ロシアNIS調査月報
2018年7月号
特集◆シベリア・極東の
経済と外国投資
特集◆シベリア・極東の経済と外国投資
調査レポート
ロシア極東における外国直接投資
調査レポート
シベリア連邦管区における外国投資
調査レポート
極東・ザバイカル地域の電力需給と輸出
調査レポート
2017年のロシア石炭産業
―シベリア・極東の動きを中心に―
ビジネス最前線
シベリア産原料のオーガニック化粧品を輸入販売
ロシア極東羅針盤
極東中古車ビジネスの現在
地域クローズアップ
クラスノヤルスク地方はシベリア経済の要
ロシアと日本・
出会いの風景
シベリアの地理とイルクーツクの思い出
エネルギー産業の話題
西シベリア石油産業の概要
DVDカフェ
北方領土(南クリル)の自然を旅する

INSIDE RUSSIA
プーチン・メドヴェージェフ新体制の船出
ウクライナ情報交差点
ウクライナがCISとの決別を宣言
中央アジア情報バザール
中央アジア・コーカサスの議院内閣制
自動車産業時評
ロシアのオートリースの現状
ロジスティクス・ナビ
日ロ貿易を繋ぐ本邦港湾
デジタルITラボ
ロシアのコワーキングスペース事情
産業・技術トレンド
ロシア最大の工作機械展示会
蹴球よもやま話
サッカー・ロシア代表選手名鑑
ロシアメディア最新事情
ロシア軍事博物館ツアーが大盛況
シネマ見比べ隊!!
運命を狂わせる写真の物語
駐在員のロシア語
お世辞の効用
業界トピックス
2018年5月の動き
通関統計
2018年1〜4月の輸出入通関実績
記者の「取写選択」
アフガン派兵の再評価


調査レポート
ロシア極東における外国直接投資

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
D.スースロフ

 外国直接投資の流入額の分析結果や、地域別の外国直接投資の蓄積額を見ると、モスクワをはじめとした極めて限られた連邦主体に集中していることが分かる。それは首都としてのステータス(外国直接投資を受け入れた会社の登記地であること)や大規模な消費市場であることに起因する。それ以外の、百万都市をかかえ、多くの人口を有する連邦主体が直接投資の誘致において主導権を握るのは後者の要因によるものである。この指摘は中央連邦管区、北西連邦管区についてはかなりの程度当たっているが、沿ヴォルガ連邦管区、ウラル連邦管区、シベリア連邦管区についてはそれほどでもない。極東連邦管区は大都市があるわけでもないにも関わらず、2014〜2017年にロシアに流入した直接投資の割合で名誉ある第3位を占めた。
 ただし重要なポイントは、ロシア経済にとって極めて困難だった時期に、極東地域は毎年の直接投資流入絶対額(年間100〜110億ドル)において堅調な実績を示しただけでなく、他の連邦管区とは異なり、極東の「純流入額」または流入した金額と流出額との差額が、流入した直接投資額と対応しているということである。例えば、2016年の極東連邦管区の直接投資流入総額が115億9,500万ドルだったのに対して、その純流入額は103億8,500万ドルに留まっている。つまり事実上、流入した全ての投資額が企業の発展に向けられたということだ。


調査レポート
シベリア連邦管区における外国投資

ロシア科学アカデミー・シベリア支部イルクーツク学術センター
N.スィソエヴァ

 再生産過程において投資は最も重要なファクターであり、投資の黒字幅は経済活動の拡大再生産を生み出すものである。そして、ここ25年間でかなりの部分で国際市場との融合が進んだロシアの地域経済であるが、その発展を示す非常に重要な指標となるのが、外国投資の誘致レベルである。外国投資は一般に、直接投資、ポートフォリオ投資、その他に区分されるが、本稿では主に外国直接投資(FDI)を考察する。これは、過去10年間におけるロシア国内の統計資料が不完全かつ安定したものでないという筆者の問題意識に端を発する。というのも、2013年までロシア連邦国家統計局では、現金・与信流通を規制する金融機関のデータを含まずに投資額のデータを公表していた。2014年以降は、外国投資誘致に関するデータはロシア連邦国家統計局からは公表されなくなり、ロシア中央銀行に委ねられることとなった。しかし、2014年以降、ロシア中央銀行から公表されたのは外国直接投資のデータのみである。外国直接投資の割合がそれほど大きくないのに対して、「その他の外国投資」(商業借入とその他借入)という項目が多くの割合を占めている。外国投資の把握に係るこれら全ての統計および情報の特異性は、シベリア連邦管区においても同様に当てはまる。


