ロシアNIS調査月報
2007年12月号
特集◆ロシア経済の課題と挑戦
特集◆ロシア経済の課題と挑戦
調査レポート
急激な回復を見せるロシアの鉄道車両産業
調査レポート
「国家コーポレーション」と「ロシアテクノロジー」
調査レポート
ロシアの人口問題
―人口減少に歯止めはかけられたのか
調査レポート
ロシアのテレビ放送事情
データバンク
2007年版ロシア大企業ランキング

ビジネス最前線
ロシアの空調市場を極める
ユーラシア巡見
キルギスにおける投資機会
ロシア産業の迷宮
豪腕実業家ウスマノフ
クレムリン・ウォッチ
ポスト・プーチンのプーチンを予測する
日本センター所長
リレーエッセイ
ハバロフスク編
ライフワークの成就に向かって
商流を読む
4強がしのぎを削るロシアのジュース市場
エネルギー産業の話題
サハリン1と2の進捗状況
自動車産業時評
ロシアの乗用車市場を読む2つの鍵
メタルワールド
ルサールがサラトフ州に世界最大のアルミ工場
月刊エレクトロニクスNews
ロシアにおけるeコマースの普及状況
ノーヴォスチ・レビュー
食品価格高騰への対応に追われるロシア政府
ドーム・クニーギ
ジェトロ編『ロシアビジネス戦略
〜先進欧米企業のケーススタディ〜』
ロシアビジネスQ&A
◎オフショアを利用した合弁設立
◎展示会情報の入手と出展方法
業界トピックス
2007年9月の動き
2007年1〜8月の通関統計


急激な回復を見せるロシアの鉄道車両産業

ロシアNIS経済研究所 調査部次長
坂口泉

はじめに
1.生産の推移
2.鉄道輸送会社の鉄道車両保有状況
3.ロシアの主要鉄道車両工場
4.謎の企業トランスマシホールディング
5.外資の動き
6.日本メーカー参入の可能性

はじめに
 ロシアの鉄道車両の生産台数はここ数年急増しており、2000年から2006年の7年間で実に約6倍の伸びを記録した。とくに生産量の伸びが著しいのは貨車と客車で、2006年にはソ連時代末期を大きく上回る生産台数を記録した。ちなみに、ロシアの機械製品の生産量がソ連時代末期の数字を大きく上回るというのは、稀有な事例に属する。本稿では、ロシアの鉄道車両製造分野の急激な成長の背景にあるファクターを様々な角度から紹介すると同時に、今後の同分野の発展の方向性に関する考察も試みる。


「国家コーポレーション」と「ロシアテクノロジー」

高知大学 准教授
塩原俊彦

1.はじめに
2.国家コーポレーションをめぐる諸問題
3.ロシア国防輸出と国家コーポレーション・ロシアテクノロジー
4.ロシアの産業政策をめぐって ―再国営化と国家コーポレーション設立

はじめに
 第2期プーチン政権下の経済政策の特徴は「再国営化」の推進である。これに加えて、2007年に入って、「国家コーポレーション」という不可思議な名前の組織が相次いで設立されている。ここでは、紙幅の都合から、国家コーポレーションのみに焦点を当てる。その過程で、武器輸出の独占国営企業「ロシア国防輸出」が設立しようとしている「ロシアテクノロジー」という国家コーポレーションについても考察する。同時に、ロシア国防輸出そのものについても解説したい。こうした分析を通じて、プーチン政権後の新政権にも受け継がれるであろう、ロシアの今後の産業経済政策の問題点を指摘したい。


ロシアの人口問題
―人口減少に歯止めはかけられたのか―

北海道大学スラブ研究センター 共同研究員
田畑朋子

はじめに
1.人口問題の焦点
2.出生率の動向
3.死亡率の動向
4.2025年までの人口政策

はじめに
 ロシアは、年率6%程度の経済成長に沸き、BRICsの1つとしてもてはやされるなど、高い原油価格が続く限り、将来についての不安が何もないかのように見える。しかし、BRICsの他の3カ国との大きな違いは、人口が減少していることである。しかも、国連の予測では、2000〜2050年の間に、世界の国々のなかで最大の人口減少数を記録すると見られている。これに対する危機意識から、プーチン政権は大々的な方策を講じることとなり、とくに、少子化対策については、2007年初めから強力な対策を実行に移した。本稿では、地域別の動態を考慮に入れながら、こうした対策の影響が既に現れているのかについて検証することを通じて、今後のロシアの人口動態について考える材料を提供したい。


