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ロシアNIS調査月報2018年4月号特集◆第3期プーチン |
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特集◆第3期プーチン政権の業績評価 |
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調査レポート |
プーチン政権下のロシア地域経済政策 ―北極域の持続可能な開発― |
調査レポート |
ロシアの社会政策課題 ―プーチン政権第3期の取組と現状― |
調査レポート |
米財務省による「クレムリン報告」の検討 |
調査レポート |
ロシア自動車産業の軌跡と最新動向 ―プーチン政権第3期の総括― |
調査レポート |
ロシアの貿易構造改革は進捗したか |
ビジネス最前線 |
厳寒のサハ共和国で野菜を通年栽培 |
ロシア極東羅針盤 |
極東地域の人口増加への期待 |
INSIDE RUSSIA |
マニフェストなきプーチンの選挙戦 |
エネルギー産業の話題 |
ロスネフチの海外進出状況 |
ロジスティクス・ナビ |
ロシア港湾も景気回復 |
自動車産業時評 |
再建の展望見えぬザポリージャ自動車工場 |
デジタルITラボ |
日ロデジタル分野協力セミナー |
産業・技術トレンド |
非現実的な軍用機の民間機化案 ―超音速爆撃機は旅客機にならない― |
ロシアメディア最新事情 |
ロシア・ニュースを彩る女性たち |
ロシアと日本・ 出会いの風景 |
モスクビッチが歩き回った極東の道 |
駐在員のロシア語 |
ロシア語の決まり文句 |
ウクライナ情報交差点 |
ウクライナ投資評議会の顔触れ |
中央アジア情報バザール |
中央アジア諸国の大統領教書 |
シネマ見比べ隊!! |
シベリアをめぐる映画作品 |
氷球よもやま話 |
アイスホッケーを制した「ロシアからの五輪選手」 |
業界トピックス |
2018年2月の動き |
通関統計 |
2018年1月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
クリミア併合と映画人たち |
調査レポート
プーチン政権下のロシア地域経済政策
ロシア科学アカデミー情報管理研究センター 主任研究員
O.クズネツォヴァ
多くの諸外国と同様、ロシアの中央と地方の経済関係は以下の2つの大きな要素から成る。@異なるレベルの権力機関の間での予算収入の配分を保障し、地域の予算確保の均衡化を目指す枠組みとしての予算間関係。A地域の社会経済発展レベルにおける格差を緩和し、問題を抱える地域の経済成長の条件を整えることを目的とする地域政策。
予算間関係と地域政策は、部分的に「交錯している」が、それは地域政策のツールの中に中央・地方間の財政移転(連邦予算から地域や地方自治予算への財政移転)があるからだ。しかし、全体的に見た場合、中央と地方の経済関係はあくまで独立した部門だといえる。予算間関係に関しては、世界各国と同様に、ロシアでも財務省が担当しており、地域政策については、経済発展省が担当している。
第3期プーチン政権が始まる前の時点でロシアには、すでに2000年代半ばに形成された予算間関係システムが存在した。2012年以降にそのシステムに一定の変更がもたらされたが(後述)、予算間関係を構築する上での全般的な原則やアプローチ方法はそれまでとおりであった。
ただ、地域政策に関しては全く異なる状況が生じていた。第3期プーチン政権が始まった時点ではその形成プロセスがまだ完了していないのは誰の目にも明らかだったが、その一方で、その頃すでに抜本的な変化が生じていたのも事実である。たとえば、地域政策の新しい法基盤の整備作業が開始され、組織的な基盤(地域の社会経済発展に責任を持つ連邦機関システム)にも変化が生じていた。さらには、地域政策の新しい組織やツールが登場し、過去に導入された地域の社会経済発展に対する連邦政府の支援メカニズムに修正が加えられた。以下で、列挙したすべての問題と連邦政府の地域政策の成果を解説し、極東の問題にも焦点をあてることにする。
調査レポート
ロシアの社会政策課題
―プーチン政権第3期の取組と現状―
一橋大学経済研究所 教授
雲和広
2012年に始まった第3期プーチン政権は2018年5月にその任期を終える。2012年の大統領就任後、プーチン氏はその任期中の目標や優先すべき政策に関わる大統領令を、就任早々矢継ぎ早に発布した。本稿はとりわけその社会政策に関わる課題について、それを再度確認するとともに、それに沿う形で具体的にどのような政策が導入されたのか、そして果たしてこの6年間でそれら目標は達成されたのか否か、を見ていくことを旨とするものである。
