ロシアNIS調査月報
2019年5月号
特集◆新時代の多様な
日ロ経済関係を目指して
特集◆新時代の多様な日ロ経済関係を目指して
ご挨拶
ロシアNIS経済研究所創立30周年のご挨拶
調査レポート
ロシア経済に生じた異変
―2018年マクロ実績の分析―
調査レポート
2018年のロシアの石油ガス産業
―好調な数字の背景に潜む現実―
調査レポート
EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ
イベント・レポート
モスクワでジャパンビューティーウィーク開催
データバンク
2018年の日ロ貿易統計
―緩やかな回復基調が継続―
ビジネス最前線
FAとエアコンでロシア社会に貢献
INSIDE RUSSIA
動き出したロシアのナショナルプロジェクト
ロシア極東羅針盤
融通無碍な極東新型特区
地域クローズアップ
指導部若返りで発展を目指すクルスク州
自動車産業時評
2018年のロシア商用車市場
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道の利用促進へ官民協力
産業・技術トレンド
ロシアのハイテク電子材料メーカー
デジタルITラボ
IT大国ロシアのハッカソンイベント
ロシアと日本・
出会いの風景
ロシア人が日本の道路をドライブしてみた
闘球よもやま話
日本とロシアがラグビーW杯開幕戦で対決

ウクライナ情報交差点
ケルチ・アゾフ危機渦中のウクライナ港湾実績
中央アジア情報バザール
「国民の指導者」ナザルバエフ
ロシアメディア最新事情
個性派ぞろい! ロシアの人気司会者(男性編)
ロシア音楽の世界
ダスビダーニャ、ショスタコーヴィチ!
駐在員のロシア語
呼びかけ方
業界トピックス
2019年3月の動き
通関統計
2019年1〜2月の輸出入通関実績
おいしい生活
PERONIのハニースフレ
記者の「取写選択」
ナザルバエフの花道


ご挨拶
ロシアNIS経済研究所創立30周年のご挨拶

 私ども「ロシアNIS経済研究所」は、この4月1日をもって創立30周年を迎えました。これもひとえに日頃の皆様のご支援、ご愛顧の賜物であり、心より感謝申し上げます。(服部倫卓)


調査レポート
ロシア経済に生じた異変
―2018年マクロ実績の分析―

北海道大学スラブ・ユーラシア研究センター 教授
田畑伸一郎

 2018年のロシアの経済成長率(GDP成長率)は2.3%となり、2013年以降では最も高い成長率となった。これは、油価の上昇によるところが大きかったが、油価上昇にもかかわらず、ルーブルが安くなったことが2018年のロシア経済に生じた最大の異変であった。これには、2018年の4月と8月に行われた米国の追加経済制裁が大きく影響したと考えられる。油価が上昇して輸出額が増加したにもかかわらず、ルーブル減価により輸入額がそれほど増加しなかったため、貿易黒字額は2011年に次ぐ2番目の大きさ、経常黒字額は史上最大となった。経常黒字の増大により、大幅な資本流出と外貨準備の増加がもたらされることとなった。ロシア経済は、これまで、油価が高騰するとルーブル高となって輸入が増えるという形でオランダ病に苦しめられてきた。しかし、2018年はルーブル安となったので、実質で(数量ベースで)石油・ガス以外の輸出がかなり増加し、輸入の増加は抑制された。このため、純輸出が伸び、外需が経済成長に大きく貢献した。さらに、油価上昇とルーブル減価が同時に生じたため、石油・ガスの国際市場価格に大きく依存する国家財政歳入が大幅に増加した。財政状況が一気に改善され、大幅な黒字を記録することとなった。このように、2018年のロシア経済は、従来とは異なるいくつかの異変により、意図しない形で改善が見られた点も数多くあった。他方で、投資の増加や製造業の発展など、プーチン政権の重点課題については、それほどの成果は見られなかった。


