ロシアNIS調査月報
2008年1月号
特集◆ロシア地域開発の焦点
特集◆ロシア地域開発の焦点
調査レポート
ロシア連邦政府による地域開発投資の何が問題か
調査レポート
スヴェルドロフスク州の経済とビジネス
調査レポート
見えてきたロシア極東開発の展望
調査レポート
ロシアの鉄道戦略と極東のプロジェクト
調査レポート
テルネイレス社を訪ねて
―ロシア地域経済に貢献する外資
ビジネス最前線
水産現場から見るロシア極東の開発
ドーム・クニーギ
蓮見雄著『琥珀の都カリーニングラード
―ロシアEU協力の試金石』
データバンク
ロシアの地域別の総生産と産業構造
ノーヴォスチ・レビュー
北極海石油ガス開発と新海運会社

調査レポート
進展するロシアの電力改革
調査レポート
鉄道分野における日露間の協力
ユーラシア巡見
第9回日本ウズベキスタン経済合同会議開催される
日本センター所長
リレーエッセイ
モスクワ編
ロシアでの日本文化の浸透と日本センターの役割
エネルギー産業の話題
ロシアの中国向け石油輸出をめぐって
自動車産業時評
ロシア・NISのダンプカー製造業者
ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道と日本車輸送
月刊エレクトロニクスNews
急成長するカザフスタンの家電市場
ドーム・クニーギ
中村逸郎著『虚栄の帝国 ロシア
―闇に消える「黒い」外国人たち』
ロシアビジネスQ&A
◎ビザ制度の変更
業界トピックス
2007年10月の動き
2007年1〜9月の通関統計


ロシア連邦政府による地域開発投資の何が問題か

ロシア科学アカデミー世界経済国際関係研究所 A.クズネツォフ
ロシア科学アカデミー・システム分析研究所 O.クズネツォワ

はじめに
1.問題の所在
2.各レベルの予算の権限区分明確化
3.連邦目的別プログラムの体系の整理
4.投資プログラムの透明性の向上
5.「地域均衡化」の連邦投資プログラム
6.格差縮小か、成長極の形成か

はじめに
 ロシアの経済学術誌『ロシア経済ジャーナル』の2006年No.9-10に、A.クズネツォフ・O.クズネツォワ両氏による「連邦の地域投資政策:問題点とその解決アプローチ」と題する論考が掲載されている。両氏(兄と妹である由)はロシアの地域政策に関するエキスパートであり、本稿は今回の特集「ロシア地域開発の焦点」に打って付けの内容となっている。転載許可をいただいたので、以下のとおり全文翻訳して掲載する。(編集部)


スヴェルドロフスク州の経済とビジネス

ロシアNIS経済研究所 調査役
服部倫卓

はじめに
1.スヴェルドロフスク州とエカテリンブルグ
2.産業と企業
3.経済パフォーマンス
4.消費市場
5.対外経済関係と日本
おわりに

はじめに
 ロシア・ウラル連邦管区に属すスヴェルドロフスク州は、人口数で全国5位の地域であり、経済力でも第6位の座を占めている(2005年の地域総生産)。この州にはロッセリ氏という実力派の知事がおり、1990年代には地方分権の急先鋒として鳴らしたものだ。
 ただ、ここ数年は、日本の業界関係者にとって、スヴェルドロフスク州の影はやや薄くなっていたと言えるのではないか。我々の関心は、エネルギー開発、モスクワの消費ブーム、サンクトペテルブルグでの自動車生産プロジェクト、港湾や鉄道の近代化などに向かい、内陸の重工業地域であるスヴェルドロフスク州の存在感は弱まっていた。ロッセリ知事がプーチン政権に恭順の姿勢を示し、かつてのような強烈な自己主張を打ち出さなくなったことからも、同州が話題になることはめっきり少なくなった。
 だが、石油価格の高騰で経済が成長軌道に乗ったロシアにとって、経済発展を新たなステージにもっていくためには、基礎インフラの近代化、設備投資の推進、製造業の育成こそが課題となる。そうした観点からすると、投資財の生産における一大拠点であるスヴェルドロフスク州の重要性は、今後ますます高まるはずである。
 筆者は、このような問題意識のもと、2007年9月にスヴェルドロフスク州の州都であるエカテリンブルグ市を訪問して、現地調査を実施するとともに、基礎資料を収集してきた。そこで、本稿ではこの調査成果にもとづき、スヴェルドロフスク州の経済とビジネスの最新事情に関し、情報をとりまとめてお伝えすることとしたい。
 なお、ロシアの経済週刊誌『エクスペルト』のウラル地域版として、『エクスペルト・ウラル』という雑誌が出ており、スヴェルドロフスク州の経済事情を知るためのきわめて有益な情報源となっている。本稿では、『エクスペルト・ウラル』誌に掲載された注目情報も、適宜紹介することに努めたい。


