ロシアNIS調査月報
2020年3月号
特集◆ロシア・NIS電力業
の諸様相
 
特集◆ロシア・NIS電力業の諸様相
調査レポート
投資活性化の兆しを見せるロシアの電力業
エネルギー産業の話題
ロスアトムの海外進出とNIS諸国の原発
地域クローズアップ
水力発電が盛んなイルクーツク州
中央アジア情報バザール
中央アジア諸国の電力事情
ミニ・レポート
ユーラシア経済連合の共同電力市場
データバンク
ロシアの地域別発電データ

調査レポート
2020年代のロシア・ユーラシア地域秩序を占う
INSIDE RUSSIA
メドヴェージェフ内閣からミシュスチン内閣へ
デジタルITラボ
ロシアEコマースのマーケットプレイスモデル
ロシア極東羅針盤
揺れる中国・ロシア国境の橋
ロジスティクス・ナビ
シベリア/ユーラシア鉄道網のコンテナ輸送-2019
データバンク
2019年の日ロ貿易(速報値)
ウクライナ情報交差点
ウクライナで一人気を吐く農業
ロシアメディア最新事情
ロシアの値上げの季節
産業・技術トレンド
モスクワ宇宙博物館案内
ロシア音楽の世界
ウラジオストクでの日露文化交流コンサート
ロシアと日本・
出会いの風景
ロシア人が日本で健康診断を受けてみる
駐在員のロシア語
ロシア文学のすゝめ(2)
業界トピックス
2020年1月の動き
通関統計
2019年1〜12月の輸出入通関実績(速報値)
おいしい生活
ペテルブルグのチョコ「お菓子」は日本の味
記者の「取写選択」
メドヴェージェフの憂鬱


調査レポート
投資活性化の兆しを見せるロシアの電力業

ロシアNIS経済研究所 嘱託研究員
坂口泉

 ロシアでは2009年から投資義務契約と呼ばれる制度に基づき多数の新発電ユニットの建設が行われてきたが、2019年で工事はほぼすべて完了し当面は電力分野の設備投資額が縮小するのは避けられないとみられている。そのような状況を受け、ロシア政府は2022年より既存の発電ユニットの設備更新に投資義務契約制度を適用することを決定し、2019年春と秋に対象となるプロジェクトを選定するコンペを実施した。また、2025年からは投資義務契約制度に基づく再生可能エネルギー発電ユニットの建設も新たに開始されることになっており、2022年以降ロシアの電力分野で設備投資が再び活性化する可能性が高まっている。
 ただ、投資義務契約という制度の問題点を指摘する声も少なくない。そこでは、電力の大口需要家に割高な料金を適用しそこから得られる資金で設備投資もしくは設備更新を行うというスキームが採用されているからだ。すなわち、投資義務契約は大口需要家に大きな負担を強いる制度だといえる。その他、発電部門のみならず送配電部門においても同様に大口需要家に負担を強いる措置が講じられている。このような歪な電力政策に関しては批判の声も少なくないが、厳しい財政運営を強いられているロシア政府はそれらの批判を半ば無視し大口需要家への依存度をさらに強めようとしている。本稿では、投資活性化の兆しとその背後に潜む大口需要家の負担増の問題に焦点を当てながら、2019年のロシアの電力分野を回顧する。


エネルギー産業の話題
ロスアトムの海外進出とNIS諸国の原発

 ロシア国内で原子力発電所の建設と運営を独占的に行っている国家コーポレーション「ロスアトム」は海外進出にも積極的で、これまでに旧ソ連諸国の他に、中国、インドなどで原子力発電所を建設した実績を有しています。同社は外国でのプレゼンスをさらに強化することを目指しており、複数の国で原子力発電所の建設に取り組んでいますが、本稿では、それらの中で特に注目される動きをご紹介します。(坂口泉)


地域クローズアップ
水力発電が盛んなイルクーツク州

 ロシアの総発電量の約20%を占める水力発電。第3のブラーツク水力発電所および第4のウスチ・イリム水力発電所が位置するのはイルクーツク州だ。イルクーツク州の水力発電量はロシア全体の約20%を占め、前述の2地域に次ぐ連邦第3位の発電量を誇る。言うまでもなく、水力発電が盛んな地域は水資源が豊富である。イルクーツク州は世界最大の貯水量を誇るバイカル湖に面しており、そのバイカル湖の水が流れ出る唯一の河川であるアンガラ川が流れている。観光地として知られるバイカル湖だが、イルクーツク州の主な水力発電の源であり、同州の経済・産業を支える重要な水資源なのである。(中馬瑞貴)