調査レポート
2018年のロシアの石油ガス産業
―好調な数字の背景に潜む現実―

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 本稿では、油価の動向に大きな影響を及ぼすOPEC+との協調減産の行方、資源大国「ロシア」で確実に進行しつつある石油ガスの資源の枯渇プロセス、日本でも注目を集めている北極圏のLNGプロジェクトなどに焦点をあてながら2018年のロシアの石油ガス分野を回顧する。


調査レポート
EUの鉄鋼市場とロシア・ウクライナ・ベラルーシ

ロシアNIS経済研究所 副所長
服部倫卓

 日本とロシア・NIS諸国の間では、鉄鋼の直接的な貿易は盛んとは言えない。日本側の輸出では、ステンレス鋼や鋼管が一定量輸出されている程度である。日本側の輸入は、圧倒的にフェロアロイに偏重しており、一般的な鋼材の類はほとんど輸入されていない。
 しかし、ロシア、ウクライナでは鉄鋼が基幹産業の一つとなっており、ベラルーシなどでも意外にその重要性は高い。同諸国の産業・通商動向をウォッチする上では、鉄鋼業を視野に入れることが必須となる。
 鉄鋼業は、世界的に保護主義が最も横行する産業部門である。米トランプ政権が導入した25%関税がロシア鉄鋼業に及ぼす影響については、1年前のレポートで論じた。今回は、そのトランプ関税に触発される形で発動された欧州連合(EU)による鉄鋼緊急輸入制限の問題を取り上げ、EU市場を主たる販路の一つとしているロシア、ウクライナ、ベラルーシの鉄鋼業への影響につき概観することにする。


イベント・レポート
モスクワでジャパンビューティーウィーク開催

 今般、日本の化粧品・美容関連製品の海外販路開拓・拡大に資することを目的に、日本の化粧品等の高品質・高機能といった魅力を発信するプロモーションイベント「JAPAN Beauty Week in Russia 2019(以下JBW)」を2019年2月にモスクワのショッピングセンター「アトリウム」および在ロシア日本国大使館で開催した。アトリウムでのPRイベントには日本の化粧品・美容関連製品企業5社が出展し、約1,000名の来場客が訪れた。大使館でのセミナー&交流会には日本化粧品工業連合会(以下JCIA)および日本企業6社によるプレゼンテーション交流会が実施され招待客82名、日本側からは約60名の合計約140名が参加した。(斉藤いづみ)


データバンク
2018年の日ロ貿易統計
―緩やかな回復基調が継続―

 例年どおり、日本財務省の貿易統計にもとづいて、2018年の日本とロシアの貿易に関し、データをとりまとめて紹介する。すでに、本『月報』2019年3月号、『ロシアNIS経済速報』2019年2月5日号(No.1783)において、2018年の日ロ貿易を速報値で紹介済みだが、本レポートでは確定値を掲載する。
 2018年の日ロ貿易は、輸出入合計で228億7,445万ドルとなり、前年比15.5%増となった。日本側の輸出は72億9,733万ドル(21.5%増)、輸入は155億7,713万ドル(12.9%増)であった。(中居孝文)


ビジネス最前線
FAとエアコンでロシア社会に貢献

三菱電機ロシア 社長
小野田宏幸さん

 総合電機メーカーの三菱電機は、電機に関わる製品を幅広く販売する企業として活躍しています。ロシアには1997年から駐在員事務所を設け、エアコンとファクトリーオートメーション(FA)のビジネスを中心に活動しています。今回は、三菱電機ロシアの小野田社長に三菱電機のロシアビジネスや、今後の展開、ロシア社会への貢献、ロシアにどのように浸透していくかについてお話を伺いました。(渡邊光太郎)