見えてきたロシア極東開発の展望

ロシアNIS経済研究所 次長
高橋浩

はじめに
1.極東開発プログラムの歴史
2.新プログラムの内容
3.極東開発プログラムの現実性

はじめに
 当会の『ロシアNIS経済速報』(2007年11月5日号)に、2007年8月にロシア政府によって基本承認された極東開発プログラム(正式には「2013年までの極東・ザバイカル社会経済開発」連邦目的プログラムであるが、以下、極東開発プログラムと略記する)の概要について、ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所のプロカパロ主任研究員が報告している。プログラムの全体は、作成途上であるが、現状で明らかになってきた方向性をとらえて、これまでの極東開発の歴史を振り返りながら、今後の展望を描くことにする。


ロシアの鉄道戦略と極東のプロジェクト

ロシア科学アカデミー極東支部経済研究所
A.バルダリ

はじめに
1.鉄道発展戦略と極東での実施効果
2.極東地域における鉄道整備案件

はじめに
 本年9月、ロシア政府によって「2030年までのロシア連邦の鉄道発展戦略」が基本承認された。同戦略は、2030年までに新線建設等に最大13兆8,000億ルーブル(約5,700億ドル)の投資を予定するなど極めて意欲的な内容となっている。
 同戦略では、最大約2万kmの新線建設が計画されているが、うち約9,000km(全体の45%)が極東連邦管区にあてられており、極東は同戦略の最重点地域に位置づけられている。
 本稿では、鉄道発展戦略の枠内で予定される極東地域の鉄道整備案件を中心に報告を行なう。


テルネイレス社を訪ねて
―ロシア地域経済に貢献する外資―

在ウラジオストク日本国総領事館 専門調査員
安木新一郎

はじめに
1.テルネイ 〜ロシアの端・日本の隣
2.「テルネイレス」社概要
3.FSC認証林産企業
4.地元密着型経営
おわりに 〜合弁成功のための教訓

はじめに
 1998年通貨・金融危機以降、ロシアのGDP(国内総生産)は急激に増大し、ロシアを投資対象として再認識する動きが出てきた。現在、外資はロシア欧州部に対しては製造業や小売業など多くの分野にわたって積極的に投資を行っているが、極東地域への投資はいまだ地下資源部門にかたよっている。
 沿海地方の外国投資受入額は極東全体のわずか0.3%であり、人口規模ではるかに劣るカムチャツカ州と比べてもその半分以下となっている。このように沿海地方は極東全体の中でも外資導入額が相対的に少ない地域であり、外資に対する有形無形の参入障壁は依然として高いと考えられる。
 ところが、本稿で取り上げる住友商事とロシア人企業家との合弁企業「テルネイレス」社は、1992年から現在に至る15年にわたってロシア極東の貴重な林産資源を日本へ供給し続けているのである。なぜ、日露合弁企業「テルネイレス」社は、外資が活動するのには厳しい環境だと考えられる沿海地方で長期間事業を継続することができたのだろうか。


