、全体会合における安倍総理大臣とプーチン大統領のスピーチ全文を掲載するとともに、パネルディスカッション及び8つの分科会の発言要旨を紹介する。
 なお、今回のプーチン大統領の日本滞在中、政府・民間合わせて80件の合意文書(政府関係12件、民間関係68件)が交わされたが、そのうち民間関係の20数件は日露ビジネス対話の会場内で署名式が行われた。本稿末尾には、今回の訪日中に調印された80件(プレスリリースを含めれば82件)の合意文書のリストを掲載している。それぞれの合意文書の内容に関しては、今号巻末の「業界トピックス」をご参照願いたい。 (中居孝文・長谷直哉・齋藤大輔)


調査レポート
輸入代替とルーブル安に揺れるロシアの医薬品市場

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 医療分野は日ロ経済協力8項目の中に含まれているが、プーチン大統領の訪日の際の12月16日に実施されたビジネス対話の分科会でも活発な意見交換が行われ、同分野に対する双方の関心の高さが証明される格好となった。そこで本稿では、医療分野の中でも特に注目される医薬品をテーマとして取り上げ、ロシア市場の現状をご紹介する。より具体的にいえば、輸入代替促進とルーブル安を背景とするビジネス環境の変化が及ぼす影響に着目しながら、ロシアの医薬品市場の現状、ロシアに進出している主要な医薬品メーカーの最新の動向、ロシア政府の政策等をご紹介する。


ビジネス最前線
産業インフラ整備を通じ国の発展に貢献したい

MHI RUSSIA LLC 社長
奥村幸彦さん

 その幅広い技術や製品群から「機械のデパート」と呼ばれている三菱重工業は、ソ連・ロシアとの商売でも長い歴史をもっています。ソ連時代から続くロシアの工場を訪問すると、30〜40年前に納入された三菱重工製の設備を見かけることも稀ではありません。本稿にあるように、ソ連解体後、ロシア・旧ソ連諸国において同社は化学プラントやガスタービンを中心に事業を展開しており、今回は、そのあたりの事情を含めて、同社のロシア・旧ソ連ビジネスについて、MHI RUSSIA LLCの奥村幸彦社長にお話をお聞きしました。(中居孝文)


講演録
2016年のロシア経済の総括

ロシアNIS経済研究所
嘱託研究員 坂口泉
次長 齋藤大輔

 ロシアNIS貿易会では2016年12月19日に当会会議室において、「2016年のロシア経済の総括」と題する会員企業向けの報告会を開催いたしました。坂口泉(ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員)「ロシア石油ガス産業の最新動向 ―ロスネフチ・生産調整等をめぐって」、齋藤大輔(ロシアNIS経済研究所 次長)「ロシア極東開発の道筋はついたか?」という2本の報告が披露されました。以下ではその講演要旨をお届けいたします。


INSIDE RUSSIA
ロシア対外政策コンセプトに見る東方シフト

 プーチン・ロシア大統領が2016年11月30日付で署名した大統領令により、「ロシア連邦の対外政策コンセプト」という政策文書が採択された。現時点でのロシアの公式的な対外政策路線が、ここに表明されていると理解していいだろう。この文書の中から、ロシアのアジア・太平洋外交にかかわる部分を、抜粋してみる。(服部倫卓)


連載レポート
ロシアにおける税務紛争の概要(1)