INSIDE RUSSIA
動き出したロシアのナショナルプロジェクト

 2018年5月7日に4期目の政権をスタートさせたプーチン・ロシア大統領は、一連の「ナショナルプロジェクト」を策定し、重要な政策課題に取り組もうとしている。ナショナルプロジェクトに関してはすでに拙攻で論じているが(「ロシア経済は悲観論を払拭できるか」『ロシアNIS経済速報』2019年1月15日号、No.1781など)、ここで改めてその基本点を記しておくことにする。(服部倫卓)


ロシア極東羅針盤
融通無碍な極東新型特区

 先進社会経済発展区(新型特区、TOR)は、プーチン政権の極東開発政策の中心に位置している。税の優遇措置や大胆な規制緩和が受けられる特別なエリアをつくり、ビジネスのしやすい環境を創出することで、国内外から投資を呼び込もうというもので、投資誘致の柱となっている。(齋藤大輔)


地域クローズアップ
指導部若返りで発展を目指すクルスク州

 ロシアにある程度精通している人であっても、クルスクと聞いて思い浮かべることと言えば、日本でも比較的大きく報道された2000年8月にバレンツ海沖で沈没事故を起こした原子力潜水艦の名前くらいだろう。
 そんなクルスク州で2018年10月に現職知事として当時3番目の長期政権を率いていたアレクサンドル・ミハイロフ知事が任期満了前に辞任を表明した。任期満了前の首長の辞任は決して珍しいことではないが、辞任の前日に彼が調印した州政府決定は非常に「権威主義的」で注目に値する。18年間の長期政権を率いてきたミハイロフ(67歳)の後任として、元連邦運輸省次官のロマン・スタロヴォイト(46歳)が知事代行に就任した。 (中馬瑞貴)


自動車産業時評
2018年のロシア商用車市場

 ロシアの調査会社「ASMホールディング」より、2018年通年のロシアの商用車(トラック、バス)の生産、販売、輸入に関するデータを入手することができましたので、今回はそれをご紹介することにします。(坂口泉)


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道の利用促進へ官民協力

 国土交通省は2018年、シベリア鉄道の利用促進に向けて、試験輸送を支援するパイロット事業を実施しました。その成果と今後の展望を紹介します。(辻久子)


産業・技術トレンド
ロシアのハイテク電子材料メーカー

 サファイアと言えば青い宝石であるが、同じ組成の結晶を人工的に作った人工サファイアは電子部品に欠かせない素材となっている。電子材料は日本が強い分野であるが、一般論ではロシアが強い分野ではない。しかし、人工結晶に関しては、ソ連時代から技術を蓄積し、現在でも業界で一定の評価を得ている。ロシアのモノクリスタル社は人工サファイアの結晶製造で、世界一のシェアを持つ企業で、ロシアのハイテク系製造業では稀な優良企業である。今回はモノクリスタル社について紹介する。(渡邊光太郎)


デジタルITラボ
IT大国ロシアのハッカソンイベント

 先日、ロシア版グーグルであるヤンデックス社と高等経済学院が開催するハッカソンイベントに参加してきた。世界中から優秀なITエンジニアを集めるこのイベントは、IDAOと呼ばれ、世界78カ国から応募があり、30近いチームが参加する。今年は、開催史上初めて日本チームが応募し、ファイナリストとしてモスクワ本戦へのチケットを手に入れた。私は、高等経済学院のコンピュータサイエンス学部から、日本チームの勧誘を依頼された経緯もあり、特別に会場に入れてもらうことができた。今回は、ロシアにおけるハッカソンイベントについて見ていこうと思う。(牧野寛)


ロシアと日本・出会いの風景
ロシア人が日本の道路をドライブしてみた

 2011年に日本の運転免許証を取得した。以来、100台以上の自動車を日本で運転してきた。都内在住の人と同様、高額な維持コストの観点から東京で自動車を所有しようとは考えたことがなかったが、レンタカーはよく利用する。家族と一緒に旅行する場合だとなおさら自動車の方が経済的だし、何よりも自動車でしか行けない日本の田舎の隅々まで行けるのが私の楽しみだ。レンタカーに乗って日本を旅行するのは最高に気分が良い。(D.ヴォロンツォフ)


