ロシアNIS調査月報2020年11月号特集◆転換期のロシア極東経済 |
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特集◆転換期のロシア極東経済 |
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調査レポート |
ロシア極東の港湾と北極海航路 ―2019〜2020年春の動きを中心に― |
調査レポート |
ロシアの漁業分野の最新動向 ―極東での動きを中心に― |
調査レポート |
2019年のロシア極東の貿易 |
調査レポート |
連邦下院選挙を見据えたロシア地域最新情勢 |
地域クローズアップ |
「新しい極東」ザバイカル地方に期待の新知事 |
デジタルITラボ |
ウラジオストクのスタートアップ企業を紹介 |
おいしい生活 |
沿海地方「ドブロフロート」の魚缶詰 |
調査レポート |
ロシアにおける5G対応の諸問題 |
ロシアの二国間関係 |
トルコはロシアの戦術的パートナー |
INSIDE RUSSIA |
ロシアはベラルーシをどう「処分」するのか |
シリーズ 工業団地探訪 |
ロシアにおける工業団地とは? |
HOW TO ビジネス実務 |
ロシア会計:歴史と概観 |
ロシアメディア最新事情 |
ロシアのジュエリーメーカーを取材 |
ロジスティクス・ナビ |
シベリア鉄道:欧州向けトランジット輸送へ前進 |
エネルギー産業の話題 |
欧州市場で苦戦するガスプロム |
自動車産業時評 |
2020年上半期のロシア商用車市場 |
産業・技術トレンド |
ソ連の金星到達50周年 |
中央アジア情報バザール |
中央アジアの2020年上半期経済 |
ウクライナ情報交差点 |
様変わりするウクライナのエネルギーバランス |
ロシア音楽の世界 |
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番 |
駐在員のロシア語 |
雑談力2 |
業界トピックス |
2020年8−9月の動き |
通関統計 |
2020年1〜8月の輸出入通関実績 |
記者の「取写選択」 |
ナヴァリヌイは死なず |
調査レポート
ロシア極東の港湾と北極海航路
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究
Ye.ザオストロフスキフ
ヤマルLNGプロジェクトやアークティック2LNGプロジェクトの始動によって北極海航路が注目されている。また北極海航路の発展は、カムチャッカのハブ機能強化などロシア極東港湾の活性化にも好影響をもたらすのではないかと期待されている。
本稿では、上記の点を踏まえて、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のエレーナ・ザオストロスキフ研究員に、ロシア極東の港湾の現状と発展計画、北極海航路の開発とそれにともなう極東港湾への影響に関するレポートを作成していただいた。以下では、その内容をご紹介する。
調査レポート
ロシアの漁業分野の最新動向
―極東での動きを中心に―
ロシアNIS経済研究所 名誉研究員
坂口泉
ロシア産のカニやスケコ(スケトウダラの卵巣)は日本の一般の人々にもよく知られた存在だが、それらの水産物の大半は極東地方の漁業水域で漁獲される。また、ニシン(数の子)やサケ類(イクラ)の主要漁場も極東地方である。内外で人気のある魚種の大半がロシア極東で漁獲されると考えてよいだろう。全体の数量で見ても極東漁業水域のプレゼンスが圧倒的に強くなっており、2019年にロシアで漁獲された水産物の7割弱が極東の漁業水域(オホーツク海、ベーリング海、日本海)産であった。大手水産会社も極東地方に集中しており、本稿で紹介する大手13社の大半が同地方を活動拠点としている。しかも、極東地方出身もしくは同地方と密接な関係を有する人物が率いる地元密着型の企業が多い。極東はロシアの漁業分野の代名詞的存在だといっても過言ではないだろう。本稿では、ロシアの漁業分野の最新動向をご紹介する。