 ロシアでは5年ほど前までは、税務調査は1年ほどに1回入る、ロシア税務当局の主張には根拠がないことが多いが税務当局内の審理において主張が改められることはない、しかし、裁判で争えば納税者が勝つ確率が高いと言われていた。しかし、近時、税務当局の徴税方針の転換や関連制度の変更により、税務紛争の様相が変わってきている。これに伴い、税務調査の対象にならないようにすること、裁判に行く前に紛争を終了させることが重要となってきており、また、可能となってきている。日本人マネジメントには、税務当局の方針、税務紛争の傾向や概要を理解し、担当従業員や外部専門家に適切な時点で適切な指示を出すことが求められている。
 本連載では3回にわたり、ロシア企業とロシア税務当局の税務紛争を取り上げる(一般個人、連結納税グループや投資上特別な地位を与えられる企業については割愛する)。第1回の本稿では、税務紛争の全体の流れや傾向、税務当局の徴税方針を、第2回では、税務紛争の発端となる税務調査、また、税務調査結果に同意できない場合の手続を概説する。最終の第3回のテーマは、税務訴訟を予定している。本連載において引用条文に法令名がない場合、2017年1月1日現在の1998年7月31日付連邦法第146-Ф3号ロシア連邦税法典第1部または2000年8月5日付連邦法第117-Ф3号ロシア連邦税法典第2部(以下、どちらも「税法」とする)である。 (松嶋希会)


モスクワ便り
対日ロビイストの思考

 2016年5月の安倍総理のソチ訪問を皮切りに、9月のウラジオストクでの東方経済フォーラム、11月のリマにおけるAPECでの日ロ首脳会談を経て、12月15日〜16日にはプーチン大統領の訪日がついに実現した。その意味で2016年は日ロ関係の歴史上でも特記すべき年となったと言えるだろう。その間、「8項目の協力プラン」を中心に日ロ間の共同プロジェクトを取りまとめるべく、奔走したのが露日ビジネスカウンシル議長かつ実業ロシア会長のアレクセイ・レピク氏である。そこで今回は、今や日ロ関係のキーマンと呼ばれるようになったレピク氏の日ロ関係や対日ビジネスについての考え方を報道や各種会議での発言を基に整理してみたい。(中居孝文)


ロシア極東羅針盤
中ロ国境を越える

 ウラジオストクから車を飛ばすこと3時間。中国との国境の街・ポグラニチヌィ町に着いた。時刻は午前11時。ここから中国黒竜江省の綏芬河に向かう。駅にいくと、1日2本走っていたはずの綏芬河行きの旅客列車が1本しか走っていないことが判明。しかも出発時間は夕方ときた。5時間近く待機しなければならない。今回はバスを選んだ。やはり現地に来ないとわからない。(齋藤大輔)


地域クローズアップ
新しい日ロ経済協力拠点ヴォロネジ州

 2016年12月のプーチン大統領訪日に際して開催された「日露ビジネス対話」の全体会合の冒頭で挨拶した安倍総理の発言の中に「ヴォロネジ」という地名が登場した。日本とロシアの経済協力の可能性という文脈の中で総理は、「ウラジオストクとヴォロネジをモデル都市として、活気溢れる生活環境と地域経済を支える都市づくりに協力していきます」と説明した。
 それにしても、ウラジオストクはまだしも、ヴォロネジという地名を知らない人は日本には多いだろう。日ロの経済協力のためのモデル地域として、なぜヴォロネジが選ばれたのだろうか。そもそも、ヴォロネジとはどのような地域なのだろうか。本稿では、日ロの経済協力の一環として新たに注目される可能性の高いヴォロネジ州を紹介する。(中馬瑞貴)


産業・技術トレンド
ロシアの鉄道車両メーカー「ウラル機関車」社

 日本の都市部は鉄道網に覆われ、スピードと輸送密度と安全性をバランスよく兼ね備えた新幹線が走る。日本は鉄道大国であると認識されている方も多いと思う。それはそれで間違いではないのだが、車両の生産数だけを取り出すと実はロシアの方が圧倒的に多く、ロシアは貨車も含めると台数では日本の20倍近い鉄道車両を製造している。これは、ロシアでは貨車の生産が非常に多いことを反映しているが、多くの工業分野でロシアでの産業規模が小さい中、ロシアの鉄道車両の製造は日本以上の産業規模を持つ。大規模な生産が行なわれていることそのものが、それに付随する様々な需要を発生させビジネスの対象としての魅力を生む。本稿では、ロシアにおける鉄道車両製造について簡単に述べた上で、鉄道車両メーカーの例として、7月に訪問したウラル機関車社について紹介する。(渡邊光太郎)


