ロシアNIS調査月報
2019年2月号
特集◆ロシアの輸出拡大策に
死角はないのか
特集◆ロシアの輸出拡大策に死角はないのか
INTRODUCTON
プーチン政権のロシアが描く輸出拡大の青写真
調査レポート
輸出拡大の期待を背負うロシアの農業・食品産業
データバンク
2018年版ロシア輸出企業ランキング
ロジスティクス・ナビ
ヤマルLNGに沸く北極海航路
エネルギー産業の話題
ロシアにおけるLPGの生産と輸出

調査レポート
ロシアの新興財閥とオリガルヒの現在地
イベント・レポート
変動するユーラシアと対カザフスタン投資の可能性
―カザフスタン投資プレゼンテーション報告―
イベント・レポート
第9回日本モンゴル官民合同協議会
INSIDE RUSSIA
主要ニュースで振り返る2018年のロシア
中央アジア情報バザール
2018年中央アジアの主要ニュース
ウクライナ情報交差点
ロシアが対ウクライナ追加制裁を発動
ロシア極東羅針盤
沿海地方知事に再生請負人
地域クローズアップ
ロシア南部の要衝ヴォルゴグラード州
自動車産業時評
2018年1〜9月期のロシア商用車市場
産業・技術トレンド
アントノフの復活はあるか
ロシアメディア最新事情
変化が楽しいモスクワの市場最新トレンド
デジタルITラボ
ロシアにおけるIT系オンラインメディア
ロシアと日本・
出会いの風景
ロシアと日本で大きいトイレの文化差
シネマ見比べ隊!!
至高のダンサー映画二編
ロシア音楽の世界
チャイコフスキー「白鳥の湖」
駐在員のロシア語
人事のローカライゼーション
業界トピックス
2018年12月の動き
通関統計
2018年1〜11月の輸出入通関実績
ユーラシア珍百景
最大の水力発電所と最短の路面電車
記者の「取写選択」
キューバのモスクワっ子


INTRODUCTON
プーチン政権のロシアが描く輸出拡大の青写真

 今号では、「ロシアの輸出拡大策に死角はないのか」と題する特集をお届けする。周知のとおり、2018年5月に4期目の政権をスタートさせたプーチン大統領は、「非原料・非エネルギー輸出」を2024年までに2,500億ドルに拡大するという目標を公式に表明している。当初はその数字だけが漠然と掲げられた形だったが、2018年秋頃になって、ようやくその中身らしきものが伝わってくるようになった。今回の特集では、この非原料・非エネルギー輸出の問題を中心に、それ以外の輸出に関連した話題もあわせてお伝えする。
 特集冒頭の本稿では、「非原料・非エネルギー輸出」とは具体的にどのような定義なのか、その尺度に当てはめた場合に現状でロシアの輸出構造はどうなっているのかを整理する。また、ロシア政府が示している輸出拡大の数値目標を確認し、目標達成に向けた取り組みについてもまとめる。 (服部倫卓)


調査レポート
輸出拡大の期待を背負うロシアの農業・食品産業

ロシアNIS経済研究所 副所長
服部倫卓

 別稿「プーチン政権のロシアが描く輸出拡大の青写真」でお伝えしているとおり、ロシアでは「非原料・非エネルギー商品」の輸出拡大が課題として浮上しているが、過去数年それを牽引してきたのは、農業・食品産業と、軍需産業だったと言われる。そのうち本稿では農業・食品部門の輸出の諸問題を取り上げる。具体的には、統計資料を整理してそれを吟味するとともに、政府の農産物・食品輸出拡大目標、畜産品・乳製品を中心とした輸入代替の成果、成長分野である水産業と大豆産業の動向、そして日本向け輸出の課題などについてまとめる。


データバンク
2018年版ロシア輸出企業ランキング

 ロシアの『エクスペルト』誌(2018年9月24-30日号、No.39)に、2018年版のロシア200大輸出企業ランキングが掲載されたので(2017年の輸出額にもとづいて2018年に発表されたランキングという意味)、以下で抜粋して紹介する。なお、以下で見る輸出額は、ユーラシア経済連合の域内取引である対ベラルーシ輸出、対カザフスタン輸出は含んでいない。


ロジスティクス・ナビ
ヤマルLNGに沸く北極海航路

 ヤマルLNGが計画を前倒しで出荷を進めており、同プロジェクトへの期待が高まっています。北極海航路もLNGの輸送に活気づいています。最近の動きをまとめてみました。(辻久子)


