ロシアNIS調査月報
2017年8月号
特集◆新フェーズに移行する
ロシアの貿易
特集◆新フェーズに移行するロシアの貿易
調査レポート
2016年のロシアの貿易統計
ロジスティクス・ナビ
日ロ貿易のゲートウェー
ビジネス最前線
一層身近になったシベリア鉄道貨物輸送
INSIDE RUSSIA
ロシアの国家プログラム策定状況と対外経済政策
データバンク
2016年のロシアのサービス貿易統計

調査レポート
2016年のロシア農業分野の総括
―輸入代替促進の動きに着目しながら―
報告
ロシアNIS貿易会平成29年度定時総会報告
イベント・レポート
第12回日本トルクメニスタン経済合同会議
研究所長随想
ユダヤ系ロシア人脈との友情に支えられて(1)
―日ソ・日ロ貿易外史(15)―
ウクライナ情報交差点
ウクライナがロシア系ネットサービスを遮断
中央アジア情報バザール
アスタナでEXPO2017開幕
地域クローズアップ
北カフカスへの入口のスタヴロポリ地方
エネルギー産業の話題
増産が続くイルクーツク石油会社
自動車産業時評
特典喪失後のAvtoTOR
産業・技術トレンド
ソ連にも存在した新幹線
ロシアと日本・
出会いの風景
ドブロー・ポジャーロバチ・ブ・ワッカナイ!
デジタルITラボ
WEB活用で満喫するロシア旅行
駐在員のロシア語
サバイバル・ロシア語:メディカル編(1)
蹴球よもやま話
2017ロシア・コンフェデ戦記
ドーム・クニーギ
六鹿茂夫編『黒海地域の国際関係』
業界トピックス
2017年6月の動き
通関統計
2017年1〜5月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
砂漠のキリル文字


調査レポート
2016年のロシアの貿易統計

ロシアNIS経済研究所 副所長
服部倫卓

 ロシア連邦関税局が発行する『ロシア連邦外国貿易通関統計』の2016年年報が刊行され、2016年の同国の貿易動向に関する詳しいデータが明らかになった。そこで本稿では恒例により、『ロシア通関統計』およびその他の資料を利用し、同国の最新の貿易統計を図表にまとめて紹介し、あわせて解説をお届けする。


ロジスティクス・ナビ
日ロ貿易のゲートウェー

 近年の貿易統計によると日ロ間貿易は輸出入ともに金額ベースで激減しています。しかし貿易の玄関である港湾における荷動きを見ると数字とは異なる映像が見られます。本邦港湾から日ロ貿易の動向を分析します。(辻久子)


ビジネス最前線
一層身近になったシベリア鉄道貨物輸送

日本トランスシベリヤ複合輸送者協会
枡田建二郎さん 依田和人さん 小泉光久さん

 日本トランスシベリヤ複合輸送業者協会(TSIOAJ)はシベリア鉄道を利用した複合輸送に携わる日本企業9社の団体です。ロシア側関係各所との協力で、シベリア鉄道をより利便性の高い輸送ルートにするための取組みをしてきましたが、昨年11月に実施された横浜からモスクワ向けテスト輸送の結果、サンクトペテルブルグを経由する海上輸送と比較して、同価格で約3分の1の時間で輸送できることが実証されました。シベリア鉄道を利用することが、輸送ルートとして、競争力があることが周知されれば、ロシアへより迅速な輸送手段が普及することで、物流が活性化されることが期待されます。TSIOAJ協会長の枡田さん、事務局長の依田さん、シニアアドバイザーの小泉さんにシベリア鉄道輸送の現状と可能性について伺いました。(渡邊光太郎)


