ロシアNIS調査月報2018年5月号特集◆ロシア経済の |
|
特集◆ロシア経済のリスタート |
|
調査レポート |
低成長に留まるロシア経済 ―2017年マクロ実績の分析― |
調査レポート |
2017年のロシアの石油ガス産業 ―平穏さの背後に見え隠れする暗雲― |
調査レポート |
ロシア鉄鋼業とトランプ関税 |
調査レポート |
ロシア極東経済発展政策の成果と課題 |
ビジネス最前線 |
ロシアからの先端素材の輸入 |
データバンク |
2017年の日ロ貿易 ―回復に転じるも力強さを欠く― |
イベント・レポート |
2017年の日ロ貿易 ―回復に転じるも力強さを欠く― |
ロシア極東羅針盤 |
クリル諸島開発計画を読む |
INSIDE RUSSIA |
国際緊張の中でのプーチン再選 |
ロジスティクス・ナビ |
バルト海港湾動向2017 |
自動車産業時評 |
2017年のロシアの商用車市場 |
産業・技術トレンド |
2017年ロシアの旅客機生産 |
地域クローズアップ |
日ロ協業の新たな可能性を開くイヴァノヴォ州 |
ロシアメディア最新事情 |
ケメロヴォ火災の悲劇は続く |
デジタルITラボ |
急成長するロシアのカーシェアリング市場 |
ウクライナ情報交差点 |
安定からは遠いウクライナ鉄鋼業 |
中央アジア情報バザール |
中央アジアでは大統領が大人気 |
ロシアと日本・ 出会いの風景 |
私の東京の小さな旅 |
シネマ見比べ隊!! |
戦車の伝説をめぐって |
駐在員のロシア語 |
ロシア語の勉強ではなく練習 |
蹴球よもやま話 |
ハリル・ジャパンに引導を渡したウクライナ |
業界トピックス |
2018年3月の動き |
通関統計 |
2018年1〜2月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
裏切り者の街角@英国 |
調査レポート
低成長に留まるロシア経済
―2017年マクロ実績の分析―
北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
田畑伸一郎
ロシア経済は、2015〜2016年にマイナス成長となっていたが、2017年にはようやくプラス成長に転じた。この回復は油価の上昇によるところが大きく、ロシア経済は、油価に依存し、家計消費が牽引する従来の成長モデルに戻りつつあるだけのように見える。従来の成長モデルの下では、油価上昇に伴い、ルーブル・レートが上昇し、輸入が増加したのであるが、2017年においても同様に、輸入が大幅に増加した。ロシアの新しい成長メカニズムとして、このところ輸入代替が喧伝されてきたが、成長要因としては、輸入代替は後景に退いてしまった感がある。プラス成長に転じたとは言え、2017年のGDP成長率は1.5%というものであり、2009年のマイナス成長から4.5%のプラス成長に転じた2010年などとは比較にならない。
2017年の実績でポジティブに評価できるのは、インフレ率の劇的な低下である。2017年のインフレ率(消費者価格上昇率)は2.5%であるが、ソ連崩壊後、最低の水準となった。インフレ率は、2015年の12.9%から、2016年にはこれまででもっとも低い5.4%に低下していたが、2017年はさらに低下し、目標とされていた4%をも下回る水準となった。
調査レポート
2017年のロシアの石油ガス産業
―平穏さの背後に見え隠れする暗雲―
ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉
2017年は、2014年秋ごろから続いていた油価の下落傾向にようやく終止符が打たれ、同年のロシア産原油「Urals」の国際市場での平均価格は前年の数字を約26%上回るバレル53ドルに達した。それに伴い、油価と連動するガスの輸出価格も年後半から上昇に転じた。そのせいもあってか、ロスネフチによるバシネフチの買収やOPEC+との協調減産合意といったビッグニュースが多かった2016年と比較すると、ロシアの石油ガス分野にとって2017年は比較的平穏な年になったとの印象を受ける。ただ、そのような表面的な平穏さとは裏腹に、水面下では今後ロシアの石油ガス分野に大きな影響を及ぼす可能性が高い重大な動きが静かに進行している。