エネルギー産業の話題
ロシアにおけるLPGの生産と輸出

 LPGはブタン、プロパン等を主成分とする気体燃料で、圧縮することにより常温でも容易に液化することが可能です。ロシアでは2000年以降原油の生産量が増加した関係もありLPGの生産量と輸出量が伸びていましたが、ここ数年はいずれの数字も停滞気味となっています。さらに、2018年11月にLPGの輸出関税率が大幅に引き上げられた関係で、特に輸出に関しては不透明感が強まりつつあります。以上の状況を踏まえ、今回は、輸出に焦点をあてながらロシアのLPG市場の現状についてご紹介します。(坂口泉)


調査レポート
ロシアの新興財閥とオリガルヒの現在地

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 1990年代の半ばごろから本格化した国営石油会社「ロスネフチ」の分割民営化プロセスは非常に不透明で、破格の安値で大規模石油関連資産が次々と民間資本の手に渡るという事態が生じた。しかし、そのような強引な民営化は反動を生み、2000年代半ばごろから逆流現象が観察されるようになった。すなわち、分割民営化により誕生した大手民間石油会社がロスネフチやガスプロムといった国営企業にやはり不透明な形で吸収合併されるという流れ、換言すれば再国有化の流れが生じたのである。そして、その激しく逆行する流れの中、民営化プロセスの中で成り上がった新興財閥(オリガルヒと呼ばれることも多い)の命運が分かれることになる。再国有化の荒波に飲み込まれホドルコフスキーやベレゾフスキーなどが資産を失ったのに対し、アヴラモヴィチ、ポターニン、フリードマン、グツェリエフといった実業家たちは荒波を巧みにかわし、むしろ富を増やすことに成功した。
 石油分野から他の産業分野に目を転じれば、アルミニウム分野ではデリパスカが、石炭分野および肥料分野ではメリニチェンコが、流通分野ではケサエフなどが、やはりソ連解体後の混乱を逆手に取るような形で巨万の富を築くことに成功した。
 それらの強者たちは並外れた生命力を有しており今日まで実業界で生きながらえてきたが、不透明な形でのし上がってきた彼らへの風当たりは強く、いずれもが少しでも油断をすると足元をすくわれるという緊張した状況下におかれている(実際、マゴメドフ兄弟のように2018年春に逮捕されてしまった者もいる)。本稿では、闘争本能という名の宿業に翻弄されているようにも見える主要な新興財閥のこれまでの戦いの歴史、「戦利品」の概要、そして、彼らが直面しているそれぞれの現実(いま)をご紹介する。


イベント・レポート
変動するユーラシアと対カザフスタン投資の可能性
―カザフスタン投資プレゼンテーション報告―

 2018年12月11日(火)、東京のホテルニューオータニにおいて、(一社)ロシアNIS貿易会(ROTOBO)、日本カザフスタン経済委員会、国営企業「カザフインベスト」、在日カザフスタン共和国大使館が主催するカザフスタン投資プレゼンテーション「変動するユーラシアと対カザフスタン投資の可能性」が開催されました。
 今回のプレゼンテーションには、日本企業のカザフスタンへの投資誘致を目的に、カビケノフ・カザフスタン共和国投資・発展省次官、ならびに投資促進機関・国営企業「カザフインベスト」のカネシェフ副総裁を団長とする代表団が来日、日本側からは約60名が参加しました。
 カザフスタンでは現在、外国投資誘致のための取り組みが積極的に行われており、最新の世銀グループによるランキング「Doing Business 2019」では前年比で8位順位を上げ、28位に躍進しました。プレゼンテーションでは、カザフスタン側より順位向上に貢献した投資家支援のための法制度改革の現状に関する報告とともに、分野別の具体的投資プロジェクトの提案が行われました。またプレゼンテーション終了後には、約10件のカザフスタン代表団との個別面談が行われました。
 以下、カザフスタン投資プレゼンテーションの概要についてご報告いたします。(森彩実)


イベント・レポート
第9回日本モンゴル官民合同協議会

 2018年12月12日(水)、東京の霞山会館において「第9回日本モンゴル官民合同協議会(以下、合同協議会)」が開催された。本合同協議会は、モンゴルのフレルスフ首相の来日に合わせて開催されたものである。
 今回の合同協議会には、関芳弘・経済産業省副大臣、辻清人外務大臣政務官、小林洋一日本モンゴル経済委員会会長/伊藤忠商事兜實長(以下、会長)、吉村利治日本モンゴル経済委員会副会長/双日兜寰ミ長執行役員(以下、副会長)をはじめとする、同経済委員会会員企業代表者および日本の政府関係者、関係企業代表者が参加した。モンゴル側からは、ツォグトバータル外務大臣、オユンチメグ商工会議所会頭をはじめとして政府関係者、団体、企業関係者が参加した。以下、概要を紹介する。 (高橋浩)