INSIDE RUSSIA
ロシアの国家プログラム策定状況と対外経済政策

 筆者はかつて、「国家プログラムの採択が相次ぐロシア」(『ロシアNIS経済速報』2013年4月5日号、No.1591)と題するレポートを発表し、2012年に新プーチン体制が成立したロシアにおいて、幅広い政策領域を対象に、40本以上に上る国家プログラムが策定されていることを報告した。しかし、ロシアの国家プログラムは、いったん採択されたらそれがずっと維持されるわけではなく、前回のレポート発表後も、各プログラムにはかなり目まぐるしく変更が加えられている。この3月にも、多くのプログラムの修正版が採択されたところだ。
 そこで本稿では、ロシアの国家プログラムをめぐる最新状況を整理してお伝えすることにする。その中でも、月報の今号は貿易特集なので、国家プログラム「対外経済活動の発展」をめぐる経緯と、それが掲げる数値目標について詳しく述べる。 (服部倫卓)


データバンク
2016年のロシアのサービス貿易統計

 本月報では従来、ロシアの商品貿易のデータ紹介には注力してきたものの、サービス貿易に関しては取り上げる機会があまりなかった。しかし、現代の経済では、サービス貿易の重要性が増しており、当然ロシアもその例外ではないことにかんがみ、小誌では昨年からロシアのサービス貿易統計を掲載している。


調査レポート
2016年のロシア農業分野の総括
―輸入代替促進の動きに着目しながら―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 2014年8月にロシア政府は対ロ制裁への対抗策として欧米からの食品の輸入を禁止するという措置を打ち出したが、そのことを契機にロシアでは国産の農畜産物に対する関心が急激に強まることとなった。たとえば、食肉の国内生産プロジェクトに対する投資意欲が高まり、成長フェーズに陰りが見え始めていた畜産分野が息を吹き返した。また、温室栽培を広範に普及させ、自給率が全般的に低い野菜の生産量を大幅に増やそうとする動きも活発化した。
 この国産の農畜産物の生産量を増加させ食品の自給率を高めようとする動きは、シリア国境付近で起きたトルコ軍によるロシア軍用機撃墜事件の報復措置としてロシア政府がトルコ産の野菜や鶏肉の輸入を2016年1月1日から禁止するという方針を打ち出した後にさらに加速した。トルコはロシアにとってトマトをはじめとする一部の野菜の最大の輸入相手国だったからだ。2017年初夏にトルコ産野菜の輸入が部分的に解禁されたが、同国産トマトの輸入解禁は3〜4年後になるとみられており、トマトやきゅうり等の野菜の国内生産強化に主眼を置いた温室栽培施設建設ラッシュは当面続くことになるであろう。
 2016年は穀物が記録的な大豊作となったが、その背景には農業分野への全般的な関心の強まりがあると考えてもよいのではなかろうか。本稿では、輸入代替促進の動きに着目しながら、2016年時点のロシア農業につき論じる。


ロシアNIS貿易会平成29年度定時総会報告

 一般社団法人ロシアNIS貿易会は東京の如水会館にて、6月7日に平成29年度定時総会を開催いたしました。定時総会では「平成28年度事業報告」、「公益目的支出計画実施報告書」の報告、第1号議案「平成28年度計算書類等」、第2号議案「役員選任の件」の承認がなされました。以下では定時総会において報告された平成28年度事業報告の内容を掲載するとともに、定時総会における来賓の中川勉経済産業省大臣官房審議官(通商戦略担当)のご挨拶、また村山会長の挨拶を掲載いたします。