調査レポート
ロシア鉄鋼業とトランプ関税
ロシアNIS経済研究所 副所長
服部倫卓
鉄鋼業はロシアにとって基幹産業の1つであり、輸出の5%前後を占める重要な輸出産業でもある。本稿では、ロシア鉄鋼業の概況、輸出動向を整理した上で、米トランプ政権がこのほど導入した25%の鉄鋼関税の影響につき分析する。
調査レポート
ロシア極東経済発展政策の成果と課題
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
A.イサエフ
地域で実施が予定されているプロジェクトの規模において、現在の発展段階は地域の投資額が国内トップクラスだった1930年代の極東工業化の時期と比較することができる。しかしソビエト時代と異なり現在は主に産業基盤の構築ではなく、巨大なアジア太平洋地域市場へのロシアの経済統合に立ちはだかるインフラ限界の克服に力が注がれている。サミット2012の後、アジア太平洋地域への高付加価値製品の輸出に根ざした極東の新しい社会経済発展モデルが形成され、競争力のある投資環境に必要な条件が構築された。
ビジネス最前線
ロシアからの先端素材の輸入
楠本化成
田之畑博文さん 西野敬智さん
化学品専門商社である楠本化成は、単層カーボンナノチューブという先端素材の廉価な製法を開発したOCSiAl社の日本総代理店となり、ロシアから輸入した単層カーボンナノチューブの販売を手がけています。先端素材でロシアが競争力を持つ例は、チタンや人工サファイアなど限られた分野に留まり、単層カーボンナノチューブは非常に希少な例と言えます。単層カーボンナノチューブは少量添加をすることで、素材の性能を飛躍的に向上させる物質ですが、以前は1グラムあたり数万円と大変高価であったので普及が妨げられていました。日本でも価格を下げる開発がなされていましたが、OCSiAl社の製品を凌駕する競争力は得られていません。今回は楠本化成で単層カーボンナノチューブの販売に従事されている田之畑さん、西野さんに単層カーボンナノチューブの可能性やビジネスについて話しを伺いました。(渡邊光太郎)
データバンク
2017年の日ロ貿易
―回復に転じるも力強さを欠く―
例年どおり、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2017年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。当会ではすでに、『ロシアNIS経済速報』2018年2月5日号(No.1750)において、2017年の日ロ貿易を速報値で紹介済みだが、本レポートでは確定値を掲載する。(服部倫卓)
イベント・レポート
ロシア工業団地セミナー
―日本企業の事業拡大のために―
2018年3月14日及び15日の両日、ロシアNIS貿易会では、ロシア工業団地協会の共催でロシア工業団地セミナー「ロシアにおける日本企業の事業拡大のために:生産の現地化と産業協力」を開催した。ロシア工業団地協会は、2013年から毎年日本各地(東京、大阪、名古屋、京都)でロシアの工業団地を紹介するセミナーを開催しており、当会は2014年よりこれに協力している。当会が協力を初めて5回目となる今回は、ロシア工業団地協会の代表団16名を受け入れ、京都(3月14日、日ロ合わせて参加者は34名)と東京(3月15日、同約80名)においてセミナーを実施した。以下では、3月15日に東京で行われたセミナーの各報告者の発言要旨を紹介することにしたい。(中居孝文)
ロシア極東羅針盤
クリル諸島開発計画を読む
日ロの共同経済活動で注目される北方4島。ロシアが実効支配するこれらの島々は、クリル諸島の一部を形成する。ロシアは近年、この最果ての島々に多くの資金を投入して、インフラ整備や産業振興に取り組んできた。その多くが、国の開発計画にもとづいて実施されている。日本では、こうしたロシアの行動がとかく実効支配の強化とみられてしまうが、実際のところ、その中身はあまり知られていない。そこで本稿では、現在のクリル諸島開発計画の実施状況を中心にインフラ整備や産業振興の現状について報告する。(齋藤大輔)