INSIDE RUSSIA
主要ニュースで振り返る2018年のロシア

 プーチン大統領は、2018年末にボリショイ劇場で開催された祝賀式典で、ロシアにおける2018年の特に重要な出来事として、クリミア橋の建設、FIFAワールドカップの開催、多くの国民が「ボランティアの年」に参加してくれたことを挙げた。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
2018年中央アジアの主要ニュース

 本稿では、2018年の中央アジアの主要ニュースをお伝えする。ただ、各国の主要メディアが「主要ニュース」を発表しているわけではないので、最初にSTANRADARが2018年12月25日に発表した「2018年の中央アジアの主要な出来事」、続いて、カザフスタンとタジキスタンの通信社が発表した両国の「2018年10大ニュース」をお伝えする。詳細について、一部は各国の報道を参考にして情報を追記している。(中馬瑞貴)


ウクライナ情報交差点
ロシアが対ウクライナ追加制裁を発動

 2014年のロシアによるクリミア併合、ドンバス紛争の勃発以来、ウクライナはロシアに対する制裁を段階的に拡大し、2018年夏現在で1,748人の個人、756社の法人がそのリストに入っているということである。
 これに対する報復として、ロシアのプーチン大統領は2018年10月22日付の大統領令で、非常に踏み込んだ新たな対ウクライナ制裁を打ち出した。ロシアは2018年6月に、「米国およびその他の外国による非友好的な行為に対する報復(対抗)措置法」を成立させており、今回のウクライナに対する措置は同法が実際に適用される初めてのケースとなった。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
沿海地方知事に再生請負人

 これほど注目を集めた知事選挙は珍しい。NHKが報じたほどだ。2018年12月16日、ロシア極東の沿海地方で、知事のやり直し選挙が行われ、プーチン政権が推す与党のコジャミャコ知事代行が当選した。
 プーチン政権は「絶対に落とせない戦い」と位置づけ、候補者を替えてまでも勝利にこだわった。東方シフトを着実に進めるためにも、その玄関口である沿海地方のトップが与党系であることは絶対だった。
 自らの候補を当選させるため、なりふり構わない掟破りの選挙戦術を展開した。それはプーチン政権の強い危機感だった。
 12月、ウラジオストクを訪れた。仕事の合間に選挙を見つめた。(齋藤大輔)


地域クローズアップ
ロシア南部の要衝ヴォルゴグラード州

 ロシアの地名の1つとして、「スターリングラード」という名前を耳にしたことのある人は多いのではないだろうか。「スターリン」とは、言うまでもなく、ソ連の指導者「スターリン」こと、ヨシフ・ジュガシヴィリ(スターリンの本姓)に由来する。そして、「グラード」はロシア語で「町(街)」を意味する「ゴーラド」に由来している。つまり「スターリンの町」これが、本稿でご紹介するヴォルゴグラードのかつての名称であった。(中馬瑞貴)


自動車産業時評
2018年1〜9月期のロシア商用車市場

 ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2018年1〜9月期のロシアの商用車(トラック、バス、小型商用車)の生産、販売、輸入に関するデータを入手することができましたので、今回はそれをご紹介することにします。(坂口泉)


産業・技術トレンド
アントノフの復活はあるか

 かつて世界最大の航空機を完成させたアントノフ。その技術力については、西側でも一定の評価を得ていた。しかし、ソ連崩壊後の生産は年間数機レベルでなんとか途切れずに続いているような状態だった。そして、ウクライナ危機以降、事実上生産停止状態に陥ってしまった。元々機能不全だったものが、とどめを刺されたようなイメージである。しかし、まだ完全に潰れてはいない。復活の可能性がについて述べてみたい。(渡邊光太郎)


ロシアメディア最新事情
変化が楽しいモスクワの市場最新トレンド

 年末のある日、テレビ「ロシア24」で、モスクワの最新市場(ルイノク)を取材したドミトリー・シュガリョフの特別ルポルタージュを見ました。彼は「都市のテクノロジー」というコーナーの記者で、ロシアにおける都市生活の新しい一面について色々な面白いテーマで取材しています。今やおしゃれスポットでもあり、新グルメの発祥地でもある市場を、色々な角度から覗いてみましょう。(徳山あすか)