イベント・レポート
第12回日本トルクメニスタン経済合同会議

 2017年6月26日、東京にて日本トルクメニスタン経済委員会およびトルクメニスタン日本経済委員会主催の下、「第12回日本トルクメニスタン経済合同会議(以下、合同会議)」が開催された。前回の合同会議が2014年5月にアシガバットで開催されて以来、約3年ぶりの合同会議となり、日本とトルクメニスタンの外交25周年を迎えた節目の年の開催となった。
 今回の合同会議の開催にあたって、メレドフ・トルクメニスタン日本経済委員会会長/同国副首相兼外相(以下、副首相)を団長とするトルクメニスタン政府関係者20名が訪日した。日本側からは小林洋一・日本トルクメニスタン経済委員会会長/伊藤忠商事兜實長(以下、会長)を筆頭に、同経済委員会会員企業代表および日本の政府関係者、企業代表者約120名が参加した。総勢140名もの多数の参加者を得たことは、日本とトルクメニスタンの経済協力の拡大および発展に大きな関心が寄せられていることを示している。
 今回の合同会議は、約2時間という限られた時間の中で、日本側議長を務める小林会長およびトルクメニスタン側議長を務めるメレドフ副首相からそれぞれ基調報告が行われた他、日本側からは日本トルクメニスタン経済委員会の副会長2名の報告が行われ、トルクメニスタン側からも日本側参加者の関心の高い石油ガス分野の報告が2つ行われた。
 以下では、第12回合同会議の概要と全体のプログラムを紹介する。(中馬瑞貴)


研究所長随想
ユダヤ系ロシア人脈との友情に支えられて(1)
―日ソ・日ロ貿易外史(15)―

 日ソ・日ロ貿易は全体として日本の入超で推移してきたが、1975年から1989年に至る15年間は日本の出超となった。この背景には、ソ連経済が停滞状態に陥り、構造上の問題にも発展して、ソ連邦崩壊に至る前夜でもあったからである。経済不振は第8次五ヵ年(1966〜1970)計画期末頃から始まっていたが、第9次五ヵ年(1971〜1975)計画期になると、低く設定された目標さえも遂行することができなくなっていた。(遠藤寿一)


ウクライナ情報交差点
ウクライナがロシア系ネットサービスを遮断

 ウクライナでは、5月15日付でポロシェンコ大統領が署名した大統領令により、国家安全保障・国防会議の4月28日付決定が発効、これにより対ロシア制裁が拡大されることになった。制裁リストには、1,228の法人、468の個人が加えられた。
 問題は、今回の制裁リストに、ロシアの多くのマスコミだけでなく、ВКонтакте(vk、フ・コンタクチェ)、Одноклассники(アドノクラスニキ)、Яндекс(ヤンデックス)、 Mail.ru(メイル・ル)といったロシア系のSNS、ネットサービスも含まれていることである。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
アスタナでEXPO2017開幕

 2017年6月10日、カザフスタンでアスタナ国際博覧会「EXPO2017」(以後、EXPO2017)が開幕した。世界最大規模の国際展示会である国際博覧会、通称「万博」は、日本でもこれまでに1970年に大阪、1975年に沖縄、1985年につくば、2005年に愛知で行われており、2025年には大阪市が再び開催地誘致を目指す。直近では2015年にミラノで開催された。その国際博覧会が、中央アジアでは初めて、カザフスタンの首都アスタナで開催されている。(中馬瑞貴)


地域クローズアップ
北カフカスへの入口のスタヴロポリ地方

 北カフカス連邦管区は、ロシアの中で最も経済規模が小さいことから、ビジネスや経済の観点ではあまり注目されない。チェチェンやダゲスタンなど同連邦管区内の構成主体については、紛争やテロの印象が強く、ロシアの中で最も治安が悪いと考えられている。そのため、投資やビジネスはもちろんのこと、ロシア人でも、外国人でもこの地域に足を運ぶ人はそう多くない。
 そんな北カフカス連邦管区を構成する7つの構成主体のうち、チェチェンやダゲスタンなど6つは複雑な民族構成や歴史的背景を有する民族共和国であるのに対して、唯一、民族共和国ではないのが本稿で紹介するスタヴロポリ地方である。(中馬瑞貴)


エネルギー産業の話題
増産が続くイルクーツク石油会社

 ロシアはOPECとの協調減産に合意し、2017年初頭よりロシアの大手石油会社は減産体制に入っているはずですが、イルクーツク石油会社は増産体制を維持したままとなっており(その他、大手ではガスプロムネフチなども増産傾向にあります)、2017年1〜4月期の生産量は、前年同期比13.54%増の230万tに達しました(INKザパドの分を除く)。イルクーツク石油会社についてはこれまでも何度か言及したことがありますが、以上の状況を踏まえ、今回は謎の多い同社の概要を改めてご紹介することにします。(坂口泉)