INSIDE RUSSIA
国際緊張の中でのプーチン再選
ロシア大統領選挙は3月18日に投票が行われ、投票率が67.5%となる中で、現職のプーチン大統領が76.69%を得票し、第1回投票での当選を決めた。政権側が目指していたとされる投票率70%は未達成に終わったものの、プーチン候補の得票数は全有権者の過半数を上回るものだった。第1回投票の時点で1人の候補の得票が有権者の過半数を超えるのは、ロシア大統領選の歴史上初めてのことであり、プーチン大統領としてはそれなりに威厳を保つことができたと言っていいだろう。なお、プーチン大統領の4期目の就任式は、5月7日に挙行される。(服部倫卓)
ロジスティクス・ナビ
バルト海港湾動向2017
ロシア首都圏の表玄関であるバルト海沿岸港湾の2017年実績を紹介し、合わせてロシア近隣諸国港湾を利用したロシアのトランジット輸送の動向について解説します。(辻久子)
自動車産業時評
2017年のロシアの商用車市場
ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2017年のロシアの商用車(トラック、バス、小型商用車)の生産、販売、輸入に関するデータを入手できましたので、今回はそれをご紹介することにします。(坂口泉)
産業・技術トレンド
2017年ロシアの旅客機生産
例年にならい、Vzlyot誌に掲載された生産数に基づき、2017年のロシアの旅客機生産についてまとめる。2017年は新型旅客機MC-21が初飛行に成功し、スホーイスーパージェット(以下SSJ)の生産が回復した。新機種の生産や開発が進む一方、旧機種の整理が進みつつある。(渡邊光太郎)
地域クローズアップ
日ロ協業の新たな可能性を開くイヴァノヴォ州
モスクワ周辺の観光地群「黄金の環」に含まれるイヴァノヴォをご存じだろうか。歴史ある「黄金の環」の他地域に比べると、街の誕生が16世紀と遅く、イヴァノヴォ市を州都とするイヴァノヴォ州はロシアで最も面積が小さい連邦構成主体の1つで、経済規模も小さいため、あまり存在感のない地域であるといっても過言ではない。
しかし、繊維産業と観光業が主要産業であるイヴァノヴォ州には新たな日ロ協業の可能性が秘められている。2017年10月、同州の知事代行に日本と関わりの深いヴォスクレセンスキー元経済発展省次官が任命されたのである。ヴォスクレセンスキー氏は当会が事務局を務める日露投資フォーラムに何度も参加しており、最近では、プーチン大統領やマントゥロフ産業・商業大臣にも随行して訪日している。(中馬瑞貴)
ロシアメディア最新事情
ケメロヴォ火災の悲劇は続く
ロシアに関係するトピックが日本のネットニュースのトップに出てくるときは、あまり良くない話題と相場が決まっていますが、3月25日にケメロヴォ州のショッピングセンターで起きた大規模火災も、残念ながらその一つになってしまいました。もともとお菓子工場だったこの建物は、適切な許可を得ないまま、ショッピングセンターとして作り変えられていたことがわかりました。火災警報も音声放送もなく、人づてに「火事らしい」と知った人々は逃げ遅れ、わかっているだけでも64人(うち41人が子ども)が亡くなりました。つい最近公開された現場からの映像では、煙が瞬く間に空間全体に広がる様子が映し出されています。火事から1週間以上たっても続報が次から次へと出てきて、全容解明までにはかなりの時間がかかりそうです。今回は日本では報じられていない火事の「その後」と、家族を亡くした人々の様子についてご紹介します。(徳山あすか)
デジタルITラボ
急成長するロシアのカーシェアリング市場
近年、モスクワ、サンクトペテルブルグの大都市では、灰色地や白地にオレンジのセダン、黄色ボディの軽自動車をよく見かけるようになった。これらはカーシェアリング用の車両である。仕組みはいたって簡単で、専用のアプリをダウンロードし、会員登録を行う。アプリの地図上から利用可能な車両を選択し、予約する。車両に到着したらアプリ上で開錠作業を行い、乗車する。乗車終了時も同様に、アプリ上から操作し、決済と施錠を行う。基本的な課金体系は、分単位の従量課金制である。今回は、急成長するロシアカーシェアリング市場を概観してみたいと思う。(牧野寛)