デジタルITラボ
ロシアにおけるIT系オンラインメディア

 インターネットが普及した現代では、多くの情報が世界中のどこからでもアクセスできるようになった。日々のニュースはいうまでもなく、多くの事柄がインターネット上で調べられるようになった。
 2000年代後半から急激にインターネット普及率が上昇したロシアでも、都市部の人々を中心に情報ソースは紙媒体から電子媒体へと移行しつつある。特に、私が軸足を置くIT分野においては、その情報ソースの多くはインターネット上で取得され、コミュニケーションの多くがオンライン上で行われる。
 今回は、IT分野やスタートアップ界隈の人々が、どのようなオンラインメディアを読んでいるかをご紹介したい。(牧野寛)


ロシアと日本・出会いの風景
ロシアと日本で大きいトイレの文化差

 だいぶ前から、一度「お手洗い」をテーマにエッセイを書けないかと悩んでいた。お手洗いの文化、そしてお手洗いという言葉自体に対する態度は国や地域によって異なり、それは日本人とロシア人の間とて例外ではない。もっと現実的なことを言えば、お手洗いは文化云々以上に、社会インフラの重要な一部でもある。そして、公衆トイレまたはその「制度」や「ネットワーク」は、ある意味で経済の問題でもあり、それぞれの国の観光資源にも関わるような重要な要素だと思う。(D.ヴォロンツォフ)


シネマ見比べ隊!!
至高のダンサー映画二編
『ロパートキナ 孤高の白鳥』VS『ダンサー、セルゲイ・ポルーニン』

 このたびは、世界にアピールするロシア芸術の一つ、ロシア・バレエを支える凄絶なまでのエネルギーそのものをその目で見ることができる驚くべきドキュメンタリー映画二編をご紹介します。(佐藤千登勢)


ロシア音楽の世界
チャイコフスキー「白鳥の湖」

 2018年12月6日の東京文化会館での「白鳥の湖」の初日を聴いた。私の場合はステージ上の踊りよりも、舞台下で奏でられるバレエ音楽の方に、より興味があるので、バレエを「観た」というより「聴いた」という感じなのである。座席も、オケ・ピット内の指揮者やフルート奏者が良く見える、2階、3階が好きである。私の視線も公演時間の半分は、暗がりのオケ・ピット内へ注がれている。この日の公演についても、バレエの専門的なことは余り判らないので、チャイコフスキーの「音楽」の素晴らしさに酔いしれた3時間であった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


駐在員のロシア語
人事のローカライゼーション

 日本の終身雇用制度は崩れつつあると言われて久しいが、新卒者の一括大量採用、育成プログラム、年功序列型報酬制度が完全に消え去ったわけではない。新卒者の大量採用はいまだに続いているし、年功システムベースの成果主義だったりしている。雇用市場が流動化してきたと言っても、まだ欧米の比ではない。正社員を解雇することはまだまだ難しい。ロシアを含め海外に出ていき新たに人事制度を構築しようとする際に、こうした日本的雇用慣行が世界的に見るとガラパゴス的なものであることを改めて認識することは極めて重要だ。(新井滋)


ユーラシア珍百景
最大の水力発電所と最短の路面電車

 シベリアのハカス共和国には、ロシアで最も短い路面電車路線のひとつ、チェリョームシキ路面電車が走る。チェリョームシキ村とロシア最大の水力発電所のサヤノ・シュシェンスカヤ水力発電所を結ぶ全長5.36qの単線の路面電車で、停留所は9つ、始発駅から終着駅までの所要時間は約15分。(斉藤いづみ)


記者の「取写選択」
キューバのモスクワっ子

 カリブ海の社会主義国キューバ。観光ガイドに載る首都ハバナの写真にはたいてい1950年代のど派手なアメリカ車が写っている。米国の強い影響下にあった革命前の車が今も大切にされ、カラフルなボディーが南国の陽光に映える。
 私が学生だった80年代、ソ連の新聞はキューバを「自由の島」と呼んだ。米国からの解放≠含意するイデオロギー的表現だが、実は米国製オープンカーが椰子の木の下を行き交う開放的イメージを暗に込めたのか―。昨年末に私が初めてこの国を訪れた時、こんな妄想が頭をかすめた。
 しかし、街を走る車は今も一見して米国車よりソ連から輸入された車が多い。ソ連車のほとんどが小型のラーダとモスクヴィッチ。現地では今も「迫力の米国車」と「台数のソ連車」が東西の横綱なのだ。(小熊宏尚)