中央アジア情報バザール
中央アジア諸国の電力事情

 2018年10月、国連アジア太平洋経済・社会委員会(UN ESCAP)が「中央アジアのエネルギーと発展」と題するエネルギー部門の統計をまとめた報告を発表した。少し古いデータではあるが、中央アジアの中には包括的な統計情報を確認することが難しい国も含まれており、中央アジア全体のエネルギー事情を知るには有益な資料である。そこで本稿ではこの資料を抜粋して紹介する。(中馬瑞貴)


ミニ・レポート
ユーラシア経済連合の共同電力市場

 ロシア、ベラルーシ、カザフスタン、キルギス、アルメニアの5ヵ国から成るユーラシア経済連合では(ちなみに、5ヵ国が世界の発電に占めるシェアは5.1%)、「共同電力市場」を形成することが決まっている。これは、2014年5月に調印されたユーラシア経済連合条約の第81条、第82条で、あらかじめうたわれていた。ちなみに、ユーラシア経済連合条約では、共同ガス市場(第83条)、共同石油・石油製品市場(第84条)に関しても同様の扱いとなっている。(服部倫卓)


調査レポート
2020年代のロシア・ユーラシア地域秩序を占う

ロシアNIS経済研究所 副所長
服部倫卓

 本稿では、2020年の年頭に当たって、当会の事業対象国であるロシア・NIS諸国の政治・経済・国際関係の動向を概観することを試みる。その際に、この地域の盟主的な存在であるロシアと、その他のNIS諸国との関係性に重点を置きながら、またロシアと欧州連合(EU)および中国という外部勢力との相克に着目しつつ、各国の国情を見ていくことにする。
 ロシアの主導によりユーラシア経済連合が発足したのは2015年1月1日だったので、ちょうど5年間が経過したところである。それに至る過程では、ロシアによるユーラシア統合のイニシアティブと、EUによる「東方パートナーシップ」がせめぎ合い、ウクライナ危機という未曽有の地政学的危機を招来することとなった。それをめぐるロシアと欧米の対立は、いまだに解消していない。しかし、いったんは「親ロシア」と「反ロシア」に色分けされたかに思われたユーラシアの地図は、ここに来て変容の兆しも見せており、2020年代のロシア・ユーラシアの地域秩序の見通しは混沌としてきている。
 なお、本稿は『ロシアNIS経済速報』2020年1月15日号(No.1814)、1月25日号(No.1815)に掲載した同名の拙稿を、若干の修正の上で再録するものである。


INSIDE RUSSIA
メドヴェージェフ内閣からミシュスチン内閣へ

 ロシアのプーチン大統領は1月15日の教書演説で、憲法改正に関する一連の提案を示した。今回の改憲提案は、プーチン現大統領の任期が切れる2024年後も、プーチンが何らかの形で権力・影響力を維持し続けるための布石と見る点で、衆目は一致している。しかし、憲法改正をめぐる動きはまだ流動的なので、今回は詳述を避け、改憲提案と同日に発表されたメドヴェージェフ内閣の総辞職と、ミシュスチン新内閣の誕生を取り上げる。(服部倫卓・中馬瑞貴)


デジタルITラボ
ロシアEコマースのマーケットプレイスモデル

 日本のインターネットショッピング大手、楽天の送料無料施策が問題になっている。筆者は、社会人としての最初のキャリアを同社のEコマース事業部で始めた経緯もあり、その動向は気になるところなのだが、一方で、マーケットプレイスモデルは世界中に存在し、出店者の運営の自由度と、ユーザーの購入体験とのバランスという同じような課題を持っていると思っている。今回は、ロシアのEコマースにおけるマーケットプレイス事業者を中心に焦点をあててみたいと思う。(牧野寛)


ロシア極東羅針盤
揺れる中国・ロシア国境の橋

 4,200kmにわたって国境を接し、ロシアにとって重要な政治・経済のパートナーである中国。両国の国境往来ルートといえば、いまでも沿海地方とザバイカル地方であるが、ここ数年の関係強化によって、国境交流を強化する動きが出てきている。アムール州のブラゴヴェシチェンスクと黒竜江省の黒河との間に自動車橋をつくるプロジェクトと、ユダヤ自治州のニジネレニンスコエと黒竜江省の同江との間に鉄道橋をつくるプロジェクトがそれぞれ進んでいる。アムール州の自動車橋は本誌2019年7月号で紹介した。今回はユダヤ自治州の鉄道橋プロジェクトを紹介する。(齋藤大輔)


ロジスティクス・ナビ
シベリア/ユーラシア鉄道網のコンテナ輸送-2019

 シベリア鉄道(TSR)からユーラシア横断鉄道網へ、線から網へ地理的拡大が進んでいます。中国・韓国・日本とロシア・欧州を複数の鉄道ルートで結ぶコンテナ輸送の動向を最新データで示します。(辻久子)