調査レポート
極東・ザバイカル地域の電力需給と輸出

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
O.ジョーミナ

 極東の電力供給システムは、東部エネルギーシステム社(OES Vostoka)の系統、同社に属さない5つの独立系統、電力系統に接続されていない多数の孤立地域から構成される。OES Vostokaでは系統連係線によって、アムール電力系統、沿海電力系統、ハバロフスク電力系統およびヤクート電力系統の南地区が統合されている。OES Vostokaとロシア統一エネルギーシステムは、シベリア鉄道とバム鉄道(バイカル・アムール鉄道)に沿って敷設された2本の送電線で連結されてはいるものの、実際には電力は流れておらず系統同士も同期されていない。このように、極東における電力システムの特徴は、ロシア統一エネルギーシステムとの接続がないという点にある。
 ザバイカル地域の電力供給は、ブリヤート系統とザバイカル系統の2系統によって行われている。これら系統は、ロシア統一エネルギーシステムに含まれているシベリア・エネルギーシステム(OES Sibiri)の一部分である。ザバイカルの電力系統は、自身の電力需要を満たしておらず、不足分をイルクーツク系統から調達することで賄われている。2000年〜2016年にかけて、ザバイカルの電力系統における不足量は23億kWhから7億kWhまで削減された(現在の発電量の4〜6%にあたる)。イルクーツク系統の余剰分は、ザバイカルの系統を経由しモンゴルへ輸出されており、毎年の輸出量は2億〜4億kWhと見積もられている。


調査レポート
2017年のロシア石炭産業
―シベリア・極東の動きを中心に―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 2016年の後半ごろから続く石炭の国際価格の高値傾向は、輸出志向の強いロシアの石炭会社にとって追い風となり、大手石炭会社の多くが2017年になって大幅に業績を伸ばした。たとえば、ロシア最大の石炭会社のSUEKの2017年の売上高は前年比42.3%増の56億9,000万ドルに、純利は2.1倍の6億5,700万ドルにそれぞれ達した(国際会計基準準拠の数字)。ただ、この業績の好調さは主として石炭の国際価格の高騰という不安定な要素に支えられたものであり、ロシアの石炭会社の体力そのものが抜本的に強化されたわけではない。ロシアの石炭の内需は伸び悩んでおり、さらに今後は減少する可能性すら考えられるので、ロシアの大手石炭会社の石炭輸出への依存度、換言すれば、刻々と変化する石炭の国際価格に業績が左右される傾向が今後一層強くなるのは避けられないであろう。また、2017年後半から輸出用石炭の積替えの際に生じる粉塵を問題視する声が強まっているという事実にも注意を向ける必要があるだろう。各石炭会社が環境保護のために巨額の投資を行う必要に迫られ、そのことが業績の悪化につながる可能性もあるからだ。さらに、環境意識の高まりが、極東地方で進められている石炭ターミナルの新規建設プロジェクトや増強プロジェクトに否定的影響を及ぼすことも十分に考えられる。
 本稿では、シベリアを拠点とする大手石炭会社の現状、および、極東地方での石炭ターミナル建設の動きや石炭粉塵による大気汚染の問題への意識の高まりなどに着目しながら2017年のロシア石炭分野を回顧する。


ビジネス最前線
シベリア産原料のオーガニック化粧品を輸入販売

潟<Cクアップ
清川浩平さん 康村祥子さん 田茜さん

 シベリア産オーガニック(有機栽培)原料を使ったロシアの化粧品ブランド「ナチュラシベリカ」が今春、日本市場に再上陸しました。同ブランドはEU諸国をはじめグローバル展開を加速しており、数年前には東京都内に店舗を出したこともあります。一度の撤退を経て、今回は株式会社メイクアップ(大阪市)が輸入代理店として日本での販売を手がけることになりました。ここに至る経緯やこれからの展望について、メイクアップ取締役の清川浩平商品統括本部長、同本部で海外業務を担当する康村祥子さん、国内マーケティング担当の田茜さんにお話をうかがいました。(吉村慎司)


ロシア極東羅針盤
極東中古車ビジネスの現在

 ウラジオストクはロシア極東の玄関口で、北東アジア有数の港湾都市である。その中心部にかかるザラトイログ湾横断橋は街のシンボルになっている。その橋が望む場所に、巨大な駐車場はある。みんな日本からの中古車である。数百台の車が通関を待っている。2018年3月にウラジオストクを訪れ、中古車ビジネスの現場を視察した。 (齋藤大輔)