2012年5月7日における大統領就任と同時に発布された大統領令のうち、中でも市民生活に直結しうるものとしては、「国家社会政策実現のための措置について」、「人口政策を実現するための措置について」、「市民に手頃で快適な住宅を提供し住宅・公営サービスの質を向上させるための措置について」、「保健部門における国家政策の改善について」の4つをあげることができる。一連の大統領令において目を惹くのは、明確な数値目標が上げられていることである。社会指標についてここまで明確な指標を示すことが果たして妥当であるのか否か、その判断は困難であるが、計画期間満了後における資源配分を当初から目論んでいたとするならば(実現し得ないと予測される指標を示し、そののちその領域への重点投資を容易なものとすることを目論んでいたのであれば)、戦略的な妥当性があるかもしれない。実現を可能なものと見なして設定していたとすれば、それはかなり滑稽な観を与える場合もあり得る。紙幅の限りもあり、また筆者の専門領域の限定もあるため、ここでは上述の4つの大統領令に的を絞って検討を行う。
調査レポート
米財務省による「クレムリン報告」の検討
高知大学 人文学部
塩原俊彦
第3期プーチン政権下で、図らずも重要問題となったのが、欧米の対ロシア制裁だった。
米財務省は2018年1月29日深夜、いわゆる「クレムリン報告」を公表した。これは、2017年8月2日にドナルド・トランプ米大統領が署名した「制裁を通じた米国の敵対国(イラン、ロシア連邦、北朝鮮)への対抗法」のセクション241の規定に基づいて作成されたものである。法執行後、180日以内に財務長官は国家情報長官と国務長官との協議のもとに議会委員会に対して、ロシア政権に近いと目される外交政策にかかわる政府高官やオリガルヒ(新興財閥)のリストを提出することになっていた。将来、プーチンに近いと米国政府が判断している、制裁対象となりうる人物を示すことで、ビジネス上の注意喚起につなげるねらいがある。
本稿では、同報告書にあるリストに収載された全員を表1と表2に分けて紹介している。表1には「政治的指導者」として、大統領府、内閣、その他に分けて合計114人が示されている。表2では96人のオリガルヒが顔を出している。総計は210人で、オバマ政権下ですでに制裁対象だった22人が含まれる。ここでは、表1と表2に分けてその内容を紹介しながら、問題点を指摘してみたい。
調査レポート
ロシア自動車産業の軌跡と最新動向
―プーチン政権第3期の総括―
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
急激な石油の増産と高い油価水準に支えられロシアの新車販売台数は、2000年代半ばごろから右肩上がりの曲線を描き始め2012年には294万台(LCVを含む数字)という過去最高の水準に達したが、2013年からは一転して下降線をたどるようになった。ロシア政府が様々な販売促進政策を打ち出したにもかかわらず、不振の度合いは年々深刻となり、2016年の販売台数は2012年の半分以下の約143万台にとどまった。しかし、2017年に入り月間販売台数が前年同月の数字を上回るケースが目立ち始め、通年の数字は前年比11.9%増の約160万台に達した。販売の観点から見れば、2012〜2017年はロシア市場の栄枯盛衰が凝縮された期間だったといえよう。生産の観点から見れば2012〜2017年は、2005年に導入された工業アセンブリ措置の成果が部分的にではあれ顕在化した期間であったといえる。工業アセンブリ措置の主目的のひとつは外資系完成車メーカーの工場をロシアに誘致することであったが、その点については顕著な成果が得られており、2005年以降、ロシアの乗用車生産台数に占める外国ブランド車の数は急増し、2010年には史上初めて純国産ブランド車の生産台数を若干ではあるが上回った。その後、景気動向に伴い総生産台数は毎年変化しているが外国ブランド車のシェアは一貫して増加しており、2017年時点ではロシアで生産される乗用車の約4分の3が外国ブランド車となっていた。
本稿では、政府が打ち出した自動車産業振興策やロシアの乗用車市場の特性に着目しながら、プーチン第3期政権下のロシアの自動車産業を回顧する。
調査レポート
ロシアの貿易構造改革は進捗したか
ロシアNIS経済研究所 副所長
服部倫卓
プーチン政権は、ロシアの現状の貿易構造が改善を要するものであるとの問題意識を有しており、第3期政権を通じてその課題に取り組んできた。具体的には、ユーラシア統合をテコにCIS域内貿易の拡大を図ること、欧州に偏重した貿易地域構造を是正しアジア・太平洋市場にシフトすること、一連の分野・品目で輸入に依存している状況を打破し輸入代替を推進すること、非資源・非エネルギー商品の輸出、とりわけ機械製品の輸出を拡大すること、といった課題である。本稿ではこれらの課題を「貿易構造改革」と総称した上で、図表を多用しつつ、第3期プーチン政権がこの分野で掲げていた目標がどういったものだったか、その後政策がどのように変遷していったか、そして実際の成果はどのようなものだったかを、概観する。レポートの性格上、筆者の既存レポートと内容的に重複するところも少なくないが、ご容赦願いたい。