闘球よもやま話
日本とロシアがラグビーW杯開幕戦で対決

 今年日本で開催されるラグビーワールドカップ(W杯)。9月20日の開幕戦で日本代表は、ロシア代表を迎え撃つことになった(@東京スタジアム)。日本が初戦に勝って弾みをつけるためにも、まず「敵を知る」ことが大事だろう。以下では、ロシアのラグビー事情について語ってみたい。(服部倫卓)


ウクライナ情報交差点
ケルチ・アゾフ危機渦中のウクライナ港湾実績

 本コーナーでは、ウクライナの港湾による取扱貨物量の統計を折に触れ掲載しているが、このほどウクライナ・インフラ省港湾管理公社より2018年の実績値が発表されたので、2013〜2018年の貨物のカテゴリー別、港湾別、貨物の種類別のデータを表に整理してお伝えする。2014年のウクライナの政変からちょうど5年が経ったところなので、同国に生じた経済変動を振り返るには良い機会であろう。(服部倫卓)


中央アジア情報バザール
「国民の指導者」ナザルバエフ

 2019年3月19日、約30年間、カザフスタンの大統領を務めたヌルスルタン・ナザルバエフが突如、大統領辞任を表明した。長期政権が主流の中央アジアにおいて、その象徴ともいえるカザフスタンだが、結果的には中央アジアで初めて自発的に国家元首が辞任を表明した国となった。しかし、現地メディアで伝えられているように、厳密にいえば、ナザルバエフは「大統領権限を停止した」ものの、国家の指導的立場は維持し続けることになる。それは一体どういうことか。今回カザフスタンで起きた「政権交代」について改めてまとめておきたい。(中馬瑞貴)


ロシアメディア最新事情
個性派ぞろい! ロシアの人気司会者(男性編)

 ネット社会になっても、テレビの影響がまだまだ大きいのがロシア。今回は、知っておくとテレビがおもしろくなる(かもしれない)有名司会者をご紹介しましょう。これをネタにロシア人と話が盛り上がるかもしれません。(徳山あすか)


ロシア音楽の世界
ダスビダーニャ、ショスタコーヴィチ!

 オクチャーブリ、カムーナ、レーニン!!(十月革命、コミューン評議会、レーニン!!) 2,000人近くが集う会場のステージの上で、このシュプレヒコールが叫ばれた。1917年のペトログラードでの話ではなく、2019年3月3日(日)池袋の東京芸術劇場での出来事である。政治団体の決起集会でも、東京外国語大学か上智大学のロシア語劇のステージでもない。オーケストラ・ダスビダーニャの第26回定期演奏会、コンサートのステージである。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


駐在員のロシア語
呼びかけ方

 ロシアの会社組織のなかでは上司は部下をТы 、部下は上司をВы、同じレベルの人同士ではТыのようだ(例外あり)。その一方、職業グループ内の約束事も作用する。(新井滋)


おいしい生活
PERONIのハニースフレ

 2019年3月に幕張で開催されたFOODEX JAPANでモスクワ市のパビリオンにPERONIが出展していた。PERONIのハニースフレは、色鮮やかでお洒落で美味しい。(斉藤いづみ)


記者の「取写選択」
ナザルバエフの花道

 最上座に立ち、笑顔で拍手するエリツィン大統領とフランスのシラク大統領。エリツィンの隣でプーチン氏が斜に構え、冷たい視線を送る。シラクの背後にはブッシュ米大統領やブレア英首相、彼らの陰には小泉純一郎首相も―。
 一堂に会した旧ソ連と世界主要国の指導者を左右に立たせ、中央を歩くカザフスタンのナザルバエフ大統領。そんな場面を描いた大きな絵が首都アスタナ(現ヌルスルタン)の独立宮殿内に掲げられている。大統領就任式らしい。 (小熊宏尚)