地域クローズアップ
クラスノヤルスク地方はシベリア経済の要

 本稿は2014年ソチオリンピックに続く国を挙げての一大スポーツイベント「2018 FIFAワールドカップロシア大会」(2018年6月14日〜7月15日開催)の直前に執筆している。これら2つに比べると、国際的な関心や知名度は大きく落ちるが、2019年3月には学生を対象にした国際総合競技大会、ユニバーシアードがシベリアのクラスノヤルスクで開催される。1973年にソ連時代のモスクワ、2013年にタタルスタン共和国のカザンで夏季大会が開催されているが、冬季大会はロシア初開催となる。
 ロシアで2番目の広大な面積を誇る連邦構成主体であるクラスノヤルスク地方は経済規模でもシベリア最大の地域である。地理的にロシアのほぼ真ん中に位置しており、モスクワからも極東からも離れているため、日本における関心も知名度も決して高くはない。しかし、ロシアの中では経済的にも政治的にも重要な地域であり、「アジアの窓口」の1つとしてのポテンシャルもある。
 そこで本稿ではシベリア経済の中心を担うクラスノヤルスク地方について紹介する。(中馬瑞貴)


ロシアと日本・出会いの風景
シベリアの地理とイルクーツクの思い出

 初めてイルクーツクに行ったのは1994年6月のことだ。仕事の関係で、日本ミッションの一員だった。モスクワからの飛行機ではなく、隣の地域ブリャート共和国の首都ウランウデから入った。ウランウデとイルクーツクはシベリア鉄道で繋がっており、そのお陰でシベリア鉄道にも初めて乗ったわけだ(それ以来、飛行機ばかりで何十回もシベリア・極東に行ったが、鉄道は使っていない)。ウランウデからイルクーツクまでの間は、「隣の地域」とはいえ、たしか8時間もかかり、夕方にようやく着いた。今も当時の印象をよく覚えているが、途中で列車の窓から見える景色は意外に面白くなく、単調なものだった。高い山がなく、平らで、同じような景色がずっと続いて、目の前には木々しか見えない。領土が基本的にフラットなロシアではよくあることだ。(D.ヴォロンツォフ)


エネルギー産業の話題
西シベリア石油産業の概要

 西シベリアはロシア最大の石油とガスの生産地域で、石油に関してはロシアの総生産量の過半、ガスに関しては80%以上を占めています。今回は石油の方を取り上げ、西シベリアの中でも特に生産量の多いチュメニ州(ハンティ・マンシ自治管区とヤマロ・ネネツ自治管区を含む)とトムスク州の状況をご紹介します。
 なお、チュメニ州は今日のロシアの行政区分ではウラル連邦管区に含まれており、ここで言う西シベリアは経済地理上の区分です。(坂口泉)


DVDカフェ
北方領土(南クリル)の自然を旅する

 今回はシベリア・極東特集に合わせ、共同経済活動でも焦点となっている北方領土(ロシア側が言うところの南クリル諸島)の映像作品を取り上げてみたい。先日サハリンに現地調査に出かけた際に、空港の売店で売っていたDVDで、色丹島、国後島、択捉島の自然を描いたドキュメンタリーである(サハリン州自然シリーズの第3巻ということらしい)。タイトルは「クルの土地」となっており、「クル」とはアイヌ語で人間のことを指すそうだ。(服部倫卓)


INSIDE RUSSIA
プーチン・メドヴェージェフ新体制の船出

 3月18日のロシア大統領選で再選を果たしたプーチン大統領は、5月7日に就任式を華々しく挙行し、4期目の任期をスタートさせた。
 プーチン大統領は早速、就任当日の5月7日に大統領令「2024年までのロシア連邦発展の国家目標と戦略的課題」に署名した。そして、プーチン大統領は同じく5月7日に、メドヴェージェフ氏を再度首相に指名する声明を発表した。(服部倫卓)


ウクライナ情報交差点
ウクライナがCISとの決別を宣言

 ウクライナのポロシェンコ大統領は5月19日、独立国家共同体(CIS)の枠組みで締結された特定の条約のウクライナへの効力を停止することを決めた大統領令に署名した。これにより、ウクライナがCISから脱退する国内手続きが完了したと、一般的には解釈されている。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
中央アジア・コーカサスの議院内閣制

 2018年5月8日、ロシアでメドヴェージェフが首相に再任したその日、同じ旧ソ連のアルメニアでも新しい首相が誕生した。アルメニアでは4月にセルジ・サルグシャン前大統領の首相就任に反対するデモが激化し、国内で混乱が続いていた。この反体運動を指揮してきたニコル・パシニャンが首相に就任することで混乱が一応の収束となった。
 アルメニアの「愛と連帯の革命」の最中、4月19日にはキルギスでも就任から8カ月のサパル・イサコフ首相率いる内閣が突然、議会での不信任決議を受けて総辞職となり、翌日ムハメドカリ・アブィルガジエフ新首相率いる新内閣が発足した。 (中馬瑞貴)