調査レポート
2019年のロシア極東の貿易
ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
D.イゾトフ
ロシアNIS貿易会では、ハバロフスクにあるロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のイゾトフ研究員より、「2019年のロシア極東の貿易」に関するレポートを寄稿いただいた。本稿では2019年までの過去10年間のロシア極東における貿易動向の主要トレンドが解説されている。なお、本稿における「ロシア極東」とは、2018年11月に極東連邦管区に編入されたブリヤート共和国とザバイカル地方を含む11の連邦構成主体からなる地域を意味する。
調査レポート
連邦下院選挙を見据えたロシア地域最新情勢
ロシアNIS経済研究所 研究員
中馬瑞貴
2020年のロシアで国内情勢を揺るがしているのはコロナ問題だけではない。極東のハバロフスク地方や北極圏のネネツ自治管区など、一部地域で政権に対する反発が強まっている。2020年7月1日に行われた憲法改正のための国民投票では、連邦全体として十分な支持を得たものの、一部地域では反発も強かった。特に隣接地域との合併問題で住民が地元政府に反対を表明したネネツ自治管区では、投票率を加味した絶対賛成票率(有権者に対する賛成票の比率)が最も低く、単純な賛成票率を見ても唯一、過半数を下回る結果となった。野党知事が率いてきたハバロフスクやイルクーツク州でも投票率・支持率ともに低く、連邦政府への支持が盤石ではないことが露呈した。
国民投票の直後、ハバロフスクでは現職知事が殺人および殺人未遂で逮捕されるという前代未聞の事態が発生した。衝撃的な逮捕を不当とみなす地元住民から強い反発が起こり、抗議運動は、3カ月以上が経過した今もなお続いている。
一方、地域情勢が揺らぐ中で行われた2020年9月の統一地方選挙は2021年に予定されている連邦下院選挙の前哨戦でもあったわけだが、統一ロシアがほぼ全域で勝利を確実にする無風の結果となった。
本稿では、コロナ禍で様々な動きを見せる地域情勢とほぼ無風選挙となった統一地方選挙の格差に注目しながら、ロシア地域の最新情勢について2021年連邦下院選挙も見据えながら概説する。
地域クローズアップ
「新しい極東」ザバイカル地方に期待の新知事
「ザバイカル」とはロシア語で「バイカル湖の向こう」という意味を表す。モスクワから見た向こうということで、伝統的にバイカル湖の東に広がる一帯を指してきた。例えば、1990年代半ばに策定された「極東・ザバイカル社会・経済発展国家プログラム」のザバイカルにはブリヤート共和国、チタ州、アガ・ブリヤート自治管区が含まれていた。ザバイカルはシベリア東部ということで東シベリアの一部でもあるが、同じく東シベリアに属するイルクーツクや西シベリアと比べると経済発展が遅れており、むしろ極東との共通性が高いと考えられ、極東とともに連邦政府による優先的な支援の対象となってきた。2018年11月3日、プーチン大統領はブリヤート共和国とザバイカル地方をシベリア連邦管区から極東連邦管区に移管すると決定した。極東に移管されたことで、2つの地域は連邦政府による極東発展のための様々な投資誘致政策を適用することが可能になった。本稿では、新たに極東の仲間入りを果たしたザバイカル地方について紹介する。(中馬瑞貴)
デジタルITラボ
ウラジオストクのスタートアップ企業を紹介
今月は、本誌自体が極東特集ということで、本コラムではウラジオストクにおけるスタートアップ企業について取り上げたいと思う。
なお、筆者は2018年12月に、ROTOBO主催のIT・デジタル分野に関するビジネスミッションにて、ウラジオストクを訪れ、現地のスタートアップ企業や支援組織と交流をしている。
今回は、ウラジオストクのスタートアップ産業における主要支援機関であるテクノパーク・ルースキーの協力のもと、3社のスタートアップ企業を取り上げたいと思う。(牧野寛)
おいしい生活