エネルギー産業の話題
協調減産に対するロシア石油会社の対応

 OPEC加盟国の減産合意を受け、ロシアも2017年初頭より石油の減産を実施することになりました。ロシア連邦エネルギー省の説得を受け、ロシアの大手石油会社は減産に基本的に合意したと言われています。ただ、大手石油会社の中にはすでに減産フェーズに入っているところもあれば、増産フェーズが続いているところもあり、エネルギー省の要求どおりに各社が足並みをそろえて減産を実施できるかどうかは微妙となっています。今回は、その点を踏まえ、ロシアの協調減産の基本方針と、大手各社の減産への対応に関しご報告したいと思います。(坂口泉)


自動車産業時評
ロシア・オートバイ市場の復活

 ソ連時代、ロシアはオートバイの一大生産国で、市場規模は数十万台に達していました。しかし、乗用車の普及に伴いソ連時代末期からオートバイは急激にそのプレゼンスを低下させ始め、一時、市場規模は1万台を大きく割り込む水準にまで落ち込んでいました。ところが、2013年以降、復活の兆しが見え始めており、毎年、1万5,000台以上の販売水準を維持しています。今回は、復活の兆しの背景にある事情や、ロシア・ブランドのオートバイの実態などに着目しながら、ロシアのオートバイ市場の現状をご紹介します。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
シベリア・ランドブリッジの利用促進へ向けて

 シベリア・ランドブリッジ(TSR)の利用促進に向けて、日ロの輸送業者が足並みを揃えてサービスの改善に取り組んでいます。ロシアの景気が回復して、日ロ経済交流のパイプが太くなるとの期待が込められています。(辻久子)


データの迷い道
ロシアの社会は安全?

 今回は、ロシア社会がどの程度、安心で安全な社会かという切り口で分析をしたい。海外旅行、滞在という観点からは、日本の外務省に海外安全ホームページがあり、地域別に海外での滞在の安全度が示されている。2016年12月初め時点で、ロシアは全体がレベル1、最南端のチェチェン共和国周辺の国境地帯がレベル3になっている。レベル1というと低いレベルにみえるが、オリンピックで治安の悪さが話題になったブラジルのリオデジャネイロもレベル1である。しかも、ブラジルは、サンパウロなど大都市はレベル1であるが、大都市以外はレベルゼロであるので、ぱっと見ではブラジルよりもロシアの方が、治安が悪くみえる。(高橋浩)


デジタルITラボ
ロシアのデジタル経済の発展

 2016年12月1日、プーチン大統領は連邦議会に向けた年次教書演説の場において、デジタル経済の発展にかかる政策の提言を行うとともに、およびそれにともなうセキュリティ体制強化の重要性を呼びかけた。「デジタル経済(Цифровая экономика)」と一言でいっても、あまりピンと来ないという方が多いのではないだろうか。簡単に言い換えるならば、インターネット通信を駆使して行われる経済活動のことであり、その発展のための主軸としてプーチン大統領が挙げているのは、通信インフラ整備による地域間格差の是正、電子政府の推進、そして情報通信技術を利用した教育、保健医療にかかるサービスの提供の3項目である。(大渡耕三)