自動車産業時評
ロシアのオートリースの現状

 ロシアでも1990年代半ば頃にオートリースの会社が活動を開始していましたが、10年ぐらい前までは目立った存在ではありませんでした。ところが、2010年代に入った頃から大型トラックやLCVのリースを軸に徐々にそのプレゼンスを強め、今では無視できない存在となりつつあります。そこで、本稿では、ロシアのオートリースの現状をご紹介することにします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
日ロ貿易を繋ぐ本邦港湾

 2017年の日ロ貿易は輸出入合計のドルベースで前年比20.7%増と低迷からの回復を示しましたが、品目別に状況は異なります。本稿では主要品目の日ロ間輸送における日本側利用港湾を追います。(辻久子)


デジタルITラボ
ロシアのコワーキングスペース事情

 ロシアに来て驚くことのひとつに、流動性の高い人材市場や、柔軟な働き方がある。教師をしながらダブルワークをしたり、一般企業に勤めながら起業しているような人々に会うのは珍しいことではない。日本でも働き方改革が叫ばれ、副業も解禁された。大企業のオフィスが集中する東京・丸の内には、以前では考えられないほどコワーキングスペースが存在する。今回は、ロシアのコワーキングスペースについて紹介したいと思う。(牧野寛)


産業・技術トレンド
ロシア最大の工作機械展示会

 毎年、5月にモスクワでMetalloobrabotkaという工作機械展示会が行なわれている。もちろん、日本で行なわれているJIMTOFほどの規模の展示会ではない。しかし、工作機械関連の展示会ではロシア最大であり、Mettalloobrabotkaは、国際的な水準に比較しても十分に大規模な工作機械展示会である。また、出展者も工作機械メーカー、工具メーカー、関連ディーラー等が集まり、十分に専門的である。工作機械関係者からは、ビジネスになる展示会と定評があり、日本からの出展者も少なくない。幸い、極めて短時間ながら訪問する機会を得たので、様子を報告する。なお、訪問が短時間であったので、不正確である部分、物足りない部分があろうがご容赦願いたい。(渡邊光太郎)


蹴球よもやま話
サッカー・ロシア代表選手名鑑

 今号の発行日は6月20日なので、この号が出る頃にはもう、FIFAワールドカップ・ロシア大会のロシアVSサウジアラビア戦(14日)、ロシアVSエジプト戦(19日)は終わってしまっていることになる。とはいえ、ロシア・サッカーにとってせっかくの晴れ舞台なので、6月4日に発表されたロシア代表の最終メンバー23名(+監督)の顔触れを整理しておくことにする。(服部倫卓)


ロシアメディア最新事情
ロシア軍事博物館ツアーが大盛況

 このコラムではいつもロシアメディアについて書いていますが、今回は日本メディアのユニークな取り組みをご紹介したいと思います。産経新聞が「ロシア軍事博物館ツアー」を企画し、日本から33人が参加しました。一般的な観光コースはほぼ無視し、全日程軍事博物館づくしというマニアのための企画です。しかも単に見学するだけでなく、ソ連好きで軍事オタクとして知られる物理学者の多田将さんと軍事アナリストの小泉悠さんが講師役として同行、参加者は知識と好奇心を満たすことができました。残念ながらサンクトペテルブルグ国際経済フォーラムと完全に日程が重なってしまい、私は行けませんでした。そこで、行ったつもりになり、ツアーの内容を辿ってみたいと思います。(徳山あすか)


シネマ見比べ隊!!
運命を狂わせる写真の物語
『ゴースト・ブライド』VS『フリークスも人間も』

 その昔、「写真」がとても貴重であると同時に、写真を撮影することで魂が抜かれてしまうのではと恐れられた時代が日本にもありましたよね。このたびは、「写真」というメディアが人生を狂わせるというテーマで物語を紡いでいく、ゴシック・ホラーと淫靡と妖美とフェティシズムの極みと言ってよい2つの作品を見比べてみたいのです。(佐藤千登勢)


駐在員のロシア語
お世辞の効用

 お世辞を言う、ほめることは、人間関係の潤滑油になるので、使わない手はない。会社の同僚、上司と部下、親と子、恋人同士 、友達同士等いずれの関係にも当てはまる。(新井滋)


記者の「取写選択」
アフガン派兵の再評価

 モスクワの戦勝記念公園にある「インターナショナリスト戦士の像」の前に、勲章を付けた古強者が集まった。2014年2月15日、私はアフガニスタン帰還兵をたたえる集会にいた。(小熊宏尚)