ロシアのテレビ放送事情

モスクワ在住ビジネスコンサルタント
新井滋

はじめに
1.テレビ放送の概要
2.テレビ放送の歴史
3.ロシアのテレビチャンネル
4.テレビ番組の最新トレンド
5.ロシア・テレビ放送の行方

はじめに
 ロシアではどんな放送局があって、どんな放送をしているのだろう。また、放送関係でのビジネスチャンスは? 今回はこんな素朴な疑問に答えるため、モスクワ在住のビジネスコンサルタント・新井滋氏にレポートをお願いした。
 新井氏は、ソニーに勤務した1985年から2005年までの20年間にわたり、ソ連/ロシア向けの放送機器の営業に携わっこられた。ロシアの放送事情を語っていだくには、最もうってつけの人物である。(編集部)


データバンク
2007年版ロシア大企業ランキング

 ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』(2007. 10.1, No.36)に、毎年恒例のロシア大企業ランキングが掲載されているので、本誌でも早速これを抜粋して紹介する。
 『エクスペルト』誌の大企業ランキングは、売上高にもとづくランキングと、株式時価総額にもとづくランキングの2本建てとなっている。以下では、まず本月報独自の企画として、売上高および株式時価総額の2つのランキングに登場するすべての企業を日本語の五十音順に並べ替えて、それに当会が調べた各企業のインターネット・アドレスを加えた資料「ロシア主要企業五十音順一覧」を作成した(子会社については、親会社のネット・アドレスが示されている場合がある)。全533企業を網羅した本資料を、まずは総合索引としてご利用いただきたい。
 「A.ロシア企業売上高ランキング」は、2006年の商品・サービスの売上高にもとづいたベスト400である。企業グループの場合には、重複を避けるため、親会社たる持ち株会社だけが掲載され、子会社は除外されるという方式になっている。銀行や保険会社などの非生産部門の企業については、経営指標のなかから内容的に極力それに近い指標を選んで対比している。原典には細かい注釈がいくつか付されているが、本誌では割愛する。
 一方、「B.ロシア企業株式時価総額ランキング」は、2007年8月31日現在のデータで、株価×発行済株式総数で計算された時価総額ランキングが示されている。こちらは全200社であり、親会社だけでなく子会社もランキングの対象となる。


ビジネス最前線
ロシアの空調市場を極める

ダイキンヨーロッパ モスクワ事務所
所長 荒木康文さん

はじめに
 ダイキンは、言わずと知れた空調機のトップメーカーです。今回は、ダイキンヨーロッパのモスクワ事務所にお邪魔し、所長の荒木康文さんにお話をうかがいました。
 ロシアでは、エアコンが急激に普及しつつあり、ロシアの家電量販店を覗くと、ダイキンをはじめとする日系メーカーのエアコンをよく目にします。それだけに、我々もそうした側面に注目しがちです。しかし、お話をうかがうにつれ、ダイキンの手がける仕事がもっと奥の深いものであるということに、遅ればせながら気付かされました。


ユーラシア巡見
キルギスにおける投資機会

キルギス大統領付属投資会議事務局長
T.コイチュマノフ

はじめに
 当会は10月1日、キルギス大統領付属投資会議のタライベク・コイチュマノフ事務局長の来日の機会を捉え、「キルギス共和国における投資機会」と題する会員向けの報告会(メンバーズ・ブリーフ)を開催した。
 経済学博士でもあるコイチュマノフ氏は、長年にわたりキルギス政府の要職にあり、1990年代半ばには経済相、財務相などを歴任。2007年1月からは、EBRDの支援で新設された大統領付属投資会議の事務局長として、同国への外国投資導入に関わる問題に携っている。
 今回のメンバーズ・ブリーフで、コイチュマノフ事務局長はキルギスの政治・経済の現状と展望、外国投資受入状況および同政策等について解説をしていただいた。以下、メンバーズ・ブリーフでの報告の要旨を記す。


ロシア産業の迷宮
豪腕実業家ウスマノフ

はじめに
 最近、イングランドの名門サッカーチーム「アーセナル」の株式買占めをめぐり、ウスマノフの名前が世界的に知られるようになっている。ロシアの大実業家の多くがそうであるが、ウスマノフもまた、成り上がるプロセスに不透明な部分が多く、様々な噂が付きまとう人物である。ひどいものになると、モスクワ南部を拠点とする「ソーンツェフ(あるいはソーンツェヴォ)組」をはじめとする複数の組織暴力団(マフィア)と関係がある、という噂まであるようだ。そういった根拠のない噂は別としても、非常に興味深い人物であることは間違いないので、今回はこの豪腕実業家ウスマノフのプロフィールを紹介することとした。(坂口泉)