ウクライナ情報交差点
安定からは遠いウクライナ鉄鋼業
2018年1月現在、ウクライナでは28の高炉のうち21が、21の転炉のうち15が、9の平炉のうち8が、15の電炉のうち6が、14の連鋳機のうち14が稼働している。ウクライナの鉄鋼業界団体「ウクルメタルルグプロム」の発表によれば、2017年のウクライナ鉱山・冶金部門の主要品目生産量は、以下のとおりとなっている。(服部倫卓)
中央アジア情報バザール
中央アジアでは大統領が大人気
2017年3月18日、ロシアで大統領選挙が行われ、プーチン大統領が自身過去最高の得票率となる76.7%で4期目の当選を果たした。今回の結果について、プーチン自身満足した様子であり、欧米や日本を基準に考えると、かなり高い得票率と見ることができる。一方、ロシアの主要紙「コメルサント」が今回のプーチン大統領の選挙結果を、旧ソ連諸国の現職大統領の直近の選挙における得票率と比較した記事を伝えている。同紙の記事によると、中央アジアの大統領の支持率の高さが際立っている。そこで、本稿でその記事について紹介する。(中馬瑞貴)
ロシアと日本・出会いの風景
私の東京の小さな旅
あのマンションのバルコニーから、晴れている日、日が出るのを見るのが好きだった。南東に向いてちょうどよかった。少し遠くには羽田空港から発着する飛行機の様子も見えて、オレンジ色の太陽を背景としたこの姿は特にロマンティック。より近くには、東急東横線の電車が走っている。まだ静かな早朝なら、その音も聞こえている。(D.ヴォロンツォフ)
シネマ見比べ隊!!
戦車の伝説をめぐって
『鬼戦車T-34』VS『ホワイトタイガー』
5月のこのコーナーで、ロシアの対独戦勝記念日(5月9日)に因んで2本の戦争映画を毎年紹介しつづける作業もこれで5度目となりました! 今回は、奇しくも「戦車」がさながら主人公のごとくストーリーを紡いで行く作品を2つ見比べてみたいのです。(佐藤千登勢)
駐在員のロシア語
ロシア語の勉強ではなく練習
頭が柔らかく、周りのものを観察し、語りかけられる言葉に反応しながら、時間を十分にかけ徐々に言語を獲得していく幼児と違い、大人は限られた時間を有効に使って勉強しなければならない。幼児に戻ってハイハイをしながら外国語を勉強してはいられないのだ。しかも外国語が話されている国に行って、その言葉にどっぷりつかれることのできる人は少数派だ。したがって教科書、辞書、視聴覚教材を駆使して集中的に学習するしかない。とはいえ、幼児的学習方法は有効だ。たとえば、家庭にあるすべてのもの、家電製品、台所用品、日用品等々にはそれぞれ名前がついている。貼ってはがせるメモに、その名前をロシア語で書いて貼っておけば、生活している中でロシア語の名称に慣れていく。ただ、一人暮らしなら問題はないが、そうではない場合、家族の理解が必要になることは言うまでもない。
しかし、それだけやっていても不十分だ。学習の基本は読むことだが、漫然と読んでいるだけでは上達のスピードはなかなか上がるものではない。(新井滋)
蹴球よもやま話
ハリル・ジャパンに引導を渡したウクライナ
サッカーのウクライナ代表(FIFAランキング35位)は、3月の代表週間にアジアのチームと2連戦を戦った。23日がサウジアラビア戦、27日が日本戦であった。このうち、日本代表はワールドカップ(W杯)本番で対戦するポーランドを想定し、その隣国のウクライナに白羽の矢を立てたものだった。実はサウジにしても事情は同じで、W杯で同組となっているロシアを意識してのマッチメイクだったのだろう。日本相手にはポーランド役を演じ、サウジ相手にはロシア役を演じ・・・。いかにも、ロシアとポーランドの狭間で揺れ続けてきたウクライナらしい役回りだなと、個人的に思わず納得してしまった。(服部倫卓)
記者の「取写選択」
裏切り者の街角@英国
英国南部ソールズベリーで3月、ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)の元スパイの男と娘がショッピングセンターのベンチで口から泡を吹いて倒れた。英当局はソ連が開発した化学兵器級の神経剤ノビチョクを検出し、事件はロシアの仕業だと非難。外交官追放合戦を含む国際スキャンダルに発展した。(小熊宏尚)