ビジネス最前線
水産現場から見るロシア極東の開発

横浜通商(株)常務取締役 織茂彰さん
同 営業部課長 小松英雄さん

はじめに
 横浜通商は1968年の創業以来、一貫して旧ソ連貿易を主体に活動してきました。ソ連解体の翌年には、かねてから大口取引先であった日本水産が経営に参加。対ロ貿易のプロ集団の強みを生かして、ロシア水産物輸入市場でシェアを広げています。現在、同社はロシア国内にモスクワ、ウラジオストク、サハリン、カムチャッカに事務所をもってビジネスを展開しており、ロシアの産業のなかで最も遅れているといわれる水産部門が今後どう変わっていくのかは、ロシア連邦政府による極東開発と密接に関わってくるものと思われます。そこで今回は、ソ連時代から長年ビジネスを続けておられる織茂常務取締役、ロシアと本社の橋渡し役として、モスクワに駐在し、極東にも頻繁に出かけておられる小松課長より、水産取引を通してみたロシア極東の現状とこれからについてお話を伺いました。


データバンク
ロシアの地域別の総生産と産業構造

はじめに
 ロシアNIS貿易会では2006年に、『ロシア地域要覧 2006〜2007』と題する刊行物を発行している。ロシア諸地域に関する基礎情報、経済データ等を集大成したものであり、各地域の概要をお調べになりたい場合には、ぜひご活用いただきたい。
 ただ、同書も発行から1年あまりが過ぎ、経済データについては若干古くなった部分もある。そこで、このコーナーでは、ロシア統計局が最近発行した統計集にもとづいて、ロシア諸地域の地域総生産および産業構造の最新データをお届けする。


進展するロシアの電力改革

ロシアNIS経済研究所 調査部次長
坂口泉

はじめに
1.UESの構造改革の進捗状況
2.電力分野の設備投資計画
3.設備投資の活性化が期待される地域
4.京都議定書の枠内での投資案件
5.発電部門における大手資本の動き
6.今後生じうる諸問題
おわりに

はじめに
 現在、ロシアの電力分野では、「ロシア統一電力システム(UES)」の分割民営化を軸とする大幅な構造改革が進められているが、その過程の中で、21の大規模発電会社(OGKおよびTGK)が誕生している。21社のうち、水力OGKを除く20社は完全民営化の対象となっており、IPO(新規株式公開)、SPO(再公募)、入札方式の私募、第三者割当増資等の形で順次、株式の売却が開始されている。株式売却で獲得された資金は、当該の大規模発電会社もしくはFSKおよび水力OGKの設備投資に投下されることになっており、今後、ロシアの電力分野では設備投資が活性化する可能性が高い。本稿では、そのような状況を踏まえ、大規模発電会社の株式売却(および民営化)の現状について紹介すると同時に、そこから派生するビジネスチャンスについての考察も行いたい。


鉄道分野における日露間の協力

経済産業省通商政策局欧州中東アフリカ課ロシア室
八木秀典

1.はじめに
2.2030年までのロシア連邦鉄道発展戦略
3.日露間物流の課題
4.今後の方針
5.終わりに

1.はじめに
 日露貿易の急速な発展、日本企業のロシア進出、現地生産化に伴い、日本からロシアへの円滑な輸送が重要な課題として浮上してきている。現在、日本からサンクトペテルブルグ、モスクワなどロシア欧州部への輸送の中心は海上輸送であるが、近年の好況を背景とした旺盛なロシア国内消費により、世界各国からロシアへの輸出は急増しており、これに対し港湾インフラ整備が追いつかない状況である。日本からの輸出の主要な仕向港であるサンクトペテルブルグ港については、既に飽和状態にあり、貨物船が沖合で数日待たされる場合も珍しくなく、さらに、港湾使用料は上昇する傾向にある。そのため、海上輸送に代わり、シベリア鉄道を中心とするシベリア・ランド・ブリッジを活用した輸送に注目が集まっている。
 シベリア鉄道を含むロシア国内の鉄道の近代化・高速化は、日露間の物流の輸送期間短縮及びコスト削減を図り、貿易投資を促進する。また、鉄道インフラ整備に伴い、日本が高い技術を有する車輌、レール等鉄道関係設備の輸出など日本企業にとってビジネスチャンスにつながる可能性も秘めている。
 このため、本年6月のハイリンゲンダム・サミットの際の日露首脳会談において安倍総理大臣(当時)が提案し、プーチン大統領の支持を得た「極東・東シベリア地域における日露間協力強化に関するイニシアティブ」には運輸分野の協力が項目としてあげられている。さらに本年9月のシドニーAPECの際の日露首脳会談において鉄道分野の協力についての会議開催に向けて調整することで一致した。
 こうした流れを受けて、本年7月のモスクワ及びニジニノヴゴロドにての第1回会議開催に続き、本年11月7日(水)、経団連会館(東京都千代田区大手町)において、「鉄道分野における日露間協力に関する第2回会議」(以下「鉄道会議」という)が開催された。日本側から、経済産業省、外務省、国土交通省、日本経済団体連合会、ロシアNIS貿易会に加え、陸運・海運事業者、関連の商社、メーカー、物流企業等の代表者が、ロシア側から、運輸省、ロシア鉄道社、高速鉄道社、ニジェゴロド州政府、モスクワ市政府等の代表者が、日露双方併せて約100名が出席し、日露間の鉄道分野での協力について意見が交わされた。
 以下では鉄道会議の結果を踏まえながら、鉄道発展戦略を概観し、今後の鉄道分野における日露間協力について述べてみたい。なお、本文中意見に渡る部分は筆者の個人的な見解であることを、念のため申し添える。