ウクライナ情報交差点
ウクライナで一人気を吐く農業

 2019年のウクライナ経済では、鉱工業と農業とで、明暗が分かれている。2019年のウクライナの鉱工業生産は、前年比1.8%減となった。そうした中、2019年のウクライナの農業生産は前年比1.1%増を記録した。うち、耕種農業が1.3%増、畜産は3.5%減となっている。(服部倫卓)


ロシアメディア最新事情
ロシアの値上げの季節

 筆者はロシア生活7年目ですが、ここに暮らしている間、どんどんモノの値段が上がっているような気がしています。この2月も、中途半端な時期でありながら、色々な値上げのニュースが飛び込んできました。(徳山あすか)


産業・技術トレンド
モスクワ宇宙博物館案内

 2019年、モスクワで新たな宇宙博物館が開館した。かつて、VDNKhの奥まった場所に宇宙開発の成果を展示するコスモスパビリオンがあったが、ソ連崩壊後にイベントスペースとなっていた。この元コスモスパビリオンが、2019年に宇宙博物館として復活した。VDNKhの周辺には宇宙飛行士博物館があり、また、復活したコスモスパビリオンの近くには、ソ連版スペースシャトルであるブランの試験機が展示され、宇宙関連の観光地が集まる地区として発展しているように見える。ロシアは現在でも宇宙大国として知られるが、ロシアを訪問する日本人には、せっかくロシアに来たのだから宇宙関連の場所を訪れたいという需要は存在する。今回は、モスクワ周辺の宇宙関連の博物館を紹介する。(渡邊光太郎)


ロシア音楽の世界
ウラジオストクでの日露文化交流コンサート

 前号では、2017年3月16日(木)に開催されたショスタコーヴィチ、リムスキー=コルサコフ、チャイコフスキーの各作曲家の協奏曲における日本人ソリストと現地ロシアのオーケストラとの共演についてレポートし、また、公演会場となったマリインスキー劇場沿海舞台の本部であるサンクトペテルブルグのマリインスキー劇場の歴史・沿革について解説した。今回はその続編として2019年にマリインスキー劇場沿海舞台でのオーケストラ公演と共に、ウラジオストクの大学ホールで催した、「レクチャーコンサート」の模様もレポートする。(ヒロ・ミヒャエル小倉)


ロシアと日本・出会いの風景
ロシア人が日本で健康診断を受けてみる

 健康診断は、日本が世界のリーダーである分野のひとつだと思う。ロシア人の友人の何人かが韓国または中近東のある国、そして欧州の先進国の一部の国で健康診断を受けたことがあって、それらの国を褒めているのだが、そちらは施設または設備のレベルとしては最高かもしれないが、システムに関しては日本が一番なのではないかと思う。日本の健康診断は、個々の施設の技術レベル、あるいはそこに設置されている医療機器のレベルの高さよりも(それもかなり高いだろうが)、システム、もっというと社会的ミッションとして価値が高いと思うのだ。健康診断というのは日本全国で同じレベル、同じ手順や同じクライテリアによって考案され維持されており、何十年間もずっと維持されていて、途中で改善されつつ、国民の豊かで長い人生、長い寿命に貢献しているものだ。(D.ヴォロンツォフ)


駐在員のロシア語
ロシア文学のすゝめ(2)

 2018年2月号に続き、「ロシア文学のすゝめ」パート2をお届けする。題材は、パート1でも少し触れた「ワーニャ伯父さん」だ。年老いた元教授・セレブリャコフが家族を前に一つの提案をするシーンがビジネスロシア語の事例にあふれているので、そのいくつかをシェアしたい。(新井滋)


おいしい生活
ペテルブルグのチョコ「お菓子」は日本の味

 サンクトペテルブルグの「お菓子」社は日本から原材料を仕入れ、抹茶チョコレート、紫芋チョコレート、黒ゴマチョコレート、ゆずチョコレート等を製造している。パッケージとチョコレートに書かれた「お菓子 OKASI」の文字が目を引く。(斉藤いづみ)


記者の「取写選択」
メドヴェージェフの憂鬱

 「私は成功した人間として、法律家として、国家機関がどう機能しているかよく分かっているつもりだった」「私は間違っていた。それは極めて複雑かつ恐ろしいものだったのだ」
 メドヴェージェフは職を辞すると決めた後の支持者集会でこう嘆いた。2020年1月に首相ポストを事実上解任された際の話ではない。大統領を1期4年務めただけでプーチンと交代すると発表して間もない2011年10月のことだ。発言は国営テレビで中継されていた。(小熊宏尚)