蹴球よもやま話
アイスホッケーを日ロのスポーツ架け橋に

 久し振りのサッカーコーナーだが、今回は蹴球ならぬ氷球、すなわちアイスホッケーに関するよもやま話である。
 サッカーの世界では、国家協会ごとに国内リーグ戦を開催することが、大原則となっている。それに対し、アイスホッケーでは、すでに国の垣根を超えたリーグ戦が成立している。世界最高峰のナショナルホッケーリーグ(NHL)は、米国とカナダにまたがる。そして、そのNHLに次ぐ高いレベルを誇るのが、2008年にロシアを中心に周辺諸国も巻き込んで創設された国際リーグ戦「コンチネンタルホッケーリーグ(KHL)」である。2016年4月、プーチン・ロシア大統領は国内で開かれたスポーツ問題に関する会合で、日本や中国といったアジア勢が参加すれば、KHLはさらに国際的な発展を遂げることになるだろうと述べ、KHLのアジア・太平洋への拡大に意欲を示した。(服部倫卓)


研究所長随想
ソ連邦解体の前夜(2)
―日ソ貿易外史(13)―

 1987年の晩秋、3度目のモスクワ駐在員として赴任したとき、年に数回商談のため出張したモスクワとはまったく異なる街になっていた。表面的にはいつもの道を通ると、建物も看板も同じところに同じものが並んでいた。しかし、ここに住む市民の精神構造は大きく変化していた。胸の奥底にたまっていたものが一気に噴き出してきたようであった。(遠藤寿一)


ウクライナ情報交差点
2016年のウクライナを振り返る

 EUとの連合協定棚上げに端を発するウクライナのユーロマイダン革命から、3年ほどが経過しようとしている。国家および経済の崩壊にはようやく歯止めがかかり、2016年にはプラスの経済成長に転じた模様である(2016年のGDP成長率は1.3%程度となる見通し)。しかし、欧州統合路線は大きな岐路に差し掛かっている。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
観光立国を目指す中央アジアの世界遺産

 日本では、<中央アジア=シルクロード>と結び付けられることが多く代表的な古都や史跡が豊富だというイメージが強い。一方で、文化的、言語的、制度的な制約から、なかなか足を踏み入れることができないため、前述のような制度的な措置はとても重要であり、日本からの観光客拡大につながる可能性は大きい。ただし、中央アジアといってもすべてがシルクロードを担っているわけではなく、観光客を惹きつける観光資源がなければその数は増えないのだが、実際のところはどうなのだろうか。観光資源の1つに「世界遺産」がある。中央アジア各国には観光資源となる世界遺産があるのだろうか?(中馬瑞貴)


駐在員のロシア語
営業会議

 自社事務所内でのビジネスミーティングでは、それがロシア国内であっても英語ないし日本語で行うケースが多いかもしれないが、ここではもちろんロシア語でやることを想定してみる。メーカーの月次営業会議を想定し、よく使われる単語・表現をピックアップしてみる。 (新井滋)


シネマ見比べ隊!!
女性狙撃兵という生き方

 今日のロシアで2月23日は男性一般に感謝をする祝日となっておりますが、ご存知のとおり、そもそもは《祖国防衛軍の日》で、1918年、赤軍が初めてドイツ帝国軍に勝利を収めたその日を記念したものでした。しかし、内戦の時も大祖国戦争(第二次世界大戦)の時も、戦線で闘ったのは男性ばかりではありません。看護婦として従軍した女性も多かったわけですが、なんと大祖国戦争の折には狙撃兵として女性が2000人も戦場で戦い、生還者は25パーセントにも満たなかったといいます。このたびは、祖国防衛軍の日からの男性ではなく、女性狙撃兵を主人公とした2つの映画作品を見比べてみたいのです。(佐藤千登勢)


記者の「取写選択」
21世紀のスターリングラード

 「シリアのスターリングラード攻防戦¥Iわる」。シリア内戦で反政権側が拠点を置いた都市アレッポが2016年12月、政権とロシア軍の攻撃で陥落した際、欧米の一部メディアは第2次大戦・独ソ戦の最激戦地に例え、こんな見出しを付けて報じた。
 アサド・シリア大統領自身、2つの戦地を重ね合わせている。同年5月、ロシアの対独戦勝記念日を祝うプーチン大統領への電報の中でアレッポをスターリングラードになぞらえ、必勝の意志を示した。 (小熊宏尚)