クレムリン・ウォッチ
ポスト・プーチンのプーチンを予測する

 ロシア下院総選挙投票日が目前に迫りました(12月2日)。その1週間後には大統領選挙の告示が行われるはずです。遅くとも12月29日までに立候補者が出そろい、その時点で、たぶん当選者の見当がつくでしょう。
 誰が次期大統領になるかの予測もですが、プーチン現大統領が退任後にどのポストにつくのかが強い関心をよんでいます。それによって、ポスト・プーチン時代の政治権力の姿が変わってくる可能性が強いからです。
 10月初に行われた統一ロシア党の党大会の席上、プーチン大統領は同党から下院選に立候補することに同意しました。著名な政治家が政党の比例区候補者になることで集票力を助けるというのは、ロシアでは毎度使われる手です。当選すると議席を辞退して現職を続ける仕組みです。
 とは言え、大統領の下院選挙立候補は初めてのケースです。その直接の効果は、統一ロシア党によるプーチン・ブランドの独占です。クレムリンの承認下で同じくプーチン与党を標榜してきた「ロシア正義党」(党首はミロノフ上院議長)は、ハシゴを外された形となり、支持率が激減して議席獲得の最少得票率である7%のハードルを越えられない見込みになりました。その分、統一ロシア党の得票は増えると見込まれ、うまく行けば同党単独で議席の3分の2を得る結果になるかも知れません。それを狙っての立候補だったのでしょう。(月出皎司)


商流を読む
4強がしのぎを削るロシアのジュース市場

 ロシアの広告関連のニュースサイト「アドヴェースチ」に、ロシアのジュース市場に関するレポートが掲載されているので、今回はその要旨を紹介する。なお、日本で「ジュース」というとソフトドリンク全般を指す場合もあるが、ここではあくまでも果汁飲料を意味している。


エネルギー産業の話題
サハリン1と2の進捗状況

 ロシアの石油ガス専門誌『石油と資本』の2007年8月号に、サハリン1とサハリン2の進捗状況についての記事が掲載されています。そこで、今回はその要旨を中心に、別のマスコミの情報も若干加味した上で、サハリンプロジェクトの最新の状況につきご紹介いたします。なお、今回ご紹介する情報は、その大半が2007年夏時点のものですで、その点、お含み置きください。


自動車産業時評
ロシアの乗用車市場を読む2つの鍵

 ロシアの乗用車市場は非常に個性的な側面を有しています。最大の特徴は、小さな車の人気が全般的に低くなっていることです。もうひとつ、ディーゼル車の不人気も、顕著な特徴のひとつと言えるでしょう。乗用車市場に占めるディーゼル車の割合は2〜3%未満といわれおり、しかもその大半がSUVだと推測されます。今回は、これら2つの「個性」の背景にある事情ついて、考察を試みます。


メタルワールド
ルサールがサラトフ州に世界最大のアルミ工場

 ロシアのアルミニウム分野では2007年3月にルサールとスアールの両雄が合併し、これにスイス・グレンコア社のアルミナ関連の資産も取り込んで、新会社「合同企業ロシア・アルミニウム(UCルサール)」が誕生しました。これは世界最大のアルミ会社に他ならず、アルミ生産で12%、アルミナで15%の世界シェアを占めています。世界19カ国に拠点をもち、社員総数は10万人。2007年1〜9月のアルミニウム新地金の生産量は310万t(前年同期比5%増)、アルミナは845万t(同6%増)でした。ブルィギン社長は、「2013年までにアルミ地金年産600万t、アルミナ1,700万tを達成する」と、自信満々です。
 こうした野心的な目標を追求するUCルサールは最近、ロシア国内で大規模投資の動きを見せています。その一環として、10月9日にサラトフ州との間で、同州に世界最大のアルミ精錬工場を建設する旨の協定に調印しました。しかも、工場の電力基盤を確保するため、ルサールがバラコヴォ原発の増設に投資を行うことがうたわれています。以下では、関連の情報を取りまとめてお届けします。


月刊エレクトロニクスNews
ロシアにおけるeコマースの普及状況

 ロシアの『クリエル・ペチャーチ』という雑誌の2007年8月28日号に、ロシアのeコマース事情に関する分析記事が掲載され、その記事がいくつかのウェブサイトに転載されています。電子商取引にはいくつかのカテゴリーがありますが、この記事が主に分析の対象としているのは「BtoC」と呼ばれる企業→消費者の取引で、ネット通販などがそれに当たります。
 eコマースの発展には、コンピュータおよびインターネットの普及が前提となりますし、以下に見るように、ロシアのネット通販で売れ筋になっているのもエレクトロニクス製品に他なりません。そこで、今月の本コーナーでは、上記の記事の要旨をご紹介いたします。