自動車産業時評
特典喪失後のAvtoTOR

 ロシア資本の自動車メーカー「AvtoTOR」は、自由経済ゾーンであるカリーニングラード州を拠点とするという利点を活かし順調に業績を伸ばしていましたが、2016年春より組み立て用部品の輸入関税をめぐる状況が同社にとって不利な方向に変化し、今、その対応に迫られています。同社の創設者のシチェルバコフの最近の発言などをベースに、同社の生産動向、輸入関税をめぐる変化への対応ぶり等をご紹介します。 (坂口泉)


産業・技術トレンド
ソ連にも存在した新幹線

 1964年に日本で新幹線が建設されて以降、その成功に触発されて各国で高速鉄道の開発がなされた。フランスのTGVのように成功したものや、米国のメトロライナーのようにあまりうまくいかなかったものもあったが、ソ連においても時速200kmを超える高速鉄道車両の開発がなされ、モスクワ〜サンクトペテルブルグ間で運行された。1日1本の運行にすら達しなかったので、日本の新幹線と比較すると、とても成功したようには見えないのは事実であるが、車両の開発と高速での営業運転を行なったという実績は作った。(渡邊光太郎)


ロシアと日本・出会いの風景
ドブロー・ポジャーロバチ・ブ・ワッカナイ!

 その日の朝、車に乗って北海道の旭川市街を出てほぼ5時間国道を走っていた。午後2時頃ようやく目的地にたどり着いた。ここが宗谷岬だ。ドライバーとしての誇りと、疲れと、目標を達したことによる喜びの、楽しい感情ミックス。家族と車を降りてゆっくり周辺を散歩する。かなり涼しい。9月中旬なのに17度に過ぎず、しかも風も強い。目の前に鉛の色がする海が広がっている。駐車場が広くて、お土産店や食堂がいくつか集まって、ちょっとした観光地だという感じがする。(D.ヴォロンツォフ)


デジタルITラボ
WEB活用で満喫するロシア旅行

 このコラムを執筆中に、ロシアではサッカーのコンフェデレーションズ杯が開催されている。来年は、W杯本戦も控え、ロシアではさらなる海外旅行者の増加が見込まれる。今回はロシアにおける観光業とロシア旅行をより魅力的にするWEBサービスについて紹介する。(牧野寛)


駐在員のロシア語
サバイバル・ロシア語:メディカル編(1)

(個別に問題があるとしても)日本の全般的医療水準、医療従事者の患者への対応、それに保険制度のありがたみは外国に出て初めてわかるものかもしれない。ロシアに駐在していればなおさらだ。私は23年もモスクワに駐在していたので、その間にローカルの医者にかかった回数はそれなりの数になる。その履歴や顛末を書けば一冊の本になるに違いない。(新井滋)


蹴球よもやま話
2017ロシア・コンフェデ戦記

 来年のFIFAワールドカップ(W杯)ロシア大会のプレ大会として、この6月17日から7月2日にかけてコンフェデレーションズカップ2017がロシア国内4会場で開催された(モスクワ、サンクトペテルブルグ、カザン、ソチ)。大会そのものは、準備の遅れや大きな混乱もなく、無事に終了した。(服部倫卓)


記者の「取写選択」
砂漠のキリル文字

「アラブとソ連の友情は長年の協力で培われ、鍛え上げられた。その強さはアスワン・ハイダムもかなわない」。ロシア語は寒い国の言語という先入観があるせいか、エジプトの砂漠でこんな意味のキリル文字が刻まれたモニュメントに出くわした時、歴史的経緯を知ってはいても、一瞬とまどった。(小熊宏尚)