沿海地方「ドブロフロート」の魚缶詰
今から振り返れば、あれはコロナ自粛前の最後の対面イベントだったかと思う。2月27、28日に、東京駅近くの会場で、ロシア輸出センターとロシア郵便の主催による「ロシア商品フェア in Tokyo 2020」が開催され、筆者もその取材に出かけた。その会場で、馴染みのある商品に再会した。沿海地方アルチョム市の「ドブロフロート」という会社の魚缶詰である。(服部倫卓)
調査レポート
ロシアにおける5G対応の諸問題
高知大学 人文学部
塩原俊彦
ここで論じるのは、ロシアにおける第5世代移動通信システム(5G)の導入に伴うさまざまな問題である。まず、5G導入に向けたロシア政府の政策を紹介し、ついで、その政策上の問題点について論じる。
ロシアの二国間関係
トルコはロシアの戦術的パートナー
最近の情勢を見ても、ロシアとトルコの関係は良好とは言えない。ロシア帝国とオスマン帝国は16世紀から20世紀初頭にかけて露土戦争で何度も火花を散らしてきた。近年は直接的に戦火を交わすことはないものの、他国の戦争を通じた間接的な対立は頻発している。しかし経済の面では特に2000年以降、互恵的関係が築かれており、ロシアの貿易パートナーとしてトルコの重要性は高い。同じ強権的・権威主義的政治体制を敷くプーチンとエルドアン両大統領の関係は決して悪くない。似た者同士で対話を行う回数は実に多いのである。トルコの防衛大臣はプーチン・エルドアン政権下のロシア・トルコ関係について「戦略的ではなく戦術的な関係である」とVoice of Americaのインタビューで語った。戦術的なロシア・トルコ関係とはどのようなものだろうか。(中馬瑞貴)
INSIDE RUSSIA
ロシアはベラルーシをどう「処分」するのか
ロシアの同盟国であるベラルーシでは、8月9日に投票が行われた大統領選挙後、混乱が続いている。ルカシェンコ政権が、国民に拒絶反応を示され、欧米から非難を浴びる中で、ロシアを頼りにするのは当然の成り行きである。9月14日にはルカシェンコがロシアを訪問し、プーチン・ロシア大統領と会談した。ただ、会談の詳細は明らかになっていない。果たしてプーチン・ロシアの側は、ベラルーシをどのように「処分」しようとしているのだろうか? その際に鍵を握るのが、ロシアとベラルーシの国家統合の枠組みである「連合国家」である。以下では、この連合国家の問題を中心に、ロシアの対応につき検討する。(服部倫卓)
シリーズ 工業団地探訪
ロシアにおける工業団地とは?
今月号からロシアにおける工業団地を紹介する機会を本誌編集部からいただいた。このシリーズでは、ロシア各地で創設・操業している工業団地を読者とともに探訪し、ロシアにおける工業インフラの進展状況や企業誘致のための課題などを浮き彫りにしてみたい。今回はロシアにおいてそもそも工業団地とは何なのか、ロシア全土に工業団地はどれほど存在するのか、ロシアにおける工業団地の状況を概観しよう。(大橋巌)
HOW TO ビジネス実務
ロシア会計:歴史と概観
筆者は日本の株式会社およびロシアでは駐在員事務所と現地法人において経理に携わり、2012年より現職として主に日本とロシアの会計を“つなぐ”業務を担当しています。“つなぐ”という言葉に、日本の経理担当者がロシアの帳簿を見て疑問に思うことを解決し、またロシアの担当者が日本の本社に理解してもらえないと悩む会計に関する情報を適切に伝えられるよう、橋渡し的な役を担うという気持ちを込めています。ロシアの会計について多くの方が感じられる疑問点などをコラム形式でご紹介していきますので、お気軽にお付き合い頂けますと嬉しく思います。(小川弘美)
ロシアメディア最新事情
ロシアのジュエリーメーカーを取材
ロシアのジュエリーメーカーは、オリジナルなデザインと高品質を売りに、日本に進出しようとしています。複数のメーカーに取材をする機会があったので、その内容をご紹介するとともに、今のロシアのジュエリーについて思うところを書いてみたいと思います。(徳山あすか)
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道:欧州向けトランジット輸送へ前進