ビジネス最前線
厳寒のサハ共和国で野菜を通年栽培
潟zッコウ 代表取締役社長
宮本悦朗さん
ロシア極東・サハ共和国のヤクーツク市で、日ロ協力による野菜の温室栽培プロジェクトが動き始めてからもうすぐ2年になります。日本側で北海道総合商事とタッグを組み、農業生産の技術サポートを一手に担うのが潟zッコウ(札幌市)です。真冬にマイナス60度に下がる極寒の地で通年のトマト栽培に成功し、目下、施設の拡大工事に向けた準備作業を進めています。宮本悦朗社長にロシア進出の経緯や考え方を伺います。(吉村慎司)
ロシア極東羅針盤
極東地域の人口増加への期待
ロシア極東の人口減少に、ようやく歯止めがかかるところまできた。ロシアの人口は2009年に一足早く増加に転じていたが、極東地域だけは減少が続いてきた。ロシア連邦統計局が発表したところによると、2018年初現在、ロシア極東の人口は616万2, 427人(推計値)と、減少は続いているものの、その勢いは弱まり、減少幅は前年と比べて約2万人、率にして0.3%の低下にとどまった。近年、人口減少にようやく歯止めがかかるのではないかと期待を持たせるような明るい兆しが見え始めている。 (齋藤大輔)
INSIDE RUSSIA
マニフェストなきプーチンの選挙戦
個人的に、1月、2月とロシアに出張する機会があり、一連の地方都市を訪問した。大統領選挙戦のさなかであるにもかかわらず、ロシア滞在中、その雰囲気をほとんど感じなかった。米大統領選のように候補者同士の討論会という見せ場があるわけではなし(あるにはあるが、本命プーチンは参加せず、泡沫候補たちによるTVタックル的なものにすぎない)、日本の総選挙のように街頭演説やら選挙カーやら候補者のポスターがあるわけでもなし、とにかく選挙らしいイベントやアイテムが乏しいのである。
今回の選挙戦では、プーチン陣営はマニフェスト的なものをついぞ表明しないまま、国民の審判を仰ぐこととなった。その結果、3月1日にプーチン大統領が行った年次教書演説が、実質的な選挙綱領のような意味合いを帯びることになった。(服部倫卓)
エネルギー産業の話題
ロスネフチの海外進出状況
ロシア国営企業「ロスネフチ」は以前からベネズエラをはじめとする諸外国のプロジェクトに積極的に取り組んでいましたが、最近になり、同社の海外進出の意欲はさらに高まっています。2016年にはバシネフチの買収に伴い、イラクとミャンマーのプロジェクトに関与することになりました。さらに、2017年にはエジプトの大陸棚の大規模ガス鉱床の権益を30億ドル弱で買収した他、インドの製油所「Essar Oil」の株式の約49%を40億ドル弱で買収しています。その他、2017年2月にはクルド自治政府との間で、石油の購入契約を締結し前金として13億ドルを支払ったといわれています。ロスネフチの外国でのプロジェクトの中には、クルド自治政府との契約のようにリスクの高いものも少なくありませんが、今回はその点に留意しながら、ロスネフチの外国でのプロジェクトへの取り組みをみていきたいと思います。(坂口泉)
ロジスティクス・ナビ
ロシア港湾も景気回復
マクロ経済指標の回復を裏付けるように、2017年のロシア港湾の取扱量も力強い成長軌道を描き始めました。最新のロシア港湾統計に基づき取扱実績を分析します。(辻久子)
自動車産業時評
再建の展望見えぬザポリージャ自動車工場
ザポリージャ自動車工場(ZAZ)は、帝政ロシア時代に遡る伝統を誇る、ウクライナを代表する乗用車メーカーです。しかし、近年は業績の低迷が続き、再建の展望が描けないでいます。(服部倫卓)
デジタルITラボ
日ロデジタル分野協力セミナー
2月12日〜20日にかけて、日本のスタートアップ関係者がロシアを訪れ、モスクワ、カザン、サンクトペテルブルグでセミナーを開催した。筆者はロシアNIS貿易会の依頼を受け、ビジネスコンサルタントとして、当イベントの企画立案から日本側・ロシア側参加者の集客、現場のコーディネート、PR戦略に至るまで、すべてのプロセスに関わらせて頂いた。この場を借りて今回のイベントの報告をしたいと思う。(牧野寛)
産業・技術トレンド
非現実的な軍用機の民間機化案
―超音速爆撃機は旅客機にならない―