ユーラシア巡見
第9回日本ウズベキスタン経済合同会議開催される

ロシアNIS貿易会 経済交流部

はじめに
 ロシアNIS貿易会経済交流部が事務局を務める日本ウズベキスタン経済委員会(会長:大橋信夫 三井物産且謦役会長)は、10月18日から20日の期間、ウズベキスタン共和国タシケントにおいてウズベキスタン日本経済委員会(会長:アジモフ副首相兼財務大臣)との第9回経済合同会議を開催いたしました。
 以下では、まず、10月19日に行われました本会議におけるウズベキスタン側報告の要旨を掲載いたします。また、事務局を代表して、当会常務理事の細矢より、会議に参加しての所感を報告いたします。


エネルギー産業の話題
ロシアの中国向け石油輸出をめぐって

 現在、中国へのロシアの石油輸出をめぐり様々な動きもしくは噂が出ています。たとえば、ロスネフチが中国との間の長期石油輸出契約を破棄するのではないかという噂や、やはりロスネフチが太平洋パイプライン(PL)の中国向け支線の建設に難色を示しているといった観測も浮上。さらに、最近では、2008年からカザフスタンのPL経由でのロシア産石油の輸出が開始されるとの情報もあります。今回は、にわかに騒がしくなっている中国向け石油輸出の周辺を紹介いたします。


自動車産業時評
ロシア・NISのダンプカー製造業者

 ダンプカーとは、荷台を傾けて積荷を一度に降ろすための機械装置を備えたトラックのこと。ロシアでは、ダンプカーは用途別に、農業用とその他の一般貨物用の2つに分類されます。また、その形態の違いに従い、一般公道での走行を前提とした普通ダンプカーと、公道ではなくもっぱら大規模土木工事現場内や鉱山などでの作業用に用いることを想定して設計されている重ダンプカーの2つに分類されることもあります。
 最近、ロシアでは経済の好調さを背景に、建設資材等の一般貨物を運ぶものを中心にダンプカーの需要が伸びており、各メーカーの業績も比較的好調となっています。そこで、今回はロシアの主要なダンプカー製造業者、および、ロシア市場でのプレゼンスが非常に高いベラルーシのMAZおよびウクライナのクレメンチュグ自動車工場の現状を紹介いたします。


ロジスティクス・ナビ
シベリア鉄道と日本車輸送

 ロシアでは乗用車の販売数の急増とともに、完成車の輸送市場が急速に拡大しています。現在、ロシアの完成車輸送の主流は、フィンランドからのトレーラー輸送ですが、輸入車の増大につれて同ルートでは大渋滞が発生するなど、輸送能力の限界が指摘されています。
 代わって注目されつつあるのが鉄道輸送で、ロシア側からはシベリア鉄道を利用した日本車の輸送も提案されています。


月刊エレクトロニクスNews
急成長するカザフスタンの家電市場

 『エクスペルト・カザフスタン』誌の2007年10月1日号に、カザフスタンの家電市場に関する解説記事が掲載されています。カザフスタンは中央アジアの重要国ですが、その家電市場が話題に上ることは稀であり、興味深い資料ですので、その骨子を以下にご紹介いたします。