シベリア鉄道を利用した国際コンテナ輸送を推進してきたCCTTビジネス・フォーラムも第6回を迎え、9月24日、オンラインで開催されました。今年の主要テーマは日欧間トランジット輸送です。主な発表内容に関連情報を加えてご紹介します。(辻久子)
エネルギー産業の話題
欧州市場で苦戦するガスプロム
ロシアを代表する巨大企業「ガスプロム」が複数の局面で苦戦を強いられているとの印象を受けます。たとえば、コロナ禍の影響もあり、欧州市場への輸出量が大幅に減少しています。また、トルコストリームやノルドストリーム2をめぐる状況も良好とはいえません。一過性のものなのか、それとも、長期的な性格のものなのかを判断するのは現時点では困難ですが、ガスプロムの周辺に複数の異変が生じているのは事実です。そこで、本稿では、それらの異変のうちのいくつかについて説明します。(坂口泉)
自動車産業時評
2020年上半期のロシア商用車市場
本稿では、2020年上半期のロシアの商用車(トラック、バス、LCV)の生産と販売に関するデータをご紹介します。その他、2020年初頭時点での商用車の登録台数もご紹介します(生産の数字はASMホールディング発表のもので、販売・登録台数はAutostat発表のもの)。(坂口泉)
産業・技術トレンド
ソ連の金星到達50周年
今年は、ソ連が金星表面の観測に成功したヴェネラ7号の打ち上げから50周年にあたる。ヴェネラ7号は、ハードランディングをしたため、微弱な電波しか送信できなかったが、ソ連ではその電波の解析に成功し、それまで謎に包まれていた金星表面の様子を知ることに初めて成功した。ソ連は、人類初の人工衛星と有人宇宙飛行に成功しているが、金星探査でも大きな成果を残している。金星の表面は高温高圧の大変厳しい環境である。その環境に耐え、観測を成し遂げたのは注目すべき偉業である。今回はその偉業について紹介したい。 (渡邊光太郎)
中央アジア情報バザール
中央アジアの2020年上半期経済
新型コロナウイルスの影響により、2020年上半期の経済は世界的に低迷しており、その影響は中央アジアにも及んでいる。しかし、一様に経済が停滞しているかというと、必ずしもそうではない。そこで、本稿ではCIS統計委員会および各国統計機関が公表しているデータをもとに、中央アジア諸国の2020年上半期経済統計を紹介する。(中馬瑞貴)
ウクライナ情報交差点
様変わりするウクライナのエネルギーバランス
2014年の政変以降、ウクライナの国情は激変した。エネルギー事情は、その最たるものである。そこで今回は、ウクライナ統計局が発行しているエネルギー統計集を紐解きながら、その全体像を概観してみることにしたい。(服部倫卓)
ロシア音楽の世界
ショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番
昨年まで毎月のように通ったサントリー・ホール、幾多の期待した公演が中止に追い込まれ、なんと9月末の今回が、今年になって初めてだった。9月の政府分科会の発表を受けて、やっとクラシックコンサートや歌舞伎などでは入場者規制が取り払われ、ホールの定員数、全2千席を解放しての演奏会。まだ認識を新たに出来ないコロナ恐怖症の人も多いせいか、半分以下の少ない客入りであった。(ヒロ・ミヒャエル小倉)
駐在員のロシア語
雑談力2
戦後の日露関係の喉元にささったトゲのような北方領土問題だが、会話相手のロシア人とある程度親しい関係にあれば、なおさら雑談のトピックスのひとつになってもおかしくない(この問題を雑談の範疇にいれるのはけしからんという声が聞こえてきそうだが)。そんな時のために使える単語と表現を整理してみる。(新井滋)
記者の「取写選択」
ナヴァリヌイは死なず
「来る時が来た」。ロシアの反体制活動家アレクセイ・ナヴァリヌイ氏(44)が8月20日、西シベリアからモスクワに向かう機中、毒物摂取で意識を失ったとのニュースに、ロシアの闇に彼がほぼ完全にのみ込まれたような響きを感じた。(小熊宏尚)