2018年1月25日、ソ連が開発した超音速大型爆撃機Tu-160の改造版がプーチン大統領に披露された。しばらくは現行機の改造で改造版を増備するが、将来的にはTu-160の製造を再開するとのことだ。その席の挨拶で、旅客機に改造してみてはどうかというアイデアが示されたことが報道された。Tu-160は現時点で飛行する世界最大の超音速機で、米国のカウンターパートとなるB-1爆撃機を機体規模でも最高速度でも凌駕する。まさに、ロシアの高度な航空技術を示す機体である。航空機の規模の指標として用いられる最大離陸重量はTu-160では275tであり、アエロフロートが東京-モスクワ線に就航させ、250名以上の乗客を乗せることができるエアバスA330の230tを超え、一見すると、十分に可能性があるように見える。今回はその技術的実現性について検討する。(渡邊光太郎)
ロシアメディア最新事情
ロシア・ニュースを彩る女性たち
最近、ロシアのニュースによく出てくる、3人の女性についてご紹介します。人となりを知ると、ニュースを読むのが少し楽しくなるかも?(徳山あすか)
ロシアと日本・出会いの風景
モスクビッチが歩き回った極東の道
極東というのは私も含めてロシア人にとっても本当に極端に遠く、行く機会が少ない(あるいは、ない)地域であって、よく知られていないロシアの大きな一部だ。私はずっと日本に関係ある仕事をしているので、日本に近い極東にも定期的に通っているのだが、例えば、私の家族3人、両親や親戚、会社以外の多数の友たちの中では、一度でも極東に行ったことがある人は一人もいない。(D.ヴォロンツォフ)
駐在員のロシア語
ロシア語の決まり文句
ロシア語でも、こう言われたら、こう返すというのがあり、それをしないと失礼になることがあるので注意が必要だ。たとえば、ロシア式サウナから上がってきた人に С лёгким паром!(いい湯でしたね)と声をかけ、声をかけられた方はСпасибо(ありがとう)と答える。また食事前・中に Приятного аппетита! (召し上がれ = bon appetit)と言われたら、必ずСпасибоで返す。このようないわば「合いの手・相槌」とでもいう表現はまだまだある。(新井滋)
ウクライナ情報交差点
ウクライナ投資評議会の顔触れ
ウクライナのポロシェンコ大統領は2017年10月10日、「国家投資評議会」のメンバーを定めた大統領令に署名した。国家投資評議会というのは、投資誘致に関する諮問機関であり、ウクライナの政権幹部に加えて、外国資本の代表者が名を連ねている。これを見て、筆者は危機感を覚えた。欧米はもちろん、中国や韓国の代表も名を連ねているのに、日本勢が一切見当たらなかったからである。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
中央アジア諸国の大統領教書
2017年3月1日、大統領選を控えたロシアでプーチン大統領が年次教書演説を行った。年に一度の大統領の施政方針演説ということで毎年関心を集めているが、今回は大統領選挙の直前ということで例年以上に注目が集まった。このような大統領による年次教書演説というのは中央アジアでも行われている。ロシアほど関心が向けられることはないが、ロシア以上に大統領が国政に大きな影響を与える国もあり、教書演説は単なる演説に留まらず、重要な政策を意味することもある。そこで本稿では、直近に行われた中央アジア各国の大統領教書から各国の政策の方向性について紹介してみたいと思う。 (中馬瑞貴)
シネマ見比べ隊!!
シベリアをめぐる映画作品
『シベリヤ物語』VS『シベリアーダ』
いわゆるシベリア(極東ロシアを除く)をロシアが支配下においたのは16世紀、かのイェルマークによるシビル・ハン国攻撃に端を発するとされます。しかしシベリアの首都といわれるノヴォシビルスクが都市を形成していったのは19世紀末ですので、その開拓の経緯や歴史がいかに凄絶なものであったか想像に難くありません。先住民族への抑圧やロシア化政策に対する批判も払拭されたわけではないでしょうが、何よりも、峻厳な自然環境との闘争がその基盤にあったでしょう。その証しとしてシベリアの自然を語らずには成立し得ない文学作品や映画は数多く創られてきました。このたびは、タイトルにもシベリアの地を掲げた2つの映画作品を見比べてみたいのです。(佐藤千登勢)
氷球よもやま話
アイスホッケーを制した「ロシアからの五輪選手」
「蹴球よもやま話」のコーナーは時々、「氷球よもやま話」に化ける。2017年2月号に続いて、今回はアイスホッケーの話題をお届けしたい。言うまでもなく、平昌冬季五輪の男子アイスホッケーでロシア・チームが優勝したからである。(服部倫卓)
記者の「取写選択」
クリミア併合と映画人たち
「脅しは恐れない。懲役20年も怖くはない。血で汚れた小柄な男が支配する時代はもっと早く終わると、私は知っているから」。2015年4月8日、モスクワの地区裁判所。クリミア半島でのテロ計画の罪でロシア当局に起訴されたウクライナの映画監督オレク・センツォフは胸を張り、こう言い放った。(小熊宏尚)